“崩壊”
フィリアが墓荒らしの巣窟、トゥームホールへ来て二年がたった。
二年経ってもギーアの生活は特に変わらない。
ただ、“大復活の日”は刻一刻と迫っていた。
今日も大切な人を失う悪魔の叫びが響く。
「やめろおおおぉぉぉぉぉっ!!」
愛する人だったものを破壊する。
ギーアに鍛えられた少女、フィリアは墓荒らしとしてその仕事を任せられるぐらいには成長していた。
ギーアが側にいるという条件付きではあるが。
「何回やっても気分がいいものじゃないわね」
そう言って、フィリアは短剣を拭った。
この二年で少しばかり伸びて肩口のあたりまで伸びた髪が風に吹かれ揺れる。
そんな彼女の側には悪魔堕ちの頭が転がっていた。
「そういう仕事だからな」
「そうね。でも、この仕事もあと3日で終わりかしら?」
「さぁな。3日後にどうなるかなんて誰にも分からない。分かってることは」
「それまでにできるだけ遺体を破壊することかしら?」
ギーアは頷く。
フィリアとギーアの関係はこの二年で少しは良好なものになっていた。
少なくとも、言葉を繋げられる程度には。
「そういうことだ」
◇◆◇
彼らがトゥームホールに帰ってきたのは2日後、リバースデイを翌日に控えた日だった。
自分達の家であるそこに帰ってきたばかりのギーアとフィリアを待ち受けていたのは突然の別れだった。
「所長が?」
「亡くなったよ。悪魔堕ちと相討ったそうだ」
グールが眠るように棺に横たわっている所長を指してそう言った。
「……そうか。なら、破壊してからきちんと埋葬しないと」
ギーアは墓荒らしという仕事柄、同僚の死には割と馴れている。
そうは言っても今回ばかりは、落ち着き払った口調とは裏腹に内心ではかなり動揺していた。
所長はギーアをここに連れてきた人間でもあったからだ。
感情の整理をつけようとするギーアにグールが予想だにしなかったことを告げる。
「それなんだが、所長の遺体は破壊しないことに皆で決めたんだ」
「なっ!?」
ギーアは驚愕した。
馬鹿みたいに口を開いて目を見開く。
「お前らは何を言っているのか分かってるのかっ!!」
ギーアは一番近くにいたグールに掴みかかった。
普段はあまり真面目な表情を浮かべないグールの瞳は真剣そのものだ。
「分かってるさッ!!
俺達だって分かってるッ!!
でもあと1日なんだッ!!
所長が生き返るかもしれないんだぞッ!!」
「あんなのはでまかせだっ!!
気狂いの預言者共の戯れ言だっ!!
お前らは所長を化け物に変えてしまうかもしれないんだぞっ!!」
その言葉にグールは表情を歪めた。
「それでも、それでも、俺は、俺達は希望に縋りたいんだッ!!
ギーアッ、お前は所長を生き返したくないのかッ!?」
ギーアはグールを押しのけるように手を放した。
代わりにツルハシを強く握り、肩に担ぐ。
彼の決意は決まっていた。
「それでも俺は墓荒らしだ」