第四話。いいケダモノは初めての魔法と彼女の夢を見る。 その1
お久しぶりです。ようやく投稿できましたー。
起床後をここに入れるか次の話にするか考え中なので、暫定って形ではあります。
では、夜の明斗たちの様子をお楽しみください。
「ただいま戻りました」
「ただいまですー」
エレナとサラちゃん、二人が車列の前側から歩いて来た。
手を繋いだ二人の様子は、さながら姉妹で、おかえりを返す俺達は
和やかな気持ちに包まれた。
カグヤもアイシアも声色が柔らかいから、
顔を見なくても俺と同じなんだってわかる。アイシアもこんな声になるのか、今日は意外な面よくみるな。
夕食の食休みを終えたところで、エレナが体を動かす意味でも、
散歩したいって言ったんだ。
一人だとお預けを喰らったケダモノたちが、
テントから飛び出してくる可能性があるから、と
カグヤとアイシアが護衛をつけることを提案。
エレナが選んだのがサラちゃんだった、というわけだ。
ひょっとしたら、サラちゃんが妹さんに重なったのかもしれない。
迷わなかったからな、パートナー決める時。
「で、商隊一周、どうだった?
万屋たちの反応あったか?」
「彼等がわたしたちに気付いた様子はなかったですね」
「お酒臭かったです」
苦い顔で言うサラちゃんに頷くエレナは、
女性の声がしなかったのはなによりでしたと続けた。
「彼等が『荷物』たちを放置してるのがわかったので、
彼女たちと少しお話ししてきました」
「けっこう長かったのはそれでか?」
はいと頷く。なるほど、たしかに
ぼんやり女の子の話し声みたいのが聞こえてきてたな。
「皆さんわたしを見て羨んでました。
おひとりは、みんなで一番後ろに行きたい、
なんて本気で言ってたぐらいです」
微笑ながら、その顔は少しだけ俯いてる。
これは運としか言いようがないから、
他の女の子たちに、なんのフォローもできないんだよな。
歯痒いぜ。
「そういうの聞くと、他の枷壊して連れてきたくなるわね」
カグヤが悔しそうに言う。
「でも、依頼主の判断を無視するのは
ヨロズヤとして得策じゃないのよねぇ」
続けて言うカグヤは、両の拳を握りしめては開き、握りしめては開きしている。
引き結ばれた唇には、にじみ出る歯がゆさがある。
「いってくる」
「まて」
思わずアイシアの右二の腕を左手で掴んでしまった。……
やばい、反撃が来るぞっ!
……あれ? 来ない。
来たのは打撃ではなく、こっちに向く顔だけだ。
サン・イラーヌと俺は、全員驚愕の表情をしてるはずである。
な。なにがおきたアイシア・フロスト?
「あ、ああ。あのぉ……あれだ」
「なに?」
首を傾げた、腕を掴まれたままなのに。
「ん、ああ。その。だな。カグヤの話、聞いてたか?」
ほんとは話を聞けと突っ込むはずだった。
けど、無抵抗なアイシアのびっくりがでかすぎて、
宥めるような言い方になってしまった。
「聞いてた」
右腕をちょいちょいと動かす。それはもしや、
いい加減離せと言いたいのか?
「なら行くなよ」
「イオハに言えば問題ない」
腕を動かす幅がちょっと広がった。
離せって言ってるだろ、とでも言いたい……のか?
「あのっ、そのことなんですが」
遠慮がちにエレナが割って入って来た。なんだか必死さを感じる声色で、
思わず彼女を見る。
アイシアも、どうやらエレナの話を聞くつもりらしく、
右腕の動きを止めた。
が、あいかわらず俺の手をはがそうとはしない。
掴み続けてるのもおかしいので、自分で彼女の右二の腕から
左手を離すことにした。
ーーマジでどうしたアイシア?
「わたし以外の『荷物』の開放は許可しない、
とおっしゃっていました。開放したら他のヨロズヤさんたちが、
余計に暴走しやすくなるから、と」
「それからイオハさん、わたしたちに他のヨロズヤさんたちの見回りを
追加依頼としてお願いしましたので、受けておきましたです」
サラちゃんの補足に異論を持つ奴は、サン・イラーヌにはいないようだ。
「でも、なんでそんなことを頼んで来たんだ?
自分でやればいいだろ?」
「あのねえ。護衛のヨロズヤを信用できず、
その管理のせいで寝不足になりましたなんて、
笑い話にもならないじゃない」
完全にバカにされている。
「たしかにそうだな」
睨みつけてやったよコノヤロウ。
「じゃあ、組み合わせ決めましょっか」
ちくしょう、俺のにらみつけるは効果なしかよ。
「組み合わせ? 組み合わせってなんだ?」
「ん? ああ、そっか。リーダーさま、教えてあげて」
なぜサラちゃんに話を振る? そして、なぜさまをつける?
「はいです」
なんか嬉しそうだな。なにゆえ?
「護衛依頼で、今回みたいにお泊りする時には、
休む人と見張る人を交代にするです」
お泊りって言うと、いっきに緊迫感なくなるな。
「へぇ。その組み合わせを決めるってことか」
よくできましたとでも言うように、そうですと笑顔で頷くサラちゃん。
なるほど、と頷き相槌を返す。
交代で夜通しの見張りをする。ファンタジーTRPGのシナリオに、
そんなシチュエーションあったなぁ。動画で見ただけだけど。
「そうなると人数配分が問題よね。
ニャたし サラ アイシアは単独で問題ないけど、
アクトは一人じゃいざって時に対処できないでしょ?」
そうだな、と頷く。
サラちゃんに対して、一人で問題がない判断をするってことは、
茶髪ツインテの幼女剣士も、充分に戦えるってことなのか。
とてもそうは見えないんだけど。
「あの。お手伝い、させてもらえませんか?」
おずおずと、そんな調子でエレナが申し出てくれた。
「そうね。馬車担当の固定要員になってもらえれば、
ニャたしたち安心して見回りできる。頼める?」
「はい」
迷わず言うカグヤ、迷わず頷くエレナ。
やっぱ亜人であることは、それだけで荒事に対処しうる身体能力がある
ってことなんだろうな。
「なあ。一つ、疑問なんだけどさ」
「なに? ニャんたって、ほんと余計なこと
言いたがるわよね?」
疲れを含んだ調子で、めんどそうにカグヤは言って来た。
「余計なお世話だ」
同じように返して、一つ咳払いして気を取り直す。
「さっき、イオハは俺達が寝るまではエレナの手枷を外してていい
って言ったけどさ。夜通し見張るとなると、いつ付け直せばいいんだ?」
「変なとこまじめなのね。ま、日が出たら、でいいんじゃないかしら」
あっけらかんと、なにげなく、しかたなさげに言ってのけやがった。
「なんでだ?」
「鈍いなぁ。頭回ってるように見えて、
ぜんぜん回ってないわよね ニャんた」
やれやれ感当者比1.1倍。
ったく、こいつは。さらっとバカにしやがって、
この短期間で二度だぞ二度っ。
「いったい、なにが鈍いんだよ?」
二言ーー今の言葉丸々余計だと思ったけど、
我慢してカグヤの言い分を聞くことにした。
いらいらは、両拳を軽く握って抑え込んでいる、なんとか。
「いい? イオハはニャたしたちが寝るまで、って言った。つまりよ」
頷く俺。アイシアにサラちゃんも、「うん」って言ってるぞ。
あれ? もしかして鈍いのって、カグヤの勘違いだった?
「言い換えれば、誰か一人でも起きてれば
エレナを拘束し直す必要はない、ってことよ」
おお。俺 アイシア サラちゃん、そしてエレナまでもが同時に
感嘆の声を発した。
「に……ニャんたたち。気付かなかったの?」
驚いた様子のカグヤに、全員揃ってはい。
「あ、ああ……そうだったんだ。ってことで」
少しカグヤが声を張ったせいで、ビクってなっちまったじゃねーか。
「エレナを馬車固定要員として、二人ずつで組みましょ。
誰と誰にする?」
と言うわけで。
俺達は、カグヤ仕切りの元で深夜の見張りメンバーを決めて行った。
ほんと、こいつがなんでリーダーじゃないのかわからない。
不思議人事な万屋である。