魔王討伐編 1
開催式がおこなわれてから一週間後……
その日、大聖堂から、再度収集がかかった。
それは、聖戦を一時休戦。
そして、命ぜられた内容は……
聖戦メンバー六人協力して、
聖戦メンバーの一人、魔王の力を持つアシュと言う少年の討伐。
なぜ、そのような事態に陥ったかはわからなかったが……
その少年の暴走により国一つがたった一日で滅んだ。
聖戦の勝利とは関係無しに暴走した彼を危険視した大聖堂は、
彼の退場を余儀なくし、
その方法として、まずは同能力を維持する六人に、その彼を討伐することを命じた。
なぜ……彼は暴走したのか。
なぜ……あれほど、争うことを嫌った少年が……
それは、俺に知る余地は無かった。
だから、俺は俺の正義のため……
俺の守りたい人たちのため……
彼は討伐しなければならない。
事の起こりは数日前となる。
頭から大量の水を浴びせられ、目が覚める。
目を開くといつもの用に数人の男に取り囲まれている。
全く持って代わり映えが無い。
全く学習していない。
恐怖心を煽ったところで何にもならない。
仮にそれが成功しても、
俺が自分の意思を曲げてこいつらを処刑してしまうだけだ。
このやり方で、俺を制御できると本気で思っているのだろうか?
拘束具が外される……
さすがに、真っ直ぐ立つことができず、
解放された矢先にその場に倒れこむ。
くそ……おっさんと一緒に今後の……
この街の発展の……
色々……考えたいのに……
また意識が遠のく……
あぁ……早く……早く……自由に……なりたい。
おっさんと……俺の魔力で……
多くの人々を幸せにしてやりたい……
くそ……なんか……いいこと、思い付きそうだったのに……
そんな繰り返しの日々……
そんな日々が何日か続いて……
そして、その日は訪れた。
「よぉ、おっさん……もうすぐで思いつきそうなんだ、この間いってたところ……」
柵越しに立つおっさんを見ながらアシュは言った。
いつもなら喰いついてくるおっさんはその日、目元を確認できない感じで俯いたまま、
返事すらしなかった。
そこでようやく、おっさんが多くの王国の兵士と一緒に居ることに気がついた。
あぁ……その日が来たのか。
少年はそう思った。
協力の成しえない魔王の力の保持者なんてものは脅威にしかならない。
処分……処刑……
これでも、生かされた方か……。
おっさんが一人、柵の中へ入ってきて、少年に手錠をかける。
「……アシュ」
どんな言葉を望んでいるのか……
おっさんは俺に何かの言葉を望んでいる。
「……なぁ、俺の綴った日誌……おっさんが貰ってくれ、で……俺の魔力はおっさんが、引き取って活用してくれ」
おっさんの耳元でそっと囁く。
「……アシュ」
おっさんはただ、悲しそうに俺の名前を何度も呟く。
アシュは鉄格子の外に出ると兵士に囲まれ……どこかへと連れて行かれる。
逆にブレンがアシュの居た鉄格子の中に取り残され……
現実を受け止められないようにただ……アシュが居た場所を見つめている。
「……おっさん……今までありがとな」
そう言ってアシュは今までずっと監禁されていた場所から解放される。
その言葉で振り返る頃にはすでにアシュの姿は無かった。
その監禁されていた場所は離れの孤島で深い森に包まれていた。
かなり奥へ行った場所にゲートが一つ置かれていて、
そのゲートを潜ると、オルガニア王国のそばの森へ繋がっていた。
全てを受け入れた。
自分が処刑されても、きっとおっさんは俺の意思を次いで、
きっとこの力を国のために使ってくれる。
この力が、おっさんの……その身近の人間のためになるならそれでいい。
そう思うことにした。
「アシューーーーーーーーーーーーーッ」
後方から自分の名前を誰かが叫んでいる。
何してるんだ。
どうして、ここまで来たんだ。
あんたには、守らなければならない家族がきちんとあるだろ?
ブレンの中で色々な思いが葛藤する。
最愛なる妻、大事な一人娘…
だが、目の前には……
「アシュッ……」
決断を迫られる……それがなんの決断なのか……
何を強いられているのか……全く理解していない。
ただ……急がなくては……
短い……本当に短い期間だ。
あの少年と鉄格子越しに過ごした短い時間……
なのに……どうしてだろう。
すでに彼の中では、家族同様にかけがえの無い存在となっていた。
そんな少年とのやり取りがフィードバックして……
「アシュ……私は、お前に出会えて良かった……これからも、ずっと……ずっとお前と夢について語らいたい……そう思っていた」
「アシュ……お前は……お前は……どうなんだ?」
こんなことで……こんな場所で……お前の夢を終えてしまうのか?
「……あぁ、楽しかった。 ……俺たちの夢、叶えてくれよな」
だから……だからこそ託せる。
「……アシュ、悪い。」
ブレンは呟く。
覚悟を決める。
家族を守らなければならない。
産まれた娘の成長を見届けなければならない。
アシュとの約束を成し遂げなければならない。
覚悟を決める。
それらを全て捨てでも守りたいものがある。
「アシューーーーーーーーーーーーッ」
ブレンはそう叫ぶと、懐から剣を抜き取る。
「アシュをッ!!我が子を離せッ!!!」
振り向くことができない。
誰かが走って近づいてくる。
その男を目掛け、周りの兵士達が同じように剣を抜く。
金属のこすれる音だけが耳に入る。
「アーーーーシュッ」
なんで……どうして……
振り向かなければ……早く、早く……
抜き取られた金属が何かに突き刺さる音がする……
なんで……どうして……
どれだけ……時間がたったか……
ようやく、その頭は後方に向いた。
数人の兵士が中年の男を手にした剣で串刺しにしていた。
「ア……ア……シュ……い…しょに…くら…そう……」
「お…まえ…は、もう…お、れの…か、ぞく、だ…ともに…くらそう…」
必死に言葉を搾り出す。
どうしてだ……どうして……
あんたには……もう家族があるだろう……
守らなきゃならない……家族があるだろう……
そっと、おっさんに近づくと、
拘束された腕で倒れるおっさんを支える。
「どうして……」
ただ、おっさんに問いかける…
「お前は…すでに…大事な…家族だ…一緒に…帰ろう…」
そう言うと、おっさんの手がだらりと力なく垂れ下がる。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
頭が真っ白になる…
何も考えられない。
「馬鹿な真似を……家族ごっこで命を粗末にするとはな。」
突き刺しにしていた兵士が言う。
あぁ……おっさん……悪い……
ダメだ………
俺は……おっさんの為に……
おっさんとその周りのために、この力を捧げるつもりだった。
この世界にもう……あんた……いないじゃないか?
おっさんをこんな真似をした連中に……俺は協力できねぇ……
「おい、貴様……いつまでそうしているっ早く……歩けッ」
兵士の一人が剣を付きつけ、アシュに動くよう命じる。
「……だ……まれ………」
ぼそりと呟く。
「あぁ?何か言ったか?」
アシュは兵士の目を見る。
「黙れッ」
そうアシュは兵士に告げる。
その言葉に兵士はアシュに罵声を浴びせようとするが……
「アガッ……アガガ……」
言葉が出ない。
「そのまま……吹き飛べッ」
兵士は、アシュの目に引き込まれるように……その視線をそらせなくなる。
「アッ?」
その途端、兵士の身体は宙に浮く。
何が起きているのかわからない……
そのまま、まるで何かに引っ張られるかのように、
その身体はものすごい勢いで森の中を宙にういたまま疾走する……
途中、大きな木の幹にその身体が叩きつけられ……
全身の骨が砕けると同時にその身体はようやく地に落ちる。
「貴様、何をしたッ」
別の兵士がアシュに近づく。
「お前は燃えろ……」
アシュがその兵士の目を見てそう告げる。
その途端、その兵士は全身発火し、一瞬にして灰になる。
異常に気づいた別の兵士が一歩後ろに下がるが、
「動くな……跪けッ」
そう言うと、足が骨が砕け、その兵士はその場に崩れ落ちる。
「そのまま、砕け散れッ」
そう告げられると、体内から爆発を起こすように、
手足が千切れ、全身バラバラに砕け散る。
「貴様ら全員……砕き散れッ」
残った兵士全員に命じる。
その場に居合わせた兵士が次々と上半身が飛び散り…
一瞬にしてそこは血の海が広がった。
アシュはブレンの亡骸をそっと、地面に置く。
そして、黙って立ち上がり…
自分を処刑場に送る兵士達が居なくなったが、自ら足をそちらに向ける。
「あぁ……そうか……この力を使って聖戦を勝ち抜けばいい」
「いや……聖戦なんて関係ない……この世界全て……壊しつくす」
そして、また新しい世界を神という存在に作ってばらえばいい。
俺には、きっとそれができる……
まずは邪魔なものを排除しよう……
アシュはそのまま王国のある方へと足を運ぶ。
堅く閉ざされた城門へ辿り着く。
門の上に居た警備兵が何やら叫び、警報を鳴らしている。
全く目も耳も向けず…そっと、門番に手を置く。
「開け……」
そう呟くと、堅い南京錠で固定されていた門は無理やり開き、結果として跡形も無い状態で
アシュに道を開ける。
「崩れろ……」
そっと、門に手を置くとそう呟く。
途端に城門が凄いスピードで崩れ落ちていく。
城門に居た見張り兵がそれに巻き込まれるように、
生き埋めになる。
「吹き飛べ、自害しろ、焼けろッ」
近づいてきた兵士たちに、アシュはそう命じると、
一人の兵士は、そのまま遠くの壁に叩きつけられ、
一人は自らの剣で自分の意思とは関係なく勝手に手が動くように己の身体を串刺しにし、
また一人は、身体が発火しそのまま焼死する。
オルガニアの王はどうにかして、退路を確保しようとするが、
絶対なる力を持つ魔王は許す事は無い……
半日もかからず、一人の少年により王国一つが滅びた。
「ふむ……これは酷くやられたモノだの」
召集により駆けつけたフーカはその悲惨な光景を見て感想を述べる。
「なぁ……別に丁寧に召集命令に従う理由も無いんじゃないか?」
ナヒトはそんなフーカに告げる。
「他の連中に任せればいい……少しでも魔力は温存す……てぇっ!」
バシンと頭を叩かれる。
「ナヒト、貴様が我を召喚したときに言ったよな?」
「我はこの戦いに置いて名を残す英雄だと…貴様はここで卑怯にも遠くで観戦を決めているような英雄について良かったと本気で思うか?」
「まして、魔王とも呼ばれるような相手だ……英雄として倒すべき王道の相手だろうがッ」
フーカはそう嬉しそうに笑った。
「……あんなに争うことを嫌っていたあの少年がどうして」
共に駆けつけたレクスはそう呟く。
「……できれば君とは戦いたくなかったが……」
暴走してしまった彼はもはや危険。
我が国にも被害が及ぶかもしれない……
「ねぇねぇ、レフィ……レフィもこんな短時間であんな風に王国を潰せるの?」
レフィについて来たタリスがレフィに尋ねる
「ムリ……」
レフィは簡単にそう言う。
「えっなに、それって、自分より強いって認めちゃってるってこと?」
驚いたようにタリスが聞き返す。
「別に……そう言ってない、私にはあんな風に破壊することはできない…でも魔王という存在を倒すなら話は別」
冷たい目……それでも曇りの無い目…その偽りなき自信は確かなものだった。
「フヒヒ~、確かに…随分と厄介な力を持ってるみたいだけどねぇ」
大盗賊を名乗るハレと言う奇妙な女。
『……どうなんだ、聖戦メンバーでもやっぱあの魔王の力は厄介なのか?』
すでに共にその光景を眺めていたイシュトは大盗賊に問いかける。
「あ~、私はそこらへんの連中みたいに自惚れてないからね~」
「厄介、超厄介だね~、まぁ手抜きで勝てる相手ではないかな~」
「やっぱ、あの腑抜けた事言ってる内に殺っとくんだったぜぃ」
物騒な事をへらへらと言う。
「駄犬……あんたはうかつに、あの魔王の間合いに入ってはダメよ」
アリスがそう告げる。
「魔王の力、それは相手の魔力を支配してそれを書き換えてしまうもの」
『……魔力を書き換える?』
「うーん、言うなれば、あれ……魔王様には絶対服従させられるって訳さ」
ハレが付け足す。
「魔力を書き換え、自分の言った通りに相手の身体を操る……」
「燃えろと言えば、体内の魔力が暴走して、燃焼して身体を焼き、飛び散れと言えば魔力が体内で爆発を起こして身体は粉みじん♪」
「超おっかねぇーだろ?」
へらへらと言ってのけるハレ。
『そんなチート、どうすんだよ?』
「馬鹿なの……、そうなる前に仕留めるしかないってことよ」
アリスが言う。
「魔力の高い相手になると、魔力を書き換えるのに時間を要する…その命令に抵抗する時間があるってことよ」
「ようするに、駄犬……あんたではこの中でその抵抗力が一番低いってこと」
……わかったような、わからんような……
『ようするに……即死させるような命令はそれなりに時間がかかる……ということか?』
「まぁ、命令の内容にもよるけど……即死させるような命令なら、こちとて抵抗するからねぇ……そう簡単にはいかないかなぁ……」
「んで……どうするのぉ?まだ一人着てないみだいだけど……?」
ハレが六人全員集まっていないことを指摘する。
マイトと名乗った男が来ていない。
「ふむ……奴なら少し遠くで観戦を決めているようだぞ、そんな腑抜けはほっておいてよいだろ」
フーカはもはやあの男には興味も無いとでも言いたげだ。
「それじゃ……」
ハレとフーカが声を揃える。
「魔王討伐ッ 開始だぁッ!!」
観戦しているマイト、
付き添いとして居る、ナヒトとタリスを除いた……
フーカ、ハレ、レクス、レフィ、アリス、イシュトの計六名が、
廃城を目指し歩き始める。