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アフターライフ ~墓荒しと虚構と~  作者: UMA
序章 墓荒しは今日も墓を守る
6/9

“巣窟”

「ヒャハッ。お前また珍しいもん連れて来たなッ」


職場に戻ったギーアを迎えたのは、そんな言葉だった。

 発言者は職場で“墓穴掘り”と呼ばれている同僚だ。

 彼の名をグールという。


「情でも移ったか、それとも所長の真似事かア」

「似たようなとこだ。で、その所長は?」

「あー、あの人には今は近付かない方が得策だぜッ。なんせ、あの人また女にふられたらしいからなッ。機嫌が最悪だぜッ。仕事に私情を持ち込むとか、全くこれだからあの人は……」


そこでグールの肩が大きな手に掴まれた。

 ギーアの顔が引きつるが、グールはそれに気づかない。


「ほぉ。これだから、何だ?」

「これだから所長は女にモテな……え」


グールの顔が見る見るうちに青くなる。

その様子を他の同僚達は、笑いながら半ば呆れて眺めている。


「ああ、また墓穴を掘ったのか」


と誰かが呟いた。


同僚であるグールが殴り飛ばされたのを見た後、

 殴り飛ばした本人、ギーアの所属する街の墓荒らしの職場の所長にギーアは話しかける。


「今帰った。こいつは拾いものだ」


拾いものと呼ばれたことに少女は片眉を吊り上げる。

そんな少女を見て、所長はギーアにニヤリと笑いかけた。


「何だお前、幼女趣味にでも目覚めたのか?」

「ちげーよ、馬鹿。

 こいつは悪魔堕ちから戻った珍しい人間なんだよ」


 ギーアの口調は上司に対しては失礼に値するものだが、所長がそれを気にした様子はない。


「何だと?」


所長の目つきが変わる。


「居場所を失ってたから連れて来た。

 墓荒らしとして育てようと思うんだが」

「どうして元に戻ったか調べようとは思わんのか?」

「どっちにしろ、調べる方法がないだろうが。

 解剖でもする気かよ」

「それもそうだな。

 まぁ、ウチで面倒を見るのは構わんが、

 お前が親代わりを務めるんだぞ。

 しかし、その子を見てるとお前らがここに来たときのことを思い出すな。

 その子は昔のお前によく似ている」

「どこが? 性別からして違うだろうが」

「馬鹿が、見た目じゃねぇ。雰囲気がだよ」


やっぱり似ていると頷いてから、所長は少女の方を向く。

 それから、両手を広げて言った。


「ようこそ、墓荒らしの巣窟トゥームホールへ。

 ここでは皆が家族だ。

 歓迎しよう、新しい家族を」



◇◆◇



「お前さ、もうちょっと自分でなんか喋ったらどうだ?」


少女は部屋に案内されるまでに一言も言葉を発していなかった。

ギーアの言葉に少女はやはり、黙ったまま顔を上げた。


「まぁ、喋りたくないんなら別にいいけどよ。いつまでも辛気臭い面してると幸運が逃げちまうぜ?」


ギーアはそう言って少女の頭に手を置く。

その手を払って、少女はギーアを睨みつけた。


「居場所を与えてくれたことは感謝するわ。

 でも私はあなたを許してないから」


そんな少女にギーアは苦笑する。


「そうか。まぁ、好きにしろ。

 お前みたいな奴も少なくねぇ。安心していいぞ。

 お前が俺を嫌いだろうが何だろうが、この先でお前が生きていける程度には鍛えてやる」


少女は不機嫌な顔を背けて一言、ボソリと声を出す。


「フィリア」

「あ?」


うまく聞こえなかったギーアが聞き返す。


「だから、お前じゃなくてフィリアよ」

「そうかい。まぁ、よろしくな、フィリア」

「ねぇ、一つ聞いていい?」

「何だ?」

「さっきの人の言葉から考えると、あなたも拾われてここに来たの?」


 フィリアの問いにギーアは苦笑する。


「俺だけじゃない。ここにいる奴の大半はそうだ。

 あの人、所長に拾われて来たんだよ。

 今の御時世じゃ、ガキの頃に親を亡くすなんてこと珍しくないからな。

 あの人言ってたろ?

 ここの人間は皆、家族だって。

 あれ、あながち間違いじゃないよ。

 あの人が俺達の親父だな」


 フィリアはギーアの言葉に少し驚いたようだったが、再び俯き、頷いた。


「そう」


この日からギーアとフィリアの共同生活が始まった。






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