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偏屈な召喚者は異世界でも変わらない  作者: 35
第1章 召喚編
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第1話  異世界セーレンへの召還

「に、二一ちゃん。もう大丈夫じゃないかなっ? 揺れてないしっ」


二一は揺れ始めた時に、歩をしゃがませて、自分をその上にして彼女をかばっていた。


「ん、そうか。怪我は……、無いみたいだが……」


「ありがとっ」


歩はとても嬉しそうであった。


普段つっけんどんとしている二一が、自分のことを守ろうとしてくれたのがとてもうれしいようだ。


「お前細すぎるからな。怪我でもされたら、お袋とおばさんに何言われるか分かったもんじゃない。身長はそこそこあるくせに手とか足とか細すぎるだろう。よくそれでバレー部なんかやってられるな」


「ちゃんと細くても鍛えてるもん。触ればわかるよっ」


歩を助けたのは、歩のためではなく、二一が後々何か言われることを嫌がっての行動である。だがこういう言い方は歩にとっては慣れたもので、まったく気にしていない。


「まぁ確かにカチカチだもんな」


歩はスリムだが、肩や腕の筋肉は意外とついている。細いのは脂肪分がほとんどないからだと思われる。あまり女子らしい柔らかさが少ない。


「まぁそんなことはいい。確か俺たちは学校に居たはずだよな?」


「ここどこだろうねっ」


とりあえず回りの風景は学校ではない。さらに言えば彼らが知っている風景でもない。さらにさらに言えば、日本でもない。もっとさらに言えば、時代も違いそうだ。


いわゆる教会といわれるような場所にいた。目の前には大きな十字架があり、彼らがいるのは、少し高い台座のようなところ。


そして二一たちを見つめているのは十数人の人間だった。


彼らは髪の色や瞳の色も明らかに日本のものではなく、ここが少なくとも自分たちの知っている場所ではないことは容易にわかった。


周りには二一と歩以外にも何人か人がいるが皆倒れている。


「召還成功したのか?」

「嫌、まだわからない。ステータスを確認しないと」

「その前に状況を説明するべきでは?

「子供ばかりなのも気になるな?」


ざわざわとその人たちが話し始めていた。


「二一ちゃん、あの人たち日本語をしゃべってるねっ。日本人じゃなさそうなのにっ」


「そうだな」


二一は一応英語と中国語もわかる。この2個を知っておけば世界の大体の人間と話せるからである。


ただ、勉強した理由は、外国人と話したいという理由ではなく、外国人に話しかけられて答えられないのが、恥であるという偏屈な理由であり、しかも凝り性をここでも出して、そこそこ話せればいいレベルではなく、普通に話せるレベルになっていた。


これくらい話せると、感心されるよりも、ドン引きであり、周りからはあまり評価されていなった。


ただ、彼らの話している言葉は、外国語ではなく、日本語と話しているものとして二一には認識された。。歩も何を言っているのか理解していることからもそれは伺えた。


「う~ん、一体なんだ……、どこだここは!?」

「すごい地震だったわ……え?」


倒れていた何人かが目を覚ましていたが、周りの様子を見て非常に慌てていた。


二一達がマイペースで冷静すぎるだけであり、この反応は限りなく普通である。


見渡す限りでは皆同じ制服を着ていて、二一達と同じ学校の生徒である。


二一が軽く数えた感じでは15人であった。


「ようこそ救世主の皆様。セーレンへよくいらっしゃいました」


おそらく教会の人間と思われる高齢の老人が、二一達に話しかける。


話し方は落ち着いていたが、あまりこの事態にこなれている感じではない。


「詳しい話は城にてお話します。こちらについてきていただけませんか?」


その老人は丁寧に話すが、皆動揺が大きくてそれどころではない。


召還されたのは全員二一や歩と同じ高校の服を着ている。つまり16歳から18歳の人間ばかりである。


このような状況になれば大人でも落ち着いていられないのだから、当然彼らは慌てるに決まっている。


「お前ら落ち着け。俺もどうなってるか分からんが、とにかく話を聞かないとどうすればいいか分からん」

「そうだよっ。話を聞いてみよっ」


しかしわが道を行くマイペース男はその原則に当てはまらない。

このような状況でも、いつもの言動は変わらない。

よって、その横にいる歩もいつも通りである。


「そ、そうだ。まずは情報が必要だと思う」


皆二一をいっせいに見て、そのまま硬直していたが、1人がそのように声をあげる。


「う、うん。そうだね」

「泣いてても何もならないわ」


するとそれが全員に伝播して、とにかく落ち着かせることには成功した。


「さすが先輩だ。落ち着いているね」

「あ? お前は誰だ?」

「近藤ですよ。一緒に走ったじゃないですか」

「ああ、陸上部のカリスマか。名前は覚えてなかった」


初めに二一の言動に反応して声をあげた1人が二一達に声をかける。それは陸上部期待の新人近藤であった。


なるほど近藤は学校全体に名前を知られるほどの有名な生徒。男女問わず人気があり、彼の発言には力がある。


二一の声では硬直していたほかの生徒が、近藤の声を聞いて落ち着いたのは、カリスマ性の差ということか。

ちょっとだけ歩が複雑そうであるが、二一はとりあえず場が落ち着いたのですっきりしていた。



十数人の修道士と、兵士に囲まれて、制服姿の15人が歩き、到着したのは西洋風の城。いわゆるお城をイメージした際のあこがれをすべて具現化したともいえるロマンチックな現実離れしたものでで、全体的に白い色は、空の青色に映えて非常に鮮やかな色合いになっている。


「素敵……」

「まるで漫画の世界みたいだ」


まだ状況が飲み込めずにいた彼らだが、その芸術ともいえる城には目を奪われていた。


「なんだこの城は、完全に場所の無駄だな。住みにくそうで仕方が無い」


ただ1人、空気を読めない偏屈二一を除いてではあるが。



「こちらでお待ちください。すぐに王様が参られます」


全員が案内されたのは、とても縦に長いテーブルがある大きな部屋である。食事をする場所であるように思われる。

壁は絵画が埋め尽くし、机には金メッキのブロンズ像が立ち並んでいる。


そのブロンズ像を筆頭に、すべて今日設置したかと見間違うほど輝きを放っていた。


使用人やメイドが飲み物や食べ物を用意するが、緊張からか、誰も手をつけようとしない。


ギギギギギギ。


音と共に大きなドアが開き、いかにも王様という感じの人物が入ってくる。その横には、その王様に顔が似ている少し若い青年もいた。おそらくは王子であると推定される。


「ようこそ、ドルツ王国アインバックへ。私がアインバックのトップであり、ドルツ国の王である、ランドルフ=アインバックだ。こちらが息子のフランツ=アインバックだ」


王様といわれた、ランドルフが自己紹介をする。ランドルフは年齢こそ重ねていたが、きっちりとした目つきや、言葉の重みが実力者であることを感じさせる。


だが息子のフランツは、とても太っていて、装飾品こそ豪華だが、気品は感じない。紹介をランドルフにさせている時点でそれはなんとなく感じられた。


使用人達もフランツに対しては、形式上の尊敬しかしていないように感じられた。


「それで、自己紹介はそのくらいでいい。詳しい事情を教えろ」


そのランドルフの妙な迫力や、フランツへのインパクトで全員が声を出せなかったが、二一がそれを聞くと、他の人も我に帰ってランドルフに顔を向ける。


「そんなに怖い顔で見ないでくれたまえ。君たちを急に呼んでしまったのは申し訳ないと思っている。詳しい話は召還魔法を行ったアルベルトも交えてきちんと説明させていただくことにする。とにかく聞いてくれないか?」


話は非常に無駄に長く続いたので、要約するとこんな感じになる。


この世界は、二一達がいた地球とは違ういわゆる異世界、セーレンと呼ばれている。


そのセーレンには大きく分けて国が7つある。


今自分達がいるのは、セーレン最大の王国で、軍事力、経済力全てでトップであるドルツ王国の首都アインバックである。


他には、ドルツ国と提携する騎士の国、トリア王国。

森と湖に囲まれ、自然がそのまま残る水の都、アレン王国。

豊かな大地に魔法使いが育つ、魔法の国、ラルフ王国。

火山と砂漠しかない難民の多くいる国、ルフト王国。

独自の文化と亜人の住むマーク森林を抱える国、タニア王国。

かつて魔王が住み着き、今も荒れ果てた闇の国、ここには名前はなく、魔国と言われる。


魔国の説明どおり、この世界では昔、魔物と人間による戦争が長く続いていた。

ここに、当時は人間とともに住んでいた犬人族、描人族などの亜人も参加していた。


そしてその時も、同じように異世界からの召還者が主となって、魔王を倒して平和が戻ったのである。


魔王がいなければ、魔物は増えない。それを後はきちんと事後処理を行って、完全に魔族はいなくなったはずであった。


だがこのとき、1つ問題があった。


亜人の中では、人間に味方するものと、魔族に味方するもので別れ、それはたとえば犬人族は人間に味方し、描人族は魔族に味方するというように、分かりやすく分かれているなら、簡単だったが、同じ族でも、味方する陣営が別れたため、知名度のあるリーダーなどは、処刑できても、完全に全員を裁くことはできなかった。


特にタニア王国では、亜人もかなり必要な国民であり、多くの亜人を当時の王はかばった。


その一部がマーク森林に逃げ込み、タニアの協力で生存していたのである。


ところがここ最近、魔王に匹敵するほどの力を持つ魔物が誕生し、再び魔族の脅威に脅かされている。

しかも200年前同様、亜人も絡み、大きな戦争となっている。


その危機に、再びドルツ王国はかつての伝説を期待して、その時以来の召還魔法を行い、現在の状況に至るとのことであった。


「つまりは、俺達は魔族や亜人って奴と戦って、魔王を倒すために呼ばれたのか?」


長い話だったので、全員がどういうことかすぐには分からなかったようだが、真っ先に理解した二一がアルベルトに尋ねる。


「そのとおりでございます」


「ふざけないでよ。私達は普通の子供よ。戦えるわけ無いでしょ」

「そうだそうだ。すぐにもとの世界に返せ!」

「これは夢……、これは夢……」


また全員がパニック状態になる。二一だけはあごに手を当てて何かを考えていて、その落ち着きようが逆に不気味である。


この場合、唯一冷静に見える二一に、アルベルトらが話しかけるのが自然な流れなのだが、そこは、ふだん1人である二一の話しかけるなオーラが出ているようで、誰も二一に話しかけない。


「二一ちゃん。どうしようか?」


しかしそのオーラを完全に無視する人間がたった1人いる。このモードに入った二一には、彼の両親すら話しかけようとはしないので、世界中で歩1人である。


この異世界でもそのようで、世界中だけでなく、銀河系の規模で彼女1人ということなのである。


「まだ情報が足りないな」

「僕もそう思う。まだ聞かなくちゃいけないだろう」


二一が口を開くと、近藤が同調する。さすがに近藤も優秀なだけあって、状況対応能力は高いようだ。


「俺は正直面倒くさい。あまり期待していないが、元の世界に戻るにはどうすればいいんだ?」


「とりあえず現状では帰れません」


「そ、そんな……」

「完全にふざけてる。勝手に呼んどいて……」


「お前らうるさい。今は俺が質問してんだ。聞きたいことがあるなら後にしろ。わめくならここでやるな」


アルベルトが言った言葉に、更なるパニックが起こりそうになったが、二一が怒りの言葉を向けたことによって収まる。

ただ二一への不信感という違う感情が発生していたが。言っていることは正しいのだが、言い方が悪い。


「まぁまぁ落ち着いてください。若松先輩のいうことも一理あります。まずはきちんと話を聞きましょう」


それを近藤が納めて、近藤の株は勝手に上がる。言っていることは同じなのに。


「なるほど。どうして戻れないんだ? あんたが召還魔法を使って召還したんじゃないのか?」


「いいえ、私の魔法は召還魔法とは言われていますが、いわゆる神へのお祈りです。なので、あなたたちを召還したのは正確には神のお告げということになります」


「だったらもう1回祈ればいいんじゃないのか?」


「いえ、神が必要と思われたから召還されたのです。再びお戻りになるためには、あなたたちが責務を果たされるしかございません。かつての英雄達も、魔王を倒した後、戻ることが出来たそうです。ですから、あなたたちも魔王を倒していただければ戻れると思います」


「納得はできんが、一応理解しとく。だが、俺たちになにができる? 俺達は訓練も何も受けていない一般的な子供だ。今から訓練して、魔王と戦うとすると、何年かかるか分からん。そこまで悠長なことはしたくない」


「そこはご心配なく。あなたたちは神に選ばれて召還されたのです。それはあなたたちが、この世界よりもレベルの高い異世界からきたということ。つまりあなたたちは既に私達の世界の人間よりも優れた能力をお持ちであるということです」


そこまで聞くと、二一はまた考える姿勢になって黙り、その様子を歩が眺める。


「話はなんとなく分かりました。とにかく自分達が元の世界に戻るには、戦うのが1番早いんですね」


二一が黙ると、また近藤が話し始める。


「ええ、どのような能力を持っていらっしゃるかは、また確認いたしますが」


「皆、確かにこの状況は理不尽だ。だが、現状戻るためには戦うしかない。それに、俺達は強いらしいぞ。それに人間を救うのなんて、面白そうじゃないか?」


近藤が元気に煽る。


「はぁ、仕方ないのかしら。わめいても何もならないし、とりあえず色々知ってみるのがいいかしら」

「後輩の1年生にここまで言わせて、俺が何もしないわけにはいかないな」


1年生でも高いカリスマを持つ近藤の言葉にはある程度力があったのか、それとも、どうしようも無い状況で一応の目標を定めることで、不安を隠そうとしているのかどうかは分からないが、とりあえず、全員が落ち着いて物事を判断できるようにはなった。


それがいいのか悪いのかは別だが。

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