第7話 油断?
時系列と視点が変わります。
さて、二一達がタニアを離れたくらいの頃。他のメンバーはベルナリンプの塔の制圧にかかっていた。
塔は最上階まで上がり、コアの様なものを破壊すれば制圧できる。
敵は弱く、数が多い。途中離脱も可能でレベルアップには持ってこいであり、彼ら以外でも普通の兵士も戦うことはある。
「おりゃー!!」
そこを13人が快進撃し続ける。
先頭を行くのは長い槍を振り回して進む15歳のカリスマ、槍使い近藤和美と、接近戦で倒し続ける歩の先輩でもある格闘家伊藤順二。この2人の圧倒的な破壊力を、水魔法使いで、魔物特攻を持つ合唱部のエース軟田里香がフォローする。
他には、防御、回復に圧倒的に能力の偏る光魔法使いで里香の親友江戸裕子。
13人の中でも能力がすば抜けている3人に、防衛に長ける裕子が加わった4人が最前線に立つ。
その後ろには、二一のクラスメイトで学力自慢の弓使い、大野良樹。
同じくクラスメイトで地味なメガネ男子で忍の町田隆。
クラスメイトではないが同学年で和美と同じ陸上部の剣士、西島卓也。
和美のクラスメイトで彼をライバル視する銃使いの手塚光広。
4人が最前線とは、行かないが前線で支える。
後衛には合唱部1年生で風魔法使いの金子大志。
同じく1年生のおっとり男子で火魔法使いの新田武。
二一のクラスの委員長でヒーラーの船田しのぶ。
陸上部マネージャーの1年生で盗賊の三田小海。
歩の友人で占い師の村山幸絵。
この5人が後ろも守る。
裕子、しのぶは回復専門で、魔法使いの大志と武も回復ができる。接近戦でも遠距離でも戦えるバランスの良いメンバーだ。
選ばれた職業とはいえ元のスペックもあり、かなり余裕の進撃だった。
「よし、そろそろ休憩しよう。僕がある程度周りを見てるから休んでください」
最年少ながらリーダーを張る和美が指示を出して皆を休憩させる。
「ふぃー。まぁ楽勝ちゃ楽勝だな」
順二が腰を降ろしてゆったりする。
彼のそばにいるのは、良樹、しのぶ、幸絵である。
「中野渡は大丈夫なのかな」
「若松君のワガママにまた巻き込まれてるのよ」
「ムカつくよね。若松君はまだしも歩ちゃんが危険なのは」
この集まりはいわゆるアンチ二一こと歩信者でもある。
バレー部の先輩の順二、クラスメイト良樹は歩に好意を持っているため。しのぶ、幸絵は歩のかなり仲のいい友人であり、歩が二一のそばにいるため。
この4人は召喚前から面識は元々あり、こちらでも一緒にいることが多かった。
「……疲れた」
「里香ちゃんお疲れ様ー」
里香は座り込んで疲労困憊だ。これは精神的な疲れでもあり、裕子が肩もみをする。
「先輩ありがとうございます」
「何とかなりそうですね」
この2人のそばに居るの大志と武である。
大志は合唱部の1年生で2人の後輩。武は大志のクラスメイトだが、裕子とは長い付き合いがある。
合唱部+武という集まりだ。ちなみに大志は里香に好意があり、それを裕子と武は知っている。
「どうしたの? 休憩していいよ」
1人緊張を残したままの和美の周りにも人はいる。
「後輩を残して休めないぞ」
「お前1人じゃ大変だし」
「無理しないでね」
同じく陸上部の2年生卓也、クラスメイトの光広、マネージャーの小海である。
和美を先輩として、ライバルとして、好意のある相手として放っておけない集まりである。
「……」
そしてそのどれにも属さないのが隆である。
二一がいたから目立ってないが彼も我が道を行くタイプである。
忍という職種も手伝ってか、とにかく影が薄い。
この13人はバラバラに召喚されたようで割と狭い世界であった。
「しかし高い塔だなー」
「20階くらいで終わるって聞いてたけどもうそれは超えてるはずじゃない? まぁいいけど余裕だし」
「しかも20階くらいまでは色んな魔物が出てきたのにさっきからラフキヤしか出てくこなくなってる……。何か怖い」
休憩を終えて進むと里香が違和感を感じて和美に声をかけた。
ちなみにラフキヤとはスライムのような魔物である。色が多種多様にあり、黄色は雷、紫は毒などと特殊な魔物である。
攻撃力は低めだが、いずれも状態異常にする技を持ち、耐久性に優れ、どんな攻撃でも絶対に一撃で倒れない特性がある上に小さいので割と倒しづらい。
先程からこのラフキヤ以外の敵は全く出ていない。それに里香は不安を感じた。
「気にしすぎじゃないか?」
「別に倒せてるしさ、もー里香は気にしすぎ!!」
里香の心配性に反して、順二と裕子はかなり楽観的である。
実際に塔に入ってから1度もヒヤリとする場面すら無かったのだから里香以外は殆ど心配していない。
「軟田先輩の心配も最もですが、心配はいりません。余程の自体に備えて道具は大量にありますし、最悪の場合に備えてリターンリングも先輩の言う通りだ買っています。任せてください」
しかし、その不安にたいし、和美はきちんと答える。
出発時に里香からのアドバイスを皆が心配しすぎと聞かなかったのに、和美だけは不安を取り除くために、ちゃんと聞き入れていた。
荷物が最もたくさん入る高いカバンや、最後に休んだ町に戻れるリターンリングは和美が自腹で購入している。多めに仕入れた道具も含めて80万ドルツポイントだが、里香の不安を取り除くために和美はリーダーとして勤めを果たした。
この行動は更に和美の評価を上げることになり、元々和美が好きな2人以外からも好感を持たれることになった。
ただこの結果、隆以外の男子が張り切るし、里香以外はやや気が強い女子が多いため、メンバーはやや走り気味になり、隆が我関せずなので、和美と里香の2人だけがパランスをとっていた。
「ヒール」
「回復薬!!」
そしてその傍らで怪我をしたり、状態異常の回復をしているのが裕子としのぶである。
裕子の回復は杖を使う一般的な回復だが、しのぶのヒーラーは少し特殊である。
ヒーラーはヒーラー専用の安く効果の高い薬を使える唯一の職業であり、さらに薬を高い効果で使える実はレア職業である。
非戦闘時も地味にスキルが役立つ、看護師のようなものである。
「ありがとうございます」
「……」
男子はこの2人からの治療に毎回ドキドキしていた。
見た目もよく、お節介な裕子と委員長基質のしのぶはかなり人気を上げていた。
要はそんな余裕があるほど全員どこか油断はあったのだ。
その後、また10階近くまで登って違和感にようやく気づくほどには。
「……変だな」
違和感に初めに声を出したのはやはり和美である。
「この階に来てから魔物が全くいないし、しかもいきなり分かれ道がある」
先程まではやたら同じ敵が出てくるとはいえ、ペースが異常なわけでもなく気にするほどでは無かった。
ところが、この階は敵が出てくる以前に気配がない。
しかも基本的に一本道だったのに分かれ道まであるのだ。流石にこれは里香以外でも違和感を感じざるを得なかった。
「1回下がった方が良くないかな?」
メンバーが足を止める中で里香はそう提案した。
「それが妥当ですかね。じゃあ一旦」
「待ってくれ。これは後少しって事じゃないか? 今戻ったら勿体なくないか? せっかく塔を制覇出来そうなのに」
だが、この和美の意見に順二が反論した。
順二は現状和美に実力では後塵を廃するが、和美が1年生に対し順二は3年生。和美がいくらリーダーシップがあってもバリバリの体育会系である和美は2歳年上の順二の意見を無下に出来なかった。
道具やリターンリングを和美が実費購入したのも、順二が拒否したからである。
最初にドルツで塔制覇の予算を貰い、余りを全員で分配する形だったからだ。
カリスマ性あふれる和美だが、あえて無理に欠点を言うならメンバーで最年少であることだ。これで、順二以外にもたまにそっぽを向かれることもあり、割とやり繰りに苦労していた。
「行けるって。別にここまで余裕だったし」
「どうせここをクリアしないいけないなら、やっといていいっしょ」
他の男子も進むことに前向きである。
「まぁここは伊藤君に合わせるかな」
「こういう時のために道具とか多くあるんでしょ!」
女子メンバーも賛成のようで、全体的に進む方向に話が進んでいった。
「……右は余り良くない。左に」
「え? 町田先輩?」
するとずっと黙っていた忍の隆が声をかけた。
「いたんですか」
「忍の特性なので」
「近藤くん。あまり町田くんの言うことは気にしなくていいよ。若松くん程じゃないけど、かなり変わり者だから」
二一、隆のクラスメイトであるしのぶが和美に言う。
「どう見ても右が安全よ! 町田くん適当なことを言って困らせないで」
分かれ道は左がやや崩れた洞窟。右がこれまでと同じ道。見た目では
明らかであった。
「……ごめん」
二一と同じ我が道を行く隆だが、二一ほどは傍若無人になれていない。そこが二一と比べて影が薄い理由である。
どうして右が危険なのか伝えることが出来なかった。
そして結局和美や里香の意見は通ることが無かった。




