第4話 ロゼッタのギルド
「ここがギルドです」
二一はロゼッタのギルドに来ていた。
理由は前回のクエストで手に入れた魔物の一部の換金のためである。
タニアへの追放を認めた代わりに、お金になったり、装備品になる魔物の一部を返さなくてもよかったのだが、換金をするギルドに行く前に追い出されてしまったので、収縮袋の中にはたくさんものが入ったままであった。
別に荷物は重くないので、持ち運びの面では困らないし、収縮袋の中ではよほど年月を経てなければ悪くなることはない。
ただ、ものがきちんと整理できていないのは二一が嫌なので、さっさと片づけたいということである。
「ですけどいいんですか? 今回のクエストで倒した魔物は基本的にタニアではあまり高く売れませんよ」
「ああ、なんとなくわかってる。タニアで取ったものはタニア以外で売った方が高く売れるんだろ」
「あ、はい。ご存知でしたか?」
「言っただろ。なんとなくだ」
地元でとったものを地元で売っても高くならないなど常識である。世界異世界万世界共通なり。
ギルドはシュバルツヴァルトブロートしかまだ知らないからどうとも言えないが、同じくらいの規模で、整備も同じくらいであった。
「はい、いらっしゃいませ~。あら、クレアロッテちゃんじゃない。今日はどうしたの?」
受付をしていたのは人柄のよさそうな若い女性で、クレアロッテへの話し方を見ただけでも、優しそうな印象を受ける。
「用事があるのは私じゃないです。この人です」
「あら……、若い男の子ね、クレアロッテさんのいい人かしら?」
「そ、そんな人じゃないです!」
「私のいい人だよっ」
「お前は絡んでくるな。俺はどっちのいい人でもない。売りたいものがあるから見繕ってくれ」
「こっちの子も可愛らしいわね。いい子2人もつれてどっちにも興味が湧かないなんて、そういう趣味なのかしら?」
「違う」
「じゃあ……、ああ、分かったわ」
二一はなんとなくわかっていない気がした。
「2人とも色気が足りないわよね! クレアロッテちゃんは背が小さいし、こっちの子は背はあるけど胸がないし、私でよければ空いてるわ……「はいっ? 二一ちゃんそうなのかなっ?」ひっ?」
二一の思った通りわかっていなかったし、受付の女性が話し切る前に、歩が乱入し、もともと少し鋭い眼をさらに鋭くして彼女をにらむと、柔和だった笑顔がひきつる。
ちなみに、歩無乳、クレアロッテ、ほんのちょっとだけある、受付女性、けっこうある。
歩は本当にない。少しもない。なんならマイナスである。
周りがそう思っている以上に本人はそれを気にしている。
目つきが鋭くなって、雰囲気も変わって、ギルド内がざわつくほどであった。
ずっと真横にいたクレアロッテも、怖くなって離れる。
「まぁ、お前は何もないもんな。一般的には女性には胸があった方がいいって言われてるが、お前は世間一般的には美人だし、こっちに来てもそうだった。手足も長いし、8頭身あるモデル体型だから、胸がないからって、スタイルは悪く見えないぞ。俺は正直どっちでもいいしな」
彼女はお子様というわけではない。シスター服を着ていると目立たないが、きれいな足と抜群の腰のくびれがあり、胸がないとは思えないほど、色気はある。それも男子にモテる要因であった。
「ふふっ、ありがとっ」
歩にとって大事なのは、二一がどう思っているかである。最後のどっちでもいいという発言は、うれしかったし、一応褒めてくれたので満足している。
「わ、わたしはどうですかです?」
なぜかクレアロッテも二一の袖を引っ張って聞く。とは言っても、歩とは異なり、ちょっと頬を赤らめて可愛らしい仕草だったので、さっきの緊張感ある空気ではなく、彼女を愛でるような空気になる。
「お前は小さいけど、可愛いからいいんじゃないのか。あまり寸胴じゃないから、意外とスタイル悪く見えないしな」
歩がでたらめといっても言い過ぎではないほど手や足が長いので、比べるといけないが、クレアロッテも悪くはない。小柄な割には胴が細くて短めで、手足もそこそこ長い。
「よかったね。クレアロッテちゃん、二一ちゃんが褒めてくれるなんて貴重なんだよ」
「は、はい。とっても嬉しいです」
「し、失礼しました。余計な事を言ってすみませんでしたね。では買取のものを見せていただけますか?」
2人が落ち着いた(頬に手を当てて、跳ねたり腰をくねらせたりと逆に浮かれているとも言えなくもないが)ので、受付の女性も落ち着いて、本題に戻る。
「ああ、ちょっと多いが見てもらえるか」
そして二一がいろいろとものを出す。
もちろんこの中には、売るよりも装備を補助するのに使った方がいいものもあるが、50個全部調べるのはさすがに面倒くさかった。
結果的にクレアロッテという王女の関係者がついてきているので、ギルドも不正は行わないと判断して、調べずにギルドに任せてみた。
「はいはい、ちょっと多いのでお時間もらいますね。ちょっと手空いてる子手伝ってちょうだい」
カウンターに積まれた多くの魔物の一部を数人でチェックし始める。
「あ、そういえばポイントどうなってるのかなっ」
歩が気になって二一に尋ねる。
「自動的に切り替わるんだったな。見てみるか」
若松二一 17歳 レベル10
HP 1900/1900
MP 899/899
A S(1824)
D S(1421)
MA S(1502)
MD A(1212)
S S(1435)
L F(234)
職業 魔法戦士
特殊能力 言語理解A 武器適正A 魔法適正B
性格特性 偏屈 情報通 凝り性
職業特性 武器魔法合成
装備 ドゥンケルハイト 魔法戦士の帽子 魔法戦士の服 竜の盾
所持金 6000万タニアポイント(300万ドルツポイント)
中野渡歩 17歳 レベル10
HP 791/791
MP 1030/1030
A G(17)
D S(1521)
MA B(1009)
MD S(1611)
S D(602)
L S(1799)
職業 シスター
特殊能力 回復A 祈りA 魔物特攻B 言語理解F 魔法適正A
性格特性 二一信頼感 鈍感 おおらか
職業特性 神のご加護
装備 シスター服 クリスタルロッド クリスタルの小手 沈黙封じの指輪 銀の指輪 赤の髪飾り 道具守りの帯
「ああ、こうなるのか。1ドルツポイントで、20タニアポイントってわけか。こっちも見てみるか」
『ポイントの変更について』
国を移動すると自動的に切り替わる。価値は国の情勢によって毎日変化する。
ちなみにタニアは平均すると1ドルツ=15タニアポイントくらいだったのだが、現在はタニアの情勢があまりよくないので、タニア安ドルツ高になっている。タニアでお金を稼ぐと、外に出たとき損します。
「これだとタニアに長居しずらいな」
二一は少し困っていた。元の世界では、2つ以上の通貨を並行して持つことができたのだが、ここでは国を移動するとすべて切り替わってしまう。
つまり、今大量に売った魔物で得られるお金は、今のままで他国に行くと、本来ドルツで売ったよりも安くなってしまう。
ただでさえタニアで売ったことでより安くなっているのだから、この問題は大きいと言える。
実は二一の持っている300万ドルツポイントは、結構すぎるほどのお金なのでそんなに気にすることはなかったりもするのだが。
「大丈夫ですよ。しばらくお城に置いてもらえば食費も宿代もかからないですよです」
ちょっと二一が悩んでいると、クレアロッテがそう言う。
「は? なんでだ?」
「お姉ちゃんとルナ様がそう言ってましたよです。私を助けてくれたことをすごく喜んでいて、お話をしたいみたいです。もし宿がないなら、城にいてほしいってことらしいです」
「なるほど、1日で済む話じゃないしな」
二一としてもタニアで探りたいことは多い。有力者から話を多く聞けた方が、メリットは大きい。お礼という大義名分があるのなら、二一も変な疑いを持ったりはせず、素直に了解する。
「ロッテちゃん、もしいいなら今日一緒に寝ようよっ」
「は、はい……」
クレアロッテは照れながらも、うなずく。
同い年ということでクレアロッテも意外と歩を気に入っているようだ。
「二一ちゃんっ。いいよねっ」
「まぁ理由がきちんとあるからな。無駄に金つかうことはないしな。いいぞ」
「やったーっ! ロッテちゃーん」
「わわ、また~」
歩がクレアロッテを持ち上げて回す。このやりとりは何回あるのか。
「お待たせしました! ニーク=ヤング様。確認できました」
そんな話をしていると、受付の女性から呼ばれて換金をする。
「47個はお値段がつきまして、94万タニアポイントになります。残りも3つは、武器の強化に使われた方がよろしいと思いますのでお返ししますが、一応確認されますか?」
渡されたものは3つ。それを確認してみる。
『クリスタルスライムのかけら』
クリスタルスライムの一部。クリスタルを使っている道具の効果が1ランク上げられる。クリスタルスライムは出現率の低い珍しいモンスターである。
『ドラゴンゾンビの骨』
ドラゴンゾンビの骨。通常ドラゴンは長生きするため、ゾンビ化することは珍しく、貴重である。武器の練度を上げることができる。売却しても非常に高額である。
『レッドコブラの生き血』
ビッグコブラの中でもより強いコブラの血。赤色の道具の効果を2段階強化できる。
「どれもいいやつだな。こっちでもらっとく。強化は武器屋でやればいいのか?」
「あら、どれも効果ご存知ですか。すばらしいですね。どれも結構貴重なものなんですが」
「まぁ基礎知識だ」
一応確認したが、なんとなく名前でわかる。レッドコブラがちょっとわかりにくかったくらいだろう。
「おい、道具屋に行くぞ。いつまでも遊んでんじゃない」
二一が話してる間も、ずっと歩はクレアロッテと遊んでいた。一応クレアロッテで遊んでいたわけではない一応。本人同意の上である。
そのあと道具屋に行って、道具が2つ強化された。
『クリスタルロッド+1』
無詠唱 回復量大幅増加、攻撃力増加
『赤の髪飾り+2』
致命的な一撃を受けない。会心の一撃を受けない。死亡する攻撃を受けても髪飾りが身代わりになる。
「赤の髪飾りの効果がすごいな。まぁお前がやられるような敵はいないと思うが。まだわからんからな」
シスターのわりに、無駄に防御が高く、幸運も高い彼女が簡単にやられる可能性は低いのだが、警戒しておくに越したことはないというものである。
ドラゴンゾンビの骨は、どれに使うか決めかねたので、しばらく取っておくことにした。いざとなったら高額で売ることもできるということで、急いで使うこともないと思ったからである。
「そういえば、シスター服と杖は汚すなよ。特に杖。いずれ返さないといけないんだからな」
「えっ、これもらったのに?」
「それはお前がドルツに協力することが前提だろ。お前は今ドルツにいないんだから、契約違反になる。いずれは返すぞ」
二一は今すぐではないにしても、いずれドルツに歩の装備を返す必要性はあると思っていた。
この国の法律はよくわからないが、一応二一としては盗んだ形に近いのがばつが悪く思っていた。
だが、今ドルツに戻って、返しにいくのが、フランツが歩に惚れてるとかの点で、面倒くさいことになる可能性も感じており、すぐにでも返しに行くべきという考えを妥協して、いずれ返すから汚さないようにするということにした。
「ドルツにはいい魔法の道具や防具が無かったからな。いいのがあれば、シスター服も杖も隠して汚さなようにしておくからな」
「気に入ってるのにっ。でも仕方ないねっ」
ランドルフも歩を無理に結婚させようとするとか、二一を体よく追い出したりしているのだから、多少のことはやり返してもいいし、しょせん口約束なのだから無視してもいいのに、無駄に義理堅いことを考える二一であった。
クレアロッテを助けたときみたいに、契約の穴をつくのなら気にしないが、契約をした以上は守る。異世界でも契約社会日本に生きてきた彼らしい考えであった。