第8話 武器屋にて
「はい、では受理しておきます」
クエストを受けるために、ギルドに戻って、さっきとは違う女性に受けてもらう。
「出発は明日となっております。それまでに体調や、装備等を整えていただけるようにお願いします。集合場所はこちらになっておりますので、遅刻もされないようにお願いします」
「よし、装備を整えに行くか」
言われなくても二一達には装備が必要である。
まだ刀と杖とシスター服とテントと寝袋と干し肉しか持っていない。二一に至ってはまだ制服姿で、シスター服を着ている歩よりも目立っている。コスプレしながらピクニックに行くんじゃないんだぞ。
「武器屋も道具屋さんも目の前にあるし、金もある。後は、どんな装備をすればいいかだけ調べとくか。
『装備』
武器3種類、防具3種類まで装着できる。職業によっては前後する。
『魔法戦士』
使える道具が多いため、防具の枠を使って、武器を多く持つことができる。
『シスター』
杖しか武器がないため、防具は5種類つけることができる。専用装備であるシスター服は防御力、魔法防御力を戦闘時のみ上昇させる。
「まぁこんなもんか」
軽く調べて武器屋に入る。
「いらっしゃいませー」
先ほどのギルドとは異なり、元気な営業スマイルで来店を歓迎する。
ギルドは放っておいても人が来るが、武器屋はきちんとした対応をしないと嫌われてしまう。
日本における公務員と商売人の違いのようなものである。
「ずいぶん若い人が来ましたねー!」
「あなたもずいぶん若いみたいですが。店主の人はいます?」
二一と歩は確かに17歳で若いが、対応してくれた店主も同い年の女性くらいに見えた。
頭にバンダナのようなものを巻いて、前にエプロンををしている姿は、お父さんのお手伝いをしているように見える。
「いえいえ、ここは私の店ですよ。評判いいんですから」
まさかのその若い女子が、店を仕切っていた。
「大丈夫なんですか?」
「疑うんでしたら、見てください! 品揃えもいいですし、お勧めも的確にしますよ。あ、私の名前はエリカと申します」
二一は少し疑ったが、まだ日も沈んでおらず、ほかの店を探す時間はあるため、とりあえずここで見てみることにした。
「ではお2人とも、何をお探しですか?」
「何も持ってないから、全部必要だ」
「わー! 新人さんですか? でしたらカードを見していただければ、職業からいいものをお勧めしますよって、ステータス高いっ?」
1人でテンション上がって、冷静になって、またテンションがあがるという楽しそうなエリカであった。
「何ですかこれは、驚いちゃいましたよ!」
しかし舌を出して首をかしげる姿は、一般的な男子ならいちころにされてしまいそうなくらいにかわいい。
「いいから早くやれ。評判なんだろうが!」
だが二一には関係なかった。
「あ、はいすみません。でしたら、アユラさんには、この指輪2つと、小手と、髪飾りに後杖につける道具もありますので、これがお勧めです」
きちんとシスターが防具を5個装備できることを、リストを見ないで把握しているので、とりあえず常識程度はあると二一は判断した。
『クリスタルの小手』
人間以外からの攻撃の威力が大きく下がる。聖職者、シスター専用装備。
『沈黙封じの指輪』
魔法を封じる攻撃が無効化される。金色の指輪。
『銀の指輪』
守備力、魔法防御力が戦闘時のみ100ずつ上がる。
『赤の髪飾り』
致命的な一撃を受けない。
『道具守りの帯』
道具につける帯。道具の耐久力があがる。
「どうかな? 似合うかなっ?」
シスター服に、杖と同じ色のクリスタルがついた小手。ともに輝く金色と銀色の指輪。赤色の簪は黒髪に黒いシスター服に映え、杖にも赤色の帯が付き、実用性はもちろんだが、見た目にもより華やかになった。
「まぁ、いいんじゃないのか?」
笑顔でピョンピョンと跳ねる。
「ニークさんには、防具はとりあえずこの3つをお勧めします」
出されたのは大きな帽子と全身青の服と盾であった。
『魔法戦士の帽子』
攻撃力と魔法攻撃力が10%上がる。群青色である。
『魔法戦士の服』
群青色であるが目立ち、帽子とこれを着ているとだれでも魔法戦士であることを理解できる。魔法の発動祖速度が格段に上がる。
『竜の盾』
守備力が10%上昇する。とても軽く、性能もいい。
「まぁこれでいいか」
二一はエリカの意見に賛成した。
「武器は魔法戦士なので選べますね。ただいま『剣』と『闇』だけは確定していますので、後は選んでいただければ。魔法適正も武器適正も高いのですが、まだほとんど調整されていませんので、ご自由にしてください」
そう言われたが、ちょっと詳しくは分からなかったので、質問してみる。
「魔法の武器を使う場合は、武器と魔法の組み合わせはどうなる?」
「はい、ご説明します。既にニークさんは、『剣』と『闇』が確定しています。ここにたとえば、『斧』と『火』を追加したい場合です。ここに『斧』をまず追加した場合は、『斧』は単独でのものになり、この『斧』には何もつきません。そしてCランクになって『火』を追加すると、『斧』と『火』が確定します。魔法戦士以外でも、魔法の武器は使えるんですが、通常は、剣と闇、斧と火、で組み合わせが確定しますと、その後で、剣と火、斧と闇、にはできません。それはまた新しい魔法としてカウントされますので、それをやるには、またレベルを上げなければいけません。ですが唯一魔法戦士の特有の特殊能力があれば例外的にできます」
「職業につくと特殊能力がつくのか?」
「はい、職業特性というものがあります。こちらをご覧ください。ちなみに、装備は戦闘時に効果を示すので、装備品によるプラス効果はここには表示されません」
若松二一 17歳 レベル5
HP 900
MP 330
A A(1261)
D C(911)
MA B(1091)
MD C(921)
S B(1081)
L G(191)
職業 魔法戦士
特殊能力 言語理解A 武器適正A 魔法適正B
性格特性 偏屈 情報通 凝り性
職業特性 武器魔法合成
装備 ドゥンケルハイト 魔法戦士の帽子 魔法戦士の服 竜の盾
中野渡歩 17歳 レベル5
HP 291
MP 530
A G(2)
D A(1255)
MA C(901)
MD A(1201)
S E(402)
L A(1303)
職業 シスター
特殊能力 回復A 祈りA 魔物特攻B 言語理解F 魔法適正A
性格特性 二一信頼感 鈍感 おおらか
職業特性 神のご加護
装備 シスター服 クリスタルロッド クリスタルの小手 沈黙封じの指輪 銀の指輪 赤の髪飾り 道具守りの帯
確認してみると、確かに職業特性という欄が追加されていた。ついでに装備品も書かれていた。
「ちなみにアユラさんの『神のご加護』は、戦闘の際に、自身と自身の周りにいる味方の幸運を大きく上げるものです。そして、ニークさんの『武器魔法合成』は通常の人では出来ない武器と魔法を自由に組み合わせることができます。この能力でニークさんは、現在の剣と闇を、この後に追加する武器に自由に組み合わせることができます。つまりそれぞれ武器と魔法を極めた人が、3種類しかマスターできず、武器と魔法を両方極めた人でも6種類しかできない攻撃の組み合わせを、魔法戦士の人だけは武器3種類と魔法3種類を組み合わせることによって、9種類の攻撃手段を持つことができます。この多様性が魔法戦士の強さです」
「なるほど……」
一応詳しく調べてみようかと思い、情報通を使う。
『武器と魔法の組み合わせによる魔法道具について』
魔法道具はもともとその武器そのものに魔法がついている場合と、普通の武器に魔法の属性をつける2種類がある。
いずれの場合も、武器適正と魔法適正の両方を満たさないと使用はできない。
魔法の属性が1度ついた武器は、その状態で安定して、はずすことは出来ない。
武器適正、魔法適正の両方を満たしていれば、魔法戦士でなくても複数の魔法道具を使うことができるが、同じ武器に違う魔法をつけた状態では持ち歩くことが出来ない。(例、剣+火、剣+水はできない)
魔法戦士が例外なのは、魔法属性のついた武器から、魔法を一旦取り外して、違う武器に付け替える能力があるからである。
たとえば、剣+火と、斧+水の魔法武器を持っている場合、通常の職業である場合は、ここに別の魔法のついた剣と斧は持ち歩けない。
だが、魔法戦士だけは、火の属性と水の属性を一旦武器からとって、それぞれを付け替えて剣+水、斧+火にすることが出来る。
そのため、魔法戦士は攻撃方法が多くなるのである。
「例文までつくのか」
1人ごとで二一がしゃべる。どんどん情報通のスキルが神スキル状態になっていっていることに、謎の不安を感じずには得られなかった。Sランクとはいえ。
だが予想以上に魔法戦士が便利で、これを選んだ自分の判断を正解だと思っていた。
「じゃあ、とりあえず魔法は……。ちょっと考えるから待ってくれ」
「はい、ゆっくりどうぞ」
「魔法と武器を調べてみるか」
「剣」
小回りが利くが、威力は低め。
『斧』
威力はあるが、命中率は低い。
『槍』
バランスがいい。
『銃』
連射性能に優れるが、命中率が低い。銃ごとにも性能の差がある。
『弓』
命中率は高いが、連射性能は低い。
『投擲武器』
武器によって異なる。ブーメラン、爆弾、苦無、手裏剣、手榴弾など多種にわたる。
『火、雷、土』
威力が高い、命中率が低い。
『水、氷、風』
命中率が高い、威力が低い。
『光』
命中率がかなり高い。威力は高くない。
『闇』
威力がかなり高い。発動速度が遅い。
「8種類ずつあるのか、じゃあ……」
カラン!!
「おい、この店の店主は誰だ!?」
そこに大きな男性が3人ほど入ってきた。
「はい、私ですが?」
エリカはその大きな男たちが相手でも特に物怖じはしていない。さすが武器、道具を扱う店の店主だと、二一は感心した。
歩はおもいきり二一の後ろに隠れているが、震えたりはしていないだけまだ一般的な高校生女子と比べて図太いとも言える。
二一はその様子をただ見ているだけ、図太いとかどうとかそう言うレベルとはまた彼は異なる。
「俺達は今回のクエストのタニア侵攻の先行する部隊のメンバーだ。そのための武器や道具を貰いたいと思っている。連絡は後に我々のリーダーから連絡が行く。先に物だけ持って行かせてもらってよろしいか?」
「はい、どうぞ」
すると3人は武器や道具を物色しはじめる。
「おいあんた」
二一は少し気になることがあり、エリカに耳打ちする。
「はい。どうされました?」
「こういうことって良くあるのか?」
「いえ? ですが今回のクエストは結構大掛かりにされるそうですし、協力は必要です」
エリカはそう言うが、二一はどうも疑わしかった。
「おいあんたら、本当に正式なクエストメンバーか?」
そして日本でも彼を問題にした、気になったことを解決するまで追求する凝り性と偏屈さが、スキルではなく性格として発動した。
二一と歩のこの異世界での対人戦闘が初めて行われたのは、この時であった。