第9話:死霊竜の咆哮! スライムの未知なる可能性
「グォォォォォォォォッ!!」
ボーン・ドラゴンの咆哮が、物理的な圧力となって俺の全身を叩く。
空気が震え、周囲の枯れ木が粉々に砕け散る。
目の前にそびえ立つのは、巨大な竜の骨。筋肉も皮も持たないはずなのに、その骨格からは圧倒的な生命力――いや、禍々しい「負の魔力」が溢れ出していた。
「ユートス、気を付けて! 奴の周囲にある霧……あれは触れるだけで生気を吸い取る『死の瘴気』よ!」
リリアが弓を構えながら叫ぶ。
彼女の放った風の矢がボーン・ドラゴンの肋骨に命中するが、硬質な音を立てて弾かれた。
「物理攻撃も魔法も通じにくいってわけか。……スイ、出番だぞ!」
「きゅうぅっ!」
俺の肩から飛び出したスイが、着地と同時に『ビッグ・スライム』へと巨大化する。
ボーン・ドラゴンがその巨大な尾を振り下ろす。地面が爆発し、土煙が舞う。
スイはその一撃を「リバウンド」で受け流すが、衝撃の余波で俺の足元も大きく揺れた。
(クソ、まともにやり合ってもラチが明かないな。……骨……骨か……)
俺は社畜時代、システムの脆弱性を探すプロフェッショナルだった。どんな強固なセキュリティにも、必ず「隙」はある。ボーン・ドラゴンの弱点はどこだ?
俺は「探知」と「魔力視」をフル回転させ、奴の全身をスキャンする。
見つけた。
胸骨の奥、紫色の炎が最も激しく燃えている場所。そこに、このアンデッドを動かしている「動力源」がある。
「リリア! 奴の注意を引いてくれ! 俺とスイで懐に潜り込む!」
「無茶よ、あんな瘴気の中に飛び込んだら……!」
「俺を信じろ。君と契約した時に得た『風の加護』がある。一瞬なら耐えられる!」
リリアは一瞬だけ躊躇いを見せたが、俺の瞳にある確信を見て、強く頷いた。
「……分かったわ。私の風で、道を拓く! 『大旋風連射』!」
リリアの指から放たれた無数の矢が、ドラゴンの頭部に集中する。
「ガァァァァッ!」
ボーン・ドラゴンが顔を背け、咆哮を上げる。その隙に、俺はスイの背中に飛び乗った。
「スイ、全速力だ! あのアバラの隙間に突っ込むぞ!」
「きゅうっ!!」
『能力共有:疾走(極)』。
俺とスイの速度が跳ね上がる。ボーン・ドラゴンが放つ死の瘴気が俺たちを包み込むが、リリアとのパスを通じて流れてくる清浄な風が、俺の皮膚を守る薄い膜となって瘴気を弾いた。
骨の檻のような肋骨の隙間。
そこには、赤黒く拍動する巨大な「魔石」が、無数の呪印に守られて浮遊していた。
「よし、ビンゴだ。……スイ、お前の『酸』を全出力で解放しろ!」
「きゅうぅぅぅぅぅっ!」
スイが、これまで見せたこともないほど赤黒い液体を噴射する。
ボーン・ドラゴンの魔石を覆っていた守護の呪印が、ジュウジュウと音を立てて溶け始めた。
だが、異変に気付いたドラゴンが、自らの胸の中に腕を突っ込み、俺たちを握り潰そうとする。
「させるかよ! 【無限召喚:連鎖展開】!」
俺はドラゴンの胸腔内に、さらに十体のスライムを召喚した。
「お前ら、全力で膨らめ!」
召喚されたスライムたちが、ドラゴンの内部で一斉に肥大化する。内側からの膨大な圧力によって、ドラゴンの骨格がミシミシと悲鳴を上げた。
「リリア、今だ! 魔石のバリアが剥がれたぞ!」
「はああああああっ!!」
広場の端で弓を引き絞っていたリリアが、最後の一撃を放つ。
彼女の全魔力を込めた「極大風光矢」が、骨の隙間を縫って正確に魔石を貫いた。
パキィィィィィィィン!!
世界が止まったかのような静寂。
次の瞬間、ボーン・ドラゴンの魔石が粉々に砕け散り、膨大な魔力が爆発した。
「ぐ、うわっ!?」
俺とスイは爆風に飛ばされ、地面を転がった。
視界が白く染まる中、ボーン・ドラゴンの巨大な骨格が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが見えた。
『ボスモンスター:ボーン・ドラゴンを討伐しました』
『ユートスのレベルが25に上昇しました』
『スキル【死霊支配(偽)】を獲得しました』
『召喚獣スイが「アシッド・キング・スライム」へ進化可能になりました』
「……やった、のか」
俺は泥だらけのまま、仰向けに倒れ込んだ。
空には、ようやく瘴気が晴れ、美しい満月が顔を出していた。




