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白銀の髪と紅の瞳  作者: 三毛猫
6歳 アルテシア編
9/13

第8話(改訂版)




「では、魔術の実戦に入っていきましょう」


 俺の属性が判明し、ついでに病弱の原因解明が出来たかもしれない所で、ようやく今日の本命である魔術の実戦に入っていく。


「実践において必要な物は何か分かりますか?」


 流石にそれは分かる。俺は即座に「クリスタルです」と答えた。


「よろしい。ではこれがそのクリスタルよ」


 そういって母親が目の前のサイドテーブルに置きだしたのは、多種多彩な装飾品の数々だった。


 二つの指輪リング、一対の腕輪バングル、簡素な簡易冠オープンサークレット、左右で一つの形になる耳飾りイヤリング、そして母親のイヤリングと同じ形をトップにした首飾りネックレスだ。


「え? これ全部ですか?」

「ええ、これは全てクリスタルが埋め込まれた装飾品。綺麗でしょ?」


 しれっと母親はそう言う。


 しかし……クリスタルというのは決して安くなかった筈。たしか最低純度のクリスタルだって少なくとも平民の稼ぎ1年分はすると本で読んだ。

 そのうえ、目の前にある装飾品の数々に嵌め込まれているクリスタルは、ここにあるクリスタルクォーツには負けるが、それなりの光で輝いている。素人目に見ても、とても安物のクリスタルとは思えない。


 それをこんなに、しかも高そうなアクセサリーで。


 確かにここはアルテシアの領主家ではあるが、パッと見た程度ではただの田舎の領主だと思ってたけど、これだけの装飾品を揃えられるって事は、やはりそれだけ領主ってのは金持ちなのか。いや、領主は所謂貴族と相違無いんだから、当たり前なのかもしれない。俺の住んでる屋敷だって小さくない。はず。比較対象を見ていないから何とも言えないが、少なくとも村に立っているどの家よりも大きく豪華だ。


「これは私がまだアイザックと出会う前、貴族の夜会に着けて行った物よ。どれもクリスタルは一級品。魔力量の多いカノンでも不便と感じる事は無い筈よ」


 成程、つまりこれは母様が着けなくなったものか。所謂お古、お下がりだ。


「そうね、カノンにはこれがいいわ」


 そう言って手渡されたのが首飾り。


 手に取ってみると、母様の耳飾りと同じデザインのクリスタルがトップで、チェーンは特に何も変わらない、全体的にはシンプルな印象を受ける首飾りだ。

 しかし、手に取ってみるととても綺麗だ。そう、とても。あまりに綺麗すぎて、他の物とは違い、これだけが新品の様に綺麗だった。


「お母様、あの、これだけがやけに綺麗なのですけど」

「あらそう? まぁ細かい事はいいじゃない。綺麗なのはいい事よ」


 なんかはぐらかされたよな、今。


「ほら、着けてあげるからこっち着て後ろ向きなさい」


 母の誘いに乗り、素直に背中を向ける。うなじ辺りでゴソゴソされるのはちょっとくすぐったかった。


「ふふ、夢が一つ叶っちゃったわね」

「夢?」

「ええそうよ。私はね、昔から自分の娘にこうやってネックレスを掛ける事が夢だったのよ。なんかいいじゃない? こういうの」


 そう言う母の声は、心なしか優しい感じがした。

 今の俺には母の感情は理解できないが、後ろで母か微笑んでいるのは、なんだか安心する。


「はい、着けられたわよ」


 そう言って俺の後ろ髪をネックレスから外す為に掻き上げる。ちらりと見下ろす鎖骨あたりには、ネックレスのトップが揺れていた。

 ネックレスには『自動調整オートアジャストメント』というサイズを合わせてくれる魔術が掛かっているのだろう、つけた瞬間にはぴったりのサイズに調節された。


「さて、属性判定もクリスタルの装備も終わった事だし。実践授業に入っていくわよ。いいわねカノン」

「はい、お母様。よろしくお願いします」



  ◆☓◆☓◆☓◆☓◆


「(あぁ、私の可愛いカノンちゃん。ちょこちょこと歩く姿もちょこんと座る姿もサラサラの白い髪もミルクの様な白い肌も何もかもが可愛い! やっぱりバルドを説き伏せてネックレスを超特急で作らせて正解だったわね。それも私のイヤリングとお揃い! あぁカノンちゃんの首の裏、柔らかいわぁ)」スリスリ

「あ、あの、お母様? まだ終わ、りませんか? こそばゆいのですが」

「もうちょっと待ちなさい」

「う~」プルプル

「(私、今凄く幸せ)」ほぅ

「!!!」


  ◆☓◆☓◆☓◆☓◆



「さて、今日最後の訓練だ。私に左手の手甲盾ガードを使わせたら終了。ただし使わせる前に片膝でも地面についたら終了後の素振りを、付いた回数分10回追加だ。二人掛かりで来い」


 そう行ってお父様は構えを取る。手甲盾を着けた左手を腰の後ろに、右手一本で木剣目の前に構える。

 守勢の構え。お父様から攻めてくる気はない様だ。


「おいシャル、この後素振りする体力残ってるか?」


 両方の腕に握った木剣を構えながら聞いてくるロイ。修練途中で服を脱いだ為、上半身裸の上に砂埃や滲んだ血でドロドロだ。この最後の訓練が始まる前から肩で息をしている。胸辺りに構えている右腕も随分と辛そうだ。

 かく言う僕もロイと大差はない。ちょっとでも負担を軽くする為に、お父様の構えを見た瞬間に木製の盾を外して木剣の両手持ちに変えた位だ。


「冗談キツイね。正直もう剣を握ってるのもしんどくなってきたよ」

「俺もだぜ。んじゃお互いにやる事は一つだよな」


 片目を動かしてロイを見る。ロイも目線だけでこちらをみていた。そしてどちらからともなく、頷く。


 一度で決める。


「シャル、任せた」


 そう短く呟くと、ロイは地面を駆ける。一直線に、お父様に向かって。


「やはりお前が来るかロイ」

「もう勘弁だぜ素振り地獄は! ハァ!」


 右左と流れる様に剣を振るうロイ。しかし後ろから見てる僕には分かる。ロイはもう体力の限界だ。大きく体重移動をしながら力強く木剣を振っている様に見えるけど、只単に踏ん張りが効いていないだけだ。

 でもその大きな動きはお父様の目を引きつける筈だ。その隙に僕は力を溜めながら待つ。お父様の隙を、決めるべき一瞬を。自分の体力と戦闘技法から、言葉少なく囮を受け持ったロイの為に、一度で決めなければ。

 剣を構えながら、息を整える。その流れのまま腰を落として力強く剣の柄を握り込む。

 あまり時間はかけられない。僕自身も体力の限界だ。それにロイが囮だとお父様も気付いている筈。


「スゥ、ハアァァァ!」


 一呼吸、裂帛の気合で駆けだす。剣を下に構えながら全速力で真っ直ぐにお父様の元へ。いや、ロイ・・の元へ。


「ロイ!」

「おう!」


 短い掛け声の下、ロイがその場で跳躍する。対して高さはないけど、それで十分。


「【スラッシュ】!」


 僕の斬り上げた木剣を足場に、ロイが高く跳びあがる。お父様の頭上を取る様に。

 ロイはこう言った曲芸と言うか、軽業の様な動きを得意とする。それにロイの体重は少し軽い。だからお父様に教わった初歩の技であっても、こうしてロイを打ち上げられる。


「なに?」

「貰った! 【猛襲斬】!」


 ロイが打ち上げられた事はお父様にとっても予想しなかった事だったようだ、無防備にロイを見上げる。打ち上げられたロイは空中で反転、近くの木の幹を片足で蹴りつけて勢いをつけながら両方の剣を振り下ろす形でお父様の上を落下する。


「面白い。だが」

「こっちもです、【上弦月】!」

「なに!?」


 お父様の注意がロイに向いている時に、下にいる僕も攻撃する。コレが僕とロイの考えた連携。上下からの同時攻撃!

 ロイに教えてもらった【上弦月】は一気に踏み込んで上段から両手持ちの剣を力強く振り下ろす技。

 お父様の虚は突いた、これで決まってくれ!


「「うおおぉぉぉ!」」

「いい考えだが、舐めるなよ!」


 木剣の音が響き渡った。



 ●●●



「98、99、100!」

「し、死ぬぅ」


 日も沈みきりそうな夜直前。屋敷の前で素振り100回を終え、僕とロイは崩れ落ちる様に膝を折った。僕もロイも体力の限界で、もう木剣を握るどころか立つ事さえも暫く出来そうにもない。


 あの後、結局お父様には剣が届かず、防がれてしまった。その後既に集中力と体力の切れた二人では何度やってもお父様に手甲盾を使わせる事は出来なかった。結局僕とロイが動けなくなるまでにお互い10回程地面に倒れ込み、100回の素振りを言い渡されて訓練は終わった。


「や、やっぱり鬼だぜお前の親父は。あーもう体を支えるのも無理」


 そう言って地面に体を投げるロイ。


「本当にね。ロイが来てから、かなり訓練が厳しくなったよ」

「っていうか、俺剣2本なんだから片方50回ずつでいいじゃんか。なんで俺だけ倍の200回振らなきゃなんねーんだ?」

「それは剣1本につき100回の素振りだからじゃない?」

「理不尽って奴だぜ。まったくよぉ」


 そう言ったきりロイは黙り込んでしまった。もう喋るのも疲れるのだろう。暫くは二人ともこのまま地面に体を委ねて、僕の体を猛反発してくる茶色の友人と交友を深める事になりそうだ。


 僕は今日の最後の訓練を思い出す。この最後の訓練だけはロイとの共同訓練を始めてから欠かさず行われている。ロイとの訓練が始まってから10日程経っているが、一度も手甲盾を使わせるまでには至っていない。只今10連敗中だ。今回も二人で考えた上下同時攻撃はたった一振りで破られた。お父様は上段から一度剣を振りおろして空中のロイを木剣ごと吹き飛ばし、その勢いのまま僕の【上弦月】を止めた。二人とも【剣技】を使ったにも関わらず、お父様には剣技でもない唯の一振りで止められてしまったのだ。まったく歯が立たない。

 だが今日の上下同時攻撃はお父様の虚を突く事は出来た。油断していたとはいえ、一瞬お父様の反応が遅れた事も事実だ。この油断を突けば勝てると思ったのだけど。また他の作戦を考えないといけない。せめて角度ぐらいはずらすべきだったかな。


「お兄様、ロイ。訓練お疲れ様です」


 お父様の攻略作戦を頭の中で考えていたら、頭上から声がした。少し舌足らずのこの声は、とても聞き覚えのある声だ。


「カノン、どうしたんだい? 何か用?」


 外にはメイドを一人連れたカノンが立っていた。夕日は沈みかけていて薄暗い。もう夜ともいえる時間だけど、そんな時間でもカノンはあまり外に出る事を好まない。そのカノンがこんな時間に外に出て僕らの傍にいる事はとても珍しい事だった。


「お兄様、カノンは今日、新しい魔術を覚えました。それを披露したくてここまで来たのです!」

「へぇ、カノンも頑張っているんだね。僕たちもついさっき素振りが終わったから、見せてもらおうかな。いいだろ? ロイ」

「あったりまえだろ。むしろ俺も見て―! カノン、俺も居ていいだろ?」

「勿論です。むしろ2人に見せるつもりで来たんですから。では行きます」


 カノンはメイドから何かを貰い受ける。薄暗くて分かりにくいが、どうやら宝石の様だ。しかし宝石で一体何をするつもりなのだろうか。心を期待に躍らせる。ロイも体を起こして興味津々に見ていた。


晶石クォーツ開栓オープン。クリスタル直結リンク開始オン。」


 カノンが持っていた宝石が淡く光り出す。光る色から察するに、緑色と黄色の宝石だったようだ。それに釣られてか、胸にあるネックレスにも光がともり始める。


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 胸のネックレスのトップが強く輝く。透き通った白いその光が俺とロイの体を包み始めた。


「な、何だ!? 俺が光ってる!?」

「これは……。これがカノンの魔術?」


 目をやると、カノンは目を瞑って集中している。こちらに反応を返す余裕はなさそうだ。胸のネックレスを両手で包む様にかざしたまま動かない。あまり邪魔はしない方がよさそうだ。


「あ? おぉ!? なんか体が軽くなってきたぞ!」

「確かに、体が軽い」

「――ぅーーっ、ぷはぁ!」


 カノンが大きく息を吐く。まるで息を止めていたかの様だ。呼吸を後回しにする程集中していたのかもしれない。はぁはぁと整わない息継ぎを繰り返す。その際に少しふらついていたが、後ろからメイドが支えていた。


「なんて魔力ロスの酷い魔術。これは効率面で使い物になりませんね」


 暫くして息を整えたカノンが、メイドから離れて話しかける。


「どうですか? ロイ、お兄様。今のは疲れをとる魔術です。少し元気になりましたか?」

「ああ、なんだか体が軽くなったぜ! すげぇんだな魔術って!」

「うん、これは便利だね。カノンは大丈夫?」

「ええ、カノンは大丈夫です。想像より少し魔力の消費が大きかっただけですから。でも良かったです。効果がちゃんと出て。これから毎日、訓練の終りに掛けに来ますね! 日の出ていない時間だけですけど」

「そんな、カノンは大丈夫なのかい? さっきも少しふらついていたみたいだし。無理はしなくていいんだからね?」


 カノンは体があまり丈夫ではない。大事な妹にあまり無理はしてほしくない。僕ら家族だけじゃなくて、おそらく使用人の皆もそう思っているだろう。カノンは皆に愛されているから。


「大丈夫です。無理はしませんから。それでは先に屋敷に戻ります。お兄様達は汗を流してきて下さい。特にロイ。上が裸のまま地面に転がると汚いですよ」

「大丈夫だって。後で汗を流すんだから一緒だろ?」

「だからって上半身裸はやりすぎだと思うけど。せめて一枚ぐらいは着たら? 薄い練習着ぐらいあるでしょ」

「まぁ取り敢えず私は先に戻ります。後で誰かにタオルと着替えを持って行ってもらいますから。それじゃまた夕食の場で」

「ああ、ありがとなカノン!」

「じゃあ後でねカノン。さて、僕たちは汗を流しに行こうか。ロイ」

「だな」


 少し楽になった体を感じてカノンに感謝しながら、僕たちの訓練は終了した。


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