閑話 とあるRMTプレイヤーの無限地獄
小松匠はほんの少しだけ、レギオンフラッグの世界から離れていた。その間にレギオンフラッグの世界ではとんでもない事件が起きていたりする。これはその記録の一部だったりする
翌日からは俺、小松匠はレギオンフラッグにログインできなかった。
近所に住む従姉妹が子供を連れて遊びに来たからだ。
小っ恥ずかしい話だが、小学校低学年の頃には当時中学生だった従姉妹に本気で恋をして、将来、お婿さんになってやる!と宣言したものだ。
さすがに小学生、それも低学年の頃の話。成長するに従い、従姉妹である彼女も彼氏を作り、俺も高校入学に合わせて彼女を作り、それぞれが疎遠となっていた。無論、会おうと思えば会えたが、きっかけもないし、日頃の忙しさもある。そのため、盆暮れ正月などのイベントの時ぐらいにしか会うチャンスがなかった。
そして結婚した彼女は今では立派な主婦として家庭を切り盛りしていたりするが、時折、子供を連れてくる。そういう時は大抵、遊園地や動物園などでの子供たちのお世話係として引きずり回されるだったりする。買い物の時の荷物持ちや運転手役だったりもする。
旦那さんもいるが、子供が3つ子ということもあり、いくらイクメンであろうとも辛いらしい。
結果として暇な時間が結構ある大学生である俺も時折駆り出されるわけだったりする。
おむつを変えるときに顔に目掛けて、おむつの中にある水鉄砲でヘッドショットかまされ、全身びしょ濡れになったりするが、それでも赤ん坊は可愛いものだ。
この間にとても痛ましい事件が起きているとは全く知らなかった
レギオンフラッグ内:ブリタニア保有エリア・ロンドン
かつては力ある同盟の旧Euro勢力は経済危機を無理やり解消しようとした結果、さらに経済情勢が悪化。結果として経済通貨としてのEuroは下落。Euro全体が支援を求め、英国に身売りしたことにより、欧州は英国の通貨、ポンドの信頼で何とか持ち直し、以降、旧Euroのように統一通貨となった。ただし、旧Euroの反省を活かし、各国はそれぞれの独自通貨を復活させ、それとのレートでポンドとの交換比率が変わるとなっている。国際的な取引では旧Euroを統一した英国、現在ではブリタニアと呼ばれるブリタニアポンドが、日常的な買い物では独自通貨が活躍することが多くなっている。
そのブリタニア首都、ロンドンは現在、銃撃戦の真っ最中だった。
「いたぞ!追え!絶対に逃がすな!ギルドの運営資金のためにも賞金はゲットだ!」
「させるか!賞金は俺が頂く!」
その男はロンドン中の兵士から追われていた。文字通りNPC以外の腕に自信があるプレイヤーキャラクターから逃げ回っていた。理由は簡単だった。バージョンアップに伴う新システム導入だった。
その新システムとは敵対国関係というものだった。一定以上の敵対値を稼いでしまうと敵対関係となり、関係のある国の施設に近づくだけで戦闘開始となり、敵対関係にある国に入ると即座にレーダーに発見されやすくなり、結果としてPKの標的として狙われるというエゲツナイものだった。
そしてその男の敵対国はすべての国から最悪ランクの国際指名手配テロリスト認定を受けていた。
それこそ、母国という設定であるはずの朝鮮中華統一同盟からも処刑認定を受けており、逃げる場所はなかった。
その日は普通にログインしただけだった。ただ、違うのは前日にチートプログラムを流し、アイテムと弾薬、所持金を無限大にしたこと。
そして、その報復と言わんばかりにイベント戦の標的とさせられたのだった。
ルールは以下のとおり
1:テロリストが50回倒されるか、30分逃げ切れば1回、イベント戦闘が終了する。終了まではログアウトは一旦停止とする。
2:使用武装はテロリスト、警備兵側もハンドガンタイプの武装及びナイフアタックのみとする。ただし、バランスを考え、テロリストは装備できる弾薬数を無制限とする。
3:イベント中はテロリストは目撃されたら、全てのプレイヤーにその情報を共有化される。結果として完全に隠れることができなければレーダーに常に捕捉される
4:イベント中は警備兵側が行う市街地での発砲によるオブジェクト破壊、並びにNPC被弾による憲兵隊による取り締まりは実施されない。ただし、取り締まりに関してはテロリストのみ、標的となる。
5:このイベントのフィールドは6大勢力の首都+野外にて合計7回行われる。
6:このイベントで数多くテロリストを発見し、倒したギルドとプレイヤーには討伐回数などに応じて報奨金などが進呈される。
そう、今、走り回っているその男こそが記念すべきイベントの標的となっていた。
「くそ!くそ!くそおおおお!!何なんだ!ここの運営は!普通ここまでしねーぞ!ログアウト機能強制停止に強制イベント戦闘って!普通ならアカウント停止ぐらいだろうが!!」
レーダーには捕捉されているため、常に逃げて撃ち合う必要がある。360度すべてが敵というエゲツナイ状況を逃げろというのは無理がある。
そんな男の目の前に一人の少女が立っていた。
その少女は見た目は14歳ほどだろうか。戦闘に向いているとは思えない華奢そうな身体つきに服は白いメイド服風のドレス。どこぞの生産職ギルドに作らせたものらしく、どうみても戦闘用には見えなかった。
男は焦っていて、ここがゲームの中であることを忘れていた。リアリティのありすぎる戦場に今までありえなかった状況。助かりたい一心で、その少女の腕を掴んで人質にしようとした。
そして肝心のことを忘れていた。ここは今は戦場に設定されており、いつでも撃てるし、撃たれる覚悟が必要な場所だということを。
「・・・こい!」
もはや、人質にしてしまえとしか考えられなくなった男は手を伸ばし、その少女の細い手首を掴もうとしてみるが、いきなりその少女の左手首から小型のハンドガンが飛び出してきた。
ダブルバレルデリンジャー、女性向けの小型拳銃の代表作だが、拳銃には変わりない。そしてその銃口は男の右膝に的確に向けられ、放たれた銃弾は膝を撃ち抜き、動けなくしていった。
「あら、ごめんなさい。でも、わたくし、いきなり女性を捕まえようとする粗野な人は罰を受ける必要があるのではと思うのですけど?少なくとも頭ぐらい撃ち抜かれる覚悟しないとダメではないでしょうか」
優しくだが、毒舌を吐くメイド服の少女が微笑みつつ、スカートを翻して見せれば、右手には明らかに少女には似つかわしくないロングバレルカスタムの大型ハンドガンが握られていた。
その銃身は男の右手に狙いを定めるとハエでも叩くかの如く、無造作に男が握っていたハンドガンごと、使えないように3発の銃弾を一度引き金を引いただけで連射して見せた。放たれた銃弾は男の右手を撃ち抜き、使い物にならなくなっていた。
「純白のベレッタM93Rロングバレル限定カスタムモデル、白いメイド服・・・そしてブリタニア・・・・。まさかお前が噂の!ブリタニアの白き魔女!黒い微笑の純白メイド!斉凛!ブリタニア屈指の攻略組ギルド、キャスリングのサブマスじゃねえか!」
「あら、噂はご存知でしたか?ちなみに攻略組とは思っていませんわ。ギルドの内装は喫茶店ですから。お客様として、お越しくだされば英国自慢のロイヤルミルクティーとケーキなどで、おもてなしいたしましたのに。チートプログラム走らせるような人を許せないだけですわ。純粋にゲームを愛している者として」
凛の持つ銃口は男の右手から頭へと狙いを定めていた。そんな時、いきなり複数のスローイングダガーが上空から降ってきたかと思えば男にすべて命中、身動きが取れない男は抵抗もできないまま、絶命。
そしてポリゴン情報へと砕けていき、リスポーンのためにロンドンのどこかへと飛ばされていった。
「まったく、こんな雑魚にいつまで構っていたんだか・・・。喫茶店の運営費はいくらあっても足りないからな。凛ももっと手早く仕留めないと」
そんな声がすると屋根の上からジャンプして見事に着地を決める黒ずくめの少年の姿が凛の目の前に現れた。
「あら、これはルナジョーカー様。マスター自ら止めですか。ですが、あの手のチートしている人にはもっと苦しみを与えたほうがいいと思いますが」
「だったら、二度とこの世界でチートをしたくないと思わせることができるほど、派手に殺しまくればいい。大事なものを守りたいならな。まあ、俺の場合は銃よりも刀剣類を使ってみたいという感じもあるが」
普通、傭兵なら銃の方を重視するが、家が古流剣術道場らしい少年、ルナジョーカーにとっては刀剣の方が専門と言わんばかりに両腰に一対の刀剣を下げていたりする。一応、分類はナイフに準じるなので日本刀だろうが、西洋剣だろうが、青龍刀だろうが、刀剣に関するスキルを上げまくれば何でも使えたりする。
それでもナイフではなく刀剣をと言われると個人のロールがそうさせるという物らしく、キャスティングのギルドマスター、ルナジョーカーの名物ともなっていたりする。
「さあ、そろそろ標的もリスポーンする頃だ。探し出してポイント稼ぐ、それだけだ」
「はい、分かっております」
二人は次なる標的を探してロンドンの街中を一生懸命駆け抜けていった
そして、強制戦闘イベントが終了した時、チートプログラムを流したその男は自宅で目を覚ましていた。
7つの戦場を強制的に駆けめぐらされ、無数に浴びる銃弾、終わりのない擬似的な死の感触。無論、死は擬似的だし、被弾もエアガンのBB弾を食らった程度だが、終わりが見えないというのはある種の苦痛でしかなかった。
ヘッドギアを外し、ベッドから起きる頃と時間はもう深夜を回っていたりする。
「なんつー運営だ。もう二度とやらねーし、つーか、ネットにこの情報拡散させるか」
そんなことを呟くとドアのチャイムがなった。
「夜分、遅くすいません。開けてもらえませんかねー」
電気はつけていなから居留守すればいいと思い、放っておくと突然鍵が開けられ、中に多数の警察官が入ってきた。
「えー、大家さんに頼んで合鍵で開けてもらったよ。君、クラッキングしたんだって?不正アクセス防止法違反、刑法の電子計算機損壊等業務妨害罪、これで君に捜索差押礼状と逮捕状出ているんだわ。来てもらえるかな?」
そう言って、優しげな顔をした刑事は胸元から二枚の礼状を差し出し、男に手錠をかけた。
こうして一人のRMTプレイヤーの経歴に大きなダメージを負うこととなった。自業自得ではあるが。
えー、まずはキャラ設定、ギルドの設定を貸してくださった斉凛さん、ルナジョーカーさんに感謝を申し上げます。
お二人とはなろうコンを主催していたクラウドゲートのゲーム、エリュシオンで知り合い、斉凛さんに試しにキャラを小説の中で出していいですかと聞いてOKがもらえたので、今回登場してもらいました。非常に感謝します。
それでは今回の用語説明を・・・
RMT=リアル・マネー・トレードの略称です。現実世界のお金とゲーム内の通貨、または激レアアイテムとの交換をするという奴です。各ゲームではキャラを登録する際にたいていRMTに関しては禁止とはっきりと書いています。が、一部のプレイヤーが組織だって、または個人レベルでやっていたりする物です。ハッキングでアイテムデータをいじったりして不正に入手すれば刑法に触れます。またそうでなくとも規約に従い、アカウント抹消とかされますので、絶対にやめましょう
ベレッタM93Rロングバレルモデル=実銃では存在していませんが、映画用のプロップガン、そしてエアガンでは存在しています。映画ロボコップシリーズでロボコップが使用していた銃身の長いマシンピストル。その原型がベレッタM93Rだとされます。もっとも、映画ではM93RのベースとなったベレッタM92を改造したプロップガンが使われているようです。理由は銃規制に関する規定に引っかかるからです。フルオートや三点バーストなどの火力が異常に高い銃は民間には持たせないことになっていますし、そもそも、ベレッタM93R自体が警察などの法執行機関向けの限定受注生産品となります。そのロボコップの銃を日本のエアガンメーカーがオートナインの名称で開発、販売したところ、プロップガン製作者たちが一番苦労した3点バースト機構も再現出来たというのはすごいと絶賛したそうです。