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第六話。大暴れ! 先に行け! 俺、今、主人公じゃね!? その2

「いよいよ、か」

 胸に付けた、二つの銀色の竜ブローチに視線を落として呟く。

 

 

 夕暮れ。今俺達は馬車の中にいる。

 今回の馬車は一台。馬車の居場所が目的地。

 自由の身のままの『商品』の彼女たち。俺とサン・イラーヌ三人。

 そしてイオハが乗りこんでいる。

 荷物ないとけっこう広かったんだな、馬車の中。

 

 先に降りたのは、護衛役である俺達だ。

「銀に黒をうっすら重ね塗りしたみたいな色だな」

 これから入る建物を見上げて、感想を呟く。

 見たところ五階建てぐらいのこのビル、

 なかなかにしぶかっこいい色だな。

 

「ここに……稲妻いねつまが」

 生唾を飲む。勝手に握った右拳に、じんわりと汗がにじむ。

 少し息が荒いのがいる。気になって右後ろを振り返ったら、

 瞳の色が緋色になったカグヤだった。

 その表情はなにかに耐えているようで。

 

 今話しかけたら、ヒステリックに「ニャによっ!」とかどなられそうだ。

 夕暮れ。黄昏。逢魔が時。むしろこれから逢うのは猫魔か。

 

 ーーアイシア。誘導と食い止めるの、しっかり頼むぜ。

 

 

「ん?」

 ちょっとした違和感に視線を落とせば、

「な? なんだその爪?」

 カグヤの両手の爪が、鉤爪みたいに鋭くなっていた。

 肉なんぞ簡単に抉れてしまいそうな感じの鋭さだ。

 

 それが夕日を受けてオレンジの光を見せている。

 まるで、これから血の雨を降らせてやると言わんばかりに。

 なるほど。カグヤがオープンフィンガーグローブをしてるのは、このためか。

 

 

「闘争本能が。出始めた。からよ」

 なにかを抑え込んでいる。そんなカグヤの声に、思わず体ごと向く。

 心は平静みたいでほっとする。

 

「ニャたしだって。どうしたら。いいのか」

 不安そうな声とそれに違わぬ表情で、眼前のビルを見つめるカグヤ。

 かけられる言葉がなくて、見つめることしかできない俺。

 

「信じて」

 俺の左から強めの語気で、それだけを告げるアイシア。

 そのいつもと似て非なる、きっぱりはっきりとした言い方に、

 俺の方が勇気と安堵に拳を握った。

 

「あり。が。とう」

 素直に、てれもせずにぎこちなく笑んだカグヤ。口の形は笑みだけど、

 緋色の瞳は少しだけ揺れている。

 

 ーーあぐにゃんの痛々しい微笑みが重なった。

 なんとかしてやれればいいけど、今回は俺に打つ手なしだ。歯がゆいな。

 

 本当に。アイシアの立てた時間稼ぎ作戦は、うまく行くのか。

 この世界に来てから、仲間たちの立てる作戦には

 全部不安がついて回ってる気がする……。

 

 

「アクト。これ」

 スっとアイシアの左手が差し出された。

 少し小さな彼女の手には、星型のなにかが二つ乗っかっている。

 

「なんだこれ? 金平糖?」

 うわ、というカグヤの苦虫をかみつぶしたような声。

 え、なんかヤバイのか?

 

 馬車のサラちゃんが、異常はないから出てきていいと

 馬車に声をかけている。しっかり仕事してたんだな、流石まじめちゃん。

 偉いぞって頭をなでたくなるが、現状そうもいかない。

 

「食べた方がいい」

 それだけを答える。カグヤのリアクションのおかげで、

 すんげーいやな予感するんですけど……。

 

「お、おう……」

 一つだけ受け取って吟味。

 見たところはなんの変哲もない、白い星型の物だ。

 

「ぐ……だからそれ、ずるいって」

 じぃーっと見つめて来るのだ。これじゃあ食べる以外の選択肢が

 全消えするじゃねーかっ。

 

 

「あぁもぉわかったよ。食ゃいいんだろ食えばっ」

 うんと一つ頷くアイシアは、奇妙なことを言って来た。

「大丈夫。二人で食べればまずくない」

 悪い予感、もしかして的中?

 

 カグヤがなんか言おうとしてやめたんだけど、

 え ちょっとまって? なんで今やめたの?

 なんだよ気になるぞおい??

 

 

「今、なんて言った?」

 確認する。どうしても確認したかった。

「二人で食べればまずくない」

「寸分たがわぬリピートどうも、器用な奴だなぁ。なるほど? つまりだ」

 若干顔をしかめている俺は、続けてこう言った。

 

「一人で食べたら不味いんだな?」

「覚悟、いる」

 間髪入れずに返って来た。カグヤがすごい勢いで頷きまくってんだけど……

 案外余裕あんのね猫さんは。

 

「ど……どんな味なんだよいったい?」

 食べることを推奨しておいて、いざ食う段になったら覚悟を要する。

 そこから導き出される答えは……。

 手元を見て、俺の体が震えた。

 

「でも、これ。とっても、重要」

 こっちをしっかりと見て、強調するように言ったアイシア。

 一つ頷いた俺だが、勝手に奥歯を噛んでいた。

 星型物体これからは。誰も。逃げられない。

 

「いち にの さん、パク」

 俺の迷いまくった表情に気付いたのか、呼吸を合わせろと提案が。

 予想外のかわいらしい言い回しに頬が緩んだ。

 カグヤにサラちゃんも、外に出てきていたらしい皆さんからも

 柔らかな笑い声がする。イオハはたぶん無表情。

 

 

「よし。じゃあ、数えるのは任せた」

 カウントって言葉が、この世界になかった場合の言い直しを防ぐために、

 カウントとは言わなかったんだけど……カウントって日本語でなんだっけ、

 って少し考えちゃったぜ。

 

「うん。いち」

 緊張するんだよなぁ。こういうカウントって。

「にの」

 あの、こちらを見つめる瞳が睨みに近づいてないっすか?

「さん」

 

 言うとアイシア、なんと星型のそれを軽く上に弾き上げた。

 もしかして、落ちて来た奴を口に放り込むってアレで食うのか?

 一方の俺は、そんなことしたら絶対に落とす自信があるので、

 おもいっっきし息を吸い込んでむりやりに覚悟を体内全体に叩きつけ、

 手元の白い星を口の中に放り込んだ。

 

 ゴリッ

 

 かんじゃったけどよかったのかこれ?

 って、ぐ。

 

 

「ブルっと来たぞ?」

 このブルっとは、あの草を食った時体を駆け抜ける清涼感が、

 もはや寒いの領域すら通り越して、

 キンッキンに冷えた氷水を流し込まれたようだったからで、

 

 けっしてまず過ぎて体が拒絶反応でリバースしたがったわけじゃない。

 幸いなことに。

 

 

「な、んだ。この

美味しさなくて苦さ十倍ぐらいの例の草みたいな味は?」

 顔をゆがめる俺。

 

 地面にこの耐えがたい苦さを叩きつけたいところだけど、

 んなことしたら拳が痛いので、歯を食いしばり

 拳を握りしめて耐えることにする。

 横からカリコリと噛み潰す音がして、直後。

 

「あたり」

 苦しそうにそういうアイシア。銀髪の方も俺と同じなのか、

 ギリギリと拳を握る音がしている。

 

「マジかよ」

 そうは言うけど、不思議と腹にダメージがない。

 そんなハイパー濃厚エキスなんか摂取したら、

 間違いなく腹壊すと思うんだけどな?

 

 

「でも、これ。剣塚亭つるぎつかてい、出る、時の。

アクト、みたいには、ならない」

 まだ口の中がひどい状態らしく、アイシアの声は苦しそうだ。

 

「そうなのかよ。

そんなものがあるなら最初からそれでくれればよかったのに。

おかみさんも人が悪い」

 今更の嘆きだとはわかっちゃいるけど、

 サプリメントがあると知ったら嘆きたくもなる。

 

剣塚亭うちにはないから。商会で、買った」

「いつのまに?」

 ……まてよ?

 

 あの、苦味を消す素材を探そうって考えた、女神の発現を考えると、

 あぐにゃんもこのサプリの存在は知らなかったのか?

 人の技術は、神の知を超えるのか。

 人類の可能性を見た気がするな。

 

 

 

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