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第三話。路線馬車の旅、奴隷亜人を添えて。碧ちゃんの影(すがた)と共に。 その2

「ほんとにこれ、隊 なのか?」

 スティアスの北出口、町門の付近に到着した俺達。

 俺は、目の前の後継に疑問符を浮かべている。

 太陽はもう少しで頂点にさしかかる、けっこうギリギリだった。

 

 前方からザワザワと人の話し声がする。

 けど俺が見えるのは、物置みたいな縦長でなんの装飾もない、

 だいたい2mぐらいの木製の荷台をくっつけた馬車一台のみ。

 とても隊と呼べる規模じゃない。

 

「よっ」

 おもむろに飛び上がった猫娘。着地点は物置の上。

 着地音は最低限、小さく靴音がしただけだ。

 この身のこなしは流石猫。

 

「軽く飛んで二メートル超えって、凄まじいな」

 は、いいんだけど。

「って言うかなにやってんだよ?」

 訝しむ俺には答えず、馬車の屋根に手を掛けて

 四つん這いになっている。

 

 正に猫みたいなポーズ。一切の恥じらいはない。ちなみに尻尾もない。

 そして下着は、鎧のスパッツ状のパーツでしっかりガードと隙がない。

 降りて来たら、パンツ見えてたぞってからかってやろうと思ったのにな。

 くそ、つまらん。

 

「ぃよっ」

 体勢を元に戻したかと思えば、直後にまたも軽く跳ねくるくる回転しながら、

「っと」

 一切重心をずらすことなく綺麗に着地した。

 フィギュアスケートなら何点出ただろうな?

 

「なんだその無駄に洗練された、まったく無駄のない無駄な動きは?」

 某狩りゲーで、羊から飛び降りる猫を思い浮かべたけど、

 そんなネタがこいつに通用するわけがないので自重しました。

 

「体動かしたかったのよ」

 あっさり答えられて拍子抜けた。

 もうちょっとは、でかいリアクション期待してたんだけどなぁ。

「で? なにしたんだ今のは?」

 

「ん? 先がどうなってるのか見たの。

わざわざ前まで行くのめんどくさいでしょ?」

「だからって上から見るか普通?」

 そもそもなんの準備運動もなしに、まるで跳び箱一段飛ぶみたいに

 あんな高さまでは飛べねえんだけどな。

 

「できるんだから問題ないじゃない。

で、なに? その『普通』って?」

 表情は純粋な疑問だ、驚きすら混じって見える。

「自分をひとくくりにまとめたいのニャんた?」

 不思議そうに問われた。

 

「そうだな。目立つといろいろめんどくさいからな」

 だからそう、こともなく頷く。

「ふぅん。息苦しそうね、ニャんたん世界とこ

「そう、かもな」

 

「やっぱり、寂しそうです」

「そうか? って、脱線しちゃっただろ」

 一息吐いて、

「で、カグヤ。前を覗いた結果は?」

 気を取り直した。

 

 

「うん。綺麗に一直線に馬車が何台か並んでるわね。

ニャたしが見た限りだと三台はいる。

けどたぶんまだ先がありそうよ。ちゃんと商隊してるわね」

 自分の言葉に、うんうんと何度か頷くカグヤである。

 

「なるほど、だから一台分しか見えないのか」

 ん? ってことはまさかカグヤの奴、

 俺の疑問を検証してくれたのか?

 いや、カグヤがナチュラルにそんな気遣いをするとは思えないな。

 自分が疑問に思っただけだろう。

 

「なんだ?」

 前の方から走って来る足音が聞こえてきた。なんだろうか?

「えっと、あなた方がサン・イラーヌで間違いありませんか?」

 小太りの柔和な顔の男が、軽く息を弾ませながらそう問いかけて来た。

 

 黒い羽織物には、ところどころに宝石と思しき輝く石が装飾されている。

 もしかしたら商人の一人なんだろうか?

 

「はいです。わたしたちがサン・イラーヌです」

 一歩前に出て、リーダーさまがそう少し緊張気味に、

 俺達を両腕で示しながら答える。

 すると男は、驚いたように目を瞬いた。

 

 そりゃそうだろう、なんせ相手は幼女だ。

 おまけに他の面子は、銀髪に紅の目をした表情の動きのほぼない少女と、

 黒髪で黒い猫耳に黄金の瞳をした少女。女の子しかいないのである。

 

「あ、はい。わかりました、よし。点呼完了、

イオハ様に伝えに戻らないと」

 額の汗を左手に持ったタオルで拭って、柔和そうな小太りの男は、

 俺達に背中を向けて走って行った。

 

 その見るからに体力がありませんと言う動きに、

 思わず手を振って「おつー」と声をかけてしまった。

 

「大変そうね。あの体格だしあんまり動いてないと思うわ」

「きっといい運動になったです」

 ニコニコ言うサラちゃんに、アイシアも小さく頷いた。

 

 

「よう。こんなとこにいたか小娘ども」

 そんなドスの効いた声が俺達にかけられた。

 見れば、そこにいたのは黒い鎧で身を固めたスキンヘッド。

 

「なんか用?」

 明らかに警戒した声のカグヤ。サラちゃんもアイシアもそうだ。

 俺も思わず身構える。

 

「そう怖い顔すんな。同業者同士の挨拶じゃねえか。

これから一日同じ仕事するんだ。顔ぁ知っとくのは当然だろ?」

 こいつのこの、スキンヘッドに左瞼に傷のある釣り上がった目って身なりは、

 とてもサラちゃんたちと同業には見えない。

 黒い鎧に施された、炎を纏った銀の竜のエンブレムは、すげーツボだけど。

 

 男は左腕を大きく広げる。すると、まるで示し合わせたように、

 ゾロゾロとがたいのいい屈強そうな男たちがやって来た。

 鎧のロゴは男と同じのもいれば違うのもいる。

 ただ共通してることはある。

 

 どいつもこいつも、小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべてやがるのだ。

「おいおい。こいつらほんとにヨロズヤか?」

「売り物が逃げ出したんじゃねーのか?」

 なるほど、イオハ・ザードーバ。黒い噂は真実らしいぜ。

 

 サン・イラーヌのみんなを見て、なんの躊躇もなく

 売り物って雇われ護衛団が言ってる。

 

 そりゃつまり、イオハ自身がそういう商売をやってるってことだろ。

 しかもヨロズヤ、ようは冒険者たちにこれだけ知られてるってことは、

 よっぽどそっち方面で有名らしいな。ジョージのオッサンの読み、大当たりだ。

 

 

「それはねぇな。俺ぁきっちり売り者の数、たしかめたからよ」

 なるほど。堂々と商人としての荷物のついでで、奴隷たちも運んでるってことか。

 

「ったく、あんな上玉買い付けられるなんざ、金持ちってのは羨ましいぜ」

 まったくだな、と野郎どもは下品に笑う。

 

 ビシリ。

 

 背中が凍り付くような寒気さむけを感じた。

 それは、俺のすぐ近く、サン・イラーヌの方向から。

 お……俺の体がカクついてやがるぜ。

 

「ま、この小娘どもも抵抗する力を奪っちまえば、

余裕で金貨10枚ぐらいにはなりそうだぜ。

上玉揃いの上に一匹は猫憑きだ。猫憑きは金になるからな」

 まただ。今さっきのがまだ消えてないってのに、

 もう一つ更に冷たい刺さるような気配。

 

 こいつら、気付いてないのか?

 それとも、気付いててあえて気付かないふりをしてるのか?

 

 ……ネコツキか。そういや朝にも、カグヤのことそう言ってたっけな。

 ネコツキってなんだろ?

 

 

「ニャんたら。いい加減にしなさいよ」

 トーンの落ちた声の方を見て、俺は我が目を疑った。

 カグヤの周囲に、まるでバトルマンガのように

 オーラ的ななにかが立ち上っていたからだ。

 その拳は、両方ともきつく握りしめられている。

 

 って、おいおいヤバイんじゃねーかこれ?

 ぶち切れかけてんじゃねーのかこれは?

 

「おうおう、猫憑き様がおこったぜ?」

 理解してんなら煽るなよ? バカなのか?

「おとなしくさせてやるか。んでもってあわよくば、

俺達の飯の種に」

 言葉の途中だった。

 

 その男の声は、なにかが砕ける音と同時に強制的に停止する。

 男二人は、幸い目を見開いた状態でフリーズしてるだけのようだ。

 命に別状はない……と思う。精神はわからないけど。

 って、二人?

 

「次は。狙う」

 指差したのは心臓部、ヤバイ。

 アイシアの声に、躊躇のない殺気が乗ってるっ!

 一斉に浮ついたざわつきが広がった。

 

 ん? なにやらサン・イラーヌ側から小刻みにカチャカチャ聞こえるぞ?

 

「左肩の鎧砕くだけにしといてあげたわ。

歴戦の戦士っぽくて拍が付いたでしょ?」

 声は少しも笑ってないし、目も勿論笑っていない。

 カグヤの黄金の瞳、それがおのずから輝きを放って見える。

 その自ら輝く金色は、恐ろしくもありそして……ひどく綺麗だ。

 

「他に鎧に拍つけたい奴、いるかしら?」

 輝く二つのサーチライトが、ぐるりと男たちに向けられていく。

 そいつらは全員 今さっきまでのなめくさった態度はどこへやら、

 かぶりまで振って否定のジェスチャーをしている。

 そんな奴らを、カグヤは鼻で笑った。

 

「サン・イラーヌの方針が殺さずだったこと、

ありがたく思いなさい」

 なにこいつ、かっこいいじゃあないか。

 

 連中は、なさけない声を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 それでも全員向かう方向が同じな辺り、やっぱり護衛

 今朝の男曰く、馬車に揺られるだけの簡単なお仕事は捨てがたいようだ。

 

「お前ら。むちゃくちゃ強かったんだな」

 状況が片付いたとわかったら、俺の体は締め付けから解放されたように

 動かせるようになった。

 あぁ、こわかった。

 

「そうかしら?」

「大したこと、してない」

「いやいや、拳で鎧砕くのは大したことだろ?」

「「そう?」」

「なんで二人して不思議そうな顔してんだよ?」

 こいつらまさかして、チートステータス持ちなのか?

 

「あ、あのぅ。も、もぅ……だいじょうぶ、です?」

 サラちゃんが、泣きそうな小声でそう呟いた。

 カチャカチャはまだ鳴り止んでいない。

「ええ、あのバカどもはいなくなったしね」

「大丈夫」

 

「そうですか。ふぅ」

 肺に溜まった空気を全部吐き出したような一息。

 そっか。サラちゃんも怖かったのか。

 

「よかったです。お二人とも、元に戻りましたです」

 今度は安心したような表情と声音だ。

 そして、カチャカチャも鳴りやんだ。

 

 なるほど。あのカチャカチャは、

 サラちゃんが二人が怖くて震えてた音だったってことか。

 

 

「とりあえず一件落着だけどさ。

二人の答えとサラちゃんの答え、かみ合ってないよな?」

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