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偏屈な召喚者は異世界でも変わらない  作者: 35
第1章 召喚編
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第2話  異世界マイペースコンビ

「それで、俺達が強いのは分かりましたが、どれくらい強いのかが分からないです。確認するとは言われましたが、どうやって?」


近藤と、近藤に同調した背の高い男子が2人で仕切り始める。二一は今は特に考えていないが、場を2人に任せる。


誰も話さないから二一が話していただけで、誰かが質問をしてくれるのなら、あえて自分から質問をしない。


すると二一に歩が絡み始めて、また二一がめんどくさそうにする。


この2人だけはどこにいてもマイペースであった。


「ん?」


ふと二一は自分への視線を感じた。その方向に目を向けると、近藤の横にいる大きな男子が二一をじっと見ていた。


「どうしたんだろっ。伊東先輩」


「知り合いか?」


歩がその相手を知っているようだったので、二一が質問する。


「うん。伊東順二先輩だよっ。バレー部の先輩っ」


「だったらさっきの目線は俺じゃなくて。お前か?」


「そうだと思うよっ。いつも私のこと気遣ってくれるいい先輩なんだよっ」


もう1度目を向けると、目線はやはり歩のほうに向いて、その後すぐに前に向きなおしたので、二一もそこまで気に留めなかった。


「お2人の質問にお答えします。まずはお渡ししたいものがございます」


そうアルベルトが言うと、ランドルフが使用人に命じて、カードのようなものを二一達全員に渡す。


「なんですかこれは?」


「ステータスカードといいます。これで、あなたたちの能力、健康状態などの全てのプロフィールがかかれます」


「白紙じゃないですか?」


「はい、こちらのカードはまず初めに表面に薄い紙がございます。そちらを剥がした状態で、その人が持っていられますと、プロフィールが自動的にかかれるようになります。また、本人ではない人が長時間持ちますと、自動的に上書きされます。不正利用が無いようにするためです」


言うが早いか、何人かは言われてすぐに表面の紙を剥がす。


すると、真っ白だったカードにの左端に名前、能力などの文字が浮かび上がる。


右側には何も書いていないが、アルベルトの説明どおりに後々浮かび上がってくるのだろう。


「明日の朝には全てのデータが浮かび上がります。そこから皆様をどうされるか判断いたします。今から朝まではご自由にお過ごしください」


「使用人は1人に1人ずつつけさせていただく。何かあれば彼らに命じてくれればよい。では。今日は私もアルベルトもこの後用事があるので、質問は改めて明日答えさせていただく」


そう言うと、ランドルフ、フランツ、アルベルトは、部屋を出て行き、召還された15人と使用人だけが残る状態になった。


「それではお部屋にご案内いたします。皆さま一部屋ずつご用意させてもらっておりますので、彼らについていってください」


すると、男子にはメイドが、女子にはバトラーがつく。いずれも美形で、それにみんながデレデレするのを隠せなかった。



「こちらがご主人様のお部屋です」


二一は角の部屋に案内された。寝室の家具・調度は、元の世界でいうゴシック様式に近いもので統一されていて、豪華な寝室には、多くの木の彫刻まであった。


「ここ1人用か?」


「はい、そうです」


「無駄なスペースだな。彫刻とかいらんだろう」


一流ホテル顔負けの豪華絢爛な部屋にいるのに、感動でなく悪態をつく二一に、メイドは苦笑いするしかなかった。


「なんでもお申し付けください。御用がございましたら、こちらのボタンを押していただければ、すぐに参ります」


メイドは部屋を出ようとする際に、業務的な口調でそう言った。


「今からちょっと休むんだが、時間が遅くても用事を言って大丈夫か?」


「かしこまりました。でしたら、そのお時間まで私も休憩をとらせていただきます。何時ごろでしょうか?」


「ん? 時計があるのか?」


「はい、わたくしもまだ見慣れてはいないのですが、時計というものはございます。非常に高価なものですので、おそらくは城に仕えていない限りは見ることはなかったと思います」


「それまではどうしてたんだ?」


「教会も時計を持っておりますので、1時間? おきに鐘を鳴らして時間を確認しておりました。皆さまの世界には時計はあるのですか?」


「誰でも持ってるし、1つの家に何個もある」


「お金持ちなのですか?」


「いや、時計がそんなに高価じゃなくなったんだ」


「うらやましいですね」


「いや、時計なしの生活もゆとりがあっていいと思うけどな。まぁいいや、23時に呼ぶ」


「かしこまりました。では……、5時間後ですね……。失礼いたします」


そう言って、メイドは部屋を出て行った。


「さて、とりあえず少し寝ておくか」


「二一ちゃんっ!」


すると跳ねた声で部屋に歩が入ってきた。


「なんの用事だ。俺は寝るんだよ」


「え~。何もしないのっ?」


「するのは後だ。まだ俺はここのことを疑っている」


「どういうこと?」


「いいか、ここは日本どころか地球でもない。あいつらの言ってることが本当な根拠がどこにもない。そもそも、俺たちの常識がここで通用するかもわからん」


「そうかなっ?」


「俺はいつも人を見ているからな。なんとなくだが、あの王様と教会の人間のおっさんコンビは怪しい。話す時に少し目が泳いでいたように見えた」


「気にしすぎじゃないのっ?」


「いいんだ。考えすぎならそれでいい。だが、疑わないことによって問題が起こるのは困る。警戒しておいて損はない」


「何を疑うのっ?」


「このカードだ。朝に情報が出るといったが、この情報をできれば見せたくない。何がわかるのかは知らないが、俺は人に情報を見せるのは好きじゃない。さっき移動中に、みんな眠くなるまでカリスマの部屋で話し合いをするって言ってたんだ。朝に情報が出るとすると、情報が出始めたころにまだ寝てるだろう。そのくらいに何かあるかもしれんから、起きておくだけだ。違うんだったらあいつらは気づくだろうしな」


二一は人の情報をよく知っている。それだけに、人に自分のことを知られるリスクをよくわかっているのだ。

「そっかっ。じゃあ私も寝るっ」


すると二一のベッドに入る。


「おい、お前は別にカリスマのところに行けばいいだろ」


「え、二一ちゃんのやることは正しいもんっ。だからそうするよっ」


「じゃあそれでいい。部屋に戻れ」


「1人じゃさみしいよっ。ダメなのっ?」


「俺は1人で寝たいんだ。それにお前が俺の部屋にいて一緒に寝たら、変な誤解されるだろう」


「じゃあ布団持ってきて床で寝るからっ」


「わかったわかった。好きにしろ」


「わーいっ」


すると部屋を出て、布団と毛布を持ってきて、床に敷いて横になる。


二一が折れる珍しい展開である。両方が折れない場合意思の強いほうが勝つ。


二一は面倒くさいが絶対にダメというわけではない。だが、歩は絶対にそうしたい。その差である。


「じゃあお休みっ」


歩がそういうのを、二一は無視した。


「まったく、俺の何を信用してるんだか」


あきれつつ、二一も就寝した。



「…………、よし、いい時間だ」


二一は目を覚ます。彼には、起きなければいけない時間の5分前に起きれるという特技がある。それに自信を持っていたので、いまが22時55分である確証があった。


「そういえば時差とかないのか………、っておい!」


二一がふと横をみると、思い切り横で歩が寝ていた。


「う~ん、もうちょっとっ」


「うるさい起きろ」


それを見て歩を蹴って転がして落とし、ベッドに横向きに腰掛ける。


ゴン!


「いったーいっ!」


ベッドはそこそこ大きく、落ちると鈍い音がした。


「ひどいよっ」


「やかましい。何勝手に横で寝てるんだ」


「だって……、不安なんだよっ。急にこんなことになっちゃって………」


「お前落ち着いてただろう」


二一はそう言う。ほかのメンバーは誰1人はじめは落ち着いていなかった。


しかし歩はいつも通りだったので、彼女もいつものマイペースを保てていると思っていたのである。


「それは二一ちゃんが横にいるからだよっ。二一ちゃんはいつでも正しいことをしてくれるでしょ。もし二一ちゃんがいなかったら、私もあわててるよっ」


歩が膝立ちになって二一の胸の辺りの服をつかんで涙目で上目遣いで言う。


大きな瞳が潤んでいて、男性にはたまらないであろう。


「服をつかむな。伸びるだろうが」


それに間も無く文句を言って手を振り払う。普通の男性なら考えられないが、彼は歩と長い付き合いをしているので、この姿も見慣れているようである。


「まぁ仕方ないか。俺に面倒くさいと思わせさえしなければなんでもいい。横で寝ないなら、同じ部屋で寝るくらいは許してやるから」


とは言っても、自分の存在があってこそ、落ち着いているなら多少は二一は許すことにした。


歩が落ち着かないほうがよほど面倒くさくなる。


「うんっ」


二一から一応優しくされて、笑顔で首を縦に振る。


「さっそく今からいろいろ用事がある。邪魔すんなよ」






「使用人はすべて集まったか?」


ランドルフはアルベルトに尋ねる。


「今確認しております」


彼らがいるのは、玉座である。城内で特に絢爛豪華で吹き抜けとなっていて、天井には金色のシャンデリアが飾られている。お城はどこを見ても豪華だが、やはり王のいる玉座はその中でも最も際立つ。


その玉座にランドルフが座り、二一達に充てられた使用人が、それぞれ集合している。


その手には、彼らに渡したはずのカードがあった。


「この水晶があれば、カードを先んじて読み込むことができるんだな」


「その通りでございます。あのもの達は全て熟睡されておりますから、鐘が1回なるまでの時間もあればすべての能力を把握できます」


彼らの目的は、カードに記載される彼らの個人情報の把握であった。


カードの中身は、実は基本ステータスのみしか記載されず、独自の能力までは、本人しか知ることができない。


そのために、先に情報を得て、優位を保とうとしているのである。


アルベルトはカードから全ての能力を把握できる能力を持っているので、彼が確認する。


「失礼します。メイドが1人と、カードが2枚足りません」


しかし使用人を収めているトップのバトラーからの報告で、ランドルフが顔をしかめる。


「なんだと? 誰だ?」


「いないメイドを考えますと、あの角の部屋にいる男子かと」


「あいつか……」


「彼ですか……」


「カードがないのは、その彼と彼の横にずっといた少女ですね」


「申し訳ありません。その少女の部屋の担当でしたが、彼女は部屋にずっと横の部屋にいられて、ずっと出てこないのです」


歩の部屋を担当したのは、そのトップバトラーであり、申し訳なさそうにする。


「何から何までいまいましい……」


ランドルフは二一のことを不快に思っていた。


まったく敬語を使ってこないし、妙に余裕があって、こちらを頼る様子がないからである。


「父上~、あの娘は私の妃にいつできるのですか~?」


怒りをあらわにするランドルフに、息子のフランツがそう言う。


実は今回の件については、もう1つ目的があった。


フランツが歩を一目で気に入っていたのだ。


だが、歩は誰が見てもわかるほど二一にべったりしていて、それを果たすのは難しいとランドルフは思った。これも二一を気に入らせない理由である。


ランドルフは息子のフランツのことが好きだったが、親ばかではない。フランツが決して優秀ではないことは分かっていた。


そのため、ランドルフが考えたのは、歩をできる限り城内で過ごすように仕向けることであった。


フランツは太っていて、しっかりしているとは言えないが、ランドルフ自身も、彼の妻も優秀な血筋を持っている。フランツもきちんとすれば、優秀とまではいかなくとも、人並みになることは期待していた。


フランツが歩に好かれようとするためには、彼は今のままでいることは許されない。


だから、ランドルフは歩を城内に過ごさせることを条件に、生活を改めることを約束させた。


本来なら、歩が城内勤務でないとしても、振り向かせるための努力は自分ですべきであり、まだ城内勤務が確定していないからといって、習慣を改めようとしない時点で、フランツの力量はお察しだが。


「彼女のカードを早く確認せねば……」


歩を城内で働かせるためには、彼女の能力を把握して、城内防衛向きの職業を進めなければならない。


そして逆に二一には戦闘向けの職業を進めなければならない。彼を外に追い出すためだ。


「明日何とかいたしましょう。職業ははじめから決まっていることに仕立て上げるのですから」


実は職業は基本的にはじめは選べないが、能力が高ければ、選べる。


異世界召喚をされた15人は能力が高いはずであり、総じて可能性が高い。


ランドルフは初めから都合のいい職業を選んで、扱いやすくするために、カードを奪い取る計画を立てたのだが、元々本命は二一と歩のカードであった。


そのために、アルベルトは彼らが部屋に戻る前に、遅効性の睡眠の魔法を15人全員にかけていた。


この魔法の効果で、寝静まるころから朝まで絶対に目が覚めないはずであった。


だが、その魔法の効果が発動する時点で二一と歩が寝ていたため、すでに寝ている2人には睡眠の魔法の効果がなく、起きているという結果になっていた。

アルベルトは、この2人がここまで早く寝るとは予想できなかったのである。


「それもそうか。だが、あのメイドから情報が漏れないのか?」


二一の部屋に行ったメイドは、時計が2周しても戻ってこない。二一が何かをメイドに聞いている可能性もあったため、ランドルフは心配した。


「大丈夫です。そちらはアルベルト殿から指示がありました。彼は少し危険ということで、最も経験の浅く、若いメイドを充てました。ですから、聞いてもほとんど情報は得られないはずです」


「なるほど、さすがだ」


「ありがとうございます。では、ほかの13人の能力を確認いたしましょう」


そして予定の時間で確認が終わり、各使用人が部屋にカードを戻す。


そのころになると、二一の部屋からメイドが出てきた。


そのメイドに、トップのバトラーが余計なことを聞かれなかったかと質問したが、ただ単に世間話をしただけで、さほど何も聞かれていないと答えたため、そのままそれをランドルフに報告して終わった。





~少し前、二一の部屋~


「さてと、じゃああのメイドを呼ぶか」


歩もきちんと目を覚ましてから、スイッチを押してメイドを呼び出す。


「失礼いたします。何をいたしましょうか?」


「ああ、ちょっとした話がしたい。付き合ってくれるか?」


「はぁ」


そのメイドは二一の目的がわからなかった。ここではむしろ二一の目的がわかるであろう使用人がついていたほうが結果的に良かった。アルベルトの警戒が、逆に二一にとってのメリットとなった。

加えて、このメイドを含めて経験の浅いメイドには、ぼろがでないように、作戦実行のタイミングまで具体的な任務内容を伝えていなかったため、彼女はカードをこっそり持ってくるという任務すら知らなかったのである。


二一はこれを見越して早寝をしたわけではないが、結果的に全てが二一にとって都合よく運んでしまった。


唯一二一が想定したのはは自分のところに、経験豊富ではない使用人が充てられる可能性は高いと踏んでいたことである。

悪い態度を取ることで、警戒させたことで、余計なことを知っている使用人は使いづらい二一にあてづらいと踏んだのだ。ほとんどは素だったが。


「俺たちって異世界人なのに、なんで言葉が通じるんだ」


「それはちょっと存じ上げませんが……、スキル言語理解を皆さまお持ちなのではないですかね?」


そして彼女は何の警戒もなく質問に答える。おそらく少しでも経験のある使用人であれば不審に思っただろう。だが、彼女は経験が少ないうえに、純粋な質問だろうと思って答えてしまった。


「スキル?」


「はい、明日ご説明があると思いますが、この世界ではすべての方にステータスと特殊能力があります。その特殊能力が、スキルです」


「なるほど、特殊能力については説明されなかったんだが、カードでは見れないのか?」


「ええ、カードで見れるのは基礎ステータスだけです。特殊能力は、カードを特別なもので読み込むか、本人には分かるので、その本人が教えるしかございません。あ、スキル鑑定があれば、見れるそうですけど、枠の関係で使わない人も多いです」


「枠?」


「はい、人によって分かれますが、特殊能力は所持できる数に上限があるんです。多くても5つのはずです。鑑定は便利ですけど、相手のほうがレベルが高いと使えませんし、低い相手なら鑑定を使う必要性は低いので」


そして、そのまま二一とメイドの話はしばらく続き、歩はそれを横で見ていた。




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