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第六話。大暴れ! 先に行け! 俺、今、主人公じゃね!? その1

「ほーどーくーニャー!」

 ジタバタしている。

「駄目」

「こんなかっこ、恥ずかしいニャー!」

 まだジタバタしている。

 

「駄目」

 にべもない二連続の即答却下で、口をへの字に曲げた猫は、

 ゆっくりとジタバタを収めた。

 

 

 太陽は中天を少し過ぎている。

 今俺達がいる場所はイオハ商会マリスガルズ支店、

 そのバックヤードだ。

 

 イオハ商会は主に雑貨を扱ってて、副業的に奴隷商をやってるって話だ。

 雑貨はアクセサリーみたいな小物から、

 大剣 戦斧みたいなでっかい武器や防具まで実に幅広い。

 ってここの人たちから聞いた。

 

 ここマリスガルズ支店は、町の性質上アクセサリー類が

 主な商品ラインナップだ。こっそりジョージ予算で、

 銀の竜のブローチを買った。

 

 待たせちまった稲妻いねつまにお土産でも、と思ったんだけど

 店員が、同じ竜のアクセサリーを持つと絆が深まる、

 っておまじないがある、って教えてくれた。

 なので自分用にも同じ物を買っといた。

 

 なんで店員さんたち、ニヤニヤしてたんだろうな?

 俺、稲妻に自然体で接してもらいたい、って思ってるだけなんだけど。

 

 ガルミンたちへのお土産は任務完了してからだ。

 余計な荷物を持つわけにはいかないからな。

 

 

 今この場、バックヤードにいるのは、俺 カグヤ それとアイシアの三人。

 『商品』こと奴隷になる予定の少女たちは、サラちゃん護衛の下で

 自由時間満喫中だ。

 

 荷物はここに置かせてもらうことになった。

 お土産買うんで戻って来るつもりだしな。

 

 

 ーーで、なんだけど。

 

 

「なあ。なんでカグヤ縛られてんだ?」

 椅子に縛り付けられ、腕を分厚い真っ白な層で固められた黒猫娘。

 俺はそれと向かい合う形で立っている。

 そして黒猫の後ろには氷の美少女。

 

「みるニャこのケダモノ!」

 射貫かれそうな殺意の目で見て来るんですけど?!

「どっどういうことだよ?!」

「ニャたしのかっこ見てゲンキにニャってるじゃニャい。

この、ケダモノ」

 

「え?」

 改めてカグヤをしっかり見た。

「……ああ」

 カグヤが顔を真っ赤にしてるのも頷ける。

 

 

 腕を後ろにやってるせいで、彼女の肉球括弧意味深が

 協調されているのであるっ!

 あいかわらず鎧の強度が心配になるほど、そのふくらみはよくわかってしまうのだっ。

 

 

「ニャに今気付きました、みたいな声出してんニャ!」

「いや、ほんとに今気付いたんで」

「じゃあニャんでソチラさんは、ニャたしと向き合った時から

ゲンキいっぱいニャのよ」

 カグヤの視線がどこを捉えているのか。それは言うまでもない。

 

「知らねえよ。ここは人の意志で完全制御は無理なんだから」

 モゴモゴ言うしかない。これは紛れもない事実。

 女子にこの感覚はわからないだろうけど。

 

「そ。そういうことニャら許してあげる」

 俺の言い方に真実を見たのか、びっくりするぐらいあっさり引いた。

 呆れかえった顔してるけど、睨まれてるよか遥かにましだ。

 

「で。なにがどうしてこの状況?」

 気を取り直して本題に入る。

 カグヤに指をさして尋ねたら、「独断」って、

 アイシアが自分を刺して答えた。

 

「状況見ればそれはわかった」

 でも俺が聞きたかったのは理由で、誰がやったかじゃないんだけど、

 伝わってくれなかったらしい。

 

 

「ニャたし、説得したの。このままだと『発作』が起こって

大変ニャことにニャるから、モンスターの居場所を

探さニャいといけニャいからやめてって」

 金色が僅かに入った赤い瞳になったカグヤが、

 ギギギと腕を動かそうとしながら八の字眉で訴えて来た。

 

 ーーこいつも、こんな顔、するんだな。

 

 ニャの数が尋常じゃなくて、吹き出しそうになるのを必死で噛み殺し、

 俺は言葉を返す。

「そういや、そんな風習があるとか言ってたっけ」

 思い返して納得に頷く。

 

「なるほどな。俺がサラちゃんたちを見送った時に、

なにやら騒いでたのはそういうことだったのか」

 カグヤの状態をザッと確認したけど、争った形跡がまったくない。

 困り顔だけどこの無抵抗っぷり。当然か。

 

 なんの意味もなく仲間を縛り付けるなんて、

 アイシアがしないことなのは俺にでもわかるぐらいだ。

 なら俺よりも付き合いの長いこいつにはわからいでかだろう。

 

 

「アクト。これ、解かせて」

 腕を上下にやったようで、椅子の背もたれからグギギって音がした。

 むりです、と首を横に振ると、無感情に「うん、しってた」と言う切り返しが。

 なぜそのネタを知っている?

 

 

「で? なんでこんな強硬手段に出たんだ?」

 改めて聞くことにした。

「ちょっとアクト?」

 いきなり出鼻をくじくカグヤのちょいロートーン。

 

「え、はい。なんでしょうか?」

 思わず口調が硬くなっちまった。

「人の胸凝視しニャがら真剣にはニャしするの、

やめてくれる?」

 睨みあげられちゃ、目をそらすしかない。

 

「あ……バレますよね。正面ですしね?」

 苦笑一つ。溜息一つ、返って来た。

「せめて会話相手のアイシアにしニャさいよ。失礼でしょ」

 

「あ、うん。そうですよね」

 カグヤから視線をそらし右手で頭を書く。

 ……咳払い一つ。気を取り直す。

 

 

「カグヤを縛り付けた理由、教えてもらえないか?」

 今度はアイシアの目を見て尋ねる。

 そしたらアイシアの方が、目線を外した。

 こいつの場合は、単純に目を見て話すのに慣れてないんだと思う。

 やましいからではない。そのはずだ。

 

 

「カグヤの発作。利用する」

「利用?」

「いったいニャにに利用するのよ?」

 ぎこちなく首を後ろに向けるカグヤに、一つ頷いたアイシアは、

 その答えを短く返した。時間稼ぎ、と。

 

「時間稼ぎ?」

 鸚鵡返しした俺に続くように、ニャんのよと

 カグヤが疑いの眼差しを向けている。

 しかし、こんなにニャーニャー言ってて、舌噛まないのすげーよな。

 

「アオイ、助ける、時間稼ぎ」

 一切のよどみなく、まったくの迷いなく。

「考えて、くれてたんだな」

 

 こいつらの身体能力を当てにして、完全脳筋強行突破でなんとかなるだろ

 と思ってた俺とは違って、アイシアはその段取りを考えてくれていたらしい。

 喜ばしくて右手を握りしめていた。

 

「それ、どういうことよ?」

 カグヤの方は怪訝差を崩さない。

 カグヤの疑問に、アイシアは一つ頷くとスーっと息を吸って、

 カグヤを利用する理由を披露した。

 

 

「きっと、警備、厳しい。人、集める。だから、暴れる」

「なるほど。カグヤの大暴れで人を引き付けてる間に、

残ったメンバーが、稲妻の居場所を突き止めて助ける

って作戦か」

 うん、と短い頷きをまたする。

 

 しかし、腕を凍らされたままのカグヤは、

 はぁと呆れた顔で溜息をついた。

「なんか、不満なのか?」

「あのねぇ。昨日のはニャし、覚えてるアイシア?」

「覚えてる。カグヤの『発作』状態の話」

 俺の左に回り込んで来ながら答えて、カグヤと向かい合う角度を取る。

 

「覚えてるニャら、ニャんでそんニャ力が開放された状態の

ニャたしを利用しようニャんて」

 思うのよ、と言おうとしたんだろう、口がおの形を作った。

 それと同時にアイシアがカグヤの声より早く言葉を発した。

 

「建物、壊れる。警備 いっぱい来る」

 口がおの形のままで、カグヤが何度もまばたきしている。

 俺も予想外で、アイシアの方を見てしまった。

 

「なるほどな。派手な音を聴きつければ、

なんだかんだと集まって来る。そういう算段か」

 驚いてないように見せながら、アイシアの言ったことを噛み砕く。

「そう」

 

 

「たしかに。有効打かもな」

 顔を正面に向ける。

 監視カメラなんてもののないであろうこの世界では、

 対処へのレスポンスを考えると、異変が起こった時に

 人が集まるのは、悪手じゃないだろうからな。

 

「これ、『発作』中のカグヤにしか、できない」

「……そう……ね」

 自分の力のほどを理解してるカグヤは、どうやら納得したらしかった。

 項垂れてる辺り、しかたなく みたいだけどな。

 

 

「で? ニャたしの『発作』中の膂力ははニャしてあるけど」

 顔を上げたカグヤ。その表情は挑むようで、声のトーンはちょい低状態。

 決まったとなれば、スッパリと切り替えられるカグヤ。

 このサバサバ具合は俺にはとってもまねできない。

 

「サン・イラーヌである以上、その辺のこと、

ちゃんと考えてこの手 考えたんでしょうね?」

 カグヤの迫力に二歩後ずさっちまった。この威圧感っ、

 今さっきの日常睨みとは空気が違うっ!

 

 

「ーー身体リミッターといっしょに、思考回路の線

抜けてるとか考えててすんませんっしたっ!」

 思わず頭を下げた。そしたら勢いつきすぎて土下座になってしまいました。

 恐る恐る顔を上げたら、

 

 ーー二人から不思議そうな表情で見られてることがわかって、

 ものすごく恥ずかしくなって、

 飛びのくように起き上がる俺なのだった。

 

 

「……ごめん。話の腰折った」

 左手で顔を覆って言った。

 目をそらす。顔が熱い。いたたまれねーっ!

 俺がよっぽど間抜けに見えたか、カグヤからフフフと笑いが漏れた。

 

 アイシアからも、まるで笑いを噛み潰したような

 息がむりやり吹き出たような声が聞こえた。

 

「また。アイシア。笑った」

 またびっくりしすぎてアイシアみたいな喋り方になったカグヤに、

 クククっと堪えきれず含み笑っちまったぜ。

 テンションの落差激しすぎだってこれはっ。

 

 そ れ で、とむりやり話題を変えるカグヤだけど、

 流石に強引すぎやしないか?

 

「どうニャのアイシア?」

 カグヤの問いに、やっぱり歪みなく頷いて

 銀色の少女は自分を指さした。

「わたしが、的になる」

 

「ちょ、本気かそれ?」

 またアイシアの方見ちまった。目ぇむいちまったし……。

 カグヤは僅かに眉をピクリとさせただけで、特に声は上げなかった。

 それほど驚くようなことじゃないのかもしれない、こいつからすれば。

 

 

「全力なら。対抗できる」

 任せろとばかりに、右の拳を胸の前に持ってきて、

 グっと音がするほど握り込む。

 俺を見返すその瞳は、自信たっぷりに俺には思えた。

 

 表情は殆ど動いてないのに、この少し語気の強い声と

 力強く握られた拳に、頼もしさを

 ひしひしと感じるんだから不思議なもんだ。

 

 

「たしかに。ニャんたの全力ニャら、『発作』状態のニャたしを

とどめておける……かも、しれニャいわね」

 アイシアの全力を知っているのか、頷くカグヤは

 だけどいまいち確証が持てない。そんな不安を残す声色だ。

 

 何度も目をパチパチやってるおかげで、

 その不安感を否応なくこっちに伝えて来る。

 

「もしかして、この話がしたくてサラちゃんだけを外に行くようにしたのか?

仲間同士の殴り合いなんてサラちゃんは許さないだろうから」

 考えながら、ゆっくりと言った俺に一つ頷くことで

 アイシア・フロストは返事にした。

 

「ずるい、かも、しれない」

 少し下を見ながら言うので、「いや、しかたないだろ。これに関しては」と

 思ったことを返す。

「そう。ゆうことに、しておく」

 一応は納得したらしい。

 

 

「覚悟はできてる、みたいね。本当に、

加減ニャんてできニャくニャるわよ。ニャたしの瞳が

紅に輝き出したら」

 念を押すような 最終勧告のような問いかけに、

 ゆっくりと大きく頷いたアイシア。

 

 シリアスに言ってんのに、全部「な」が「ニャ」になってるせいで

 なんとも言えない空気になってしまってるのは、最早ご愛敬。

 

「そう。わかったわ。言い切ってとどめた以上、

ニャたしと踊ってもらうわよ。一晩中」

 

「月が眠るまで」

 胸の前に右手を出して、氷で一輪の花を作り出し、

 静かに口元を緩めて優しく、だけど不敵にそう答えた。

 練習でもしてたのか、あまりにもよどみない動きであった。

 

 

「……どうしたアイシア? 大丈夫か?」

 笑顔ができていることよりも、そのあまりにも急激なキャラ変化に、

 俺は思わず横の少女を心配度MAXで見つめていた。

「ククク」

 が、一方言われた側は笑い出した。

 

 なんかカグヤの背中側で、ミシミシミシって音が

 いっしょに鳴ってるんだけど?

「アハハハハッ!」

 ビキビキビキ。更に激しく鳴る音。

 

「それ、

『異世界から勇者を召喚してみたら、実力者っぽいこと言ってるのに

平凡以下で、気障ったらしいことばっかり言っててうっとおしいんですが

どうしたらいいですか』

の勇者の決め台詞じゃニャいっ!」

 

 バギャッ。

 カグヤを拘束してた氷が砕け散った。ついでに縄まで引きちぎれている。

 そして、そのまま自分太腿をバシバシ叩いて大爆笑。

 

 ーーこいつ。笑うための力だけで、さっきまでびくともしてなかった拘束を

 全部破壊したのか? ……いやまさか、流石にそれはないだろう。

 うん。たぶん力をちょっとずつ加えていってたんだ、笑うより前から。

 

 

「マジかよ」

 それよりも。それよりもだ!

 

「異世界にすら文章タイトルラノベブームが来てんのかよっ?

異世界生活最大の衝撃だわっ!」

 

 しかも中身が、テンプレ系の異世界召喚物っぽい。

 これは稲妻に教えてやらないと。絶対喜ぶぞ。

 そのためにも今、暇なうちに

 この

 『勇者を召喚したけど厨二病すぎて勘弁してください』

 について聞いておこう。

 

 

 

 ーーまさか。こいつらが俺と同類だったとはなぁ。

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