初めての実戦と初めての強敵、そして能力の凄さを思い知る
武器のことを色々教わったこともあり、そろそろ任務に参加してみようとする俺の前に現れたものは?
「さあ、さあ、さっそく出撃だよー。ご新規さんでも気楽にできるチュートリアルみたいなミッション、あるよー。釜山方面での偵察作戦だ。経験稼ぎにどうかなー?」
どこかのレギオンの広報担当が新人獲得を目当てにでも、依頼への勧誘を行っていた。
VRMMOという特性上、スキルも重要だが、やはり実際に動く能力、リアルに近い動きが物を言う。
システム上、パラメータで能力は補正されるし、スキルなどで能力は追加される。
とはいえ、それは逆をいえばパラメータで実際の能力を制限することとなる。
それはゲームだから仕方ない部分でもある。
例えば完全にリアルの世界のデータを反映し、模倣したシステムがあったとする。その世界でゲームをするとなれば、プレイヤーの能力は自分自身の保有する自力だけになる。そうなるとオリンピックの強化選手と高校陸上部の選手では走る能力が全く異なるし、いわゆるサラリーマンや大学生とかメインと言えるこういったゲームでは戦闘能力なんて日本人では勝てない。
銃を持つことを国是として憲法に国民の権利として保証されているアメリカ、徴兵制を今もしいている韓国、軍拡著しい中国などの方が銃撃戦では有利になることとなる。
そうなるとゲームである以上、スキルやパラメータでバランスを取るしかない。
そして高い運動資質を持ち、かつ使いこなす者をトップランカー、リアルチートなどと称する事がある。そういう資質を持つ者は意外と初心者のころの動きで判別できることもある。
武芸の経験者であれば足さばき、姿勢、視線の動き、そういう部分、いわゆる癖がVRMMOの中でも出てしまう物だ。
極限までにリアルを求めたゲームフィールド、レギオン・フラッグではそれは顕著に出ている。
ゆえに攻略組、大手レギオンと呼ばれる連中は青田買い、新人発掘として護衛戦力を回す。新人側は大手レギオン、攻略組と伝を取ることができ、比較的安全に経験を積むことができるという双方に有利な条件となるのである。
ちなみに兵器開発の方では初心者でハンドリロードやメンテナンスで経験を積み、アイディアを出していき、新兵器を開発への協力という事で技術研究型、試作実験型、先行量産型、量産型とドンドン進めていくことで各レギオンのオリジナル武装を開発していくこととなる。中にはレギオン所属のエース専用装備を目印代わりに配備していたりする。
レギュレーションでは明らかに戦闘用と分かり、所属がわかる物であれば良いわけである。
あまり攻略サイトなどの情報は目にしていないが、オリジナルT-heartsには騎士甲冑、武者鎧などのデザインを採用している所もあるようだ。
「釜山か・・・最前線だな。だが一度は行くべきか?」
そう思い、参加登録してみた。この場合は通常のクエストということでリスポーンできるので好きな職種を選んでいいこととなる。
「それでは出発するぞー!」
ヘリで10人ほど乗り込むと一路、釜山方面へと進撃を開始した。ヘリは3機、合計30人が一気に釜山目掛けて突き進む。その機内ではみんなが各々の武装を選択していた。状況に合わせてということで定番の89式改を使える突撃兵を選択しておいた。
通常の任務だというのでリスポーンありだ。だから最悪武装を変えればいい。
そういう理由からか、中には通常のと異なる高性能そうなデザインのバイザー付きヘルメットとスコープが付属しているボルトアクション式スナイパーライフルを装備した狙撃兵や両腰に手榴弾、肩からC4爆薬を収めた爆破セット入りのカバンをかけているという明らかにカスタムされた武装の猛者すらいた。 スナイパーはまだわかるが、爆薬を持っている奴はいわゆる爆弾を投げつける擲弾兵をするつもりだろうか?そんな感じを見せていた。
「よーし、釜山臨時空港へようこそだ。今のところ、この釜山だけが朝鮮半島における橋頭堡だ。一応フェンスと機甲部隊も防衛に当たっているが、ここから外は敵地だ。いきなり狙撃されるかもしれないし、榴弾砲も撃ち込まれるかもしれない。事実、何度か統一朝鮮側からの侵攻を迎撃した。その際はほぼ互角の戦果、釜山市街地と周辺ぐらいしか抑えられない状況となっている。さて、ここからは戦場だ。気を引き締めて行動してくれよ」
そう説明してくれるのはアサルトライフルで武装したレギオンの兵士だった。いわゆる保護者役を買って出てくれたベテラン組だったりする。
「周囲を警戒してくれ。これから行軍を開始するよ。全員、初弾装填。安全装置確認。いつエンカウントするか、わからないぞ」
みんながコッキングレバーを操作して初弾を装填するのを確認してから偵察作戦を開始となった。
壊れた建物、ひび割れたアスファルト、大破している車。そう、市街地戦というのはゴーストタウン、廃墟でのかくれんぼと言えるだろうか。
そんな時、軽快な射撃音が周囲に轟いて、バイザーの情報リンクに敵の大まかな位置情報が見えた。
『ザー・・・・こちらブラボー1。友軍各員に通達。敵勢力と遭遇・・・・重武装型T—hearts複数!おそらくは完全義体化仕様!銃弾が通用しない!俺たちと同じプレイヤーの部隊だ。マッチングしちまったんだ・・・!』
軽快な連続音、それに続いてくる爆裂音。完全義体化の状態ですらハイパワーなアサルトライフルが欲しいというのに初心者メイン。しかもデフォルトの武装が多いという状態は痛かった。
「センサーに感!1機がブースト炊きながら左の交差点から突っ込んでくる。注意しろ!」
スナイパーのバイザーは索敵能力に優れているのか、チームの誰よりも早く廃棄されているクルマの残骸のそばに身を伏せてボルトアクションライフルを構えた。
「完全義体化済みのT—heartsか。なら十分に対処策はあるで。みんな聞いてくれ。敵が出てきたら、とにかく撃ちまくって数秒を稼いで欲しい。こっちは必殺の武装があるんや」
爆薬を大量に持ち歩いていた擲弾兵が取り出したのは小型の手榴弾。傍目からすると、そんなもので倒せるか疑問だったが、とにかく今はそれを信じるしかなかった。
「3・・・2・・・1・・・撃て!」
スラスターを起動させながら横滑りで交差点に入ってきたT‐hearts。それは明らかに通常型と異なる、拠点強襲用の重武装型。歩く移動砲台と言えるものだった。
まずは号砲という風にスナイパーのボルトクションライフルが火を吹く。ボルトアクションライフルの7.62mm弾であれば弾薬の種類、命中箇所によって通用するだろうが、相手は完全義体化の重武装型T‐hearts拠点強襲・防衛仕様。ヘッドショット判定が出たが、大げさすぎるほどの追加装甲のために軽い衝撃を与えた程度だった。
それに続くはミニミ軽機関銃、89式改の弾幕。5.56mm弾の軽快な発射音と重装甲相手に弾き返される金属音と火花はリアルで絶望を見せていた。明らかに通用せず、無駄な弾をぶつけているだけだとわかるからだ。
「ふん、ルーキー相手に拠点強襲型の持ち出しというのは、やりすぎと思うがコレも仕事だ。気が進まんが、戦争は派手に行こうか?」
拠点強襲・防衛仕様。それは機動力を捨てて、火力、防御力に特化した攻撃的な機体だった。
事実、メイン武装は右手にマウント装備されている5.56mmマイクロガン。現実世界ではXM214の開発コードを与えられた7.62mmミニガンの小型モデルだが、それでも歩兵携行型武装としては重すぎる問題がある欠陥品だったが、こっちの世界ではT—heartsという化物があった。それ用の武装として人気があるものだった。
映画でよく両腕で抱え、敵に向かって激しく弾をバラまくというコンセプトのシーンがよくあるが、実銃では大型バッテリーが必要であり、そういうことを考えれば重武装型拠点強襲・防衛仕様という火力重視機にはお似合いの武装だ。それを抱えた敵機はトリガーを引くと数発に1発の割合で含まれている曳光弾と早すぎる発射速度のせいで弾道がビームのように一本になっていた。
それがぶつかるたびに物体には弾痕が穿ち、破壊されていく。スナイパーが遮蔽物としたクルマは左側のドアが吹き飛び、遮蔽物としての機能を無くしつつあった。
しかしそれは突然終わりを告げた。
「投擲弾道補正システム起動、目標の位置修正よし。義腕・アイアンリーガー【サワムラ】!いっけーーー!」
擲弾兵の少年の掛け声、それに続く手榴弾を投げる音。通常、手榴弾の弾道は放物線を描いていく。だが、その少年が放った手榴弾はまさに伝説の名投手、澤村栄治の如き剛速球となり、敵の装甲に当たると強力な電撃を周囲ところかまわず、降り注ぎ、中心にいた敵のT—heartsは鋼鉄の棺桶と化していた。
「電磁パルスグレネード。対人使用でもヤバイ効果があるのに金属の塊の義体にT—hearts。戦車とかでも電子系統焼ききれる威力のそれを食らったんや。マトモじゃすまないで。人工筋肉の管理部分が死んどるやろ」
その宣言通り、どんなに火力をぶつけてもカスリ傷すらつけられなかったのに、電撃の効果でゆっくりと敵機が膝を付き、その自重に耐え切れず、その強力無比な装甲と武装は地面に倒れ伏した。
「ここで、定番のやったか!とか言うセリフはなしやで!あくまでシステム関係が一時的に死んどるだけや。応急修理もできんわけやないし、予備システムが積んどるかもしれん。完全義体化兵までは仕留められなかったかもしれん。で、こいつの出番っとなるっちゅーわけや」
そう宣言して取り出したのはC4爆薬が詰まった梱包爆薬だった。
「これをここに置いて・・・・じゃあ、高価な花火やっちまうよー」
カバン状の梱包爆薬を倒れて動かない機体においてくるとすぐさま戻ってきて手にしているリモコンのトリガーが引かれた。無線信号により電気信管が作動、プラスティック爆薬は信管に連動して爆発。敵機の背中の部分を派手に破壊し、中の搭乗員もろとも機体はハイテクスクラップへと変貌した。
「それじゃ、EMPパルスグレネードはまだまだあるから。それじゃあ、贅沢な敵さんを潰そうか?」
ニッコリと微笑む少年は手榴弾を野球のボールのように扱いながら次の獲物を探していた。
結果だけで言えば戦闘時間終了まで、圧倒的有利を保つことができた。虎の子のT‐heartsを潰され、修理もままならなくなった敵部隊は今度は通常武装で挑んできた。こちらに対しては焼夷手榴弾や破砕手榴弾が活躍し、何よりも完全義体化していても集中砲火を喰らえば耐え切れないからだ。
「あー、面白かった。やっぱり、こういうのって楽しいでー。それじゃ、先にログアウトさせてもらうわ。ほななー」
任務を終えて帰還した俺たちはドロップアイテム、報酬を貰っていた。隠しパラメータで評価ポイントもあり、階級を上げたり、特殊訓練を受けるためには評価ポイントを上げる必要があるそうだが、詳しいことは解析組の解析途中だそうだ。
少年は名前も告げず、報酬をもらうとすぐにログアウトしていった。一部のプレイヤーが探していた様子だが、どうやら攻略組のヘッドハンターのようだ。逃げられ、悔しがるヘッドハンターたちの姿を尻目に俺もログアウトすることとした。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
無機質な白い部屋。そこには少年が眠っていた。眠っている少年はフルダイブ式VRシステムを使っていた。心電図、血圧、脳波などの詳細な情報を集めているモルモット。そういう姿とも言える。
しかし、その少年の目覚めは爽やかだった。いつものように左手を伸ばし、ベッドに備え付けられているナースコールボタンを押した。
「おはよう。と言っても、もう夕方ですね。どうでした?今日のお加減は」
そんなことを聞きながら、優しげな微笑みをみせ、少年に付けられている検査用のセンサーを外していった。
「問題ないよ。けど、すごいね。VRMMOの世界は。あんなに重たそうな物を遠くまで投げられるんだから」
そういいながら、少年は自分の右腕を左手で触った。固く冷たい腕に似せた義手、いわゆる装飾用義手だった。
そう、少年は二の腕から先がない状態だった。そのために服を着替えるのも一苦労だったりする。
「そうね。でも、もう少ししたら、そこまでスゴい義手は出来なくとも貴方が日常生活を送るぐらいの能力は身につけられるわ。さあ、今度は実技で訓練よ。VRシステムで感じたことを義手でやってみるのよ」
白い部屋から出ていく少年は次こそ上手く義手が使うことができるようにと意気込みながらリハビリセンターへゆっくりと付き添いの看護婦とともに向かって歩いて行った。
はい、まずはやはり執筆速度は遅くなってます。申し訳ありません。というのも、社会人ですし、色々あります。また、ネタ探しもしないとダメですしね。それでは今回の小話をいくつか。
今回は義体化ということについて。戦闘用に身体をカスタマイズするならば究極的に言えば全身サイボーグ化するしかなくなります。
しかしそれを行うと今度は電磁波に弱い状態になりかねないのです。
簡単に言えば電子レンジにスマホなんかを放り込んでチンしてやればデータ関係はぶっ壊れます。結果として貴金属とプラスチックと液晶の塊だけが残るでしょう。
ですが、一応核戦争を想定した時代の武装は核弾頭爆発時に発生する電磁波に対する防御はとっていたりしますので軍用品では防御出来るかもしれませんが、パワードスーツとかになると、そこまでの防御力があるか疑問です。ゆえに今回は電磁パルスグレネードというSFではよくある電撃武装の登場です。
そして、今、日本でVRシステムが採用されたら間違いなく使われるのは軍用と医療環境用です。
軍用はレギオンのような模擬戦で。医療用は今回の少年のように腕がなかったりする場合の訓練装置として。
事故や先天的理由により、腕がない、足がないといった場合が医学的には存在します。それを補正するために義手、義足があります。
今までは義手はどちらかといえばメカニカルな印象を持つ実用型義手と腕がないことを隠すために使う動かない義手、いわゆる装飾義手の2つがありました。
しかし現在ではその両方の機能を兼ね備えた動かせる義手、筋電義手というものが存在します。
わかりやすく言えば鋼の錬金術師シリーズに出てきたオートメイルですね。あそこまでガチで殴り合いとかはできませんが、日常の動作補助には有効な器具です。
筋電義手の原理は非常に簡単です。結局のところ、生物が身体を動かすのは脳神経から出た電流が命令となって身体を動かすように指令を出し、動かすというのが基本となります。が、この基本の再現となると非常に難しいです。
腕がないということは腕という概念がないとなります。そして筋電義手を使うということはパソコンで例えるならば今まで使ったことのない周辺機器を動かすためのドライバー、プログラムなしでいきなり動かせというものです。
私たち人間にいきなり翼が生えたとして背中の翼を訓練もなしに飛ぶなんてまず無理です。
それと同じことです。筋電義手自体を装備して意識して動かす。反復運動が基本となりますが、訓練用に筋電義手の貸出とかを認めている病院は少ないですし、そもそも高価なものなので数が揃っていない。
しかも購入には市役所などで補助金申請ができますが、申請をクリアするための条件が筋電義手を装着して、役所の職員の目の前で、すぐに使いこなせることという、ある意味無理ゲーとも言える条件があります。
そして先天的に、生まれた時に腕がないという条件での出産も可能性としてはあります。訓練は早ければ早いほうがいいのには越したことはありません。
ほとんど役所は無茶な要求を突きつけていますが、それに対抗するかのように一部の病院では訓練用の筋電義手を自費で用意して貸出していたりします。そのことをニュースで見たときは思わずコレこそVRにふさわしいという印象を受けました。
さて、次に義腕サワムラ・・・。これは野球が好きな人であれば分かりますね。澤村栄治、沢村賞の生みの親と言える人です。戦前の野球チームがない時代に日本選抜チームの一人として中学生で渡米、中学生とは思えない球を投げ、メジャーリーグのスカウトから詐欺じみた手口でヘッドハンティングされたりしたそうです。
戦時中は二回も徴兵を受け、得意としたピッチング能力で手榴弾の遠投をしまくる。その結果、肩を壊した上、感染症で身体が弱くなり野球ができない状態となり、最後は乗っていた輸送船が魚雷攻撃を受け、生死不明となり、戦死扱いとなっています。
もし戦争がなければ・・・・おそらく日本初のメジャーリーガーだったかもしれませんね。もっともアメリカが極東での支配権を欲したので戦争は回避できませんでしたが。