チュートリアル最終章 初めての大規模戦闘
基本的な戦闘訓練を終えたアルフォード・オーランドこと、俺、小松匠はついに最後の試練、大規模作戦へと参加することとなった。
そして驚異の戦場とその裏側での攻防戦は如何に?
「さて・・・行くか」
ネット上では不穏な噂はいくつか漏れ聞こえてくるし、防衛省はゲームに出てくるT-heartsと全く同じような防護用装備を開発とか、色々胡散臭く感じるが、それでもこの【レギオン・フラッグ】の楽しさは変わらない。疑似体験とはいえ、戦場という非日常を体験できるんだ。
ヘッドギアを装備し、ベッドに横たわれば感覚はすべて、VRシステムへと持って行かれていく。
相変わらず、ユーザールームは机と椅子だけの質素な部屋。そこにメールが届いた。
『【レギオン・フラッグ】戦旗の下に集いし者たち運営委員会です。ログインありがとうございます。キャラクター登録記念アイテムとしてユーザーエリア用【レギオン・フラッグ】公式ポスターを進呈します』
メールを開くとユーザーエリア用に進呈されるポスターが手に入った。
一部のゲームではユーザーエリア用のアバター用衣装や内装を変えるアイテムをクリア実績に応じて進呈されるみたいだ。
アクション系なら主人公が来ていたコスチュームセットとか小道具の武器とか。
ロボットシミュレーションなどでは登場する機体のフィギュアなど。
恋愛シミュレーションだとクリアした彼女との思い出のフォトなどらしい。
とりあえず、質素な部屋のままだし、貰ったからには飾るのかどうかはこっち次第だ。部屋の色合いを床はフローリング風に、壁の色を白くして机の側の壁にポスターを張り付けてみた。
なかなかのものだ。
VRシステムのユーザーエリア用拡張プログラムを買えば宮殿も再現できるらしいが、今はそんなのはどうでもいい。
今の目的はゲームだ。左手に装備しているように見える仮想タッチパネルから【レギオン・フラッグ】のアイコンを探し、即座に起動する。
・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「久しぶりだな。クソガキ、今日はどうする?今から特技兵などに関する上級スキル訓練を受けるか?それとも、大規模戦闘を経験するか?好きな方を選べ」
いつもどおり、ログインしてゲーム再開を選ぶと、これまたいつもどおりの教官が、いつもどおりに強面の笑顔で迎えてくれた。そして宣言を受けて目の前にメッセージが現れた
『基本的戦闘な訓練は終了しました。今回は特技兵、戦闘工兵、狙撃兵の特殊な武装を取り扱う上級者向け訓練を受けるか、本来のシステムである大規模戦闘を経験してもらいます。なお、上級者向け訓練はいつでも受けることができます。ただし、受けていない場合は訓練内容に応じた武装を扱いきれない=未熟とみなされ、命中率や取り扱いなどに不利となる場合があります。しかし、まったく使えないということは爆弾を除き、判定されません。ただし、ランクアップ条件がアンロックされないのでランクアップできないとなっています』
さて、まずは武装だが、確かに爆弾は専門性を必要とするからだろうが、とりあえず、まずは大規模戦闘を経験することにした。
「大規模戦闘を望むか。いいだろう。まず大規模戦闘では武装を予め選択して記録するプリセット武装を登録しておく。全員が全員、同じ武装では大規模戦闘では勝てない。そこで大規模戦闘などのリスポーン可能な戦闘の場合、プリセット武装システムを採用しているわけだ。それぞれがやりたい役目にあった武装を選択する。簡単だろう?」
そう言われ、プリセットされている武装のリストを見てみた。
・突撃兵【アサルトライフルとハンドガンを使用する一般的な歩兵、中近距離での基本的な戦闘を得意とする】
・偵察兵【サブマシンガンで戦う素早い歩兵。発射速度は早いが、あくまでも拳銃弾を使う為、アサルトライフルより威力がない。しかし室内などでは取り回しがいい上、適応する拳銃弾をそのまま使えるのでハンドガンから弾薬補充もできる】
・軽機関銃兵【ライトマシンガンを使用する高火力な歩兵。銃が重たいので移動力は低めだが、凄まじい火力は頼りがいがある。ただし、銃によっては再装填に時間が掛かることがある】
・特技兵【応用訓練経験推奨。対戦車ロケットランチャーなどの特殊武装を使うことができる専門兵。ただし、扱うものが扱うものであるがため、持ち運べる弾薬数が限られている。故に自衛力が低いことになりやすい。ランクアップにより、取り扱える武装の種類が増える。ランクアップアンロック条件:応用訓練終了】
・操縦兵【トラックやジープなどの一般車両、スキルがあれば戦車も操縦可能。ただし、自衛武装は基本的にハンドガンのみとなり、操縦するものでの体当たりなどが基本戦術となる。なお、他の歩兵が同乗している場合は車載機関銃なども使用可能となる。ちなみに操縦時、車両が大破した場合は同乗者も含め、即死判定がでる。注意としては体当たりは味方にもダメージ判定がなされることである。戦車操縦資格習得条件:各国正規軍所属後に受ける戦車操縦資格習得訓練終了】
・衛生兵【メディカルキットを大量に装備し、戦場を駆け巡り、負傷兵に応急処置を行うことができる。武装はハンドガンのみとなり、倒れている兵士に薬による体力回復が可能。ラングアップすることで回復量が増えたり、処置できる箇所が増える。ランクアップアンロック条件、応用訓練終了】
・狙撃兵【もっとも遠距離から攻撃できるスナイパーライフルを取り扱う。しかし逆に肉薄されると銃の取り回しの悪さから非常に打たれ弱くなる。護身用にハンドガンもあるが、牽制に使う程度。命中精度はランクアップに応じて向上。ランクアップアンロック条件、応用訓練終了】
・戦闘工兵【現在アンロック状態。クラスアンロック条件:応用訓練終了。地雷や爆発物の設置、解除を専門とする技術者。地雷を仕掛けて遠隔爆発させることに長けているため、防衛戦やオブジェクト破壊が得意。中には爆弾で戦車を破壊する猛者もいる。ただし、自衛武装は基本的にはハンドガンがメインとなるため、打たれ弱い】
「この中から好きな職種を選んで出撃、やられたら10秒程度のリスポーンタイムがある。その間に職種を変えるのもありだ。なお、武装は今はプリセットされている分しか使えないが、後々には購入や開発で使える武装が増えていく。では次に説明するのは基本的な大規模戦闘でのルールだ。しっかり頭に叩きこめろ」
・チームデスマッチ【いわゆる2つ、条件次第によってはそれ以上の戦力との総力戦。とにかく相手を倒しまくり、味方に被害を出さないことが勝利条件となる。勝利条件:敵を倒し、先にポイントを一定数貯めたほうが勝利】
・ドミネーション【戦場各地に点在する小規模拠点、そこを占領することによりポイントを大幅に稼ぐことができる。占領するためには一定時間、歩兵がポイントから離れないでおくこと。占領された場所は再度、自軍歩兵が占領し返すことにより、ポイントを稼ぐことができる。占領している間は占領箇所の数に応じて一定時間毎に自動的にポイントが振り込まれる。なお、このルールの場合、敵歩兵を倒すことで得られるポイントはチームデスマッチより少なく判定される】
・フラッグアタック【制限時間内に敵の司令官の首を取ることか、敵歩兵を倒すことにより稼ぐポイントを集めることが勝利条件となる。なお、ポイントで不利であったとしても敵司令官を倒せば一発逆転のチャンスがある】
「これが大規模戦闘だ。基本的には1ヶ月に1回などの国ごとの対抗戦闘となったりするが、クエストイベントなどでもある。ということで5分後、行動を開始する。職種を選んでおけ。ルールはチームデスマッチ、友軍は25人、敵兵も25人だ。好きな職種を話し合って決めておけよ。なお、戦場はランダムに決める。わかったか?」
教官のその言葉を受けると場面はいきなり変化していき、気がつくと、そこには25人のプレイヤーがいたりする。全員が新人らしく いきなりの実戦訓練に戸惑っていたりする。そんな俺たちがいるのは廃墟と化した市街地、いかにも空爆を受けましたという感じだったりする。
「この中で操縦兵希望いる~?誰もいないならアタシやるよー?」
「じゃあ、オレは特技兵やるわ。確か操縦兵の使うピックアップトラックって4人ぐらい乗れただろ?」
そんな戸惑いとざわめきの中、俺は軽機関銃兵を選択して、その女性操縦兵と男子特技兵の元へと近づいていった。
「それじゃあ、俺が軽機関銃兵になって支援するよ」
そのチーム募集中の長身の女性操縦兵はエリス、少年の特技兵はエドガーというPC名が頭に浮かんでいた。その二人に声をかけて武装を見せると喜んで
「アルフォード、でいい?歓迎だよ。一応、見た感じ、初期プリセットでは操縦兵はブローニングつんだテクニカルみたい。だから走り回るから弾ばら蒔いてね」
「オレの特技兵のプリセット武装はRPG-7、だから行進間射撃なんて無茶言わないでくれよ。ランク上がるとジャベリンミサイルとか使えるようだけど」
テクニカルに乗りながらブローニング機関銃をばら撒いて牽制した後、大物にRPG-7を叩き込む。遮蔽物に隠れている敵もRPG‐7の爆風判定にて倒せるし、ゲリラ戦では定番の攻撃だ。ただし、向こうが同じ武装という条件であれば最悪、車を乗り捨てる覚悟が必要だが。
「じゃあ、それでいいかな?こっちの軽機関銃兵の初期プリセット武装はミニミ機関銃か。M60とかより威力が低めなのが問題だが・・・銃弾補給のしやすさ、機動性は評価高いかな?」
そういうと一応武装データを確認してみた
【FNミニミ 軽機関銃
装弾可能数 200発ベルトリンク式弾薬、またはSTANAGマガジン使用可能
使用弾薬 5.56mmNATO弾
解説:ベルギーのFN社が開発した傑作汎用機関銃、分隊支援機関銃(SAW)として取り回しがしやすく、各種バリエーションがある。最大の特徴としてはM16シリーズやM4シリーズに採用されているSTANAGマガジン方式のマガジンをそのまま使うことができるので、旧西側勢力で多用されやすいこととなっている。なお、フルオートオンリーなのでSTANAGマガジンシリーズのアサルトライフル用30連マガジンを使って射撃した場合、すぐに弾切れになってしまうので護身用、緊急用と割り切るべきだろう】
一応、装備には分隊支援機関銃(SAW)用弾薬ポーチが2つあるから、銃本体にある分も含めて600発。だが、ばらまくのが仕事の機関銃だから600発はすぐに尽きるだろう。
「そろそろ開始時刻みたいだから、早く乗って」
エリスが召喚したテクニカルに乗り込み、ブローニングM2重機関銃のグリップを握る。コッキングレバーを引いて初弾を送り込めば後はトリガーを押すだけで強烈な銃弾が放たれることになる。
隣ではエドガーがRPG-7を実体化させ、弾頭を発射機に取り付けていた。
「チュートリアル、最終戦。大規模戦闘を開始する!状況開始!」
教官の声と同時に打ち上がる信号弾。その炸裂音に合わせて作戦が始まった。エリスは上機嫌で大通りを爆走していた。現実世界ならスピード違反、車線逆走、危険運転の行為でパトカー数台での大捕物だろう。だが、ここは架空世界、それも戦場だ。当然、対応してくるのはパトカーではなく・・・銃弾だった。
「左前方!敵歩兵集団!」
警告の意味を込めて大声を張り上げると俺はチュートリアルでやったように走るテクニカルの上に仁王立ちとなり、ブローニングのトリガーを押す。激しい轟音、それを証明するかのように輝くマズルフラッシュ、足元にはキンキンと音を立てて機関銃の薬莢、弾薬同士をつないでいた金属ベルト用のリンクパーツがトラックの荷台に跳ね返り転がっていく。
「しっかり捕まっていてよ!旋回行くから!」
大通りに面した十字路。車から見て左側に隠れていた敵兵数名からの銃弾が飛び交う中、エリスはハンドルを大胆にも左にへと切り、ブローニングの弾幕で顔を出せない敵兵を壁に押し付けるかのように体当たりかましていった。
「えげつなー。しかも壁スレスレのコーナーリングアタックかよ。エリスが戦車に乗ったら超信地旋回でアスファルト削りまくりだな・・・」
エドガーは轢殺された敵兵士のことを思うも、あれは敵と割り切り、RPG-7の発射筒を構えていた。
「みんな!目の前にテクニカル!お願い!」
テクニカルと言われても複数のバージョンが存在する。機動性を重視して機関銃を装備するバージョン、もう一つは無反動砲を装備した対軽車両用のバージョンだったりする。こちらを認識したソレは対軽車両用のそれで無反動砲発射時には足を止めて狙わなければならないが、当然威力は高く、テクニカル程度の防御力では防ぎきれない
「ジグザグに!動け!何とかする!」
エリスは俺の提案を受け入れて狙われないようにジグザグにフラフラとした暴走を繰り返す。その間、俺はブローニングで可能な限り護衛の敵兵士と無反動砲を手動でこちらに向けようとする敵兵士を狙うが、機関銃に命中精度なんぞない、多少の手傷は負わせたぐらいだが、ゆっくりと無反動砲の砲身がこちらを向いていくる。
「こういう時はこいつに任せろっての!」
RPG-7をテクニカルの荷台部分で構えつつ、パターン化されたかのような回避行動を取るエリスの動きを予測し、エドガーが狙いを定める。
「ファイア!」
ドガン!という後方に撒き散らされる爆風と共に打ち出されるRPG-7のロケット弾頭、そして飛び出したロケット弾頭は推進剤に点火され、敵テクニカル目掛けて突き進んでいく。
「ぶち当たれ!」
祈るかのように叫ぶエドガー、その願いを聞き届けたかのように弾頭はまっすぐテクニカルに命中し、爆発。発射されようとされていた無反動砲は爆発に巻き込まれ、誘爆。積まれた弾薬は爆発とともに砲弾の雨となって周囲に砲弾の破片が降り注いだ。
「ゆ・・・誘爆判定だと!」
誘発判定、それはクリティカル発生時に起きる爆発である。
大型火砲や弾薬庫の中の火薬に引火したとなるのだが、1つ問題がある。
それが弾薬の破片でのダメージである。
敵を纏めて吹き飛ばし、片付けてくれるいい判定だが、同時に味方にも被害がある判定である。
味方の戦車と共に戦っていて戦車が吹き飛び、誘発判定となれば背中に戦車の爆風と
破片で即死になる事も平等に判定される、非常に厳しい扱いになる。
「退避するよ!」
エリスが叫ぶと同時に一気にバッがクする。
その動きは激しく、爆風と破片から逃げ出したが、悪運か、破片がタイヤに当たり、バースト、テクニカルはコントロールを失い、ビルにぶつかり、停止した。
「大丈夫・・・とは言えないか」
衝突の衝撃で額から血を流しながら運転席で呻くエリスと片足を引きずって立っているエドガーが目の前にいた。
俺自身もどこかにぶつけたらしく、左腕が妙に痛い。データを見ると中程度のダメージとある。重い軽機関銃を扱う兵士としては左腕を傷めることは戦闘力の低下。そういうわけでメディカルキットを使い、応急処置していく。
「こっちは何とかするから、エリスの方を頼むよ」
エドガーも痛めた足をメディカルキットで応急処置していきながら、手にしていたRPG-7の発射筒に新しい弾頭を込めていた。
「コイツは・・・、まずいかな?」
支援AIの情報ではエリスの容態は脳震盪状態。死ぬことはないが、下手に動かさない方がいいというバッドステータスが入っていた。
「近くに衛生兵がいるといいんだが・・・」
衛生兵はランクが上がれば一般的なメディカルキットでは対処しきれないバッドステータスにも対処できるのが、売りだが、今回はそんなことを考えている人はいないのか。支援AIのデータリンク情報では周囲の友軍情報には突撃兵やら偵察兵だのが、多く確認されていた。
「とにかく、逃げるしかない。エドガー。RPG-7、捨てる覚悟あるか?多分、エリスを抱えると、重量オーバーで動けないか、機動力落ちると思うが」
「いや、機動力落ちるけど、捨てるとなると問題があるよ。多分、テクニカルが走り回っている可能性あるし。さっきみたいに待ち伏せているかも。とにかく、今は急いで離れよう。支援お願い」
エドガーの言葉も一理あると思い、大破し鉄くずとなった車両から離れて徒歩での移動を開始した。
曲がり角は必ず止まり、敵がいないか確認する。
「アル!後ろから歩兵がきた!アサルトライフルだ!」
後方を確認していてくれたエドガーの声に合わせ、数発の発砲音がした。
「エドガー!エリスを何とかしろ!」
引き金を引いては離し、引いては離すという指切り制御で無駄弾の浪費と反動の制御を繰り返していた。
アサルトライフルよりは連続して制圧出来るという特徴もあり、弾幕を張り、近づかれないようにしてみた。が、いきなり右肩にエアガンから放たれたBB弾を食らったような感覚を受け、全身から力が抜けていき、地面に倒れた。肩を打ち抜かれたことにより部位破壊判定を受け、右手に持っていたミニミ軽機関銃を持てなくなり、取り落とした
「狙撃!うわ!」
エドガーは俺の右肩被弾での部位破壊判定を見て、RPG-7を構えた。
「よせ!やめろ!」
エドガーが砲身を敵に向ける。その結果、砲尾は俺の方に向けられる。
そして忠告を聞かず、焦ったエドガーは引き金を引いた。
高温で強烈なバックブラストが俺の体を襲い、全身が焼かれた。そして吹っ飛ばされ、路上に無様に打ち倒され、死亡判定が出た。この痛みはフィードバックされ、瞬間的にタバコの火がぶつかった程度の軽い熱さが訪れた
「うあああ!!」
エドガーもRPG-7の弾が尽きたらしく、サイドアームのハンドガンで迎撃したが、アサルトライフル相手には勝てず、同じように倒された。
10秒後、リスポーンエリアに飛ばされて来た俺、エリス、エドガーが再び顔を合わせることができた。
武装は俺は前回と同じ、軽機関銃兵を選んだが、エリスは衛生兵、エドガーは突撃兵と武装を変えてきた。
「エドガー・・・お前、扱うものを考えてから扱えよ。バックブラストでの死亡判定ってシャレにならんぞ」
「ごめん、でも焦っちまった。けど、最小とは言え、ダメージフィードバックすごいよねえ・・・現実ではもっと痛いんだよねえ・・・」
「ほんと、リアルだから脳震盪なんて判定もあるんだねえ。最悪・・・」
そういうと俺たちは再出撃した。俺が軽機関銃で弾幕を貼り、エドガーが精密な銃撃を繰り返し、負傷したらエリスが応急処置を施す。そういう連携がうまくいっていった。
「左に敵戦力!ランチャー持ち確認!」
左の曲がり角にRPG-7を構えている兵士がこちらを狙っていた。
「エドガー!狙い撃て!こちらは撃ちまくる!」
連続した発射音が轟き、銃身が激しく反動でブレる。弾丸は敵兵士が隠れている左の曲がり角の壁に激しく当たり、コンクリートの欠片が地面へと落ちていった。それと同じ数だけ、薬莢と金属ベルトリンクが足元に転がっていった。
「それっと!」
こちらを盗み見ていた敵兵士がエドガーの放ったライフル弾を食らい、倒れた。
「クリア・・・ってことかな?」
エドガーがランチャー持ちを倒したのを確認しながら、激しい銃撃で消耗した弾薬を補給するためにSAWポーチから弾薬ケースを取り出し、ベルトリンクを引き出し、初弾を込め直した。
「さあ、行きましょうか?戦いはまだ続いているようね」
エリスの言葉に俺たちは頷いて作戦を続けることにした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
結果としては死んで倒して、倒して死んで、ということを繰り返していった。一度も死なないのは本当の上級者とか慣れている人じゃないと無理だろう。そう言う人でも運悪く流れ弾に当たることもある。
それがFPSの世界だ。そして戦闘結果は辛勝という感じだった。
「よくやった。これが大規模戦場だ。国家間の衝突であれば占領地域が変動することもある。占領地域が変動すると移動時の攻撃のしやすさや奇襲の受けやすさ。防御戦闘の展開が変動することとなる。また、物品の輸送コストが変動するから弾薬などの補充も難しくなるだろう。さて・・・基本訓練はここまでだ。無事卒業てきた諸君らであれば、存分に活躍できるだろう。各員の今後の活躍に期待する」
そう教官が敬礼すると俺たちも敬礼していった。
『レギオン・フラッグ運営です。皆さんは基本教練を無事卒業しました。このあとは能力値調整と技能習得、所属勢力選択となります。これに関してはすぐ行うか、または後日行うか、選択することができます』
運営サイドからのメールが届くとエドガーは少し悩んだ結果、エリスと俺を見てきた。
「なあ、アルとエリスは?どーする?すぐに決める?」
「私は明日は早めの仕事あるから、今日は落ちて明日決めるわ。じゃあ・・・お先に落ちるわね」
そういうとエリスは手早くログアウト手続きを済ませ、その姿は光の粒子へと姿を変えていった。
「じゃあ、俺も落ちるわ。エドガー、今度は味方殺しの異名を持つなよ。じゃあな」
「ひどいなー。じゃあ、どこかの勢力であったときはよろしくだね」
そう手を振り、エリスと同じようにログアウト手続きに入ると俺の意識は現実へと引き戻されていった。
一方、その頃。都内某所。レギオンフラッグの運営を行っているジェディフ社では・・・。
「レギオンフラッグのシステム内部よりプレイヤーによるクラッキングを確認、現在、管理者権限にてクラッキング情報解析を開始!」
「最優先対処マニュアルに基づき、機密情報収集用特別サーバーを緊急物理閉鎖。該当サーバーのスタンドアローン化を最優先に実行!」
「現在、クラッキングは管理者権限エリアに侵入しようと継続してアタックしている模様!機密情報収集用特別サーバーのスタンドアローン化、成功!ウィルス、ボットの類の侵入、確認できず!」
「チームAは特別サーバーの汚染がないか、再度チェック。チームBはクラッキングプレイヤーの特定、並びに行動目的の把握を」
「該当プレイヤーをダミーパスコードにより、模擬管理者権限エリアへの誘導に成功。ダミーアイテムストレージにチートプログラムを投入。アイテム、並びに所持金の無制限化プログラムと確認」
「該当プレイヤーのIDを検索・・・・、他のゲームにてRMTを実行している者と判明。現在、アクセスポイントを確認中」
「特別サーバーには汚染情報なし、チームAも情報収集に参加開始」
「アクセスポイントのプロキシーを抜いてみます。東京・・・名古屋・・・大阪・・・札幌・・・沖縄・・・。特定完了、情報転送します」
突然のハッキングによる情報改竄、それに対して平然として対処行動を取る社員たち。まるで軍隊か警察の情報戦部隊かのごとく、的確に情報を集めて攻撃を食らった部分にはパッチを当てて修正を開始していく。
「よし・・・・該当プレイヤーの所有キャラクターに対してはバージョン2・0での対応プランを実験的に採用する。・・・都合のいいことだ・・・。わざわざ餌になってくれるとは・・・。アイテムストレージに対するダメージは?」
「問題ありません。元々内部デバック用のサンプルアイテムデータ用のストレージです。現行のバージョンではキャラクターのアイテムデータとしては持っていることになりますが、譲渡、販売、さらには廃棄、使用もできません。無可動銃と同じ鈍器扱いです」
上司らしい貫禄のある男はそう頷くと、にやりと微笑んだ。
「では、諸君、彼がログアウトしたら早速・・・・始めるとしよう」
その数分後、そのプレイヤーはアイテムを好きなだけ持ち出したのを確認してログアウトしていった。
その後を追うようにジェディフ社の総力を上げて、そのプレイヤーへの制裁措置を取ることを可決、実行していった。
その制裁は他のゲームではなかなか見ることのできない制裁処分だった。
さて、よーやく、書き上げることに成功しました。いやー、お待たせして申し訳ないです。
さて、用語に関してですね。
超信地旋回=クローラー(履帯とかいう、戦車の足回りですね)を左右同時に同じ速度で逆回転させることで、その場にいながら前後左右の向きを入れ替える方法です。戦車が高速で走りながらコレをやると都市部だとアスファルト削りまくりなのが珠にキズですが、非常に便利な旋回方法です。ちなみに建築現場では高所作業車などで、この種の旋回は良くします。ただし、クレーンの場合は速度が遅いこと、あくまでもクローラー部分はどっしりとした土台という意味もあり、そんな馬鹿なことはしません。
行進間射撃=戦車などが移動しながら砲塔を敵に向け続け、砲撃するというアレです。例を上げるとアニメ、ガールズ&パンツァーの移動しながらの砲撃がそれにあたります。とにかく移動しながらですから命中率は落ちまくります。常に移動し合うわけですから、砲身は敵の移動する方向と速度に合わせて調整する必要があります。陸自がアメリカのヤキマで行った演習では90式戦車は高性能な上、隊員の練度が高いこともあり、好成績を残したそうです。
バックブラスト=無反動砲の砲身の後部から出る爆風。強烈な勢いを持つ高熱の熱風だったりする。銃は火薬の爆発の反動を銃身で受けることで銃弾を発射します。その結果、高威力な銃や大砲であれば反動がすごく第一次大戦終結後に生まれた対戦車ライフルの中には使用する歩兵の肩を壊す程の反動が生まれる銃もあったそうです。その反動を押し殺すのが無反動砲です。原理は非常に簡単なもので両方空いた筒の真ん中に火薬を詰め込んで砲弾をその火薬に挟み込むように両方から押し込んで着火。その結果、爆風は前後へと均等に進み、砲弾が出るわけです。このシステムは中世の大砲には存在しましたが、後方の味方陣地に砲弾を撃ち込むということで廃れました。第二次大戦で対戦車砲の代名詞バズーカなどが生まれるまで欠陥品扱いされていました。