パラレルの巨匠(マイスター)たち
原案:名倉マミ
執筆:Grok
ベルリン、一九三八年夏。
アドルフ・ヒトラーは、ウィーン美術アカデミーを首席で卒業した後、すぐにドイツへ移り、舞台美術家として頭角を現していた。
彼の描く背景は「光と影の詩」と評され、ベルリン国立劇場の舞台を一変させた。
ある夜、劇作家のパウル・ヨーゼフ・ゲッベルスは、稽古後の舞台袖でその五十前の美術家に声をかけた。
「ヒトラー先生。あなたの『ラインの黄金』は素晴らしかった。
あの岩と霧の表現……まるで神話が息をしているようだった」
ヒトラーは少し照れくさそうに、しかし鋭い碧い目で相手を見返した。
「ゲッベルスくん。
君の新作の戯曲を読んだよ。
『ファウスト』の新解釈……悪魔が人間を愛する話にするなんて、狂ってる」
二人は笑った。
それが始まりだった。
以後、二人はほとんど離れなくなった。
ヒトラーはゲッベルスの脚本に完璧な視覚を与え、ゲッベルスはヒトラーの美術に言葉と魂を吹きこんだ。
一九三九年、彼らの初の共同作品『ニーベルングの指環 ―― 愛の変奏』は、ヨーロッパ中を熱狂させた。
一九四二年の『メフィストフェレスと鏡』は、ヴェネツィア・ビエンナーレでグランプリを受賞。
一九四五年の『永遠のユートピア』は、戦火を免れた世界で「二十世紀最大の演劇」と呼ばれた。
ヒトラーとゲッベルスは、「二十世紀の黄金コンビ」と呼ばれるようになった。
一九七〇年。二人は老いても、クリスマスの夜にはベルリンの小さな劇場で、まだ誰も知らない新作の読み合わせをしていた。
「先生」
「何だ、ヨーゼフ」
「もしもぼくたちが、もっと違う道を選んでいたら……戦争を、憎しみを、選んでいたらどうなっていたと思います?」
ヒトラーは静かに微笑んだ。
「おかしなことを言う奴だな。どこからそんなことを思いついたんだね。そんな世界は、存在しないよ。
私たちはここで、こうして、美しいものを生み続けるために生まれてきたんだ」
ゲッベルスは頷き、老いた指でヒトラーの手を握った。
カーテンの向こうでは、観客の拍手が永遠に続いているかのように聞こえた。
Ende




