第8話 最後の試練 VS魔王
「いよいよですね」
最初に戦って休憩を十分にとった和美が先頭に立って階段を上る。
この異世界に来てから短くない時間を過ごしてきて、いろいろな出来事があった。
そのすべてが終わる戦いになるのだから、全員緊張感を隠せなかった。
「プリンス、あんまり固くなるな。あんまり最後だとか考えるな。余計なことを考えると面倒くさいことになる」
しかし二一はいつも通りである。
二一にとっては最後の戦いも1つの戦いでしかないのだ。
「それでも……、やっぱり緊張するです」
クレアロッテも二一の肩の上で緊張している。同じく肩にいるサリアンも震えている。
2人して震えているので、二一本人が震えていなくても、震えているように見える。なので、全員緊張しているように見えたりする。
「ドアがありますね。開けて大丈夫でしょうか?」
「あの魔王は良くも悪くも正々堂々としてるから、大丈夫だとは思うぞ。でも慎重にな」
最初に魔王城に入るときに、きちんと段取りを説明していたので、魔王があまり卑怯な真似をしてこないと考えたが、一応警戒を二一はさせた。
ガチャ。
ドアを和美が開ける。
「あれが魔王……」
和美が入って、全員が4階に入る。
和美達の目線の先には大きな椅子がありそこに1人の男が座っていた。
見た目、大きさは限りなく人間に近いが、肌の黒さと角が人間ではないことをうかがわせる。
ミドリンのようにとてつもなく見た目が大きくはないのだが、そのオーラはさすが大魔王。距離があるのに、覇気を感じる。
「クックック。よくぞここまで来たな。どうやら見たところ、誰も欠くことなく来たようだ」
不気味な笑みを浮かべて、ヘルトメが足を組む。
「あんたが大魔王か」
「そうだ。そしてお前が勇者の二一だな。私の完全な計画をすべて台無しにしてくれたな。長い布石を打って準備をしていたのに。人間と亜人の対立を噂を回して流して、人間、亜人、魔物で3勢力で対立させて、魔物への対抗力を低くし、ルフトの不満分子を強くして、我々の仲間に引き入れ、アレン国も王を殺害して、混乱に陥れて内部からの破壊をさせて、ラルフもエドワードの殺害に成功して、その隙にタニアも陥れる作戦。作戦の実行そのものは成功していたが、作戦の結果としては失敗だ。そして、ミドリンを筆頭とした部下もほとんど失った。そして、隠し玉のイルも倒された」
「まだ俺が倒した覚えのないやつもいるはずだが?」
「お前が知らないだけだ。私はこの魔王城にお前らが来た時に、残っていた四天王のイクスナと四人衆の残りを各国に送り届けて、安定している国の情勢を混乱させようとした。だが、お前は、召喚者をバランスよく各国に派遣していた。そして、見事撃退した。私に残っているのは、もう私だけになった」
「おお、あいつらもよくやったな」
二一は、召喚メンバーをルナルデッタ達の王とも相談して、適性のある国に派遣していた。
「それで、どうするんだ?」
「これで私が勝っても、野望は事実上潰えたと言っていいだろう。また同じように世界を制覇するためには、また200年以上を費やすだろう。だから後はけじめとして私はお前らと戦う」
ヘルトメは立ち上がった。そのとてつもない迫力で。
「そのまっすぐな感情は嫌いじゃない。俺が戦う」
二一もドゥンケルハイトをもって、一歩前に出た。
「先輩!」
「お前らは下がっとけ。この魔王の底がわからない。まずは力量を見る」
和美が前に出ようとするが、二一が抑える。
「お前の武器はドゥンケルハイトか」
「ほかにも2つ使えるがな」
「私も2つ使うことができる。フラムリーヴルと、ヴァイスシュペーアを使用できる」
すると魔王は魔導書と槍を取り出す。
「あれは?」
「私たちの持ってるのと同じ?」
和美と里香が驚いていた。自分たちと同じものを持っていたからだ。
しかも、イルが持っていたような模造品ではない。間違いなく本物である。
「二一ちゃんっ。どうして国宝が2つあるの?」
「……なんとなく察してはいた。ヘルトメ、お前元人間だろ。しかも、元召喚者の」
「「「「「えっ?」」」」」
二一以外のメンバーがその二一の発言を聞いて驚いた。
「正解だ。やはりお前は察しがいいな。私の元の名前は、源至留。以前の召喚者の1人だ」
「やり方があまり魔王っぽくないからな。人間を相手にしているみたいだった。理由は知らないけどな」
「理由は私を倒したときに教えよう」