第3話 ステータス確認
「おはようございます。皆さん。カードに能力は映りましたか?」
次の朝、全員が前の日に集まった部屋に再び集合していた。
「はい、出ましたけど……」
「見方がわかりません。説明が必要だと思います」
「もちろんだ。アルベルトから説明をさせる」
「はい、では皆さまご自身のカードを確認してください」
すると全員がカードに目を向ける。
「では左上から、まずは名前です。こちらには皆様の名前が書かれております」
そこには漢字で全員の名前が書かれていた。
「次に、年齢が書かれ、その次がステータスです」
「ここがわかりません。GとかFとかって何ですか?」
「こちらは確かに複雑ですね。ではきちんと説明します。左からHP、MP、A、D、MA、MD、S、Lと書かれていますが、こちらは、体力、魔法力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、幸運に値します」
「魔法力と魔法攻撃力、魔法防御力は違うんですか?」
誰かがそう言って質問する。
「魔法力とは、魔法に関係する技を使ったりした際に消費するものです。これがないと、魔法が使用できません。魔法攻撃力はその魔法を使った際の威力、魔法防御力は魔法を受けた際の耐性です。では話を続けます。こちらは上から順番に、S,A,B,C,D,E,F,Gで表されます。ただし、HPとMPは例外的に数字で示されます」
確かにHPとMPの横には数字が書いてあり、他の能力にはアルファベットが振ってあった。
「アルファベットで振られているものは、この8段階でしか示されないんですか?」
「いえ、同じアルファベットでも異なります。カードでは確認できませんが、200ごとにレベルが上がります。例えばGは0~200,Fですと401~600、その順番で上がっていきます」
「その計算ですと、Sで1600が最大値ですか?」
誰かが訪ねる。この計算だと200までがG、400までがF、600までがE、800までがD、1000までがC、1200までがB、1400までがA、1600までがSという単純な計算になるからである。
「いえ、最大値は職業や個人によって異なります。1600で最大の場合もありますし、それ以上もありえます。つまり、1600というのは、最も低い最大値です。つまりSだけは幅が大きくあることになります」
「HPとMPも同じですか?」
「はい、こちらも個人によって異なります。こちらはばらつきが大きすぎるので、アルファベット表記はありません」
「自分たちの具体的な数字は分からないんですか?」
「そちらも含めてご説明を続けます。そしてこの能力に応じて職業が決定いたします。その下にあるのが、あなたたちの適正職業です」
「私たちには書いてないねっ?」
歩がそうつぶやくと、確かに二一と歩には職業の欄が空白になっている。
もちろん職業が自由に選べるのだから、当然である。2人以外の職業はランドルフらが勝手に決めたのだ。ここにいる人間で事情を知っているのはほとんどいないが。
「あなたたちお2人はおそらく複数の職業を選べるのでしょう。またのちに説明いたします。そして、さきほどのご質問への続きですが、具体的な数字は頭で自身の能力を知ろうと念じていただければわかります。
それに加えて、皆様には特殊能力もついております。そちらも念じていただけることで確認できます。確認していただいたのちに、ご報告ください。ちなみにレベル1の時点でFが1個でもあればお強いです」
「おっ。俺Fだけど、ほとんどEだぜ。強い」
「一応Fは結構あるわ。強そう」
皆が確認してそれを報告する。
そして二一、歩以外全員の能力が判明する。
近藤和美 15歳 レベル1
HP 340/340
MP 10/10
A F(392)
D E(443)
MA G(38)
MD G(187)
S E(412)
L F(332)
職業 槍使い
特殊能力 貫通D 連続D
性格特性 カリスマ 誠実 さわやか
伊藤順二 18歳 レベル1
HP 222/222
MP 15/15
A E(401)
D E(432)
MA G(102)
MD F(211)
S F(203)
L G(198)
職業 格闘家
特殊能力 捨て身D 武器特攻E 豪力C
性格特性 負けず嫌い 努力家 大ざっぱ
軟田里香 18歳 レベル1
HP 194/194
MP 100/100
A G(12)
D G(101)
MA E(412)
MD F(298)
S G(111)
L D(687)
職業 水魔法使い
特殊能力 魔法適正C 魔物特攻D
性格特性 物静か 照れ屋 ネガティブ
(以上3人が目立って強めの能力で、他はこれ以下です。全員レベル1です)
「近藤すごいな」
「いえいえ、伊藤先輩もすごいです」
「軟田ちゃん、すごいわ」
「な、なんで私がこんなに目立つの……」
「皆素晴らしい。通常レベル1なら、Eが一個でもあれば十分だ。かなりずば抜けて優秀な3人はいるようだが、全員十分すぎる」
ランドルフはレベル1とは思えないほど強い彼らを見て驚愕していた。
「特殊能力の横についてるアルファベットは、ステータスと同じですよね」
「その通りだ、Sに近づくほど効果が強くなる」
「す、すいませんランドルフ様」
「なんだアルベルト」
「あの2人の情報が少ないです」
「確認させてくれ」
情報少ないといったのは二一と歩である。
その情報は以下の通りだ。
若松二一 17歳 レベル1
HP 55/55
MP 13/13
A G
D G
MA G
MD G
S G
L G
職業 ???
特殊能力 言語理解F
中野渡歩 17歳 レベル1
HP 99/99
MP 13/13
A G
D G
MA G
MD G
S G
L F
職業 ???
特殊能力 言語理解F
「なんだこれは?」
「わ。私にもなぜこうなっているのか?」
二一と歩の能力には、謎が多すぎる上に、わかっている部分も低すぎる。普通は持っている特殊能力すらない。
「なによこれ! 最低ね若松君。軟田ちゃんに悪いことをするからよ」
二一を煽ったのは里香の友人で、かつて二一と対立していた女子だ。
それで二一は理解した。里香はこの女子が言っていた部活動ができなくなった先輩のことだと。
それに対して二一は何も返さない。
「歩も全然じゃないか……。どうして?」
順二が歩に近寄って心配する。
「ミスはないのか?」
「彼らが意図的に隠すことも考えられますが、それには、鑑定の逆スキルである防止のスキルが必要ですし、この水晶をごまかすには最低でもAレベルは必要です。しかも防止のスキルは防止のスキルそのものは隠せないので、そもそもありえないです」
「じゃあなぜ?」
「わかりません。ですが、この能力では、とても即戦力として戦わせるわけには……。これなら普通に私たちの兵士を使ったほうが強いです」
「ふむ……。あの2人はあとで私たちのところに呼ぼう。ほかの者は、あらためて説明をアルベルトから続けなさい」
「わ、わかりました」
「すまないが、若松殿に中野渡殿、サロンに行くから来てくれたまえ」
そして2人だけがランドルフについていく。
「まぁかけてくれたまえ、お2人さん」
サロンとはいわゆる応接間だが、客人を迎えるという意味では、自国の強さを示す場所でもある。それだけに、玉座に次ぐほど豪華なつくりになっていた。
そこに案内されると、ランドルフだけでなく、フランツに、何人か兵士もいた。
「さて、君たちに言いたいことはほかでもない。君たちの能力では、アインバックの兵士たちを先導して戦ってもらうのは厳しい」
「まぁ俺たちの能力強くないですからね」
「かといって特殊能力があるわけでもない。特定の任務すらまともにこなせまい。だから、お2人には別のことをお願いしたいと思う」
「別のことってなんですかっ?」
歩が尋ねる。
「まずは中野渡殿、あなたには、アインバックの象徴となってほしい」
「象徴って何です?」
「実は私の跡継ぎにはフランツがおるが、王妃がおらん。私の妻は既に死亡しておる。彼女はとても聡明で美人であり、昔は彼女がいるだけで、士気が上がったものだ。だが、今はそういう存在がおらん。だからこそ、戦いをするためのトップが必要だ。中野渡殿は、非常に美しくあられる。うちの兵士も何人か見とれておられるようであるしな」
「そんなのでいいんですかっ?」
一国の王に手放しでほめられているのに謙遜が全くないのだが、それに嫌味がない。
「中野渡殿が応援をすることが、士気を上げる上で意味が大きいのだ。頼まれてくれるかね?」
「わかりましたっ」
「ありがたい。では中野渡殿は、準備をお願いしたい。衣装を着替えてもらいたいのでな。メイドに命じて着替えをしてもらう。では、いったん出て、また戻ってきてくれたまえ」
「はーいっ。じゃあ二一ちゃん。またあとでねっ」
そう言って歩は外に出ていく。
「でだ、君についてだが……、君には自由を与えようと思う」
「何言ってんだ? 自由も何も自由にしてくれるなら元の世界に返せよ」
「それはできん。だが、君は他のものは違い、戦うことは望んでおらんだろう」
「それはもちろんだ。戦う理由も意味も俺にはないからな。それは別の方法が完全にないことを確認してからだ」
二一は近藤に先導されて、とりあえず帰るためには戦うのがいいという空気感になっている他のメンバーとは異なり、協力する気が全くない姿勢を見せていた。
「そうだろう。私もできれば、無理には戦わせたくない。だから、君は自由に元の世界への帰り方を探してくれてよい。魔王を倒さずとも帰れる手段はあるかもしれぬ。そのための資金ははじめに援助させてもらう」
「それは本当ですか?」
「うむ。勝手に呼び出して、勝手に城から追い出して、さらば! というわけにもいかぬからな。1年くらいは普通に生活できる資金の援助を約束しよう」
「それならまぁいい」
「交渉成立だ。ではカードを出してくれ。ポイントを渡す」
「ポイント?」
「ああ、君のいた世界にはお金がおそらくあったと思う。だが、お金は重たくかさむ。だから、今は全てポイントで売買を行っておる」
そしてカードを預かると、メイドが持ってきたカードに合わせる。
「よし、これで完了だ。特殊能力の下にポイント表記がされておるはずだ」
二一がカードを見てみると、200万ドルツポイントと表記されていた。
「このドルツポイントと言うのは?」
「ドルツ内でのポイントだ。ドリアやラルツに行くと、自動的にポイントが切り替わる。その国の情勢によっては、同じ1ドルツポイントでも変わる。今はタニアがかなり情勢が悪いから、そこにだけはいかないほうが良い。せっかくのポイントを無駄にすることになる。あとは、ルフトもおすすめできん。まぁそれ以上に、ドルツを出ないのが良いと思うがな。情報を集めたいのなら、アインバックから西にある、ヌストルラを頼るのがよい。あそこは商業が盛んでいろんな情報が回る」
「そういえば、カードは人の手に渡ると24時間で上書きされると言ってたが、このポイントとかはどうなるんだ」
「どこの都市にもある、ギルドに行けば再発行できる。職業もそこで選べる」
「助かる」
「ほかの者への別れはいらぬか?」
「結構です。あいつらのことには興味はない」
「中々厳しいんだな……。まぁ良い、では元気でな」
そしてやんわりと二一は城から出て行った。
「やっかいな奴だと思ったが、意外と物分かりが良いのだな。それとも自分の能力が弱すぎて、落胆しておるのか?」
ランドルフは自ら二一を説得する役回りとなった。おそらく骨が折れると思ったのだが、予想以上にスムーズに事が進んだので、安心しつつも拍子抜けしていた。
「しかし、あいつは中々薄情だな。あれだけ慕っておる中野渡殿を、簡単に見捨てるとは。だが、これならフランツのもとにいてもらいやすいな」
ランドルフは無能ではない。ただ知らなかっただけだ。二一が歩を雑に扱うことが日常茶飯事であること。そして、歩が二一をどれほど慕っているかということ。
この2点を知らなかっただけなのだが、それが致命的なミスであった。