風邪は辛いヨ
いつも通り私、カナは昼休みになり、ハルトに会う為に屋上へと向かった。
立ち入り禁止と書かれた重たいドアを勢い良く開け、屋根の上に登るも、そこにいつも寝て、サボっているハルトの姿はなかった。
「……アレ?」
また、休みだろうか。
一応携帯の電話番号などは知っているため電話をかける。
プルルル、プルルル…
十回ほどなっただろう。
「…………でない。」
なんとなく不安になる。
いつもだったら切るか死ねと言って切るのに…。
確認の為もう一度かけた。
プルルル、プル、
「もしもし」
でた。
ほっ、と安堵の息がでる。
「ハ、ハルトさん!何処にいるんですか?」
「家…」
その声はいつもよりもなんだか鼻声に聞こえる。
「ハルトさん風邪ひいた…んですか?」
ズズッ、と鼻をすすると鼻声が意地をはって答えた。
「ひいてない。」
「いや、ひいてますよね!?」
咳も激しく、本格的な風邪のようだ。
季節も変わり寒くなってきているのにこんな外で毎日寝ているからだ。
自業自得。
「ちゃんと寝てますか?ゲームセンターとか、遊びに行ってませんか?」
「ゲームセンター行かない。」
そこを聞きたいわけではない。
「ちゃんと安静にしていてくださいね、学校終わったらお見舞いに行きます!」
「来なくて良い」
あっさり否定され、なんだか胸がきゅうっ、となった。
「行きますから…。」
そう言って電話を切った。
あそこまで長く話せるとは思わなかった。
電話越しにハルトと話して心臓がバクバクしてる。
電話だけで嬉しくなれる自分がバカみたいだ。
授業が終わり、ハルトのクラスに行くとちょうどその事でもめていた。
「おい、誰があいつのとこ行くんだよ」
「どうせあいつなんかプリントいらねーだろ、ろくに授業もでてない癖によ。」
「はやく留年しちまえば良いのにな」
勇気をだして、声をだす。
「あの…」
三年の男子が数名こちらをみた。
「一年生じゃん、どうしたの?」
「いや、そのプリント…届けに行かせてください。」
ハルトの家についた。
ここに弟と二人暮らしなんて思えない。
とても立派な一戸建ての家だ。
一応お見舞いとして果物をいくつか持ってきた。
ドッキリ的な感じで家に来た事はあったが面と向かってくるのは初めてだ。
インターホンを押す。
少し待つとドアがあいた。
ドアを開けたのはハルト、ではなく、ハルトに似た男性だった。
髪は黒く直毛だが、目つき、顔の形が完全にハルトだ。
「誰。」
その声もハルトと似ている。
「もしかして…ハルトさんの弟?」
「うん…まぁそうだけど。彼女?」
「えっ!?」
弟からでた言葉に思わずドキッとする。
彼女!?彼女に見えちゃう!?
「まぁいいや、クソ兄貴看病するのめんどくさいから、あとよろしく。」
「え、あ、ハイ…」
そう言うとハルトの弟は家を出て行った。
そういえば、弟とは言えど、アレは学生だ、
…学校はどうしたのだろう。
そこは気にしないであげることにした。
「は、入っていい…んだよね。」
恐る恐る歩きながらもハルトの部屋へと向かう。
ハルトの匂いと、ミントの匂いが混ざり合ったような香りが家にただよってる。
部屋につき、ドアを開けると目の前にはハルトがいた。
「え?」
ハルトは私によしかかるように倒れて来る。
全体重が私に捧げられ、バランスを崩しそうだ。
「…!?!?」
「なんできたの。」
そのまま力強く抱きしめられる。
ハルトの匂いと温もりに私の脳内はパニックを起こし始めた。
普段は触れる事さえ嫌がられ、弾かれるのに、今は寧ろ本人から触られている。
「い、いや、プリントを」
「そう…」
「ハルトさん…?」
身体をどけようとしても全く動かない。
「お前、あったかいな。」
「は!?」
そう言って私からはなれ、ベッドへとふらふらと歩いていった。
状況が何も理解できない。
ただハルトは咳をしたり、鼻をすすったり、体調はとても悪そうだ。
「ハルトさん、ちゃんと寝てないと。」
「喉乾いて。」
「水とってきます、あと冷えピタと、あ、ご飯はたべましたか?」
「食べてない。」
「あ、じゃあお粥を作ってきますね、勝手に作って良いですか?」
「何、お前こっから離れる気?」
行こうとした所、ハルトのてが腰にまわされる。
私は思わずビクッと反応した。
「あ…キッチン使っちゃダメでしたかね…?」
話題を逸らそうとするも、ハルトは私をベッドの上に引っ張った。
「ハルトさん何処かに頭うちました?」
「うってない。」
ハルトの手が顔をこちらにむける。
迫ってくる顔に何も抵抗ができない。
顔が近…
耐えきれず肩を掴み奥へと押す。
「お粥作ってきますね!」
私は恥ずかしさと共に部屋の外へとでた。
体調が悪いとああなるのだろうか。
心臓がいくつあっても足りない。
それくらい心臓がバクバクと音をたてていた。
「…キッチン、どこかな。」
「ハルトさん!作ってきましたよ!」
我ながらうまくできたお粥を、ベッドの隣に置かれている小さな机の上に置く。
「ありがと。」
その一言でさえ、嬉しい。
「冷えピタも持ってきました、はい。」
ハルトはおでこを指差しこっちを見る。
「はれ。」
「はれって…」
「はって。」
いつもより少し顔が赤い。
その顔で見つめられると何も言えなくなる。
「なんでそんなことすらできないんですか…」
そういいながらも髪をかきわけ、おでこに冷えピタをはった。
「力はいらない」
少し冷たそうな顔をするのが可愛い。
「さっきがっちり……つかんできたじゃないですか。」
「お粥も食べさせて。」
舌を出してくる。
「言うと思いましたよ。」
「口うつし。」
「ぶっ!」
思わずふきだす。
「そ、それだけは無理です!!!」
「あー」
開けてくる口にお粥をスプーンにのせ突っ込んだ。
「あつ!」
「あぁ!ごめんなさい!」
「冷まして。」
何処までわがままなのだろうか。
口を開けた時、少し舌を出してくる。
その姿は、とても官能的だ。
これは外見のせいもあるかもしれないが。
「何見てんだよ」
「え、そんな見てました!?」
「ずっと見てる。」
まっすぐに目が合った。
恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
「ふっ」
…鼻で笑われた。
「風邪ってうつせば治るよな。」
「え?」
そう言ってハルトは私の手を引っ張った。
そのまま、ベッドに押し倒される。
目の前にはハルトしかいない。
私より一回り大きい体格。
ずっとハルトが寝てたからか、ベッドが熱い。
「ハ、ハルトさん…?」
「能力も無いから、すぐに治せないんだよ。」
「そ、そうですね、あの…」
ドンドン自分の体温があがっていくのを感じた。
そう、私は何の警戒もせず男の部屋に入ってしまったのだ。
ハルトも、立派な男。
女に興味はないとは言えど、今のハルトは…
少し怖くもなっていると、ハルトが私の上に覆いかぶさり抱いてきた。
「ひゃあっ!」
あたたかい。
心臓がまた高鳴る。
ハルトと私以外、ここには誰もいない。
「ハルトさん、離して…ははは離してくださいぃ…」
首にハルトの髪があたってこちょばしい。
「風邪をうつすにはどうすればいいと思う?」
「え?」
少し笑ってみせると私に顔を近づけてきた。
「バーカ」
耳元で囁かれる。
「え?」
「ちょっとハルトさん!!!!」
ハルトの顔をみるともう既に寝かけていた。
「あ、あの…」
からかわれていたのだろうか、恥ずかしくなる。
それと同時に腹もたってきた。
「…もう、帰りますね、」
起きようとするが、起きられない。
「足が…重い…」
がっちりと私の足に絡めて動けないようにされている。
「もう少しだけ…」
ハルトは寝息をかき始める。
そんなハルトの横に寝そべった。
何故あの状況で眠たくなれるのだろうか。
「今ならばれないよね。」
ハルトの口に自分の口を近づける。
起きてなければ、できる気がするの。
「バレてるよ。」
ハルトが目を開けた。
そのまま、口が合わさる。
柔らかい感触が私の全神経を溶かした。
「ハ、ハルトさ……」
「風邪うつってもお前のせいだから。」
悪戯に笑うその表情に何も言えないまま、時は過ぎていった。
翌日
恥ずかしい事ながら、ばっちり風邪がうつった。
そりゃそうだ。
自分が馬鹿らしい。
「ハルトさん、風邪治ったかな。」
ピンポーン。
インターホンがなる。
宅配だろうか、私がでなきゃ…
ヨロヨロとする足をなんとか動かそうとする。
足は動かない。
こんなにも力がはいらないのか。
行こうとする私に対して、部屋のドアがいきなりあいた。
「ひっ!!」
心臓が飛び跳ねる。
「調子どう。」
無表情のハルトが入ってきた。
「ハ、ハルトさん…?」
「昼休みになっても来ないから、風邪うつったのかと思って。」
昨日の事を思い出して少し恥ずかしくなる。
ん?
時計を見る。
「いや!ハルトさん!まだ学校終わってませんよね!?」
「抜け出してきた。」
「な、なんでまたそんな事…」
「…」
何も言わずハルトはベッドに顔を伏せた。
「なんか、暇だったから。」
それは、さみしかった、と受け取っていいのだろうか。
「ハルトさん、寂しかったんですか?」
少しハルトの肩がビクッと反応した。
か、可愛い…!!!
頭をそっと撫でる。
「…やめろ、殺すぞ。」
きっとハルトの顔は青ざめているだろう。
そう思うと撫でる手は止まった。
「ハルトさん、お見舞いにきてくれてありがとうございます。」
「別に…」
風邪を引いてるのに私は、幸せな気分だ。
「ほら、なんか作ってきてやるよ、何がいい?」
「えっと…おかゆ!」
今度は私が、たくさん甘えさせてもらうんだから。