第4話 2人旅の始まり
「ふ~ん」
さて、城から追い出されるような形で、外に来た二一だが、特に困った様子がない。
もともと彼は1人で過ごしている人間であり、言葉とお金の問題がないのならば、いつもと変わりがない。
むしろ、知っている人間が減って、変な気遣いがなくなって気楽なくらいだ。
「さて、どこに行けばいいんだっけな?」
そして、地図を広げる。
資料室に地図があったので、1つこっそり持ってきていた。
「あのおっさんはヌストルラに行けって言ってたな」
その通りなら西に向かうべきであるが、二一は城を出て少しの場所でなぜか待機していた。
「1時間くらいか? それ以上はかからんと思うが……」
彼は何もしないで待てる時間が1時間なので、1時間は体内時計でわかる。
そしてちょうど1時間くらい経つと、二一の目に良く見慣れたシルエットの姿が見えた。
「二一ちゃーんっ! 二一ちゃんっ!」
それは歩であった。
「やっぱりついてくるんだな」
二一は歩が戦わなくてもよく、部活の先輩や、クラスメイトもいたので、あちらに残る可能性を考えた。
着替えたり、自分がいないことに気付いてこっちについてくることを考えると、1時間くらいがちょうどいいと思った。
「当たり前じゃんっ。言ったじゃんっ。二一ちゃんがそばにいるから安心できるってっ」
いつも以上にものすごく語尾が跳ねまくる。
「まぁ、そうだと思ったがいいのか? こっちはあっちより危険な旅になると思うぞ」
「大丈夫っ。二一ちゃんがいるもんっ。どうするか決めてるんでしょっ」
「まあな」
さて、二一が当たり前のように歩が来ることを知っていたかのように対応しているが、なぜ歩はきちんと警備されている城からあっさり抜け出してこれたのか。その秘密は昨日メイドが二一の部屋を出てから少したってからの話に再びさかのぼる。
~昨日の夜~
「さて、結構情報は聞き出せたな。やっぱり新人のメイドを充ててくると思った」
「でもいい子だったねっ」
「お前は普通に本当の世間話をしてただけだろうが」
とはいっても二一はそこまで怒っていない。歩の本当に悪意のない世間話は、むしろメイドを安心させることにつながったからである。
なので、説明を受けなくても、二一はお金がポイントでできてることとか、歩をフランツが好んでいることとかを知っていたし、実は朝を待たなくても、カードはほとんど読めることも知った。
そのため、だいぶ早い段階で二一と歩は自分たちの能力を知っていた。
本来の能力はこうなっていた。
若松二一 17歳 レベル1
HP 500/500
MP 130/130
A B(1061)
D D(711)
MA C(991)
MD D(701)
S C(881)
L G(111)
職業 ???
特殊能力 言語理解A 武器適正A 魔法適正B
性格特性 偏屈 情報通 凝り性
中野渡歩 17歳 レベル1
HP 99
MP 130
A G(0)
D C(900)
MA D(700)
MD C(900)
S F(202)
L B(1003)
職業 ???
特殊能力 回復A 祈りA 魔物特攻B 言語理解D 魔法適正A
性格特性 二一信頼感 鈍感 おおらか
である。
ではなぜ、城ではこれと違う示し方がなされたのか。
それは二一と歩の特殊能力が大きく関係する。
まず二一の性格特性である、『情報通』は、世間である程度認識されていることは、調べればわかるという能力である。
相手の能力を確認する鑑定に近い能力だが、鑑定とは異なり、人間の個人能力を直接知ることはできない。
だが、代わりに、名前さえ分かれば、そのものの情報を事実として得られる。
つまり、鑑定は戦闘時に有利な能力であり、情報通は、非戦闘時に生かせる能力という違いがある。
そして、特殊能力の中身は説明されないとわからないため、本来は隠しても使い道がわからないが、二一はこの能力により、黙っていても問題がなかった。
特殊能力を知るというのは、戦闘向けに思われるが、特殊能力はレベルの違いがあるだけで、効果は同じのため、世間の常識として皆が知っていることになるので理解できる。
同じ理由で、例えば同じ個体が存在する魔物であれば、そのレベルにおける平均的な能力を知ることはできる。
また性格特性については、性格特性は異世界召喚者しか持たない特別な特性で、それは調べたら理解できた。これは歩もわかっていたので、召喚された人間は、みんな自分の性格特性の効果は理解しているのである。
そして、二一は情報通のスキルにより、彼ら自身の能力や特殊能力がかなり強いことがわかり、それだと間違いなく戦闘の最前線に立たされると思い、とりあえずは隠すべきと判断した。
そのために使われたのが、『偏屈』のスキルと、『二一信頼感』の2つである。
偏屈のスキルには、二一自身の情報や認識を彼自身の意思で変更する能力がある。つまりこの能力で、二一は自分のステータスをごまかした。
そして、『二一信頼感』これがかなりのチートであった。
この特性には2つの効果がある。
1つは、この能力を一時的に二一の特殊能力に置き換えることができるもの。
これにより、二一の『偏屈』のスキルを歩も使って能力を偽った。
そして、もう1つの効果。これが、歩が二一を追いかけることができた理由になる。
その理由を説明するために、ほんの少し前の城の状況を説明する。
~ちょっと前、城内~
「おお、歩。すごいな」
初めの全員が集まった部屋にまた集合したところに、歩が現れる。
歩が着ていたのはシスター服である。まさに聖母という表現が似合い、その笑顔から慈愛を感じるほどで、順二がついそうつぶやくのも無理はない。
男子だけでなく、女子も、そして、王城の兵士も見とれていた。
「彼女は戦うのには能力が厳しいとのことで、戦いの象徴としていてもらうことにしました」
アルベルトがそう言う。彼自身も予想以上の似合いっぷりに、少し声が上ずっていた。
「ふむ。これは素晴らしいな」
ランドルフもフランツを連れて現れる。
フランツは明らかに鼻の下を伸ばしていた。
「それで、提案があるのだが、中野渡殿」
「はいっ、何ですかっ?」
歩としては、自分の今の姿を二一がどういうかが気になって少し早口になっていた。
「私の息子のフランツと婚約してくれないか? 王女として迎えたい」
ザワザワ!
その発言に叫んだり、驚いたりした。黄色い声は聞こえなかったが。なんせイケメン王子じゃなくて、デブ王子だから。
「え~と、二一ちゃんがいるので断りますっ」
基本的に気遣いができて優しい歩だが、さすがに今回のことは了承できず、すぐさま断る。相手が明らかにいい容貌とは言えないのに、表情を変えなかっただけ彼女は十分すごい。
「そういえば、若松先輩はどこに行ったんだ?」
和美がそう聞くと、歩もきょろきょろし始める。
ランドルフが耳打ちしてアルベルトに伝える。
「はい、若松殿は、戦うよりも違う方法で元の世界に戻る方法を探すことにされたそうです。必要なだけの資金を渡して、城を出られました」
アルベルトがそう言ったが、和美が少し動揺を見せただけであとはみんな興味なさげだった。
「まぁ、あいつだからな」
「若松は空気読めないしな」
「あいつはここでも1人か……」
自分が仕向けたとはいえ、あまりの態度に少しだけ二一への同情を隠せなくなったランドルフであった。
とはいっても、これだけ皆が薄情なほうが、罪悪感がなくてむしろ安心していた。
「歩! 大丈夫か、俺がついてるぞ!」
順二は真っ先に歩のもとに行き、うつむいている歩に声をかける。
「グフフ、そんな薄情な奴は忘れなよ……、俺が幸せにしてやるから」
フランツがようやくしゃべるが、皆嫌悪感を隠せなかった。
「二一ちゃんはどこ?」
「え?」
歩が出した声はいつもの高めの声でもなく、語尾が跳ねる癖もなかった。
そんな歩の声は誰も聞いたことがなく、そんなに歩と接していないこちらの世界の人間も明らかに空気が変わったのを感じて、静かになる。
「二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ?」
「え、え?」
うつむいたまま、じわりじわりとランドルフの近くに歩がゆっくりと向かう。
「二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ?」
「お、おい。兵士。落ち着かせてくれ!」
ランドルフはたまらず、歩を抑えるように兵士に命じる。
「二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ? 二一ちゃんはどこ?」
そしてランドルフの目の前に来て、彼女はランドルフを見上げた。
その時の瞳は、瞳孔が開き切り、光がなく、まるで死者のように生気を感じず、その闇に吸い込まれそうな恐怖をランドルフは感じた。
「落ち着け! 正気に戻れ!」
順二や、王直属の兵士が一気に取り押さえにかかる。
「邪魔しないで。私はこの人に聞いているの」
だが、10人近くが抑え込んだにも関わらず、振り払われてしまう。
「ひ、ひぃ。さ、さっき出たばかりだ。すぐに行けばおいつく」
「そう、じゃあね」
そして目にもとまらぬ速さで歩は城の正門に向かい、出て行ってしまった。
その途中で、兵士に止められそうになったが、まるで関係なかった。
『二一信頼感』の2つ目の効果がここで関係する。
二一信頼感
2つ目の効果は、『二一が戦いに参戦していない場合、全能力+100、二一の所在が分からない場合、全能力+500される』である。
つまり、城の中で彼女の能力は全てが500多くなっていたことになる。
ならば攻撃力は0でも500となり、防御は1400、素早さは702まで跳ね上がる。
それでは、この状態の歩を止めるに至らなかったというわけだ。
そして、すぐに二一を発見し、この能力はなくなり、話し方や表情もいつも通りになったというわけである。
「まぁ一応待ってたからな。お前を連れて帰らないと、おふくろに何言われるかわかったもんじゃない」
「ありがとっ。待っててくれてっ」
二一は自分を心配して待っていたわけではないのだが、やはりそれでも合理主義の二一があえて待っていてくれたことはとてもうれしいようで、笑顔を浮かべる。
「しかし、シスター服って……、動きづらくないのか?」
「急いで走ってきたからねっ。似合ってるでしょっ」
「まぁ悪くはないんじゃないか?」
褒められたことで、顔を覆って、嬉しそうにする。
歩がとてもテンションをあげていたのだが、彼には慣れていることであった。
そのほか。二一が確認したスキル。
言語理解 この世界の言葉を理解できる。Fでドルツ国の言葉をすべて理解できる。1段階あがると話せる言葉が1つずつ増える。
武器適正 武器の使用に長ける。Fで1つ武器が使える。ランクが上がるごとに使う武器を増やすか、その武器の練度を上げるかを選べる。初めからランクが高い場合は自由に選ぶことになる。使える武器は最大でも3種類まで。
魔法適正 魔法の使用に長ける。Fで1つ魔法が使える。ランクが上がると使う魔法の種類か魔法の練度が上がる。魔法の種類を増やせるのはCランク以上から。最大でも3種類まで。
※練度 練度を上げると威力 速度 命中率などが全体的に少しあがる。
回復 回復魔法を使うことができる。レベルがあがると回復量が増える。Eから自分以外も回復できるようになる。B以上あると、自らの体力が自然に回復する。
祈り 体力が50以下になると自動的に発動する。相手の攻撃が当たる確率が、残りの体力%になる。ただし、2回目以降は、命中率が上がっていく。スキルが高いほど、その命中率の上がり方がゆっくりになる。
途中で回復しても、効果はリセットされない。1回の戦闘ごとにリセットされる。
魔物特攻 魔物への攻撃で威力が増大する。ランクが上がると、特攻のある相手が増える。使用する武器や魔法は関係しない。
性格特性 本人の性格によって戦闘で生かされる特殊能力のこと。異世界からの召喚者のみが持っているスキルで、鑑定のスキルでも見られない。本人以外が知るためには、本人が語るしかない。最大3つ。能力によっては2つの効果がある。
偏屈 自身の能力を違うように見せることができる(非戦闘時)。攻撃によって受けるダメージ以外の効果が逆転する(戦闘時)。
凝り性 同じ武器を使い続けると、レベルアップの際の能力上昇がよくなる。
二一信頼感 二一の特殊能力(性格特性含む)を1つマネできる。二一がいない場合能力があがる。この2つは並行して発動する。
鈍感 体調不良にならない。毒、麻痺などの状態異常にならない。
おおらか 相手から受ける能力減少系の効果を受けない。また、相手の感情にかかわる特殊能力を無視できる。