“推測”
また一人、悪魔に魅入られた。
そのことがギーアの表情を険しくする。
やはり、少女は例外ではなかった。
現にこうして、悪魔堕ちしたのだから。
翼を広げ直進してくる少女に対し、ギーアはツルハシを構える。
やることは決まっていた。
墓荒らしとしての職務を全うするために目の前の少女だったものを“壊す”。
「殺させない、殺させない、殺させないっ!!」
そう叫びながら直進してくる少女の紅い目には理性はない。
直進してくるだけの化け物に対して、ギーアは思いっきりツルハシを振るった。
だが、手応えがない。
ツルハシは空を切った。
「こいつっ!?」
予想以上に速い。
自分の懐まで潜り込んだ化け物に地面に叩きつけられる。
死ぬかもしれない。
彼の目にそんな未来は写らなかったのだが、本能的にそう思った。
次の一撃に対し身構えたギーアだったが、なかなか次の衝撃が来ない。
代わりに、ギーアの頬を冷たいものが濡らした。
赤ではなく、透明な液体がギーアの頬を伝う。
「え?」
少女が泣いていた。
悪魔に魅入られた化け物ではなく、一人の強がっていた少女が。
彼女の背には黒い翼はない。
それがあった場所には白い翼があった。
その白い翼も、羽が一枚一枚宙へと消え始めている。
「……殺さないで」
少女の口から言葉が漏れる。
「殺さないでよ」
強がっていた少女の口から出た言葉にギーアは戸惑う。
もし、これがギーアが優勢な時に出された言葉ならまだ納得ができる。
だが先程、この少女は殺そうと思えばギーアを殺し、母親の死体を守れたはずだった。
それなのに、
それなのにこの少女は、
“殺さないで”
と口に出す。
悪魔堕ちしていた少女が人間に戻ったことも理解できないが、
こっちの事の方が理解できなかった。
「もう、一人になるのは嫌だよ」
もう。
その言葉がギーアの頭に引っかかる。
何故だ?
この少女は殺さないでという言葉を使っていた。
母親の死体を生きていると考えるならば、一人になったことはないはずだ。
「こんなことなら、大復活の日なんてない方がよかった!!」
この子は一体何を言っている?
ギーアは考える。
この子が言う父親が殺されたというのはそのままの意味なのかもしれない。
墓荒らしの仕事は大きく分けて2つある。
墓荒らし誕生当初から行われていた死体の破壊と、
国営になった時から義務づけられた悪魔堕ちの破壊だ。
彼女の父親が悪魔堕ちしていたのだとするのなら、
殺されたという表現はそのまんまだ。
彼女の親族が亡くなったとして、
その人の死が原因で彼女の父親が悪魔堕ちしていたとすると。
母親も夫の死にとらわれていたまま亡くなったとすると。
少女の心はずっと孤独だったのかもしれない。
これはあまりにも強引なギーアの推測だ。
確証のない仮定の話だ。
少女が泣く様を見せつけられ、ギーアはただ、黙り込む。
そんな二人の状態を第三者の言葉が崩した。
「今のは何だ?」
「悪魔堕ちしていたよな」
村人の顔に張りつく恐怖の表情。
それは、少女がもう村にはいられないことを意味していた。
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