第9話 最後の試練 魔王の正体
キンッ!
ヘルトメはヴォルペスクードを構えて、一直線に突きをするが、それを二一はきれいに受ける。
「おらっ」
そして、ヘルトメはすぐにもう空いた手で、フラムリーヴルを打つ。
「2個同時!?」
二一は国宝を2つ同時に使うことは予想していなかった。すぐに後ろに引いて回避するが、後ろに引くと同時に、また槍で突かれる。
とてつもなく速い動き、それは速度に自信のあるクレアロッテ以上の速さだった。
「初見でこれを回避できるか。面白い。こんな使い方はどうだ?」
ヘルトメはフラムリーヴルをヴァイスシュペーアに打つ。
すると、白い槍が赤色になる。
その槍を振り回して、二一に攻撃してくる。
「くそっ」
二一はドゥンケルハイトを闇+氷属性にして、火への適正を高くする。
ドーン!
永久凍土属性の氷は溶けきることはないが、ヴァイスシュペーアとフラムリーヴルの2つの国宝の火力もとんでもないもので、ずっと氷が溶けるような音がし続ける。
周りには水蒸気が充満する。異常な量で、何も見えなくなっている。
「そこだな」
スクロペトゥム・ミノリース・モディーを二一は構える。
「お前も2つ使えるのか?」
「使ったことはないが、使えるものを2つ持って使えないことはないだろう」
そして二一は銃を撃った。
「ぐぅ!」
二一の銃は視界が悪かったこともあり、ヘルトメには当たらなかったが、フラムリーヴルに直撃した。
フラムリーブルは破壊されたが、その動きの隙をついて、ヘルトメも槍を銃に直撃して、スクロペトゥム・ミノリース・モディーも壊れてしまう。
そして二一がドゥンケルハイトを攻撃した槍にぶつけると、ヴァイスシュペーアも壊れるが、ドゥンケルハイトも破損する。ドゥンケルハイトはさすが二一がずっと使っていた武器だけあり、破損はしたが破壊はされなかった。
「国宝同士が本気でぶつかるとこうなるのか。だが、これで」
二一は最後の武器であるヴァーテルベイルを投げる。二一はまともにこの斧を使ったことはなかったが
銃が壊れて、剣が破損した以上は、この斧を頼るしかなかった。
もちろん二一は全く使えないというのは良くないと思っていたので、多少は使えるようにしていたが、剣と銃がある以上あくまでも保険程度であった。
だが、アレン国の国宝ヴァーテルベイルは所有者が選ぶ武器ではなく、武器が所有者を選ぶ特別な武器。アレン国、そしてセーレン国を守るために、この武器は使用者に協力する。
「ぐぁぁぁ!」
ヴァーテルベイルは完全にヘルトメを捉える。
「これで終わりだな!」
そして二一はやや破損したドゥンケルハイトでとどめをさす。
そして周りは白い光に包まれた。
「見事だ…………。これで俺もようやく……あの世に行ける」
「ここはなんだ?」
「ここはさっきと場所は変わっていない。ただこの場所とこの時間は俺とお前の2人だけだ」
「何の用事だ?」
「お前はなぜ魔王である私が生まれたと思う? 私も前の魔王も、その前の魔王も……ずっと人間だった。魔王というのは、人間の悪感情の集まりでしかない。今お前の頭の中にも、いろいろな人間の悪感情が渦巻いているだろう」
「……そうだな」
二一がこの靄に包まれてから、彼の頭には、人間の負の感情、恨みつらみ、妬みなどの感情が流れてくる。
「なぜおまえはそんなに正気でいるんだ。俺は魔王を倒したときのこの感情に完全に飲まれた。そして、自分を見失って……、魔王になった。今の今まで……俺は自分の名前以外のことを忘れているほどの悪感情に飲まれた……。仲間がみんな元の世界に帰る中……、俺だけ……」
「そんな余計なことを考えるからだ。自分は自分だ。自分の味方も自分だけだ。自分には自分がついてるんだ。それを人にも求めなくていい。悪感情も気にする必要なんてない。100%好かれる人間はいない。世界中の人間が自分を嫌っていようが無視だ無視」
「…………そんな人間でありたかった……」
「俺みたいな人間は理解されるもんじゃないぜ。こっちじゃなんか無駄にみんな評価してくれてるが、元の世界に戻ったら、またつまはじきもんさ」
「ははっ。そんなもんか。だが、これで安心だ。負の連鎖はここでおそらく断ち切れる。これで魔王がまた生まれることはないだろうし、生まれるとしても200年よりずっと先になるだろう。これでやっとみんなのもとへ……」
そして魔王ヘルトメこと、源至留は死んだ。そして、新たな魔王の火種になることもなくなったのである。