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白銀の髪と紅の瞳  作者: 三毛猫
6歳 アルテシア編
8/13

第7話(改訂版)

クリスタル解説話




「はっ、あぁ!」

「っ、そこっ!」


 部屋の外から剣戟の音と裂帛の声が聞こえる。

 カーテンが締め切られているので見る事はかなわないが、兄のシャルル兄様とロイがお父様の指導の元、剣術の修練に勤しんでいる。

 元々ロイとおっちゃんがこの屋敷にやってきた理由の一つに、この剣術修練も予定に入っていたそうだ。

 なんでもおっちゃんは戦斧使いの前衛戦士らしい。対してロイは両手に日本の片手剣を握る前衛双剣士。の卵なのだが、どちらにしても、おっちゃんには戦い方のノウハウは教えられても、剣特有の体重移動や体裁き等は教えられない。シャルル兄様も子供の少ないこのアルテシアでは練習相手になる子供がおらず、日々困っていた。

 そこでお父様がロイの指導を受け持つ事を提案し、シャルル兄様の練習相手を確保したのだとか。

 お互いの父親が仲がいいので、この話はトントン拍子で進んだそうだ。


「ロイ、そこで踏ん張るな、受け流せ! シャルル、受け止めの腰が甘い! もっと腰を落とせ! 手首、肘、膝、四肢をバネにして全体で衝撃を減らすんだっ!」

「「はいっ!」」


 青春だなぁー。声の雰囲気だけを聞いているとスポーツで名門の高校の野球部か何かのようだ。やっている事は剣術だけど。

 なんというか、窓の外から野球部の練習が聞こえる夏休みの教室にいる様な感覚だ。部屋が教室と言い張るには少し以上に豪華すぎるが、なんだか懐かしい気分になる。


「ではカノン。今日から実際に魔術の行使を覚えて行きましょうか」


 一人でなにやら郷愁じみた心持ちになっている俺は、自室で母親から魔術の授業を受けている最中だ。


 ロイ達がやってくるちょっと前から、母親の魔術授業は始まっている。

 一日に3~5時間程も受けていた事もあり、本当にちょっとした魔術なら一通り使える様にはなっていた。

 ロイの事で倒れて数日程はベッドに寝ていたので最近はなかったが、本日から授業は再開された。寝ている間も魔術書だけは読み解いていたから、貰った初級の魔術書は既に読み終えて、今は初級応用に入っている。

 そして今日から再開される授業の一発目から、どうやら実践に入るらしい。


「しかしその前に、カノンの魔術素質を調べないとね。ヴィヴィアン、アレを持ってきて」

「畏まりました」

「さてカノン、ヴィヴィアンが持ってきてくれるまで一つ覚えましょうか。カノンはクリスタルの性質について説明できる?」


 いつも通り完璧な一礼で出て行ったヴィヴィアンを見送ると、ドアを向いていた母親が此方に向き直る。


「はい。クリスタルは自身の性質に【透過】と言う性質を持っていて、魔力、及び魔力素や魔素をほぼ損失無しに受け流す事が出来る鉱石です」

「正解。ならクリスタルの【透過】の性質は色々ある事は覚えているわよね?」

「はい。ライト等に用いられる与えられた魔力を縮小変換して継続的に透過する遅延型、魔術師の杖などに使われる、常時空気中の魔力を溜め込んで、魔力を流されると魔力素を加算して増幅させたまま透過する増幅型、その他にも沢山種類があります」

「よろしい。概ね正解よ。だけど増幅型が常時溜め込むのは空気中の魔力じゃなくて魔力素。覚えておく事。まぁでもこの年で初級魔術書どころか初級応用魔術書にまで知識が進んでいるのなら、余程の事がない限り馬鹿な事はしないでしょう。実践に移る為の知識としては合格ね。さて、ここからが本題。カノンはクリスタルの性質について知っているけど、ならどうしてクリスタルは多種多様な性質を持つのか分かるかしら?」


 クリスタルの多種多様な性質を持つ理由? そう言えば知らないな。

 純度、は確か魔術定着率に関わるが、そのクリスタルの性質変化に関わる事じゃないだろう。大きさや純度が同じでも性質が違うクリスタルも存在する。ふーむ、


「あ、クリスタルの出来る過程が違う為に生まれる性質の差異、ですか?」

「はずれ。着眼点はいいけれど、クリスタルは純度に差はあれ、すべて同一過程によって生成される自然鉱石から作られています。因みに関係無いけど、クリスタルの鉱石は人工生成的には決して生成できない事も覚えておいてね。っと、ヴィヴィアンお帰り。持ってきてくれた?」

「はい。こちらに」


 そう言って入ってくるヴィヴィアンは白いワゴンを手で押しながら部屋に入ってくる。そしてそのワゴンの上には綺麗で大きな石が乗っていた。

 光に照らされて輝き、高低の激しい鋭い山の様な形をした鉱石だ。何か青白い冷気の様な物がこの鉱石には纏わりついている。


「丁度いいわ。流石ヴィヴィアン。カノン、これが何か分かる?」

「これは、クリスタルですか?」

「半分はずれ。これはクリスタルクォーツと呼ばれる加工・・前のクリスタル、いわばクリスタルの原石ね」

「加工?」

「そう、さっきの質問の答えは「加工工程の差」よ。クリスタルの原石であるこのクリスタルクォーツには、実は【透過】の性質は無いの。むしろこのクォーツには別の性質がある。それが【滞留】ね。このクォーツは生成される時には既にこの性質を持っていて、とても不思議な性質があるの。元来純度は小さい物が高くなる傾向にある鉱石の中で、このクォーツは逆に大きくなる程純度が高くなるの。だからクリスタルの純度は小さかろうが大きかろうが変わらない。でも大きければ大きい程純度は必然的に高い物だから、大きいクリスタルは調べなくても純度は高い。また、クリスタルは大きければ大きい程魔力透過率が高くなるから、大きいクリスタルはとってもお高くなるのよ。この事から魔力量のある魔術師はより大きいクリスタルを欲しがる傾向にあるわね。金額とか、そう言った事とは別としてね」

「へー。不思議です」


 成程、加工工程の差ね。ちょっと考えれば直ぐに分かる事だったかもしれない。やっぱり肉体年齢の割には賢いだろうが、元来の知能があまり良くないな自分は。まぁそれを良くしようとは微塵にも思わないけど。こればっかりは前世からの頭の悪さを鑑みて諦めた方がいい。それなら頭に知識を詰め込んで補う事にしよう。前世もそうだったし。


「さて、このクリスタルクォーツには【滞留】の性質があり、その身には常に貯蓄限界スレスレの自然生成の魔力を有しています。自然生成の魔力は無色透明で、今このクォーツが青白いのは元来の鉱石の色なの。で、ここに人間が生成する魔力に触れると、クォーツの中の魔力の色は変化します。これは人間の魔力にはある一定の偏りがあるからなの。どういう事か分かる?」

「各属性色の事ですね」


 人間の生成する魔力はその人に応じて属性ごとの生成率が違う。火属性の生成率が高い人は熱や温度に多少強くなったり、土属性の生成率が高いと多少怪我に強いなり頑丈になる等、生成率の違いによって体質に違いが出る。更に生成率がずば抜けた人は肌の色や髪の色にまで影響が出るらしい。因みにこの性質から、熱い地域では火属性の属性色の強い人が生まれやすく、寒い地域では水属性の人が生まれやすい。


「その通りよ。同様の事は人間魔術の『識別ディスクリミネーション』でも可能です。でも私はエルフなので、こうしてクォーツを使った識別法を用います。さ、カノン。あなたの属性を調べるわよ。あなたの属性が分からなければ、どの魔術を教えればいいか分からないわ。このクォーツに手で触れて」


 母親に促され、クォーツに近づいて手を伸ばす。触れた感触は、なんだか不思議なものだった。とてもひんやりしていて、でも陽だまりの中にいるみたいで、猛反発されている様で、でも受け入れられている気がする。そんな不思議な感じがした。


「色が変わらない。でも魔力を受けた為に発光している。と言う事は、全属性アベレージね、とても珍しい」

「アベレージ? 珍しいのですか?」

「全属性とは属性生成率がほぼ均等で、尚且つ多量の魔力を保有していなければ成立しないとても特異な属性持ちの事よ。人間の魔力はある一定量までは体内に絶え間なく巡回しているせいで外に放出する事が出来ないの。だから生成率の高い属性でなければ体外に放出する事が出来ず、魔術を扱えない。でも全属性の人間は魔力生成率が人より軒並み高い事から、全ての属性魔力を均一に放出する事が出来るのよ。つまり、どの属性も問題なく扱えるって事ね。問題としては突出した能力はなく、また、保有魔力量が高くなり過ぎる傾向にあるから、魔力循環の乱れが体調の崩れに大きく影響が出る事。カノンが病弱なのはもしかしたらこのせいかもしれないわね。もっと早くに気付くべきだったわ」


 魔力が高すぎて病弱ってどういう事だ。やはり高い魔力の弊害って奴か?

 でも全属性か。ゲームでは全属性が当たり前だった。というより、魔術は全てクエスト報酬で習得の形になっていたからな。ゲームの中では全てのプレイヤーが基本的に全属性と言う事なのだろう。じゃないと習得できないと言う事になる。


 ……もしかして、俺が全属性なのは前世でプレイヤーだったから? いや、流石にそれはないか。他の要素は何も適用されていないのに、魔術素質だけが適用されているなんて不思議な事はないだろう。恐らく偶然だ。強いて言うならこの厄介な体の対価と考えたい。その方が精神的にも納得できる。


「カノン、明日から授業の種類を増やします。晶石魔術を覚えなさい。もし保有魔力量によって体調に異常を来しているのなら、魔力量を自身で調節できる魔術を覚えておくべきだわ。幸い、あなたは全属性だし相性はいい筈よ。分かった?」

「はい、分かりました」


 なんか、いつになくお母様が真剣な表情をしている。余程の事なのだろうか。全属性、魔力保有量が多いと言う事は。

 これは明日から頑張っていかないと。


「さて、ではどの属性も問題ないと言う事で早速実践といきましょうか」


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