第7話 職業の話
そして変な目線を受け続ける中、ギルドらしき建物を見つけてそこに入る。
「おはようございます。本日のご用事はなんでしょうか?」
とても業務的な声で、受付の女性が2人に声をかける。
「職業を登録したいんですが?」
「はいかしこまりました。では身分証明のカードをお預かりしてよろしいですか?」
そして、カードを2人とも渡す。
「では少々お待ちください。えーと、ニーク=ヤング様とアユラ=レニエ様ですね」」
彼女は2人のカードを見て、名前をそう言う。これは偽名である。
ギルドに横のつながりがあることを気にして、二一があらかじめ偏屈のスキルを使って名前を変えたのである。
「後ろのお連れ様は『シスター』ではないのですか?」
そして作業をしながら、受付の人が質問してくる。
確かに歩は職業が決まっていないが、服装はシスター服である。通常は職業を決めてから服装を合わせるので、先に服装を決めるというケースは普通はありえない。当たり前である。これは異世界関係ない。
「はい、ちょっと着る服が無くて、偶然立ち寄った教会でシスター服をいただいたんです。こいつはシスターになれますかね?」
「はいはい、では……、え?」
ずっと業務的な対応をしていた受付が表情と声色を変えて驚く。
「お、2人とも、レベルの割にすごく能力が高いですね……」
能力が高い人も、レベルが高い人も受付の女性は見慣れている。
だが、レベルが低いのに、能力が高いというのはほとんど見ない。しかも、二一達の能力が高いというのは、ちょっと高いではなく、驚くほど高いのである。
その受付の女性の声が大きいため、他の職員らしき人も集まってカードを眺めて、そして驚く。
幸いだったのは、あまりギルドが混んでいなかったこと。元々人口が多くないこの都市では、混雑すること自体まれなのである。
「あのー、観察は後でいいですか? 早くしたいんで」
ちょっと不機嫌に二一が言う。
「あ、あ、はいすみません」
そしてすぐに対応する。
「えーとですね。あ、はい。アユラ様は、シスターになれますね。他にもいくつかありますけど、シスター服着られてますし、シスターでよろしいですか?」
「はいっ。せっかくなのでっ」
歩はあっさりと決まる。
「それで、ニーク様ですが、基礎の能力がほとんどBを超えておられますので、大抵の職業は選べます。数が多すぎるのでよろしければいくつかお勧めをお教えしましょうか?」
「とりあえずお願いします」
二一は天邪鬼なので、普通はこういった提案に乗らないことが多いが、相手がプロなら任せることも多い。
学校の先生が相手でも、本当にプロ意識のある教師はきちんと尊敬していた。
「ではこちらのリストをどうぞ」
お勧め1 魔法戦士 条件 A,D、MA,MDの全てでC以上のステータスを満たし、武器適正と魔法適正を持つ。
お勧め2 バトラー 条件 ステータスの平均値が800以上である。武器適正か魔法適正を持つ。
お勧め3 忍 条件 A,Dが合計2000以上ある。
お勧め4 ビーストテイマー 条件 MA,MDが合計2000以上ある。
「いかがですか?」
「こいつだ」
二一は真っ先に1番上の魔法戦士を選んだ。
「こちらですか? かしこまりました」
受付の女性は少しだけ驚いていた。
実はCまでは、ある程度頑張れば上がるが。Bはかなり才能の要素も大きい。
そのBがある、つまり1000以上の能力は珍しく、忍とビーストテイマーがかなりのレア職業で、そのどちらかを選ぶ可能性が高いと思っていたのである。
「ではこちらで職業は確定いたします。これにより、ギルド及び、他の冒険者、一般職の方から要望されるクエストを条件さえあえば受けることができます」
二一はクエストについて聞こうと思ったが控えた。
先ほど能力が高いことを話してしまったことで、良くも悪くも二一達は注目を受けている。
クエストについての具体的な説明をこの受付がしなかったということは、クエストというものは普通は知られているものであり、それを知らないことは、目立つことになる可能性があった。
数は少ないが、既に背後で何人からか気配を受けていた。
下手に素人であることがばれない方がいいと判断した。
「はい、ありがとうございます」
「がんばってください! ですが今ここではまともなクエストはありませんけど。規制が今日からかかってますから。外に出るしかありませんね。もしよければ横で通行許可証を発行できますので」
「どうも」
そして、ギルドを出た。
「なるほど、ちょっと心配だったが規制は今日からだったのか」
「どうしたのっ?」
「いや、ここは今規制がかかってて、本来は入れないだろう。あの様子だと出るのは簡単みたいだが」
「そうだねっ」
「そんな状況でわざわざ職業登録をするなんて、ちょっと不自然に思われかねない」
「そうかな。考えすぎじゃないっ?」
「結果的にはよかったんだが。規制が今日からなら、昨日ここに宿泊して、今日登録に来たと思われただろうしな。後は、さっさとドルツを出るだけだな」
「何でドルツを出るのっ?」
「一応偽名を使ったが、顔は一応ばれてるからな。ここはアインバックの横でまだまだドルツの支配下にあるし、どういう経緯で俺たちの本当の能力がばれるかわからん」
偽名でごまかしたが、きちんとした適正な職業に就く以上は、ステータスはごまかせなかった。
なんとなく二一達自身も分かっていたし、ギルドの受付の反応からそれは確信に変わった。
カードには写真のようなものが写ることはないが、まだまだ不明点の多いこの世界において、警戒しておくに越したことはないと思った。
そのため、まずはドルツを出て、管理を離れるのが良いと思い、目的地でもあり、シュバルツヴァルトブロートから近いタニア国へ行くことを考えていた。
「別にランドルフさんの保護下でもいいんじゃないのっ? 私は二一ちゃんがいればどこでもいいよっ」
「嫌だな。ランドルフのおっさんは、悪い人ではないだろうが、あいつらは自分達の都合で俺達を呼び出して、俺を同意の上とはいえ、簡単に追い出して、お前を道具みたいに使おうとした。そんなやつらの思い通りに動くのは気に食わん。魔王のことも分からんし、神だ神だ言って、具体的に戻れる方法を話しているわけでもない。そういうことは残った奴らがやってくれてるみたいだし、それが結果的に戻れることにつながるなら、それでいい。だが、俺は違うやり方で見つける。その方がすっきりする」
二一の天邪鬼全開である。
二一がもし仮にランドルフらの思惑通り動くとするならば、ランドルフはきちんと元の世界に戻れる具体的な方法を示し、魔王の情報を確実に得ておき、何より、一方的に召還したことに対する申し訳なさや後ろめたさがあること。それらが揃って初めて、二一は彼に従った。
「ふふっ、やっと二一ちゃんらしくなってきたねっ」
この悪態全開の発言に対して、苦笑いでなく、本当の笑顔で返せるのは、やはり歩の強みであった。
「何だって?」
「この世界に来てから、私のことをかばってくれたり、一緒にいてもいいって言ってくれたり、私が追いかけて来るの待ってくれたり、ちょっと優しかったもんっ。それに、あまりそう言う言い方もしてこなかったしっ」
歩の指摘は的を得ていたとはいえないが、完全に否定できるものでもなかった。
どちらかというと、二一の周りにあまり人がいなかったので、そもそも悪態をつく相手が少なかったのもある。
学校という狭いコミュニティと比べると、この世界は広い。
単純に二一を気にする人がまだ多くないというだけのこと。
加えて、歩に対して二一の態度が学校で塩対応なのは、歩が二一に話しかけることで、二一が悪目立ちして、彼の居心地が悪くなるからである。
ここでは現状2人旅。歩が二一に多少絡んだところで、デメリットがない。
デメリットがないので、二一が悪態をつかなかっただけである。
そんな二一を、逆に歩は心配していたのであった。
「まぁ、お前は傍にいても困らんからな」
「ふふっ、だったら、私だけ帰れって言わないよねっ」
「いわねぇよ。今更はな、ん?」
そんなこんなでしゃべっていると、ギルドの外に、何か紙が張ってあるのに気づいた。
その紙には、『タニア国コロンバ及びハンドーロ、マーク森林西部ブレッツェルを攻め込みに行くため、戦闘要員募集中、報酬は歩合制』と書いてあった。
「知らん情報が多すぎる。クエストも含めて調べるか」
『クエスト』
いわゆる仕事1回ごとに報酬が支払われる任務。
ギルドに依頼があり、それを選んで実行する形になる。
クエストには、任務への該当条件があり、それを満たして初めて任務が受けられる場合や名指しで求められることもある。
魔物を倒すこと以外で、ポイントを溜められる貴重なものである。
『タニア国』
セーレンの国の1つ。7つある大陸の中では最も北部にあり、気候は寒い。
大陸で最も亜人を国民として認めていて、差別や区別がなく、ここの人間は亜人と協力関係を築けている。
ただ、最近は魔王復活に亜人が絡んだことで、亜人だけでなく、タニア国の立場も厳しくなっている。
『コロンバ』
タニア国の1都市。最もドルツ国に近く、何度か侵攻を受けているため治安は悪い。
『ハンドーロ』
タニア国の1都市。亜人が元々住処にしていたマーク森林に接しているため、亜人の人口は全都市で最も多い。半分以上森である。
『マーク森林』
タニア国に接する大きな森林地帯。亜人がもともと住処にしていて、現在も多くの亜人が住んでいる。亜人に友好的なタニア国が所持しているため、ほとんど荒らされていない。西部のブレッツェルと東部のブレバニッケルに分かれる。ブレッツェルは、多少タニア人が開拓や整備に関わっているが、大規模ではない。東部のブレバニッケルはさらに深い森で、いまだに詳しい状況は判明していない。
「いいじゃん、この企画に乗れば、簡単にタニア国にいけるじゃないか」