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白銀の髪と紅の瞳  作者: 三毛猫
6歳 アルテシア編
4/13

第3話(改訂版)




 先天性白皮症アルビノである俺は日に弱く、1日の大半をこの屋敷の中で過ごす。外にも出れず、屋敷においてもカーテンが閉まっている場所しか移動できないので、する事が読書等のインドアになるのは至極当然と言えた。

 幸い学ばなければならない事は幾らでもあった。この世界の知識や常識、その他生きて行く事に使えそうな知識や病気に対する治療法など。

 自室にある本や母親が持ってきてくれる本では6歳児に対する物が大半なので、そう大きく成果は無かったが、小さい頃の本は文章の構成等がお手本の様に素直なのでかなり早い段階で読み書きがある程度の物となった。

 そもそも俺は普通の子供と違うのだ。前世の知識があるのである程度の言葉を元から知っている。この世界で日本語がどう変換されるかを覚えるだけなので、そう難しくはなかった。

 子供の脳は知識をスポンジの様に吸い込んでいくので、そのお陰もある。

 体調がいい時はほとんどずっと勉強していた。前世なら暇な時はPCを起動し「NEO」にINしてネット仲間と一緒に遊んだものだが、当然ながらそんな物はこの世界において存在しない。

 娯楽や時間潰しの為に本を読める様になっておくというのは、それなりに良案だと思う。しかしもう少し読み応えのある本が欲しい。お父様の書斎に行けば置いてあるだろうか。


「お嬢様、アイリーン様がおいでになられました」

「開けてください」


 ガチャッと二人が入ってくる。やはり先に入ってくるのはお母様の方だった。腰まであるサラサラな金髪を縛る事無く自由にし、それを純白のアフタヌーンドレスで強調する。お母様は普段から自分の髪の毛に自信を持っているのか、服や装飾品は髪の毛を惹き立てる物を好むのだ。


「調子はどうかしら?」

「今日はとても調子がいいです、お母様」

「そう、それは良かったわ。それで、お話とは何の事?」

「お母様は魔術の事を知っていますか?」

「ええ知っているわ。でも、急にどうしたの?」

「カノンは魔術の勉強がしたいのです」


 お父様が来た時と同じく対面でソファに座り込む。ヴィヴィアンは共に持ってきたワゴンの様なカートに載せた紅茶セットを弄っている。いい香りがする事からもうすぐ紅茶が振舞われるだろう。ヴィヴィアンの紅茶はとても美味しい。甘いミルクも入れれば。

 子供の体は味覚も子供だ。ストレートティーは舌に合わなかった。また、家で使う前世で飲んでいたインスタントの紅茶とは違い、香りが強いが渋みも強い。それがいいと思える程になるにはもう少し時間が必要がいるだろう。どうして大人の飲む物は苦い物や渋い物ばかりなのだろうか。

 ヴィヴィアンによって目の前のテーブルにカップとソーサーが置かれる。お母様共に紅茶を、自分はミルクティーを飲む。紅茶を出されたら話題を切っても一口飲む事が礼儀とされている。

 どちらからとも無くカップをソーサーに置く。カチャと淑やかな音と共に、話は再開された。


「それはどうして? 魔術はとても難しいのよ? そもそもどうして私に魔術の事を?」

「魔術を知ってる? とヴィヴィアンに聞いたら、お母様が大変お詳しいと言ってました」


 ジト目でヴィヴィアンを睨むお母様。睨まれた本人はその目をカートの隣で涼しい顔で受け流していた。

 それどころか静かに一礼を返した。どうやら余裕なヴィヴィアン。

 その姿のにお母様は溜息を一つ。


「確かに私なら魔術の事を教えられる。でもねカノン。魔術は使い道を間違えれるととても危ない物なの。カノンが年の割にお利口さんなのは分かるけど、そう簡単には教えられないわ」

「お願いします。カノンにはお兄様の様に外へ出て何かをすると言う事が出来ません。本やお勉強だけじゃなく、もっと色んな物に触れたいのです」

「なら魔術じゃなくても色んな事があるわ。それでもどうしても魔術がいいの?」

「はい。カノンは魔術を習いたいのです」


 紅茶を飲みながらしばし熟考に耽るお母様。目を閉じて手にカップとソーサーを持っているその姿は気品に溢れていてまるで絵画のようだった。

 お母様のその姿に少し見とれていた俺は、熟考を終えて目を開けるお母様にハッとなる。血の繋がった母に見惚れて得も言えぬ感じになってしまった俺は、お母様に答えを促す。


「ええ、分かった。魔術の事を教えてあげる」

「ありがとうございます。お母様」


 笑みを湛えて礼を言う。お母様も心なしか嬉しそうだ。なんか「まったくしょうがないわね」みたいな顔をしている。


「今日は色々準備をするから、教えるのは明日から。今日のお稽古はヴィヴィアンに任せます。いいですね」

「分かりました。お母様」

「了解しました」


 そう言いながら母のカップに紅茶を注ぐヴィヴィアン。

 ヴィヴィアンを交えて、俺達3人は暫く他愛ない話に花を咲かせた。


 2


 この世界には色んな種族の人々が住んでいる。


 【人間族】

 地域や種族によっては、ヒューマンやヒムとも呼ばれる。

 人間族に次いで数が多く、成人しても人間族の子供程しか成長しない

 一番人口が多いとされ、数ある種族の中で一部の例外を除いて総じて能力は高くない。


 【ハーフリング】

 こちらもホビットやリル等の呼称がある。

 人間族と色々な四足獣の容姿を兼ね備え、驚異的な身体能力を持つ。


 【獣人】

 こちらは種類が多く、狗人ワーウルフ猫人ワーキャット竜人ワードラゴン等、各種四足獣の名前を持つ事が多い。


 【エルフ】

 幼児やかなりの年月を重ねたエルフはとある森の最奥に隠れ潜んでいる為、若いエルフしか基本見かけない。

 驚くべき程の長寿で精霊や神の御遣いと唯一交信が可能とされる程魔系能力が高い、


 【ドワーフ】

 彼ら自身は自分の事をドヴェルグと呼ぶが、他の種族の者にそう呼ばれる事を酷く嫌う性質がある。

 鉱山にある洞窟や地下坑道に好んで住まい、鉱物の加工において数多くの秘儀を持つ。


 【魔族】

 詳しい事が分かっていないが、その容姿は千差万別で、人間族とは似ても似つかない姿を持つ者も多い。

 魔界と呼ばれる所から来た種族で、褐色肌と黒い角を持つ。


 これらが、今この世界で確認されている種族だ。他にも存在が確認されている種族はあるらしいが、取りあえずの有名どころは以上の種族である。

 そして魔術に関して、種族はとても重要であると言える。

 例えば、人間族はどんな属性魔術にも適正があれば使える。しかしエルフやドワーフ、ハーフリング等はそれぞれ一種類しか魔術を使用できない。

 その事は、この世界の神様と密接に関係している。

 そもそもエルフやドワーフ達が使うのは魔術であって魔術ではない。

 厳密に言えば、魔術が使えるのは人間族だけなのだ。エルフ等の種族達が使う術は本来神から伝えられた物で、古来の人間族はそれを「魔術」として模倣しただけ。

 そして人口が多い人間族が、彼らエルフやドワーフ達が使う術まで総称して「魔術」と言うようになってしまい、今ではすっかり全種族が「魔術」で定着してしまっている。

 しかし、人間族の使う魔術とエルフ達の種族が使う魔術は、根本的な部分で違いがある。


 神々が生み出して世界に溢れる物質を、飲み物や食べ物、空気中から身体に取り込んで、蓄えたそれを魔力に変換し魔術として使用するのが、人間族の使う魔術。


 神様を信仰し、神様に祈りを捧げる事で様々な現象を引き起こして貰うのが、人間族以外の種族達が使う術。


 同じ神の力の末端ながら、方法はまったく違う。

 それ故に特性も違っており、エルフ達は自分達が信仰している神様の術しか使えない訳である。

 逆に人間の使う魔術は自分達がクリスタルを媒介に自力で発動している物なので、適正さえあればどんな魔術も使える。特に無属性の魔術は人間族の血が流れている者にしか使えない。

 しかし人間の魔術適正は低く、まったく使えない者もいたり、少しだけしか使えない者もいれば、極稀に全属性をすべて使える者もいる。

 しかしエルフ他種族達は修練さえ積めばみな等しく使える。勿論、信仰心やら才能やらで伸びの差は出来るだろうが、使えない者は極少数と考えていい。むしろ使えない者は迫害物だろう。

 信仰する神が違えば、与えられた術も違う。


 竜人は火の神を信仰し、火の神は誕生と終焉を司る神様。

 エルフは風の神を信仰し、風の神は流転と未来を司る神様。

 ドワーフは土の神を信仰し、土の神は不動と過去を司る神様。

 ハーフリングは水の神を信仰し、水の神は回帰と再生を司る神様。


 それぞれが神様の力の末端なので、竜人は火を、エルフは風を、ドワーフは土を、リルビットは水を操ったり生み出したりできる術を持つ。


 同時に、他の神様の術を扱う事は宗教上禁忌とされている。

 普通は使えないし、使えたらその属性の神様を信仰している事になるから、ばれたら殺されるんじゃないだろうか。


 因みに魔族も闇属性の魔術を使えるらしいが、魔界以外で使えないらしい。ゲームでも、魔族は竜人と対等に扱われるほどの膂力が特徴、というのが共通認識だった。

 又、竜人以外の獣人には信仰する神様はいない。故に竜人以外の獣人には魔術は使えない。


 そして、こういった種族の魔術には、クリスタルは必要ない。クリスタルが必要なのは人間の使う魔術だけだ。


 だがクリスタルは日常で多くの物が使用されている。特に魔術発動用のクリスタルは中々発掘されにくく、純度関係なく価値は非常に高い。勿論、純度が高ければそれに比例して価値も高くなる。

 買うのは基本的に人間族のみだが、希少価値と言うのはどこにでも存在するものなのだ。


 3


 と、まぁ今までのが俺の知識と今手元にある魔術関係の本を読み解いて纏めた物だ。

 初級とは言え魔術書を、この世界の文字の辞書を片手に読み解くのはとても苦労した。まだかなり最初の方しか読めていないが、疲労感は半端じゃない。辞書も重く、腕がジンジンする。

 辞書はお父様から借りて、魔術書はお母様から借りた。文字はそこそこ覚えつつあるが、難しい言い回しをされている部分は俺にはてんで分からない。

 しかしこの世界の中には文字を知らない人も多くいて、少しだけなら分かると言う人が困ったときに使う辞書が今俺の手元にあるこれだ。文字を読める程度の学を持つ一般人になら、それなりに分かりやすく書いてある。

 勿論、それでも分からない所は母に聞いた。「聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥」だ。


 そう言えば、この魔術書をお母様に借りに行った時、以前から気になっていたことを聞いた。それは母親の耳が尖っているところだ。おそらく前世での現代の知識を持つ若者なら、エルフ=耳が長いと言う特徴は多くの人に定着しているだろう。その関係から確認したけど、母はやっぱりエルフだった。

 本人から直接聞いたので、間違いはないだろう。息子、いや、娘か。にウソをつく必要もないだろうし。

 しかしお父様、アイザックは人間族だ。これも確認済み。

 つまりうちの両親は、異種族の夫婦となる。それなりに障害はあったのだろうか。


 そこではたと気づく。

 という事は、俺は俗に言うハーフエルフなんだろうか。今のところ耳は普通の耳なんだけど。ハーフエルフも耳が長くなるのか?

 そもそもハーフエルフって種族はいまさっき読み解いていた本には何も載っていないかった。まだ途中だが、種族の欄にハーフエルフはなかった。

 ハーフエルフと言う概念そのものがないのか、はたまた何かの理由で分かっておらず、エルフと言うことでカウントされているのか。

 俺のイメージではハーフエルフは他の種族からの迫害対象というイメージだが、この世界ではどうなのだろうか。ハーフエルフの欄がないのでわからない。

 そういえば寿命は? エルフと同じぐらい長寿なのだろうか?

 魔術は? 人間族としての適正で色んな魔術を使えるのか、もしくはエルフの信仰対象である風の神様の風属性のものしか使えないのか?

 これは早急に調べておく必要があるかもしれない。いつか世に出て下手を打つと、忌み嫌われる存在としてのレッテルが貼られるかもしれない。

 すくなくとも、ハーフエルフがこの世界において許容されているのかを可及的速やかに調べよう。


 ──明日にでも。

 流石に今日は疲れた。外も暗いし、なによりもう眠い。子供の身体だからか、夜更かしは出来そうもないし、する必要もないだろう。

 今日はもう寝よう。ぐっすりと眠れそうだ。

 魔術書と辞書を机において、そのままベッドに寝転がる。服は既に寝間着へと変わっている。


「お休みなさい」


 誰に聞かれる事無く呟いて、夢の世界へ旅立つのだった。

2012/11/14 改訂

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