エピローグ 帰還
最終話です。
召喚から続いた長い闘い、二一が魔王を倒してから、2か月がたった。
世界は二一達召喚者や各国の王や要人が協力して、安定するようになった。
ドルツは引き続きランドルフが率いているが、彼の心配事はなくなっていた。
ダメ息子であったフランツは、トリア国の王の1人、マストーによって鍛えられ、普通の王くらいにはよくなっていったからだ。
トリア国は、二一がマストーを助けたことで、ゴートンとマストーの2人の王の制度となったので、ゴ-トンはトリアの内部からトリアを整備し、マストーは外の世界を学んで、彼らは2人ともトリア以外の国の発展にもつなげていくことにしたのである。
マストーはゴートンにわずかに劣るとは言え、王の器は十分な存在。そんな彼のマンツーマンの指導はかなり適切ではあった。
ランドルフもとても安心し、ずっと厳しそうな表情をしていた彼が、ちょっとおだやかな祖父のようになっていた。
彼が安心してドルツの王から引退できる日もそう遠くはないだろう。
トリア国は王が2人いることで、復興はかなり安定していた。
変革派のゴートンと保守派のマストー兄弟。しかし、2人がしっかりした意見をもっているので、きちんと話し合いどんどんいいものは残し、悪いものは革新して、ドルツに勝るとも劣らない国になっていった。
ラルフとルフトは、正式に合併してラルフトとなり、王としてはニコラスがついた。
ニコラスはエドワードを失ってからも、必死にラルフとルフトを守っていた。
その頑張りが実ってか、エドワード以外全く子宝に恵まれなかった彼に、3人子供が誕生した。
ニコラスの側室には、ルフトの人間もおり、将来的にはルフトの血を持った王が新しく生まれていくことになると皆が期待していった。
アレンは特に今までと変わることなく、独立して国を作っていった。ただ、魔国が滅んだので、平和になり、今までよりは交流が多くなった。
タニア国は亜人を初めて受け入れた国というだけのことがあり、要人も亜人が務めるようになった。
ルナルデッタの祖父はなくなったが、トマスとマリオはずっとトリアとドルツにかくまわれていて、戦争の終結後戻ってきた。
タニアを捨てた2人をいろいろな声はあったが、いち早く変革を行っていたタニアでは人手はいくつあっても足りなかったのと、何よりルナルデッタが彼らを許した。
彼らが戻っても王はルナルデッタだったが、トマスとマリオは反省してその生涯をタニアにささげた。
そして二一はもちろんほかの召喚者たちも、この世界が安定する日まで2か月ずっと協力し続けた。
そして、2か月が立ったこの日、ついに召喚者が帰るときがきた。
「やっとか、魔王を倒したらすぐに帰れると思ってたけどな」
「戻れるのはこの日だけです。皆様お忘れ物のなきよう」
二一が得ていた情報では、魔王を倒したら、すぐに戻る扉のようなものが開くのだと思ったが、全くその様子がなかったので、二一がもともと召喚された教会で話をすると、どうもある程度後始末をしないと開かないとのことだった。
そうなっては文句を言っても仕方ないので、二一はより一層世界のために2か月頑張ったのである。
「さみしくなるよー」
「もっといたいのに」
「亜人のお姉さんの彼女連れてっちゃダメかな?」
「俺元の世界よりここがいい」
召喚メンバーから苦情が一部あったが、
「だめだ。全員帰る。元の世界にこっちのものを持っていくのは許すが、こっちの生き物を連れて行くのは許さん」
二一がいさめた。余計な事をして戻れなくなるのも困るし、だれかが残っていらんことになったら困るだろうが。
二一が心配しているのは、元の世界に戻るのに、元の世界にないものを持ち込んだり、帰りたくないという我儘を許して、変なことになっては困るからだ。
タニアにあった情報では、死亡者が出た以外は、基本的に元の世界にみんな戻っている。ここに残るというのは、異常を起こす可能性があるので、余計なことをしてほしくなった。
それはみんな分かっているので別れを惜しみながら次々とメンバーが戻っていき、後は二一と歩を残すのみとなった。
二一と歩には、各国の王があいさつをし、最後にルナルデッタ、クレアロッテ、サリアンが残った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、これでお別れなんだね……」
「二一さん、歩さん……」
「二一様……歩様……」
ほかのメンバーももちろん二一と歩と別れることは名残惜しそうにしていたが、感情的にさみしそうにしたいた。
「世話になったな3人とも、ツン子、あまり長いことは冒険できなかったが、ミドリンを倒すのも、魔王城の攻略にもお前の存在は必要だった。結構面白かったしな」
「楽しかったよ、サリアンちゃん……」
「………お兄ちゃん、お姉ちゃん、もっと一緒にいたかったよ……、早く出会えればよかったのにね……」
「もうツン子じゃなくて、デレ子になっちまってるな、泣くなって」
「世話になったな。ピッキー、これからもまだまだ大変だぞ、できる限りのことはしたが、最後はお前らの仕事だしな」
「…………はい…………本当にありがとうございました……二一様がいなければ……、私はきっと……」
「お前も泣くのか、耳折れもずっとありがとうな、お前が1番一緒にいてくれた……」
「……うう、ぐすっ、……うう……」
「お前はもはや泣いてるだけか」
クレアロッテに至っては言いたいことも言えないほど泣いていた。
「ルナ様……ロッテちゃん……」
歩も完全に泣いていた。
「お前らなぁ。泣きすぎだろ」
「だって、二一ちゃん、この別れって、またねができるお別れじゃないんだよ……。もう多分会えないんだよっ」
「うっ……」
「うう……」
「ぐす……」
「お前さぁ。そうだとしても言うなよ、余計湿っぽくなっただろうが」
歩の言葉は事実ではあるが、事実だけに辛い。そう、召喚のメカニズムがわからない以上は、ここで彼らが帰るということは、もう二度と出会うことがないということなのだ。
「二一さん……、私」
「それだけは許さんからな。ピッキーにも言ってるが、俺はお前らを連れていくことはない」
二一はクレアロッテの言いそうなことを先んじて言う。
「……わかっていますです……」
ポン。
二一は優しくクレアロッテの頭に手を置いた。
「耳折れ。お前は初めて出会ったときと比べて俺の思考をずいぶん強く受けたよな。だから、お前の考えは俺の考えにも近い。だから、ピッキーにはお前が必要だ。だから、仮にお前を連れていけるとしても、連れて行かない。ピッキーの力になってやってくれ」
「……はいです!」
クレアロッテは涙をぬぐって二一に笑顔で返した。
「ツン子もな。お前の存在は単純に力になるからな。タニアにいるなら協力してやっていいし、森に戻るならのんびり過ごすのもいいんじゃないか?」
「…………うん、頑張るよ。タニアの人のもお世話になったからね」
サリアンも気合を入れる。
「ピッキー、あの国には、もうお前に文句をいうやつはいないだろう。だから、お前は間違えないようにな。プレッシャーをかけるつもりはない。心配なら周りと話せばいい」
「……はい。ありがとうございます」
ルナルデッタも涙を流しながらも、笑顔で答える。
「帰るぞ。もう時間が厳しいらしい」
別れを惜しむ歩の手を引いて、二一も元の世界に戻るためのゲートに入る。
「二一様、もう会えないかもしれませんが……ずっと心にとどめています。あなたという存在が私たちの世界を助けてくださったことを」
「忘れませんです。あなたがいたことを」
「さようならお兄ちゃん、楽しかったよ」
最後に3人と別れて二一と歩が入ったところでゲートは姿を消した。
こうして異世界セーレンには、召喚者はいなくなったのである。
元の世界に戻った彼らは、日本の時間で1年行方不明になっていたことになっていて、戻ってからいろいろな話があったのだが、それはまた別の話。
偏屈な召喚者は異世界でも変わらない ~完~
偏屈な召喚者は異世界でも変わらないはこの作品で完結です。
今までご愛読本当にありがとうございました。
この作品は、現在34作品上がっている作品の中で、4作品目に書いた作品ですが、3作品目に書いた作品が非常に評価いただき、ややプレッシャーを感じつつスタートした作品でした。
いろいろネタを考えて構成をしっかりした作品で作成しましたが、逆に自由に動かせなくなり、感想で貴重な意見やご指摘をいただいても、うまく作れなくなって、1度3章で打ち切ってしまった作品です。
そのまま放置してしまいましたが、打ち切った後にブックマークもほとんど減ることがなかったこと、何より3名の方から続きを読みたいという感想をいただき、感想をくださっている方、ブックマークを減らさず残してくださっている方のためにも、続きを書いてみようということで、1年開いて4章を書き始めることができました。本当にこれについては感謝しかありません。二一達の物語を最後まで投稿できたことは、読んでくださっている方のおかげです。
原則としてプロットを考えずに、ある程度アドリブで書く自分が、35万文字近く作品を書けたことは、自分でも驚きです。
空白期間があるとはいえ、2年と4か月近くこの作品に付き合っていただきありがとうございました。
打ち切る前に、感想をくださった方にも感謝しています。続きを読んでくださっていればありがとうございました。続きをお届けできなかった方には申し訳ございませんでした。
現状かなり忙しいので、この唯一の連載作品を終えたら、なろうの書き手としては引退を考えておりましたが、書く時間は取れなくても、アイディアはありますし、別作品で評価をいただいて、お気に入りユーザーに入れていただいている方も増えましたので、毎日投稿ができなくなってもまだ続けようと思います。
いくら感謝の言葉をお伝えしてもお伝えきれないほど感謝しております。
本当にありがとうございました。
また別作品でご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。