第3話 ロゼッタへ失礼します
「というわけで、ニーク=ヤングと、アユラ=レニエは、管理魔法違反により、タニア国へ追放いたします」
二一は先日の件をあえてばらして、処分を受けた。
罰則内容によっては、せっかく手に入れた魔物の一部を没収される恐れがあったので、自首する形にして、人間が襲われていると思った、つまり過失であることを訴え、そのおかげで物は没収されず、タニアへの一時的な追放を受けた。
だが、これは二一の作戦である。
歩に周りを確認させたのは、ばれないためではなく、状況をそのまま誰かに証言されないためである。
二一が攻撃した相手も、振り向かれる前に攻撃したので、顔は見られていないので、防衛魔法が発動していない以上はばれることはない。
二一がすぐに気づいたように、通常人間と亜人は見間違えない。
だから、自分たち以外の証言が絶対ない状態にし、加えて二一達が初のクエストということで、情状酌量の余地があるとさせた。
そして、亜人をあまり見ていないがら今回のミスが起こったということで、タニアに行ってきちんと見ておきたいとそれっぽい理由をアレックスに進言する。
アレックスとしても、二一たちの過失ではあっても何かしらの処罰は必要であるが、多くの魔物を倒していていることなどから、将来的に期待を持てる彼らをあまり厳しい処分にはしたくなかった。
なので、追放は形式上であり、アレックスが2人の分のコロンバへの通行許可を出したのである。
仮に二一達が何か事故があっても、処分の範囲内なので、責任は問われないし、魔物や亜人を減らしてくれるのであれば、願ったりかなったりで、損はない。
よって追放処分とはいっても、期限も何もなく、自由に行動していいという軽いものでよいという形で収集をつけた。
と、いうわけで、彼らはコロンバにいるのである。ある程度自然にタニアに来るための作戦は成功したというわけだ。
「さて、どうすればいいかな。とりあえず、地図はあるから、都市を調べてみるか」
『ロゼッタ』
タニア国首都。タニア国で唯一ギルドやショップを構える都会。治安も良く、防衛にも向いている。
『グリッシーニ』
セーレンで最北端に位置して非常に寒い気候で、人間が住むことは不可能に近い。
「ロゼッタに行くか」
「そうだねっ」
どこでもある程度整備が整っているドルツとは異なり、ロゼッタ以外ではまともに宿を取れるかすら怪しいところばかりであった。
「今回はどういう手を使うか……」
タニアに来た日から、真っ先に目指してコロンバとロゼッタの境まで来たのだが、以前にシュバルツヴァルトブロートの前に来たとき以上の厳重な警備で、まったく入れそうな気がしない。
通行許可証とかそういう問題ではなく、ただ単に不審な人間は入れないという感じである。
「あら、何かしてるんですか?」
さすがの二一も困っていたが、後ろから声をかけられて振り向いた。
「ああ、ちょっとロゼッタに入りたいんだが、今は無理か?」
「ええ、今のロゼッタは……、あら? その髪は?」
その少女は残念そうな表情から、驚きの表情に変わり、二一と歩の頭部を注目する。
二一も歩も服装上は頭を隠しているのだが、二一は横が少し、歩は前髪が少しだけ出ている。
本来なら全く気にすることではないが、その髪の色が目立つ色であれば別問題である。
「いいですよ。私ちょっとロゼッタでは要人なので、私と一緒に来ていただければ入れますよ」
「やったねっ、二一ちゃん!」
「…………、ええ、是非ご案内しますよ」
歩は純粋に喜んでいるが、二一は疑っていた。
はじめは断りそうな空気だったのに、自分たちの髪を見た途端に態度を変えて、歩が二一を呼んだときにも一瞬表情を変えたのが気になったのである。
「あんた、俺たちのこと何か知ってるな。何が目的だ?」
「まぁ話は後でいいじゃんっ。とりあえずロゼッタに入っちゃおう」
二一の悪い癖が出掛かったのだが、そこは歩が強引に話を前に進める。
二一は自分の納得いかないことだと自分の不利益になりかねなくても言ってしまうことがあるのを、歩は知っていたので、少女が二一の言ったことに気づく前に話を前に進めることができた。
「あ、どうぞ」
その少女の言うとおり、厳重な警備にもかかわらず、すんなりと入ることができた。
「よし、じゃあ教えろ」
「二一ちゃん早い」
入って2秒で質問するというぶしつけな態度。せめてお礼を言ってから言うべきである。
「いいんですよ。これくらい警戒するのが当然ですよ、あなたたちはタニアの人間ではないでしょう。というよりもあなたたちに興味があります。その黒い髪には覚えがございませんので」
「さすが要人というだけある、ずいぶんするどい。とりあえず教えてくれ」
「ええ、話しましょう。ここではよくないので、場所だけ移動しましょう」
「ああ、分かった」
そして案内されたのは、お城であった。
アインバックとは異なり、都市の中心に立っているというわけではなく、かなりコロンバよりの立地であり、城の真横に大きな崖で、その下は海であり、真後ろには大きな山があって、防衛向きの構造になっていた。
お城の周囲には遠筒もたくさんあり、重厚な感じもする。
華やかなお城というよりかは、敵から町を守るために造られた砦や城壁を思わせるもので、住むための城ではあるが、シンボルとしての城というよりは、最前線で国を守る城塞のようであった。
色も石で作ってあるのか、地味な色であった。
「あ、おかえりなさいませ。そちらの方は?」
「私のお客様です。丁重にお扱いするように」
「はっ」
そしてどんどん奥に案内されて、きれいな部屋に通される。
「こちらでお待ちください。ちょっと着替えてまいりますので」
少女はそこを後にして、二一と歩の2人だけになる。
「あの人すごいねっ。要人って言ってたけど、通行所だけじゃなくて、お城まで顔パスじゃんっ」
「あいつここのお姫様なんじゃないのか? こういうあまり大きくないところの王族って、よく村人とかに変装して町とか視察に行くだろ」
「そうかなっ?」
「まぁそうじゃなくても、そこそこのやつだろ。そんなのが俺たちに何の用事があるんだか? ……、待てよ、なんか俺たちの髪色が珍しいって言ってたな。それに今タニアは戦争で警戒態勢を引いているんだ。安心させておいて捕まえにくるつもりか?」
「お待たせしました」
「よくもだましたな!」
「何の話ですか?」
「貴様! 姫様に暴言を!」
自己紹介をする前に、事故が勃発しそうだったので、とりあえず話を聞くことにした。
「改めてご挨拶させていただきます。私はロゼッタ国王女、ルナルデッタ=ロゼッタと申します。こちらは私のお付をしてもらっている、猫人族のカトリーネです」
「どうも、カトリーネです」
やはり王女だったということで、あまり二一と歩に驚きがなかった。むしろ、驚きのなかった2人に対して、ルナルデッタが驚いていた。ややこしい。
「王女なら信用できるか? 無礼な対応をして悪かった。俺はニーク=ヤングだ」
「私はなかのわ、「違うな」
そのまま本名を言いそうになる歩を小声で止める。
「あ、そうか。私は、えーと……アユラ=レニエです」
「ニーク様にアユラ様ですね。私の大切な人を助けてくれたのは、ニーク様ですか?」
「さて? 何のことかな?」
「実は私の部下であり、お友達でもある猫人族の子が人間に襲われかけたそうなんですが、同じく人間が助けたと聞きました。それで情報を集めようと思って、ロゼッタ内で情報を集めていたのです」
「あんたが自らか?」
お姫様のやることとは思えなかった。
「私は時々情報を集めに城下町を歩くんです。自分の耳で聞かないとわからないことも多いですから。それで、国境の近くにいましたら、黒髪の人間がいると、門番の方から聞いたので、声をかけたのです」
「二一ちゃん、もしかしてあの猫の子じゃない?」
歩が思いついたように手をたたく。
「やはり……、黒髪などほとんどいないからな。あの子は私の妹であり、私と共にルナ様を補佐するクレアロッテというんだ。フム、やはり君たちが助けてくれたのか。ロッテ、入ってきていいぞ」
すると、4人がいた部屋に、もう1人猫人族が入ってくる。
「あ、あの……」
「ほら、やっぱりあの時の子じゃんっ! 無事に帰れたんだねっ」
歩が笑顔でクレアロッテを抱きしめる。
「わー、柔らかい! それにあったかいっ」
「わわっ」
「アユラ殿、そういうことは後で存分にして結構なので、とりあえず今はお礼をさせてください」
「はーい」
そして歩はクレアロッテを離す。
「あ、あの、ニークさん、あの時は助けてくださってありがとうございます」
クレアロッテは二一の前に言って深いおじぎと感謝の言葉を述べる。
おじぎを上げた顔は、姉のカトリーネや、歩がつい見とれるほどの目が潤んで頬を赤らめたかわいらしい顔だった。
女子でこうなのだから、近くにいた男性兵士など完全に顔がにやけていた。
「ああ、別にいい。あんたを見つけたのはむしろこいつだから、お礼はこいつに言ってくれればいい」
しかしここでいつもの塩対応をするところが、まったく可愛げがない。歩を指差しして、まったく興味を示していない。
「おい、クレアロッテ様が直々に頭を下げているんだぞ。光栄に思って誠意を持って対応しろ」
それを見て、兵士が怒りを見せて、二一を攻める。兵士はどうやら亜人派で、人間でないからと言って、尊敬しないという態度ではないようだ。
「なに言ってんだ。俺はお礼を言われているだけだ。それをどう受け取るかは俺の自由だろ」
その兵士の心がけは立派だが、二一が正論で思い切り返す。
「やめなさい。今日はお礼を言うために呼んだんです。ロッテちゃんも大丈夫よね」
「はい、お礼が言えて満足です」
肝心のクレアロッテと、王女であるルナルデッタにそう言われては、兵士も何もいうことはできない。
「ルナ様、私はまた仕事に戻りますね」
そう言って、カトリーネがその場を去る。
「今日はあなたたちのお話を聞かせてほしいのだけど、お時間はあるかしら?」
ルナルデッタがニ一と歩にお誘いをかける。
「俺も聞きたいことあるんだが、等価交換ならいいぞ」
「ええ、それでいいですわ。では業務が暗くなる頃には終わりますので、それまでのんびりしておいてください。城下町の見学でもしてもらっていいですよ、ロッテちゃん、案内してあげて」
「あ……、はい」
ニ一、歩、クレアロッテの3人は、ロゼッタの町をのんびりと見て回っていたが、かなり目立っていた。
それは、魔法使いがほとんどいないタニア国に、魔法戦士とシスターの2人がいるとか、少しだけ見える黒髪が目立つとか、歩とクレアロッテがとても容姿がいいので、見蕩れている人が多いとか、その2人を連れているニ一への嫉妬の目線があるとか、それも理由の一部ではある。
だが、一番の原因は、歩がクレアロッテを抱きかかえたまま歩いていることである。
クレアロッテは120センチくらいで、歩より40センチほど小さい。話を聞いたところ同い年の17歳のはずだが、完全に猫かわいがりしている。本当の意味で。
「耳ももふもふしてるし、肌もすべすべしてて気持ちいいっ」
「はぁ……、はぁ………、耳を揉まないでください……、すりすりしないで……」
うら若き乙女2人のいちゃいちゃシーン。これが目立つ原因である。
「二一ちゃんもやらないっ?」
「俺を犯罪者にするつもりか?」
ちなみに、2人から二一は距離を取っている。めんどくさそうだから。
「えー、でも二一ちゃんも猫をこういう風にすることあったでしょっ」
「猫ならな。動物は人間と違って、裏切らんから好きだ」
二一は偏屈だが、それは人間に対してのこと。動物は損得勘定が計算しやすく、人間ほど複雑ではないので、嫌いではない。
二一の親が動物好きで、猫がたくさんいるのだが、そういう感情が伝わるのか、二一にかなり猫はなついていたりする。
「ただそいつは猫人族だろ。まだそこまでの信頼には値しない。というか、見た目人間の可愛い女の子なんだから、そんなことできるほどの間柄は無理だ」
「え、可愛い……ですか?」
「ん? まぁ世間一般的に言えば可愛いんじゃないのか?」
二一は人間関係への興味が希薄ではあるが、興味がないというわけではない。
そのため、女子への興味も、優先順位が低いだけで、普通の人と同じくらいの感性は持っている。自分の感性を強く持っているだけで、変人ではない。
ただし、基準がレベルの高い歩を参考にしているので、めったに可愛いとは言わない。つまり、クレアロッテは、かなりレベルが高いということになる。
「人間の人にそんな風に言われるなんて、恥ずかしいです……」
「わ、もっとあったかくなった。ちょっとしっとりしてきたしっ。ところで、ロッテちゃんが可愛いって言うけど、私はどうかなっ? どうかなっ? どうなのかなっ? 可愛いかなっ?」
顔は笑っているが、目がまったく笑っていいない。
「あん? 言わんでもわかるだろ。お前あれだけ人気あって、自分が可愛くないとでも思ってんのか?」
言い草は雑だが、二一なりに気を使った言葉であることは歩には伝わった。基本的に二一は人に気を使うことはない。
「へへっ。ありがとっ」
そんなニ一がかけてくれた最大限の言葉がうれしくて、クレアロッテを抱えたまま、その場でくるくる回っていた。
「わ~、目が回ります~」
よりいっそう目立ったので、二一はもっと距離をおくことになったが。
感想、ご指摘、アクセス、ブックマークありがとうございます。
気にして構成を組んだつもりでしたが、まだまだ実力不足のようでした。
多少今後もご都合主義な展開があるかもしれませんが、ある程度筋道を作ってしまったので、矛盾点は修正しつつ執筆を継続していきます。