第5話 ラルフ国王子 エドワード=ゼポロ
「ルナルデッタ……、元気そうだね」
「エドワード様! そちらもお元気そうで」
王室に1人の男性が入ってきて、ルナルデッタが声かかけたので彼はエドワードであることは間違いない。だが、その説明をされなくても、彼をエドワードと理解するのはおそらく難しくない。
青の上下に、白と赤が映えるマントはとても高級なものであるはずだが、それに負けない高身長とスタイル、赤い髪は光沢を持って輝き、顔はイケメンの中のイケメンでとんでもないオーラがあった。
亜人の女性もそれにすっかり見蕩れてしまって全く動けなくなっている。
「最近は忙しそうだったから、なかなか訪問できなかったけど、顔色も良くなってるし、落ち着いたみたいだね」
「はい、それで、相談の件なのですが……、ますはこちらの方たちを紹介いたします。こちらの方がお話を何度もしている若松二一様、そのご友人で中野渡歩様、近藤和美様、そして、この方が狐人族のジャンマリア様です」
「はじめまして、エドワード=ゼポロです。タニアの件でいろいろお世話になったと聞いております。タニアの問題は既に私の問題でもありますから、感謝しています」
「はじめまして、若松二一です」
「……中野渡歩です」
「こ、近藤和美です」
「……ジャンマリアでございます」
あまりのオーラに歩と和美はやや気おされ気味である。
「君達の話は良く聞いているよ。召還者なんだよね。私は王子だけど、ルナルデッタ同様既に事実上の権限はもらっている。今回のドルツとの面会ももちろんだが、国宝もよろこんで差し出そうと思っている」
「いいんですか?」
「ルナルデッタの恩人だ。当然私の恩人でもある。君達が元の世界に戻るために必要ならば問題はない。まぁこの件はまたいずれ話そう。君達にもラルフに来てほしいしね。まずはドルツとの面会についてだ。日時は既にランドルフ殿に通してある。自分も同伴するから、立場上の問題はない」
「助かります」
「では、すぐにでもドルツに行きましょう。細かい話も私が聞いているから、力になれると思います」
「じゃあエドワードさん、お願いします」
そして、一向はドルツに向かうのであった。
「お久しぶりですね、ランドルフ殿」
そして、場所を移してドルツ国アインバック。二一と歩にとってはかなり久々の場所である。
「……エドワード殿、お忙しい中足を運んでいただき申し訳ない……、そして……」
「どうも、ランドルフ王。もはやあんたに会うのは久々というより懐かしいほどだ」
「ああ、まさかタニアの方にいるとはな。しかもタニアでの内乱まで解決し、私が見放した召還者も助けてもらったそうだな……」
「ああ、セーレン国のトップのドルツの王としちゃ、タニアが平和になって、召還メンバーも助かって、魔物も倒されて、何も言うことがないだろう?」
「う、うぬ」
ランドルフとしては、唯一亜人へ協力的なタニアをドルツ領とすることで、他の国との団結力を高めることが目的であったが、現状そのようなことを言うことはできないので、うなづくしかない。
「それで、召還メンバーは全員タニアにいるんだが、高レベルの魔物と戦うのはもう何人かが怖がってしまって、あまり魔物との戦には使いたくないんだ」
「ほう……」
てっきり嫌味を言われるのかと思っていたのが、普通の相談が来たので、ランドルフとしては肩透かしを食らった感じであった。
「そこでだ、ドルツに何人か召還メンバーを戻して、また鍛えてもらえば、攻め込むのには使えなくても、警護くらいには使えると思うんだ。それに、召還者全員に逃げられたという噂が立てば、立場もなくなるだろ」
「それは願いたいところだが……」
ドルツとしては、戦力アップももちろんあるが、自分の国で召還した召還者が全員他国、しかも敵対していたタニアにいるとなれば、明らかに他国を刺激する可能性はあった。
「だろ。だから、いくつかの条件を飲んでくれれば、この形を取ろうと思っている」
「……条件?」
「プリンス、頼めるか?」
二一はここで説明を和美に求めた。二一はあまりランドルフ含めドルツの人間にいい感情をもたれていないので、肝心な部分は和美に任せた。
城に戻ってきたときから感じられていたが、二一と亜人コンビには不信感、歩には困惑感がある目線が向けられていたが、和美には顔が見れたことを喜ぶ声や表情が伺えた。
和美は兵士や身分の低い相手にも平等に接していたので、非常にドルツの人間から好かれていた。
そんな彼が肝心な部分を話し、加えて第3者のエドワードがいることで、交渉を進めやすくするのが二一の作戦であった。
1、ドルツからタニアへの不可侵条約を締結すること。
2、ドルツ領、シュヴァルツヴァルトブロートをドルツ、タニア、ラルフの協定地とすること
3、国宝等の貸し出しを召還者に認めること
4、亜人差別に関する法律を無効にすること
「他にもいろいろお願いしたいことはあったが、あまり多いと反発を招く可能性もある。だから、この3つだけだ。タニアの安全確保のためと、魔王討伐のためにこの条件を飲んでもらえるか?」
「……1は分かる。2は何のためだ?」
ランドルフは拒絶をするつもりはないようだが、内容に対して質問があるようだ。
「2は、タニアとラルフの貿易を陸でもやりやすくするためだ。ラルフとのつながりを強くすることで、結果的にタニアの国力も上がる。それにドルツはシュヴァルツヴァルトブロートを保護仕切れてないだろう」
「……、知っていたか……」
「ちょっと世話になってたからな。前の集中豪雨のときに全く対応されてなかったのを目の当たりにしている。ドルツも管理しなきゃいけない国が減ったほうが、政治は楽になるだろう、それに譲渡ではなく協定地だから、ドルツのものでもある状態になる、そこまで損はさせない」
「4はできる範囲でいいか?」
「まぁその辺りの最良は任せるが、揉め事になったときに、亜人に不利にしなけりゃいい」
「分かった、この条件で締結しよう。うむ、既にタニアの印はあるのだな。では私とエドワード殿でよろしいか」
「エドワードさんの印もいるのか?」
二一はエドワードを立会人のつもりで連れて来ていて、実際に何かをさせるつもりではなかったため、面食らっていた。
「ああ、2国間で変な条約を結ばないように、関係ない国の印が必要なんだ」
「なるほど……、一応いつものチェックだ」
二一は情報通を使った。
『条約締結』
異なる2つの国の間での取り決めを文書で行うもの。
2国間条約だけでなく3つ以上の国で結ぶものもあり、セーレン全体で結んでいるものもあるが、それは特別にセーレン国際条約となる。
このセーレン国際条約は通常の条約よりランクが高く、これに反する条約はもちろん、法律も作れない。
他の国が損をする、またはこの国際条約に反しないことを確認するために、直接条約に関係しない国の立会いが必要であり、その押印も必要である。条約を解除も全く同じ条件である。
「聞いてないことまで説明されてるぞ」
二一のレベル上昇とともに、情報通はどんどん優秀になっていった。
「よし、これで完了だ」
「ランドルフ王、また細かい話は追って話す。結んだ以上はちゃんと召還メンバーを俺達で説得するから」
「ああ、こっちのことは私がやっておく……、しかし、初日にそなたを追い出したのは失敗だったの……。良く考えてみれば、能力が低くとも、そなたは口も回っておったし、知識で十分優秀であった……。きっと歩殿も残ってくれたであろうし」
「そうだねっ、二一ちゃんが残るなら、ここにずっといたねっ」
ランドルフは苦笑いしながら頭をかいた。
「それにしても、3の条件は良かったのか?」
「ああ、国宝は今行方不明じゃ。だから、見つけてもらえるなら、そのまま貸し出して問題ない」
「……、言ったな」
「ん?」
「今言いましたよねエドワードさん、それに条約もありますし」
「そうだね。言ったね」
二一は一応エドワードに確認を取る。
「実は今俺がここの国宝を持ってるんだ」
「なんと……、そなたが盗んだのか?」
「いや、こいつが剣が1本ないと戦えないからって適当に取ってきたのがたまたま国宝だった。まぁでも現地も書面も取ったし、別にいいよな」
「はぁ……、まぁどうせ使えるものもおらぬし、よいよい、全て終わったら返してくれればよいわ」
半ばやけになってランドルフは答える。
「よし、これでちょっと気になってたしこりが無くなった。やっぱ義理を果たすのはいいな」
別にさきほどの条件を考えれば、二一はドルツを離れた後に剣を見つけたことにしてもよかったのだが、勝手に剣を持ってきたことについてはやや気持ち悪さがあったので、納得できて気分が良かった。
「もちろん、こいつのクリスタルロッドとシスター服もOKだよな」
「いや、それは返してもらわぬと……」
「いやいや、ちゃんと条約に国宝『等』の貸し出しを認めると書いてあるだろ。だからこれもOKなはずだ」
「……確かに書いておるな……、もうよい……、そなたと話しておると頭が痛くなりそうじゃ」
結果的に二一としては懸念していた部分をほぼ全てドルツに認めさせることに成功した。




