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陽キャグループを追放されたギャルが、クラス最底辺の俺を選んだので全部壊れたけど、二人だけは幸せです

作者: 遙綿楓華
掲載日:2026/04/28

 教室の隅は、俺にとっての安全地帯だった。


 誰にも話しかけられず、誰にも期待されない。だから、傷つくこともない。俺――相沢は、そうやって波風を立てずに高校生活をやり過ごすつもりだった。


 あいつに、見つかるまでは。


「ねえ、相沢くん」


 最初は、ただの偶然だったはずだ。ギャルグループの中心にいる夏川が、たまたま消しゴムを借りに来ただけ。


 それだけだったはずなのに、いつの間にか彼女は、休み時間や放課後の誰も見ていないタイミングを狙うように、俺の隣に座るようになっていた。


「こっち来るとさ、静かでいい」


「……あっちのほうが楽しいだろ」


「楽しいよ。でもさ」


 彼女は机に頬杖をついて、俺を見る。


「疲れない?」


 その目は笑っていなかった。いつもクラスの中心で騒いでいる彼女の、初めて見た「本当の顔」だった。


 それから、俺たちの距離は一気に縮まった。くだらない話をして、笑って、ときどき黙って。その沈黙すら心地よくて、気づけば俺は、彼女が来るのを待つようになっていた。


 だが、現実は変わらない。彼女はクラスの中心で、俺はただのモブだ。


 ある日、教室の後ろから聞こえた軽いノリの言葉が、その事実を突きつけてきた。


「夏川さー、最近あっちの陰キャと仲良くない?」


「え、マジで? 意外すぎなんだけど」


 悪意のない、だからこそ残酷な笑い声。俺は顔を上げず、聞こえないふりをした。


 その日の放課後から、彼女は俺のところへ来なくなった。グループの中に戻り、いつも通り笑って、騒いで、中心にいる。ただ一つ違うのは、俺のほうを一度も見ないこと。


 ――やっぱり、そうなるよな。


 少しでも期待した自分が馬鹿だったと、胸の奥が冷えていくのを感じていた。


 数日後の昼休み。俺は突然、屋上に呼び出された。


 そこにいたのは、夏川が所属するグループの女子たちだった。


「ねえ、さ」


 リーダー格の女子が一歩前に出る。笑っているのに、目はまったく笑っていなかった。


「うちらのこと、壊さないでくれる? 夏川、あんたのせいで変になってんの。陰キャって自覚ないよね、空気壊してるの」


 言い返す言葉は出なかった。事実だからだ。俺が関わらなければ、彼女の居場所は守られていた。


「もう関わらないで」という言葉に頷こうとした、その時。


「やめてよ」


 後ろから声がした。振り返ると、息を切らした夏川が立っていた。


「それ、違うから。壊れてるの、最初からだよ」


 屋上の空気が凍りつく。夏川は一歩、また一歩と前へ出る。


「ずっと思ってた。みんな、楽しいフリしてるだけじゃん。本音言ったことある? 私はさ――」


 彼女は、俺を見てまっすぐに言った。


「相沢くんといるほうが、ちゃんと笑える」


 空気が一気に弾けた。


「マジで言ってんの?」

「意味わかんない」

「そいつ選ぶの?」


と、罵声のような言葉が飛ぶ。でも、彼女は一歩も引かなかった。


「うん、選ぶよ」


 その決定的な一言で、完全に終わった。


「じゃあ、もういいや。抜ければ?」という冷たい言葉を残し、グループの女子たちは去っていく。


 屋上に残されたのは、俺と彼女だけになった。


「……いいのかよ。全部、なくしたぞ」


 絞り出すように言う俺に、彼女は少しだけ息を吐いて微笑んだ。


「なくしてないよ。いらないもの、捨てただけ」


 強がりだと思ったが、その目は少しも揺らいでいなかった。


「私さ、ずっと“あのキャラ”やってたの。明るくて、ノリよくて。でも、相沢くんの前だと、そのままでいられる」


 彼女が一歩、近づく。距離が近い。


「……後悔しないのか」

「するかもね」


 彼女は少しだけ震えながら笑い、ぎゅっと俺の袖を掴んだ。


「でも、それでもいい。相沢くんがいるなら。だから……責任、取ってよ」


「……は?」


「好きなんでしょ?」


 逃げ場はなかった。いや、もう逃げる気もなかった。


「……好きだよ。最初から」


「……知ってた。私も好きだから」


 それは、すごくシンプルな答えだった。彼女は泣きそうな顔で、本当に嬉しそうに笑って、軽く抱きついてきた。


「やっと言った」


「……うるさい」


 俺の心臓は、壊れそうなくらい鳴っていた。

 数日後。教室の空気は完全に変わった。


 夏川のいた場所は別の誰かが埋め、俺たちは相変わらず教室の隅にいる。でも、そこはもう「安全地帯」という名の孤独な場所ではない。


「ね、今日さ。帰り、どっか寄ろ」


 隣に座る彼女は、前よりもずっとよく笑うようになった。無理をしていない、本物の笑顔で。


 壊れたものは戻らない。それでも、たった一人に選ばれたこの嘘じゃない関係だけは、しっかりと残った。



───俺には、それで十分だった。



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