第8話:旅立ちの咆哮! 新たな脅威の影
「今の音は……ただの魔物じゃないわ」
リリアが鋭い表情で森の北側を指差した。
彼女の「嗅覚強化」と「風の加護」は、契約の深化によって俺と同等か、それ以上の感度を得ている。
里の宴は一瞬で静まり返った。エルフたちが武器を手に取り、不安げに顔を見合わせる。
「村長、今の咆哮は何だ? この森に、あんな声を出す奴がいるのか?」
俺の問いに、ギルバートは真っ青な顔で首を振った。
「まさか……。あの方向には、古の時代から封印されている『禁忌の領域』があるだけだ。だが、先ほどのオークたちの暴走といい、森の均衡が崩れているのは間違いない」
俺は地面に手を当て、探知スキルを広げた。
伝わってくる震動。それは一定の周期で、こちらに向かって確実に近づいている。一歩ごとに大地が悲鳴を上げているかのような、巨大な質量。
「……リリア、悪いが旅立ちの準備を早める必要がありそうだ」
「ええ。私も準備はできているわ。里のみんなを守るためにも、その『元凶』を突き止めないと」
リリアは里の猟師としての服から、俺が契約の魔力で強化した軽装の戦闘衣に着替えた。動きやすさを重視しつつ、急所は硬質な魔物素材で守られた、機能美あふれる装備だ。彼女の美しい脚線美が強調され、俺は思わず目を奪われそうになるが、今はそれどころではない。
「ユートス殿、リリア……。本当に行くのか?」
「ああ。ここに居ても、奴を引き寄せるだけだ。俺が囮になって、森の外へ誘導する」
俺はスイを召喚した。スイはビッグ・スライムの状態を維持し、俺の荷物を飲み込んで運ぶ「ポーター」の役割も兼ねている。
「きゅうっ!」
スイも気合十分のようだ。
「リリア。君の村のバックストーリー、さっき聞いたよ。魔王軍に故郷を壊され、ここに流れ着いたんだってな」
村を後にする直前、俺は彼女に問いかけた。
リリアは一瞬、悲しげに目を伏せたが、すぐに強い意志を宿した瞳で俺を見つめた。
「ええ。私はもう、二度と大切な場所を奪われたくない。だから、あなたと一緒に戦うの。……私の村を壊した魔王の軍勢を、今度は私が射抜いてみせるわ」
「……いい覚悟だ。行こう。俺の無限召喚と、君の弓があれば、どんな敵だって怖くない」
俺たちは里の入り口で、エルフたちに見送られながら森の深部へと足を踏み入れた。
背後でギルバートが「娘を……リリアを頼むぞ!」と叫ぶ声が聞こえる。
俺は振り返らずに手を上げた。
森を進むにつれ、空気はどんどん重くなっていく。
腐敗したような臭いと、肌を刺すような魔力の圧。
「ユートス、見て。木々が……枯れているわ」
リリアの指差す先では、巨大な樹木が真っ黒に変色し、ドロドロに溶け落ちていた。
「ただの物理的な破壊じゃない。魔力を吸い取られているのか?」
俺は警戒を強める。
その時、前方から凄まじい風圧が吹き荒れた。
ドォォォォォン!
視界が開けた先、そこは巨大なクレーター状にえぐり取られた広場になっていた。
その中心に鎮座していたのは――。
「……ドラゴン?」
「いいえ、あれは……ボーン・ドラゴン!? 死霊化した竜だわ!」
体長十メートルを超える、骨だけの巨竜。
その眼窩には、不気味な紫色の炎が灯っている。
魔王軍が禁忌の術で蘇らせた、古代の災厄。
「グォォォォォォォォッ!!」
ボーン・ドラゴンが咆哮を上げる。その衝撃波だけで、周囲の岩が粉砕された。
これが、辺境の森に現れた真のボス。
「いきなりドラゴンとか、なろうの王道を行きすぎだろ……!」
俺は冷や汗を拭いながら、不敵に笑った。
「リリア、怖いか?」
「あなたの隣にいるもの。震えなんて、これっぽっちも感じないわ!」
リリアが弓を引き絞る。
俺は右手の紋章を最大出力で解放した。
「よし……初の『ドラゴン狩り』といくか。スイ、リリア、全力展開だ!」
俺たちの冒険は、この巨大な障壁を乗り越えた時、本当の意味で世界へと向かって加速し始める。
エルドラドの運命を賭けた戦いは、まだ始まったばかりだ。




