ブートキャンプ 新人への洗礼・訓練開始
新人教育隊の訓練はまだまだ続く。VRMMOでの銃器戦闘はリアルな部分とゲームとしての部分を兼ね備えたものだ。だが、そのリアルは本物の痛みと共に存在するリアルでもあった
「いいか、これから渡すものは基本的に重要なものだ。大事に扱え。まずは被服とブーツだ」
ピロリンとアイテム入手したことを示すBGMと共に教官が差し出したのは自衛隊なんかが作業で使うオリーブドライブの作業服と戦闘靴というものだった。アイテム欄にそれが収められると強制的に私服だったはずの服はその2つを装備させられた。見た目だけは軍人になっていた。ただ、訓練生ということなので階級を示す肩の肩章はない状態だったりする。
『注意・任務遂行の際は基本的にジュネーブ条約、及びハーグ陸戦条約により軍服、またはそれに当たるものを装備することが必須となります。軍服により所属が判明しない状態で戦闘行為を行った場合、民兵によるテロ活動とみなされ、投降しても射殺、または拷問を受ける危険性があります。また、所属政府による保護を受けることができなくなる可能性があります。しかし、任務の性質上、所属軍の発覚が問題となる任務もありますので、必要に応じてアイテム欄から装備を変更してください』
軍服の支給と同時に現れた説明文を見て納得した。
特殊部隊などに入れば現地軍の格好をして行動するという作戦もあるだろう。だが基本は正規軍でいろということだ。
「なかなか様になったではないか、ようし、では次はこれをくれてやる」
そう言って手渡されたのはバイザー付きヘルメットだった。
「これがなければ現代の戦闘はやっていけんぞ。支援AI装備データリンクシステムだ。友軍とのコミュニケーション、敵の情報などがデータリンクで共有化される。まあ、まずは装備してみろ」
言われれば素直に装備してみると、目の前には簡易的なレーダーシステムなどが装備されていた。
「このシステムを使えば友軍がどこにいるのかとかの通信も可能だ。また、ハンドガンなどの銃火器の射撃補正、つまりスマートガンシステムを組み込んでいるので狙えば自動的に腕の向きを補正しやすくしてくれる。まあ、狙撃兵用の高性能システムじゃないから、あくまでも補正だ。スコープによるズーム機能もないし、遮蔽物越しの射撃で使わないシステムだ。まずは試しにコイツを装備してみろ」
作業服、ブーツ、バイザー付きヘルメットに続いて手に入れたのは、一丁の拳銃だった。
【M9 9mmハンドガン
装弾可能数 1+15発
使用弾薬 9mmパラべラム弾
解説:イタリアのベレッタ社がベレッタM92FSとして発表した自動拳銃。反動も比較的軽く、なおかつ装弾数も多いことから護身用に向いている。警察、軍、市民にと幅広く出回っている】
バイザーの銃の説明にはそう書かれていた。
「基本的にハンドガンはサイドアームと言われる。ライフルの弾が尽きたりしたときや後方勤務などの時に使われるからだ。だが、基本的にこれぐらいを使いこなさないと自分の身を守ることすら出来んぞ。弾を支給してやる。それを装備して、リロードをしてみろ」
マガジン2つを受け取れば1つをM9ピストルに装填、スライドを引き、初弾を薬室に送り込んで、セーフティを外した。
「そうだ。支援AIは動作補正を行う。今までやったことのない行為でもしようと思えば、予め、モーションキャプチャーで取り込んでおいた情報を反映することで的確な行動をサポートしてくれる。銃に触れたことのない奴でも、初めて触れる銃でも装備し、使う意思さえ見せれば取り扱いを教えてくれる。まあ、最終的には慣れるのが上級者になるコツだ。支援AIばかりに頼るなよ。では俺の目の前に仮想敵を出してやる。まずはそいつを狙って撃ってみろ」
至近距離に明らかにホログラフィと分かる、こちらにアサルトライフルを構えている兵士が現れるとレーダーには敵を示す赤いポインターが写し出された。その距離は10m、俺はAI補正を待たずに頭部に2発、腹部にも2発、連続して撃ち込んでいった。
反動はマイルドだが、エアガンなどとは違う強烈な勢い。そして焦げ臭い火薬の燃える匂い、そして目の前の敵は頭部と腹部に被弾して仰向けに倒れていった。
「ほう・・・やるな。至近距離で、しかも動かない標的が相手とはいえ、AIの補正を待たずに感覚で、ダブルタップ射撃を頭部と腹部に行うとは。なかなか見所があるじゃないか」
褒めてくれる教官の言葉と同時に注意喚起の文字がまた出た。
『注意:装備重量が適正であれば対弾装備としてボディアーマーの装着が可能です。ですが、基本的には支援AIデータリンクシステムでは防御効果がなく、頭部への攻撃、ヘッドショットは即死判定となります。これはNPC、PC共通なので注意してください』
「やっぱりな・・・」
俺は思わず呟いた。リアルなのは覚悟していたが、やはりかという感じだった。他のゲーム機でのFPSでもヘッドショットは即死扱い、リアルであればあるほど、そういう方向性があった。だから頭部に2発、撃ち込んで見たわけだったりする。
「さて、目の前には倒れている敵がいる。そして敵が持っていたアサルトライフルが落ちている。拾って装備しろ。使える装備はなんでも使え。これが基本だ。これを鹵獲行為という」
これは他のFPSでも同じだ。こちらの武装が弾切れになったりすれば、銃は只の鈍器となる。そうなれば捨てるか殴りつけるしかない。
【M4カービン アサルトライフル
装填可能数 1+30発
使用弾薬 5.56mmNATO弾
アクセサリー装備可能
発射弾薬数 1発・3発選択式
残弾 0発
解説:M16A2からの発展型アサルトライフル、カービン化により取り回しが良くなっている。着脱式キャリングハンドルを装備し、スコープ、ダットサイト、レーザーサイト、グレネードランチャーなどのオプションアクセサリーを多数装備可能である】
「弾薬が尽きているようだな。そういう時は死体を漁るんだ。何か出てくるだろう?」
少し嫌な感じだが、死体を表にして装備品を漁る。流れ出ている血の匂いと感触、それすらリアルに再現されていた。漁った結果、弾薬が収められたマガジン1つ、グレネードが1つ出てきた。
「さあ、もうやるべきことは分かっているな。再装填だ」
空のマガジンを捨てて、弾薬が入っている方のマガジンを差し込み、コッキングレバーを引いて初弾を薬室に送り込む。キチンと装填しないと次、何があるかわからないからな。
「そうだ、銃は弾があって初めて武器となる。弾薬管理はきちんとな。後、最大装備可能な弾薬数はマガジンの持っている数に応じて増えていく。そして規格外の弾は装填すら出来無い。無駄弾を撃つな。弾を惜しめ。きちんと狙って必中だ!」
『注意:装備可能なマガジンは最初期は銃装備の分の1つと腰の簡易ポーチの1つ、合計2つとなっています。弾薬を大量に装備したい場合はボディアーマーやタクティカルベストを追加装備し、それにマガジンポーチを装備してください。なお、鹵獲にて回収したマガジンの場合は本来であればマガジンポーチの大きさが合わないこともあり、廃棄する必要があると思われますが、ベータテスターなどの意見を取り入れ、ポーチの規格は共通とします』
「うわー・・・・そこまでシビアにやるかあ・・・マガジンの管理なんざサバゲーマーがすることだぞ・・・こだわるなあ・・・・」
ウィンドウに現れる装備に関する情報、それに呆れてしまいながらも究極にまでリアルを求めるというのがここまでのことかとウンザリしていた。と、その時、バン!という銃声がして俺の左腕に熱さが走った。痛覚判定が最小であるのはよかったが、明らかに撃たれた形跡だ。レーダーには銃声に合わせて敵を示す赤いマークが少し遠くに存在した。
俺はイベント戦闘だということを忘れ、傷ついた左腕も使い、両腕でM4カービンを構えた。セフティを外し、セレクターをセミに合わせる。狙いをつけ、射撃。軽快な発砲音と共に左腕に走るのは振動からくる痛み。
命中率を上げるために、連続して引き金を引いて射撃を行いながら、ゆっくりと歩いてライフル弾を敵兵に叩き込んでいく。
今度はヘッドショットではないが、全身に銃弾を浴び、敵兵は倒れ、動かない死体がまた1つ出来た。
「いい感じだぞ。データリンクシステムでは敵の動きは走る、ジャンプするなどの派手なアクションをとった場合か、発砲を行った場合、または明らかに目視できる距離にいる場合に表示される。逆にしゃがむ、伏せる、一定時間隠れるなどを行えばレーダーでは探せない。狙撃用の高精度バージョンはまた違うがな。どれ、傷は回復させておこうか。これを使え」
そういって渡されたのは赤い十字のマークの入ったメディカルキットだった。アイテム欄からそれを使用し、貫通銃創を癒せば熱い痛みは消えていった。
『データリンクシステムのレーダーに写っていない=いないではないということです。なお、四肢欠損判定がこの世界ではヘッドショット判定同様、存在します。腕が使えなくなれば武器戦闘ができなくなります。また、重い武器も放棄せざる得なくなります。足を撃たれれば移動力が遅くなりますし、偵察技能による血痕の判別により、逃走経路が分かる可能性が高くなります。そういった場合、メディカルキットによる応急処置、衛生兵技能による応急処置が有効となります。なお技能については後ほど説明を行います』
「今、お前さんがやったのは応急処置だ。戦闘では死亡した場合、リスポーンできる場合とできない場合がフィールドによって異なる。リスポーン出来る場合は銃器、弾薬は回復するが、できない場合は相手に持ち逃げされる可能性がある。もちろん、リスポーン出来る場合も同じだが鹵獲によりロスト判定が発生する可能性もある。受ける依頼、任務によって違うから説明は確認しておけよ」
『戦闘内容は基本的に集団戦闘となります。違うのはリスポーン可能なノーマルクエスト、リスポーン不可能なイベントクエストとなります。ノーマルクエストは所属する基地の周辺警戒調査、敵部隊の迎撃など、いつでも受けることが可能なクエスト、イベントクエストは敵新型兵器の破壊や強奪、敵基地への突撃などの一定のクエストフラグが立っている場合のクエストです。イベントクエストのフラグに関しては技術系技能持ちの敵のPCが研究データを纏める、敵の兵器を一定数鹵獲する、敵基地への攻撃の結果で情報を入手する、などの条件が揃った場合に発生します』
「技術系って・・・やっぱり新型兵器開発とかやる奴いるんだなあ・・・本物の軍隊だぜ。この感じは」
新型武装。今、手にしているM4カービンも悪くないが、現行の平均的性能を持つアサルトライフルだ。大口径の特殊武装とかミサイルとかを研究する奴がいるんだろうな。そんな感想を持っていった
「おっと・・・話が逸れたな。さて、お前さんは今、兵士としての基本的な訓練を受けて、データリンクシステムの基礎を学んだ。次はオプションパーツに関しての説明だ」
軍曹がそう言うと、周囲の風景が歪み始めた・・・。次はどんな訓練か?
新人への洗礼はまだ終わらない。
というわけで初戦闘です。鹵獲という行為は現実の戦争でも行われている行為です。
実際、ベトナム戦争でアメリカ軍の制式自動小銃、M16初期型はメーカーが指定していた火薬ではなく旧型のM14用の配合の火薬を使っていたこと、戦場が泥沼という悪条件、デザインと素材が近未来でクリーニングしなくていい銃だという噂が立ったこと、それ以前に支給品にクリーニングキットの配備数が足りなかったことが原因で作動不良ばかり起こしたことから、敵から奪ったAK47の方がマシの粗悪品だとまで言われたほどです。
さらにいえば、そのAK47もナチスドイツのスターリングラード攻略戦などで奪うことが出来たMP44とソ連赤軍に拘束されたヒューゴ・シュマイザーとミハイル・カラシニコフのアイディアが発展したものであり、1つの銃が大きく時代を変えるきっかけになるわけですね