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プロローグ2 中野渡歩

「おはようっ。二一ちゃん」


さてそんな誰もが煙たがる二一だが、1人だけ彼に積極的に絡んでくる女子生徒がいる。


中野渡歩なかのわたりあゆむ。二一と同じクラスの女子生徒である。


だが彼女の立ち位置は二一とは真逆である。


164センチと女子としては少しだけ背があり、足がとても長くすらっとして見えるモデルスタイル。ただし胸はない。

髪は首が軽く隠れる程度のショートヘアー。艶やかでとても光沢がある。

見た目は美人っぽいのだが、言動は少し子供っぽく、語尾がよく跳ねる。

そのギャップがむしろ気に入られている。


バレー部に所属しており、身長の大きさもそれに影響している。


制服の着こなしは抜群で、本物のモデルかと見間違うよう。



その彼女が好かれるのはスレンダーなスタイルや、優れ容姿はもちろんだが、とっつきやすさも大きい。


彼女は一見すると近寄りがたい美人なのだが、話し方は、子供っぽく、誰に対しても笑顔で接する。


その独特の距離感が、思春期の男子にはたまらないのか、告白をされることも頻繁にあった。


だが、彼女はそれを誰1人受け入れることはなかった。


そして、誰もが不可解なことがあった。


とっつきやすいとはいっても、彼女は基本的に友人を名字で呼ぶ。相手が先輩なら、苗字+先輩である。


別にそれは変なことではない。ある程度仲のいい友人が相手でも、苗字で呼ぶのは普通である。


だが、誰もが煙たがる二一だけ、彼女は「二一ちゃん」と呼ぶ。


「ああ」


二一はそれに対して別にいつもと同じの塩対応をする。


「お話しよっ」


だが、全くめげない。


「うるさい、俺じゃなくて違う奴と話せ。お前がいるとこっちにみんなの目が向くだろうが」


「え? 二一ちゃんそんなこと気にしないでしょっ」


「気にしないが、お前はいいのか?」


「いいんだよっ」


とは言っても、やはり他の人と比べて、少し二一の話し方は優しい。


言葉の端にわずかだが気遣いが見られる。雑ではあるが。


ちなみに彼女は二一を、二一ちゃんと呼んでいるのだが、彼女の独特な呼び方の癖のせいで、「にいちちゃん」ではなく、「にいちゃん」に聞こえてしまうのだ。なんか呼ばせてはいけない呼び方みたいになっている。

お互い逆の意味で学校で目立っている2人が一緒にいることでさらに目立っているのに、そんな呼び方をしているものだから余計目立つ。


あまり話しかける人のいない二一なのに、歩が二一を下の名前で呼ぶどころか1個飛び越えたあだ名呼びであり、それによる2人の関係を疑う生徒も多かった。


「なんで中野渡さんが、若松とあんなに親しげなんだ?」

「2人は幼馴染らしい。小学生の頃から付き合いがあるんだ」

「まじか」

「歩ちゃんに聞いたけど、昔から若松君ってあんな感じらしいよ」

「え~、それなのにあんなに中野渡さんが好いてるの?」

「洗脳でもされてるのかな?」


いろいろ面倒くさくて、普段悪評くらいしか噂が上らない二一だが、歩関連だと急激に話題の中心になる。悪評には変わりないが。


最近では無くなったが、初めのころは二一にも質問が飛んできて、彼は迷惑をしていた。


二一は自分が好かれていないことは分かっている。だから、そんな自分に好意を向けることで、歩が不利益を被るのは、なんとなく不快であったため、初めのころは歩に対しても態度が悪かったのだが、肝心の歩が全くめげないため、最近は適当に対応していた。


「今日はお母さんが二一ちゃんのお母さんと会うから、私も家に行くねっ」


「俺に言わなくていい。勝手に来て勝手にしてろ」


二一は本当に面倒な時は、そもそも無視する。興味がないものには全く示さない。


本来なら歩も無視するのだが、それができない理由が、この歩の発言である。


二一の母親と歩の母親は親友で、二一と歩が幼馴染なのもこれが理由である。


そのため、歩のことをあまりおざなりにすると、母親から釘を刺される。


いくら1人で過ごしているとは言っても、彼はまだ親元を離れていない高校生。ほどほどには言うことを聞くようにしていた。


加えて二一は歩をそこまで毛嫌いしていない。それは精神的な距離感を歩がよくわかっているからだ。


物理的には距離を近づけて話して来るが、歩は二一に友人がいないことを咎めたり、マイペースすぎる発言を抑えたり、二一のとった行動を周りに話したりはしない。


例えば二一がテストで100点を取ったのに、クラスで1位にされなかったときにも、二一の点数を確認して教師に文句を言うという行為はしなかった。


つまり彼女は二一の行動を邪魔せず否定しない。彼との付き合いが長い彼女は、二一がどういうつもりで行動し、それが基本は正しい行動であることを知っている。


二一としても、全面的に好意的な感情を向けられては、あまり無碍にもできないし、付き合いも長いからこそ、他の人に比べればまだ優しい対応をする。ただそれだけである。


「ちくしょう。中野渡さんはガード固いのに、あんなのが好きなのか。俺も若松みたいになるべきか?」

「止めたほうがいいんじゃないか? というかできないだろう」


クラスメイトが嘆く。好きな人がいるのであれば、一般的にその人の好みに合わせた人間になるのも1つの手であろう。


だが、一般の高校生は二一のような生き方は難しい。まずある程度人間関係が決まっている2年生からそうなったら、不自然にもほどがある。


「中野渡さん、若松君と一緒にいないほうがいいわ。そんな人と一緒にいたら、あなたも変な人だと思われるわよ」


クラスの女子が歩に話しかける。


「え? 何でっ?」


「何でって……。そんな面倒な人と一緒にいなくても。もっといい人と一緒にいれば……」


「大丈夫だよっ。二一ちゃんとはずっといっしょにいるけど、何にも問題ないからっ」


だがそんなことはおかまいなし。幼馴染として過ごしてきた彼女にとって、二一がこうなのは既に知っていること。その上で彼女は二一と一緒にいる。



彼女は小さいころから身長があり、それが原因でいじめを受けていた。


当時は運動もしていなかったので、動きも遅く、それが身長とあっていなかったためだ。


それを助けたのが、当時小学生であった二一であった。


小学生くらいだと、いじめにまだ悪意がなく、教師もそこまで強くは咎めないことが多い。


だが、二一は当時から変わらなかった。


彼女をいじめる人間全員に、『こいつをいじめる意味は何だ』としつこく聞いたのである。


歩は何も悪いことはしていないのだから、そこに正当性があるはずはなく、いじめられる側に原因があるという相手には、ずっと歩を眺め続けた。

いくら小学生でも、誰か見学している人間がいる前で、いじめ行為を行うことは難しい。


しかも二一は当時から面倒くさい子供ではあったが、まじめで成績もよく、小さい彼は大人を一応は尊敬していたため、教師には悪態をついていなかった。


それもあって教師受けが良かったため、彼が変わった行動をとると、必然的に教師も彼を気にするため、彼は近くによく教師がいた。


これでは二一の近くにいる歩をいじめることなどできなくなってしまった。


この時点で二一と歩は親を通して知り合いではあったが、偏屈な二一と、まだ臆病であった歩では会話が起こっていなかった。


だがこの件で、歩は二一にほのかに恋心を抱くことになる。


一番自分がつらいときに、助けてくれた存在として、二一が特別な存在になったのだ。


そして二一が優秀であることから、自分も並ぶ存在であろうと思い、大きな身長を生かせるバレーをはじめ、勉強も努力して成績も上げて自信を持てるようになった。


その頃から二一に積極的に話しかけていき、どうすれば二一の傍にいられるかということを少しづつ学び、今の状態に至るわけである。


結果的に歩はそのあと身長がそこまで伸びず、極端には大きくなくなった。すると才色兼備に育った彼女は、中学生になったころにはモテるようになるが、彼女の目にはもう二一しか写っていなかった。


親同士も無理には仲良くさせようとはしなかったのだが、歩の態度が明らかに変わりだしたころから協力するようになっていた。


このことを具体的に知っている人間は多くない。二一以上に彼女との付き合いが長い生徒はこの学校にはいないし、逆もまたそうだからである。


不信感を持ちつつも、当の本人が不服そうではないので、あまり強く周りはいえなかった。







その日もそのまま終わるはずだった。だが、その後、大きな地震が学校全体を襲った。


その地震そのものは大きなものではなかったが、そのゆれが収まった後、この学校から一部の生徒がいなくなるという怪現象が起こった。


そのリストには、二一と歩の名前もあった。






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