“大復活の日”
「フィリア、お前は下がってろ」
「断るわ。私も戦う」
ギーアの指示に、フィリアが首を横に振る。
「ギーア。お前とは争いたくなイ」
「同感だね」
スコップを構えるグールにギーアは皮肉めいた笑みを向けた。
「どうしてもなんだナ?」
「こっちの台詞だよ」
直後、ギーアとグールが直撃した。
スコップとツルハシがぶつかり合い、火花が散る。
他の墓荒らし達も、劣勢のグールに加勢しようとして急いで駆けていく。
そんな中、フィリアは自分では加勢してもどうにもならないことを知り、
他の人間がギーアに注目しているうちに所長の遺体を破壊しようと駆ける。
フィリアが所長の遺体の元へと駆けつけた時には既にギーアは地面に組み伏せられていた。
「やれっ、フィリアァァァァァァァアッ!!」
ギーアが吼える。
フィリアは短剣を振り上げ、
「やめろおおおぉぉぉぉぉッ!!」
振り下ろせずに吹き飛び、壁に叩きつけられた。
フィリアを吹き飛ばしたのはさっきまでギーアを組み伏せていたはずのグール。
しかし、グールとフィリアの距離は一瞬で詰めれるような距離ではなかった。
それを可能にしたのは他でもない“悪魔堕ち”。
グールの背に生える黒い翼がそれを証拠づけている。
「だから、だから破壊しろと言ったんだぁぁぁあっ!!」
ギーアが起き上がり、グールの元へと疾走した。
その目には苦悩が浮かんでいる。
他の墓荒らしも戸惑った様子を見せるものの、
さすがにギーアに加勢しようとして、多くが吹き飛ばされた。
もう二人、悪魔堕ちした墓荒らしがいたのだ。
この場にいるのは悪魔堕ち3体と、墓荒らし4人。
それも、墓荒らし側は見習いのフィリアも入れての頭数である。
「何の悪い冗談なんだ」
ギーアは悪魔堕ちしたグールを蹴りつけ、フィリアとグールの間に入った。
彼の異能である未来への既視感は未だ働かない。
それは彼が今だ追い込まれていないからだ。
そのことを理解しているギーアは捨て身でグールに対して打ち込んでいく。
自分を追い込んでまでしても、できるだけ早くグールを壊さなくてはならない。
激しい打ち合いが何度も続く中で、ギーアの異能、未来への既視感がようやく働き始めた。
「悪いな、グール。お前の動きはもう視たことがある」
直後、あっさりとグールを斬り捨てたところでギーアの未来への既視感がさらなる不幸を捉えた。
「嘘だろ」
あってはならない未来。
その未来を防ぐ為にギーアの体は既に勝手に動いていた。
駆けて、
駆けて、
駆けて、
再び所長の遺体の元へ走り出しているフィリアを突き飛ばす。
「えっ?」
何が起きたのか分からずフィリアは間抜けな声を上げた。
「ああ、最悪だ。こんなんなら未来なんて見えない方が良かったかもな」
そんなことを発したギーアを、床を転がりながらフィリアが目で追う。
彼女の目に写ったのは赤い瞳をした所長の腕に、腹部を貫かれているギーアの姿だった。
「いや」
こんなにも視界は鮮明なのに。
目に写る現実を頭は認めようとしない。
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
悲鳴だけが勝手に出た。
“大復活の日”なんて、真っ赤な嘘だった。
一時とはいえ、それに縋っていた自分が馬鹿みたいだ。
また一人になる。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
フィリアの心を負の感情が支配する。
「フィリア、落ち着け。
俺が今まで教えてきた通りにやるんだ。
お前なら、できる。大丈夫だ」
ギーアがそう言い床に崩れ落ちる。
所長の赤い瞳はフィリアを次の獲物として捉えていた。
その瞬間、彼女の覚悟は決まった。
「大丈夫。私なら、やれるっ!!」
フィリアが所長の懐へ飛び込む。
所長の爪が頬をかすった。
それを気にせずに、短剣を突きだす。
あっさりと避けられそうになるが、悪魔堕ちした所長はそれが避けられなかった。
ギーアが渾身の力で所長の足を引いたせいだ。
所長の体が崩れていく。
ギーアはそれを見て、
「免許皆伝だな」
と弱々しく笑った。
「ギーア、待ってて。すぐ治療するから」
救急道具を取りに走りだそうとするフィリアの足をギーアが掴む。
「おいおい、俺を許さないとか……言ってたお前はどこ、行ったんだよ。なぁ、フィリア……一つ頼みがある」
「頼みなんて助けてから何個でも聞いてあげるわよ」
そう言ったフィリアだが、声は震えていた。
「俺を……あいつらを……化け物のままにしないでくれ」
フィリアの足を掴んでいたギーアの手が床に転がる。
何で。
どうして。
また、一人になる。
でも、
それでも、
「あなたを化け物のままなんかにしない。させるもんかっ!!」
ゆっくりと立ち上がる赤い瞳のギーアの方にフィリアは顔を上げる。
それから、微笑んだ。
「だから、安心して」
神々しい光を放って半透明の白い一対の翼がフィリアの背から飛び出す。
それから、彼女はそのまま直進していった。
フィリアの体がギーアの体と宙で交差する。
すれ違い様に声が聞こえた気がした。
“ありがとう”
悲惨な状態の体とは別にギーアの顔は安らかな表情を浮かべていた。
彼の未来視が最期に捉えた未来がどんなものだったのか。
それは彼にしか分からない。