第10話 入国
「皆さまおはようございます。シュバルツヴァルトブロート軍兵長のアレックスだ。さて、今回集まってもらったのはほかでもない。今日こそはコロンバをこちらの手中に収めるぞ」
シュバルツヴァルトロードは、規制のおかげで人が少なく、特に大きな出来事もなく宿を確保することができた。
そして次の日、集合時間にギルドに集まっていた。
「さすがになかなか強そうなのが揃ってるな」
二一はまだこの世界の住人と接した回数は多くないのだが、さすがにまとう空気や装備を見れば強そうなのはわかる。
「二一ちゃん、みんなどれくらい強いのかなっ?」
「さぁな。この世界の平均的な強さがわからんからな」
二一の情報通は公的なことはわかっても私的なことはわからない。性格特性は元いた世界での性格が影響するのだが、このスキルだけは、日本にいたころとやや使い方が変わっていた。
「ああ、平均値なら分かるか?」
『セーレン国。能力平均値』
戦闘職(物理型)
A 600 D 500 MA 50 MD 150
戦闘職(魔法)
A 50 D 300 MA 600 MD 450
※1この4つ以外は、かなり差が激しいので平均値を示す参考になりません。
※2すべての能力に対して、Sランクは1% Aランクは5%、Bランクは10%くらいいます。
※3この計算には、初心者やほとんど冒険をしない人も含めますので、実際に戦闘に参加している人間はもう少し高いと思われます。
「誰かと会話してるみたいになってるな」
情報屋のチートっぷりが進化していく。言ってないことまで勝手に教えてくれている。
「便利だねっ」
「俺の力じゃないのがなんか嫌なんだけどな」
無駄に二一を持ち上げる歩にちょっとあきれ気味に言う。
二一が日本で情報通だったのは、きちんと彼が周りの話を聞いていたことによるもので、一応努力のたまものである。
しかし、この世界での彼の情報通は、勝手に知識が集まってきているので、彼の努力は関係ない。
便利なのでいいのだが、偏屈な彼は、簡単にできることがちょっと不快であった。
ついに自分の能力にまで偏屈さを出しはじめた二一であった。
ちなみに、歩はいまだに二一のことを二一ちゃんと呼ぶが、これは問題がない。
歩の『二一ちゃん』は、どう聞いても『にーちゃん』である。二一が自分の偽名をニークにしたのは、歩がおそらく演技ができないということでその呼び方を変えない偽名にしたのである。
名前を本当に呼ぶ回数が多い。二一からは1回も呼んでいないのに。
「それでは、皆さまの身の安全がございますので、『管理魔法:保護』をかけさせていただきます」
「何のことだろうねっ?」
アレックスの言った言葉に、歩が疑問を向ける。
「確認してみる」
『管理魔法』
大人数の集まりで、2つ以上のグループが1つのクエストを行う際に主に使う魔法。
そのクエストの間だけは、参加者全員が特殊能力を得る。その効果と、魔法を受けた人の能力に矛盾がある場合は、管理魔法が優先される。主にクエストの攻略をスムーズに行う目的で使われる。管理魔法の内容を守らないと、報酬の没収、罰則が発生する場合がある。
『保護』
管理魔法。クエスト参加者はお互いを攻撃してはいけない。
「なるほど、まぁ内輪もめしてたら、クエストも簡単には行えないしな」
効率よく行動するために『保護』は優秀である。
特に今回のような歩合制ともなれば、味方同士で手柄の取り合いも起こり得るので、この効率の良さには二一も感心していた。
「とりあえず、部隊は2つに分ける。コロンバを攻める部隊と、ハンドーロからブレッツェルを攻める部隊だ。武力に自身あるものは対人間を想定したいからコロンバ、魔法に自信のあるものは、対亜人、魔物を相手にするから、ハンドーロに行く部隊に参加してくれ」
「さてと、どっちに行くべきかな?」
全員参加は初めてではないようで、スムーズに分けられる。
「二一ちゃんはどっちに行くのっ?」
「お前は魔物特攻があるからハンドーロだろ。俺はどっちでもいいんだが……」
二一はいずれの能力も高く、魔法武器を使ってはいるが、物理戦闘も苦手ではない。
「え? 二一ちゃんがコロンバに行くなら、コロンバに行くよっ」
「まぁそうなるよな。だったら亜人、魔物に興味があるから、ハンドーロに俺も行く」
「え? 二一ちゃん一緒に来てくれるのっ? 二一ちゃんのことだから、効率よく情報を集めるのに別行動しよって言うと思ったのにっ」
歩が驚いて二一に向かって顔を上げる。
「本当はそうしたいが、どうせ聞いても俺についてくるだろうが」
歩は二一のことをよくわかっているが、その逆も一応同じである。適当にあしらっているとは言え、付き合いは長いのだから、知りたくなくても知っていることは多い。
基本的に、自分の正しいことを曲げない二一であり、歩もそれは知っているのだが、歩は二一に関することだと、同じくらい強情になる。そして、泥沼になった挙句、二一が折れる。これだけは普段の二一の信用が歩より低いせいで、歩の意見のほうが優先されるからである。空気的に。
そして、もう1つ要因はある。今回のクエストは女性が全くいないわけではないが、かなり男性が多く、すでに歩は注目されている。
下手に歩から目を離すと、ろくなことに向かっていかない予感がしていた。
「ふふっ。じゃあ一緒にがんばろっ」
そんな二一の考えをわかっているのかいないのか。笑顔で歩は喜んでいた。
「私が副兵長のパスカルです。アレックスさんはコロンバに行かれますので、こちらはわたくしの指揮で進行したします」
ハンドーロに行く部隊に2人が参加し、改めて説明を受ける。
「コロンバは既にほぼドルツの手中にありますが、こちらはまだまだ相手ががんばっております。厳しい戦いになると思いますが、よろしくお願いします。ちなみに、すでにご存じのように、倒されたり、手中に収めたりされました、魔物や亜人はお個人さまでご自由にしていただいて結構です」
「ん? 自由ってなんだ?」
「なんだ初参加か? だったらこっちに参加して正解だぞ」
二一がつぶやくと、横にいた魔法使いの服装をした男が話しかけてくる。
「どういうことだ?」
二一は普通に尋ねる。相手は知らない人間だが、このくらいの質問なら、何かぼろが出ることはないと考えた。
「魔物の一部分は、ものによっては高価になるし、亜人は一部の富裕層に人気があるんだ。歩合制っていうのはこういうことも含んでる」
「つまり、魔物は殺して、亜人は生け捕りにすると儲かるのか」
「まぁそんな感じだ。亜人はほとんどタニアにいて、タニアを出てる亜人はきちんと許可を得て入国してるから、手を出すと違反になるんだ。タニアを出て、人族の味方をしている亜人として見られるからな。だが、マーク森林か、亜人をかばってるタニア国にいる亜人は、捕まえても問題にならん。魔物よりも、亜人がこのクエストのいいところだ。魔物はどこでも倒せるけど、亜人は珍しいからな」
「ありがとう、じゃあ俺もがんばってみるよ」
「ああ、でも無理はすんなよ。命あっての物種だ。亜人は個人によって強さも大きく違う。うまく見極めないと、簡単に命を落とすからな」
そういって、その魔法使いは仲間らしき人のいるところに向かう。
「いい人だねっ」
「ただ単に説明したいだけだろ。そういうやつよくいるしな」
「そんなことないと思うけどねっ」
そんなこんなで、二一達は、タニアに入ることに成功した。
~アインバック、城内~
「見つからないか……」
「はい、そのようです」
ランドルフは、歩の捜索を命じていた。
歩そのものは、最悪諦めがつく話であった。象徴自体は、歩同様容姿の良い里香でも代用できていたからである。
問題は2つ。歩に渡していたクリスタルロッドと、歩、二一がいなくなった日になくなった、ダークカオスソードの2つであった。
実はドルツを含めて8か国には、それぞれ各国が保護している武器があった。
かつてこの世界が作られたときに、各国を作った英雄が持っていた武器と言われているもの。
そのすべてが一般人では使えず、どのような武器かは王族ですら、一部しか見られないほど厳重に管理されているとされている。
ドルツ国のその武器が、ドゥンケルハイトなのである。
二一の情報通はかなり万能だが、ある程度の人間がそれを常識として知っている必要がある。あくまでも情報なためであり、情報として出回っていないことは知りようがない。
そのため、二一の能力では、この武器がドルツの国宝であるとはさすがに知りようがなかった。変な剣だと思っている。
ただ、その剣は見た目は知られていなかったが、どういう効果を持っているのかは、伝承で有名であったため、効果だけは情報通により理解できていた。
つまり、二一はそれを国宝と知らないのに、効果だけは知っていることになっている。
さて、ではなぜこの武器が教会の横の廃棄された場所にあったのか。
これは逆に安全性を保つためである。
実はあの場所は廃棄所になってはいるが、教会が管理していて捨てることはない。
まさか廃棄所に国宝があるとはだれも思わず、錆びているゴミみたいな見た目なので、本当に古い剣にしか見えないのも大きい。
ランドルフ以前の王から、ずっとこの管理方法をしていて、何の問題もなかった。
国宝の武器はどの環境でどのように管理しても悪くなることはなかったので、ランドルフ以降もこのように管理されることに決まっていた。
しかし、2人がいなくなった日にそれがなくなったので、二一か歩が持って行った可能性を疑って、2人を探さなければならなかったのである。
加えて、クリスタルロッドも、国宝とまでは言えないが、貴重な杖の1つであり、アルベルトも歩を見つける必要があった。
西部のヌストルラ方面を探し、南部のヌスシュネンケン、ミッシュブロートも捜索したのだが、まったく面影がなかったのである。
ダークツリーマンを二一達が殲滅したのが、ちょうど西部の捜索を打ち切った頃であった。
「ランドルフ様、東部への捜索を考えたほうがいいのでは?」
「またその話か。東部は考えられん。ラルフに行くのなら、間違いなく情報があるはずだし、タニアに行く意味がない」
ランドルフに、アルベルトや一部の要人が東部の捜索を望んだのだが、ランドルフがなかなかそれを認めなかった。
「ですが、これだけ捜索して一切のそれらしき目撃証言がないんですよ。それに、ダークツリーマンが倒されて、東部へ行きやすくなってます。可能性は0ではありませんよ」
しかし、ダークツリーマンのいる森が安全になったことで、東部への通行路ができて、可能性を否定できなくなった。
そして、軽く情報を求めたところ、少し前にそれらしき2人に商売をしたという行商人からの情報が得られて、急いで東部への捜索が始まった。
だが、アインバックの兵士がシュバルツヴァルトブロートについたときには、すでに2人はタニアに行ったあとであり、ギルドを調べても、同じ名前の登録者がいなかったことで、捜索は振り出しに戻っていた。
「2人見つからないんだって」
「無事だといいんだけどな」
13人はドルツだけではあったが、実戦もやるようになった。
彼らの相手は二一が戦ったダークツリーマンと同等のレベルである魔物である。
その魔物達を相手にして、彼らはどんどんレベルを上げていった。
「よし! ヒトツメを追い詰めた! とどめを近藤、頼むぞ」
ヒトツメと呼ばれる大きな目の魔物は目から放つ魔法が厄介だが、素早い動きをできるメンバーがクルクル周って攪乱して波状攻撃を与えて、最後に攻撃力のある和美が止めをさす。
「よし、会心の攻撃だな」
銀色に輝く長い槍を使いこなし、爽やかに和美は汗を拭く。
「こっちは伊藤先輩、お願いします」
違う場所では、首なし騎士という、古くて捨てられた甲冑に魔王が命をふきこんだ魔物を相手にしていた。
防御力も動きも早いが、顔がないため気配でしか動きを読めない相手であり、魔法や遠距離武器で攻めた後に、一気に順二が倒す。
「破壊成功だ」
右手が甲冑の核をつき、バラバラになる。最後に右手を軽くふいて左手で撫でるしぐさを見せる。
「理香ちゃん、いけるわ」
こちらでは爆弾兵士と呼ばれる球体の敵を相手にしていた。
そこまで強くないが、最後はとてつもない動きをして自爆するやっかいな敵である。
こちらは、遠距離からダメージを与え、最後は水魔法が使える里香が鎮火させる。
「うう……、怖い」
攻撃は完ぺきだったが、本人は震えっぱなしであった。
二一達がいなくなって1か月、みっちりと座学を学び、練習をして、13人はとても強くなった。
特に元々スペックのあった和美、順二、里香はずば抜けており、3人を中心としたグループに分かれ、最後の止めを3人がさすという戦法が出来上がりつつあった。
近藤和美 15歳 レベル15
HP 540
MP 10
A A(1204)
D D(766)
MA G(76)
MD E(514)
S B(1186)
L D(664)
職業 槍使い
特殊能力 貫通C 連続D
性格特性 カリスマ 誠実 さわやか
装備 銀のやり 投げ槍 槍使いの服 スピードブーツ
職業得能 射程殺し
伊藤順二 18歳 レベル15
HP 259
MP 15
A B(1002)
D D(788)
MA F(102)
MD E(501)
S D(612)
L D(601)
職業 格闘家
特殊能力 捨て身D 武器特攻E 豪力C
性格特性 負けず嫌い 努力家 大ざっぱ
装備 ナックルダスター(右手) ナックルダスター(左手) 格闘家の服 白の鉢巻き
職業特性 武器破壊
軟田里香 18歳 レベル15
HP 234
MP 240
A G(12)
D G(151)
MA B(1184)
MD D(608)
S F(294)
L B(1062)
職業 水魔法使い
特殊能力 魔法適正C 魔物特攻D
性格特性 物静か 照れ屋 ネガティブ
装備 水の魔導書 水魔法使いの杖 水魔法使いの服 幸福の指輪 黒の髪留め
職業特性 しめっけ
二一達はレベル5でが伸びすぎなだけで、この能力はレベル15としてはかなり優秀である。それぞれの特性を生かした部分がよく伸びている。
1個でもCがあれば、大半の戦闘をする人間、魔物、亜人と互角に戦える。
努力で身につけられるのはDまで。C以上は武器や職業の特性をうまく使い、さらに才能があることが必要になるからである。
そして天才が許されるB以上の能力をこの3人は持っている。ほかの10人もCをどこかには持っている。
それだけに、彼らへの期待がどんどん大きくなっていきはじめた。
「早く戦ってみたいな! この拳を思い切り奮いたいぜ。そして歩を助ける!」
「しっかり戦って、若松先輩たちを助けないと!」
順二も和美も体育会系であり、自分の鍛えた能力を発揮したいという感情が強く、共に行方の分からない2人を心配していた。順二は歩だけだが。
「早く帰りたい……。戦いたくない……」
その2人と並んで、英雄として期待されているはずの里香は、彼らと比べて後ろ向きである。
「大丈夫よ! 里香はいい子だもん! 私はずっと応援してるから!」
そのはずである里香が和美や順二と同等のレベルなのは、彼女の友人である江戸裕子の存在が大きい。
裕子は二一にかつて文句を言ってきた、里香の友人であり、男勝りの強気な性格である。
能力は3人に劣るが、きちんとDランク後半からcランクのの能力がバランスよくあり、きちんとレベルも14まで上げている。
彼女は里香の音楽の才能にほれていて彼女のことを本当に好いている。
異世界でも里香に才能があるため、さらに彼女のことを好きになっていて、彼女が強くなることを、自分のように喜んでいた。
「ううん、そんなことない。怖いし、2人のことも心配だし」
「もー、もっと自信を持ってよ!」
ギュー!
「きゃっ! 裕子ちゃん!」
俯いて自信なさげな彼女を裕子が思い切り後ろから抱きしめる。
「あの歌のうまさに、顔もかわいくて、頭も良くて、しかもこのスタイル……。何でそんなに自分に自信を持てないの?」
歩の代わりに象徴に選ばれるほどの容姿もあるので、彼女が自信を持てない理由が、彼女には理解できない
「ちょっと……、裕子ちゃん……」
裕子は抱きしめたまま、胸を思い切りつかむ。里香は身長は160ないくらいで歩よりも小さいのだが、スタイルは圧倒的に勝っている。
どのくらい良いかというと、胸部に関しては、18歳の女子高生として平均的な体格の裕子が思い切り鷲掴みにすると、収まりきらずに零れるくらいである。
。
その光景を和美や順二含めて、男子が直視できずに顔を赤らめて目を逸らす。
ちなみに今更だが、15人の配分は、二一、歩を含めて男子9人女子6人である。
ちらちらと見ているむっつりもいたが。
二一達もまだまだ冒険は始まったばかりだが、彼らはまだ情報のある相手と、安全に守られながらレベルを上げているので始まってもいない。
まだまだゲーム感覚の平和な日常を過ごしていた。
第1章 セーレン召喚編 完