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神ノイルセカイ  作者: 尚宮
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アンチ正義 2

 「悪いけど…あんたに家の商品は売れねぇよ」

 少年を横目に額に汗を浮かべながらその店の店主が言う。


 「二倍の料金を払う、それでもダメか」

 ナヒトが食い下がるが、


 「できねぇよ…ばれたら、即刻処刑されちまう」

 予想以上に事態は悪化していた。


 「毎度、面倒なことだの、なんならここにあるもの全部強奪したらどうだ?」

 フーカが斜め後ろから威圧的に告げる。


 「ダメだ、これ以上目立つ訳にいかない……」

 指名手配レベルが随分と上がっている様子で、

 ほとんどの店に手回しをされているようだった。

 この状況で、居場所まで特定されるわけにはいかない。


 「邪魔した……店主……わかっていると思うが僕達はここには来ていない。そういう事にしてほしい」

 そう言って店の出口へ向かう。


 「ふむ、今の契りに背けば変わって我が貴様を処刑する……そこを理解しておけっ」

 フーカが付け加えるように言い捨てるとその場を後にする。


 思っている以上に事態は深刻だった。

 命を狙われるだけならいい……

 僕にはフーカという最強の用心棒がついている。

 ただ、彼女の魔力を回復させる手段。

 それは、魔力0の僕にはできぬ事。

 魔道具を手にし、それを今までは補ってきた。

 そのため、ギルドの手配モンスターを討伐して金も貯めて来た。


 だが、その金を使う事で売買が成立しない今では、

 なにか……なにか方法を考えなくては……







 届かない……


 届かない……


 それは僕の理想……


 越えたい……


 かつて描いた自分の理想を……


 どんな手段を使ってでも……


 僕は越えなくてはならない……


 なのに、どうして……


 僕はそいつに並ぶことすら許されない……




 「マィーーートォーー」

 腹部を綺麗に射抜かれたバケモノはすぐさま起き上がる。


 「いい加減、貴様と馴れ合うのも疲れてきた……」

 マイトは弓を構えると、魔力の矢を精製する。

 いつも以上に魔力を込め、威力を最大限に高める。


 「散れッバケモノ!」

 攻めに徹していたバケモノが、

 本能だったのだろうか……危険を察知して、

 初めて回避という行動を取る。

 それでも、その高速の一撃を回避することができず……

 腹部に大きな風穴を創るほどの一撃がバケモノを貫いた。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 カンッカンッカンッと、

 村の異常事態を知らせる鐘が鳴り響く。


 「魔物だっ魔物の襲撃だぁッ」


 魔物が吐き出した炎で、村の半分が焼かれていた。

 キメラと呼ばれるB級とされる魔物で、

 鋭い爪と炎のブレスを吐き、それなりの上級のハンターでも手を焼く相手だと言う。


 「あ……あぁ……」

 マイトと呼ばれる灰色の髪の少年とリエラと同じくらいの年の少年……

 警備隊として借り出されていたが、

 ほぼ、実戦経験の無い彼は完全に腰を抜かして怯えるように剣を構えている。


 「ヘインッしっかりしなさいッ」

 同じように警備隊の軽装をした少女がその男に言う。


 「レニーっ、に……逃げろっ俺達じゃ太刀打ちできる相手じゃない……君だけでも」

 情けないながらも、仲間であるその少女だけでも助けようとその場から逃がそうとする。


 「ガァーッ」

 バケモノが鋭い爪でヘインに襲い掛かる。


 「ヘインッ」

 レニーはただ、声をあげるしかできなかった……


 その一撃が横から現れた少年に食い止められる。


 「マイト!」

 その男の登場にレニーの顔がほころぶ。


 「レニー、ヘインを連れてここを離れてッ」

 マイトはそう告げると、

 高く飛び上がり、

 手にした剣をキメラの左目に突き刺した。


 キメラは痛みで暴れ、マイトがそのまま周囲に振り回される。

 振り落とされることが無いようその衝撃に耐えながら、

 左目から抜いた剣を再度、突き刺す。


 痛みで冷静さを失っているキメラは、

 四方八方に周囲に炎の息を吐き出す。

 直撃は受けていないものの、

 すぐ真下で吐き出される炎の熱がマイトを苦しめる。


 「マイトッ!」

 ヘインの両脇から手を入れて引きずっていたレニーが心配そうに見上げる。


 「いい加減にッ静まれっ!」

 三度目の突き刺しを決める。

 ようやく、キメラが地べたに頭を落とし倒れる。


 駆けつけた大人の警備隊の手も借りて、

 キメラの捕獲に成功する。




 翌朝、村は復興作業で大忙しだった。


 「いやぁーマイトは、もうここに居る大人、誰よりも強いんじゃないか?」

 警備兵をしている大人の一人がそう告げる。

 「まぁ、村の英雄は休んでいてくれ、こっちは大人の仕事だ」

 そう言って、男は村の復興作業へ戻る。


 「お疲れ様、英雄さん♪」

 リエラがいつものように弁当の入った籠を手にしながら現れる。


 「大活躍だったみたいだね」

 何故かちょっと意地悪そうな笑みでリエラが言う。


 「いや……まだまだ……仕留められた訳じゃないし」

 理想にはまだほど遠いと思った。

 いつも、イメージしている……

 どんな風に戦えば理想かと。

 でも、全然思ったとおりに戦えていなかった。


 「でも、マイトってあんなに強かったんだね」

 リエラは嬉しそうにそう言って、作ってきたサンドイッチを手渡す。


 「出会った頃は、少し頼り無い感じだったのに……」

 またも意地悪そうに笑ってリエラが言う。


 「いつも、頑張って稽古してたもんね……努力ってやっぱり大事なんだね」

 そう……努力していた。

 天賦の才能なんて無い……

 それでも、こうありたいという理想は常に思い浮かべていた。

 だから、それに近づけるよう努力をしてきた。


 「それより、酒場の方は大丈夫なの?」

 のん気に二人でサンドイッチを食べていて平気なのか心配になる。


 「うーん、ここ数日は開店できないかもねぇ」

 上目で考え込むように彼女は言う。


 「まぁ、おかげでこうしてマイトと居られる時間も増えるけどね」

 またも、意地悪そうに笑う。



 「おーーいっ マイト」

 レニーが手を振りながら駆け寄ってくる。


 「昨日はありがとうっ やっぱマイトはスゲェな」

 「今度、私の稽古にも付き合ってくれよ」

 嬉しそうにレニーがマイトに話しかける


 「……と、あっリエラと一緒だったんだ」

 隣でマイトと同じようにサンドイッチを口にするリエラに目線を向ける。


 「お一つどうですか?」

 まるで、別人のような口ぶりでレニーに籠を差し出す。


 「あ……ありがとう……」

 そこから一つ受け取ると……


 「もしかして、お邪魔だった?」

 ……少し居心地悪そうにレニーが言った。











 「よぉ、正義の味方の旦那ぁ」

 白髪のツンツン頭の男がイシュトを呼び止める。


 「げっ、イシュトさぁん、こいつヤバイ奴ですよ、逃げましょう」

 相変わらず、イシュトの腕に引っ付いていたマルがそう言う。


 『仲間……、じゃないのか?』

 不思議そうにイシュトが尋ねる


 「敵じゃない……だが、イシュトの旦那ぁ、俺様があんたをぶっ倒すッ」

 人差し指を突き刺し男が言う。

 身長はそこまで高く無い……ただ、相当鍛えているのか割と筋肉質。


 「イシュトさんが正義馬鹿だとするとぉ、こいつはぁ筋肉馬鹿なんですよぉ」


 『さりげなく、俺の悪口まで言わなくていい……』


 「旦那ぁ、魔王をぶっ倒したって言うじゃねーか、でも、俺様があんたをぶちのめせば、俺様が一番つえーって事だ」

 白髪ツンツン頭の男は興奮交じりでそう叫ぶ


 「俺様の筋肉が最強だということを教えてやるッ」

 「俺様の筋肉を越えられる奴はいねぇッ俺様の筋肉を越えられるのは俺様だけだッ」


 『………?』

 やばい、ここの連中のほとんどが理解できなかったが、

 こいつは一番かもしれない。


 「イシュトさん、絶対ヤバイですよぉ……こいついろんな箇所の筋肉に名前とかつけてそうなタイプですよぉ?」

 横目で目を細めながら白髪ツンツン筋肉男を見る。


 「馬鹿にするなーーッ」

 侮辱されたことに怒り叫ぶ。


 「筋肉達に名前をつけるくらい、ふつーだろーッ」

 そっちかッ

 とりあえず、心の中だけで突っ込む。


 『俺の負けでいい……どう見てもあんたの筋肉の方が立派だ』

 面倒ごとは御免だ。


 「えーーー、そうですかぁ、私は、こっちの筋肉の方が好きですけどねぇー。」

 えへへっと嬉しそうにペタペタとイシュトの腕の筋肉を触る。


 「シャラーーーーーープッ!」

 顔真っ赤で筋肉馬鹿が怒りMAXで叫ぶ。


 「正義の旦那ぁ、正義と筋肉……どっちが強いか、そろそろはっきりさせよーぜ」


 『……うーん、こいつは中々だな』

 もう、なんかひっちゃかめっちゃかだ。


 「正義の旦那、今日、俺様の名と俺様の筋肉を忘れられなくしてやるぜッ」

 ……なんかそっち系の女子が聞いたら喜びそうな台詞だな。


 『筋肉馬鹿……貴様の名を忘れるもなにも、俺は貴様の名前をまだ知らないぞ?』


 「あ、あの筋肉馬鹿はですねぇ…」

 マルがその名を告げようとするが、


 『いや……待て、当ててやる……マ…マァー、マぁ…』

 マから始まるだろうと決め付け考える


 『マッスルッ!』


 「……当たりッ!」

 絶対間違っているが、当の本人は気に入ったらしくその名を受け入れる。


 「マーキスですぅ、ふつーの名前っすよぉ」

 マルが横目で口をзに曲げながら言う。


 ガシャリとその辺のものを弾き飛ばすと、

 それなりのスペースを確保する。


 「さぁ、勝負だぜ、正義の旦那」


 『なぁ……マル、あの筋肉馬鹿を止められないか?』


 「無理ですよぉ、それに私も夫のかっこいいところ見たいです」

 良い笑顔で見上げてくる。

 とは言っても、仲間内で短剣を向ける訳にもいかない……だろう。

 明らかに肉弾戦を得意で大好きであろう相手では、

 見せられるのはかっこ悪い一面だろう。


 「あぁーーーーーーーーーーーッ」

 謎の発狂と共にマーキスは突撃を開始する。

 パワータイプでありながら、動きも身軽のようだ。

 以前の包帯男……アンチ正義を思い出す。


 ちなみにアンチ正義と命名したのは俺。

 あの正義を憎む発言からそう名付けた。


 『マル……離れてろ』

 マルを少し遠ざける。


 室内で無ければ回避……にまわりたいところだが、

 周囲への被害が気になる。


 逆に足場を固定し踏ん張りをきくようにする。


 あの拳を掌で受けたのでは多分力負けする……


 次の瞬間強い衝撃がぶつかり合い、二人の周辺に風圧が起きる。


 互いの拳と拳がぶつかり合う様に、互いの攻撃が相殺されていた。


 「なっ!?」

 その細い腕で何故自分の一撃が止められたのか……


 「わぁ……覇王なんちゃらですかぁ?」

 イシュトの活躍を自分のことに喜ぶマル。


 多少だが剣技を身に着けるために体術の心得もある。

 力を受け流す……今のような力任せだけの一撃なら俺にも難しくは無い。


 「さっすが、正義の旦那ぁ~、だが、次はどぉーだッ!」

 互いの右の拳がぶつかり合う中、

 今度は左腕を振りかぶる。


 「!?」

 だが、マーキスの振りかざす左腕の先にイシュトの姿はすでに無く、

 懐に入り込むと、

 素早く、腹部に拳を決める。


 が、マーキスはニヤリと笑う。


 『くっ』

 鍛えられた腹筋はその一撃を簡単に受け止める。

 逆にイシュトの拳を痛めるほどだった。


 「名付けて筋肉メイルッ」

 マーキスがカウンターの一撃をイシュトに放つ。


 『ちぃっ』

 両腕をクロスさせてその一撃を防ぐが、重たい一撃はイシュトの身体を後退させる。

 こういうのを相手にするなら……

 くやしいけど……あの人に習うしかない。


 突進してくる筋肉男を再度、回避することなく、

 足場を固定し待ち受ける。


 相手が互いの攻撃範囲の一歩手前辺りで、側面を向けると、

 右手の拳を開き、指の第一関節だけを曲げ構える。


 上手くできるかっ?


 「!?」


 突き出した掌がマーキスの胸部に放つ

 以前に、マリさんが目の前で放った八頸……

 アーマー系には特効の技だ。


 さすがに、かなり苦しそうだ……

 だが……


 「きいたぁ~、さすがは正義の旦那ぁ」

 逆にヒートアップさせたようにも見える。

 ……が、



 「馬鹿なの……?これはなんの騒ぎかしら?」

 終戦のお告げの言葉が響く。


 「私の私物の破壊の次は、部屋を破壊するつもりかしら?」

 アリスが冷たくその場を睨みつける。


 「ちぃ、正義の旦那ぁ、正義と筋肉……どっちが最強か……この勝負は預からせてもらうぜ」

 ……勝手なことを言いながら、後始末を押し付けるかのように筋肉馬鹿は姿を消す。


 ………。


 「駄犬……説明してもらえるかしら?」

 さて……どうしたものか。






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