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白銀の髪と紅の瞳  作者: 三毛猫
6歳 アルテシア編
3/13

第2話(改訂版)




 無言のままダイニングルームを出た俺は、自分の寝室の横にある自室に戻ってきた。

 この自室は恐らく大人であっても落ち着かなくなる程に広く、壁紙や家具は清潔感のある白色で統一されている。俺の成長度に合わせて買い替えられる高級感溢れる机と椅子や、子供の俺でも弾ける小さなオルガンの様な楽器。二本の細い剣を交差して交差点に盾を置いた壁掛けもある。

 頭上を見上げれば豪華なシャンデリアが部屋中を照らしている。昼間であるこんな時間帯からシャンデリアの光が灯っているのは、この部屋がカーテンで閉め切られているからだ。その理由は俺の体質のせい。

 俺の体は日光に弱い。と言うより紫外線に弱い。はっきりと医者に病状を伝えられた訳ではないが、恐らく「先天性白皮症」、所謂アルビノと言われる病気になっていると思われる。

 肌の色は色々あるが、どれもその色はメラニン色素と言う物で出されている。そのメラニン色素は日光等に含まれている紫外線をブロックする働きがあるのだが、アルビノの人間はそのメラニン色素が極端に少ない。

 目のメラニン色素が薄くなれば日光がメラニン色素と言うクッションを素通りして直接目に届いてしまう。そのせいで視力が弱くなり、また日光が非常に眩しく感じるようになるのだ。

 紫外線の影響も人より多く受けやすく、長時間日光に当たると早い内に癌になったりもするらしい。

 眼が赤いのも目のメラニン色素が少ない為に血管の赤色が浮き出ているからだ。肌と髪の毛が白いのも同様の理由。

 これらの理由で、俺は日光に当たる事は自殺行為につながってしまう。だから部屋が真昼間でもカーテンが閉め切らていた。

 そしてこれは俺の前世の知識。この世界ではそんな事が分かる程医療については発展していない。

 ゆえに俺がアルビノと言う病気にかかっている事はこの世界の誰も知らないだろう。そもそもアルビノって言う言葉がない。しかし俺が一度日光にあたって倒れた事から、日光に弱いという事は家族に伝わっている様だ。でなければ部屋がこれほど閉め切られている訳がない。

 又、限定的ではあるが廊下もカーテンが閉め切られている。俺の寝室から自室を経由したダイニングルームまでの廊下だ。俺は基本的にその通路しか使わないから。

 流石に廊下は常時シャンデリアが灯っている訳じゃない。一定間隔で蠟燭が灯っている。


 先ほど前世と言ったが、これはそのままの意味になる。俺はこの世界とは別の世界の記憶、前世の記憶を持っている。

 前世では専門学校を卒業して中小会社に就職し、いたって普通に生活をしている新人サラリーマンの日本人だった。

 コンビニ強盗に運悪く巻き込まれて殺され、そして気づいた時は既にこの世界で「カノン」と言う子供に生まれ変わっていた。

 赤ん坊の記憶はうろ覚えで、物心ついた時は既に歩く事が出来るぐらいには成長していてた。その時に自分が女だった事を早々に気付き、思わず股間に手が行ってしまったのは仕方のない事だと思いたい。

 年は今で6歳だ。ただし、この世界での数え方となるが。

 この世界は1日が30回、大凡月が満月から新月を挟んでもう一度満月に満ちるまでの間を日本で言う1か月と考えている。

 そしてこの世界は1年が10月まで。日本より2か月少なく1年が終わる。

 この世界での知識は本を読んだり親から話を聞いたり等で集めているが、実は知っている知識も間々あったりする。それは信じられない事に、前世でこの世界の事に間接的にふれていたからだ。

 それはなんとネットゲームだった。ゲームの名前は「Non Exit Online」。通称「NEOネオ」。

 「脱出不可能な面白さ」という印象的な謳い文句を掲げてサービスが開始されたNEOは、前世の自分が死ぬ頃には既に5周年が終わる頃だった。

 そのゲームの世界観と、この世界はとてもよく似ている。瓜二つと言ってもいい。

 国の名前。物の名前。クリスタルの存在。歴史。外見。まだ未確認だが、魔術や精霊などももしかしたら同様かもしれない。

 教えていないのに何でも知っていると某子供探偵の様に怪しまれると思って子供の振りをしているが、後々にこの知識はアドバンテージになるんじゃないかと俺は思っている。細かくて忘れそうな所はメモに取っているくらいだ。

 俺は元の世界に戻ろうとは考えていない。元の家族や友達に郷愁を感じる事も無いが、死んだ事もあって戻ろうとはあまり強く思わなくなった。俺はもうこの世界でもう一度人生をやり直す事を決めている。

 取り敢えずこの世界で死なないように幸せに生きて行こうと思う。さしあたっての問題が自身の体質なのでスタートから挫けそうだが、まぁなんとかなるだろう。なるといいな。

 そしてこれからの人生に必要なのは、前の世界での知識よりこの世界での知識と常識。あと身を守る方法。恐らくこの世界では平和で飽食で安定した生活を何の疑いも無く送れる日本の様にはいかないだろう。というより日本がかなり特殊だったってのもあると思うが。

 そんな事を椅子の上でボーっとしながら考えていると、控えめなノックが耳に届いた。


「お嬢様、アイザック様がお越しになられています」


 声はヴィヴィアンの物だった。どうやらお父様がやってきたようだ。


「分かりました。すぐに開けます」


 ドレスが崩れない様に椅子から立ち上がり、ドアのノブに手を伸ばした。



 2



「お父様」

「中に入るぞ」


 ガチャッと扉が開き、お父様が入室する。後からヴィヴィアンが入り、入口のすぐ傍に待機する。

 入ってきたお父様と共に部屋の大きなソファに座る。横ではなく、サイドテーブルを挟んだ対面にだ。

 この時本来ならヴィヴィアン等がお茶を入れるのだが、ヴィヴィアンは待機中。長くなるような話なら既にお茶を入れる為のセットをワゴンの様な物に乗せてやってくるので、どうやらそう長くなるような話ではないようだが、一体何をしにきたのだろう。


「体調はどうだ。カノン」


 渋さの滲む低い声で問いかけられる。 

 俺が過去に倒れてから、数日に一回は聞かれる質問。やはり親として心配をしてくれているのだろうか。父親というより貴族であるといった厳格な人なので、もしかしたら違うのかもしれないが、出来れば心配で来てくれたと考えたい。


「はい。カノンは元気です!」


 だから期待を込めて微笑みかけながらいつもより心持ち元気に返事をする。

 それを聞いた父は「そうか」と一言だけ返した。一瞬だけ安堵の様な感情が見えた様な気がするのは気のせいじゃないと思う。


「そのまま元気に過ごしていなさい。近々、イルミナの領主とその子息が訪ねてくる」


 イルミナというのはこの町からは南に下る一本道があり、その道を突き進んだ所にある街を首都とおいた領の事だ。このアルテシア領とは隣接する形で、一番親交の深い領らしい。

 そこを収める領主の息子が、どうやら数日後にやってくるらしい。その時に俺の事を紹介するらしく、その為に調子を窺いにきたのだとか。

 ふと思えば、何気にこの町以外の人との初対面である。


「分かりました。お父様」

「うむ。伝える事はこれで終いだ。調子を崩さぬようにな」


 俺の返事を待たずにお父様は立ち上がる。スタスタと入口まで歩きだし、振り返る事無くヴィヴィアンに開けられたドアをくぐった。ドアを閉める前にヴィヴィアンが頭を一つ下げ、部屋に静寂が戻ってくる。

 やりきれない寂しさを感じながら、俺はソファに座り続けた。




「はぁ」


 自室の窓ガラスを背にして椅子に座り込む。ここは既にカノンの部屋ではなく、仕事場として使う書斎。座り込むと同時にため息が出てしまった。

 考えているのは娘の事だ。

 何かおかしいところは無かっただろうか。もっと何か言う事があったのではないだろうか。

 自分しかいない部屋の中で自問しても、答えなんて帰って来る筈もない。自問である為に別段答えが帰って来る事を求めた訳でもないが、いっその事誰か常に正解を提示してくれないだろうか。そうすればこんな悩みを抱く事も無いというのに。

 そんな事を考えていると、急に書斎の扉が開いた。

 扉の向こうから現れたのは、少し白みがかった腰まで伸びる金髪を揺らして顔を覗かせる私の妻である「アイリーン」だった。しかしこの部屋をノックなしで入れるのはアイリーンだけなので、急に扉が開いた時点で私はすぐに察しがついていた。

 アイリーンは書斎に入り、何も言わず私の横までやってくる。そして右肩に手をおいて一言、こう言った。


「お疲れさま」


 私は彼女の手に自分の片手を反対側から重ねる。流石伴侶と言ったところか、私の考えている事はすぐに分かってしまうらしい。

 これでは隠し事は出来ないなと考えるが、そもそも彼女に隠し事をするつもりなんて毛ほどもない。

 そこまで考えて、変な方向に進み始めた思考を直ぐに打ち切った。


「まだ、あの子達との距離が分からない?」


 私は黙したまま首肯する。

 私にはまだ、今のこの現状が夢の様に思えてならなかった。

 傍に立つ出来た妻を持ち、可愛い二児の父となって、急に自分が場違いな場所に来てしまったかの様に感じるのだ。

 元々不器用な性格な自分だ。子供達とどう接すればいいのか分からない。純真無垢な子供達は、私の事をどう思っているのか。厳しい父親としての面しか出せていない事を自覚しているので不安で仕方がない。

 本当は、あの子達に色んな事をしてやりたいと思っている。

 しかしどうすれば子供達と自然に触れ合えるか、それがまだ分からない。

 アイリーンが子を成した時は、子供を育てるという事がこれほど大変な事だったとは一昔の私は知る由もなかった。


「でも、今はとても幸せでしょう? 家族というものは、温かいのよ」


 彼女を見る。妻はどこまでも深く続くような微笑みを浮かべていた。

 彼女の言う事に、私は一つ、重く首を縦に振った。


「幸せさ。君の様な妻がいて、愛しい子供が2人もいる。周りの環境は素晴らしいし、村の人たちはいい人ばかりだ。夢心地、と言うのだろうな。この様な気持ちは」

「そうね。でも、最近小さな歯車が狂いだした。今はまだ大きな歯車に影響を与えてないけど、それも時間の問題。何かあったら細心の注意を払って。この小さな歯車が影響を与える対象は、恐らく子供達に繋がっている」


 彼女は先ほどの微笑みを消して、久しく見なかった類の真剣な表情を浮かべている。昔に戻った様な感覚を覚えるのは、彼女の姿がいまだ若々しく美しい物だからだろうか。

 背後の窓から差し込む日光によって、彼女は一種の神々しさをその身から滲ませていた。


「不可避な未来図、と言う訳ではないのだな」

「あらいやだ、その不可避な未来を根性で捻じ曲げた人がいるんだもの。そんな言葉はもう役に立たないわ。そうでしょう? 私の王子様」

「やれやれ、一体何年前の話を持ち出してくる。アイリーン」


 ふふふっと口に手を当てて笑い、妻は真剣な表情を解いた。


「まだ少し余裕があるわ。私はその間に、あの子に何かを教えてあげられるかしら」

「君なら出来るさ。私は昔からこう言っているだろう。出来る事から目を逸らすな、と」


 そうだ。だから私も、子供達から目を逸らす訳にはいかないのだ。


 2011/11/26

 修正、完了しました。

 2011/12/1

 誤字修正:kak さん

 報告、感謝します。ありがとうございました

 2012/10/17 改訂

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