第7話:勝利の祝杯と、秘められた契約の儀
「ユートス様、万歳! エルフの里の救世主だ!」
「リリアも、あんなに強くなるなんて……女神様の再来か!?」
オークの脅威が去った里では、即席の宴が開かれていた。
木々の間にランプが灯され、エルフたちが秘蔵の果実酒や森の幸を並べる。
さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこへやら、村人たちは俺を囲んで代わる代わる感謝の言葉を口にし、酒を勧めてくる。
「まあまあ、ユートス殿。硬いことは抜きにして飲んでくれ。これは我が里に伝わる千年酒、一生に一度飲めるかどうかの名酒だ」
村長のギルバートが、上機嫌で大きな木のジョッキを差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。でも俺、あまりお酒は……」
現代日本での社畜時代、上司との飲み会で散々飲まされてきたが、あんな義務的な酒とは香りがまるで違う。一口啜ると、芳醇な甘みが全身に染み渡り、戦いの疲れが解けていくようだった。
「きゅう、きゅう♪」
足元では、スイ(今は少し大きくなったビッグ・スライム)がエルフの子供たちに囲まれ、プルプルと可愛がられている。スライムがこれほど歓迎される光景も珍しいだろう。
ふと隣を見ると、リリアが少し離れた場所で、月明かりを浴びながら自分の手を見つめていた。
「リリア? どうしたんだ、そんなところで」
俺が声をかけると、彼女はびくりと肩を揺らし、濡れたような瞳でこちらを振り返った。
「ユートス……。私、まだ自分の体が信じられなくて。あなたと繋がったあの瞬間から、自分の中に別の誰かがいるような……温かくて、強烈な何かがずっと渦巻いているの」
彼女の歩みは少しおぼつかない。酒のせいか、それとも魔力同調のせいか、その白い肌は薄桃色に上気している。
「それは『パス』が繋がったからだよ。俺の魔力が君の中に流れている証拠だ。……苦しいか?」
「いいえ、逆よ。心地よくて……もっと、欲しくなってしまうの。ねえ、ユートス。儀式の続きを……してくれないかしら?」
リリアの言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「続き……?」
「ええ。父様から聞いたわ。召喚士と契約者の絆をより強固にするには、ただ額を合わせるだけじゃ足りないって。より深い、魂の触れ合いが必要だって……」
リリアが俺の腕を掴み、村の喧騒から離れた大樹の影へと誘う。
風に揺れる木の葉の音が、彼女の吐息を隠すように響く。
「これ以上は、里のみんなには見せられないもの……」
彼女は俺の胸にそっと頭を預けた。
エルフ特有のしなやかな肢体が、薄い衣服越しに伝わってくる。
「私の心も、体も、全てユートスのものよ。……だから、刻んで。あなたが主だってことを」
リリアが顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめる。
その唇は、熟れた果実のように微かに震えていた。
俺は覚悟を決め、彼女の細い腰を引き寄せた。
現代の俺なら、こんな展開に戸惑うだけだっただろう。だが今の俺には、彼女を守り抜くという絶対的な力が、そして権利がある。
ゆっくりと顔を近づけると、リリアは期待に満ちた表情で目を閉じた。
触れ合った唇から、膨大な魔力が火花を散らすように流れ込む。
「ん……ふあぁ……っ」
リリアの喉から、甘い声が漏れる。
契約の紋章が激しく発光し、二人の魂が文字通り一つに溶け合っていく感覚。
それは、どんな酒よりも深く俺を酔わせた。
『リリア・リーフとの同調率が上昇しました』
『特殊スキル【ツイン・アクセル】が解放されました』
『能力共有が強化され、風属性魔法の威力が2倍になります』
長い接吻が終わり、唇が離れる。
銀の糸が月光に光り、リリアは幸福感に満ちた表情で俺の腕の中でぐったりとしていた。
「……ユートス。私、もう……あなたなしでは生きられないわ」
「ああ、俺もだ。君を、絶対に離さない」
俺は彼女を強く抱きしめ、夜空を見上げた。
ハーレム第一号。この絆が、これから始まる壮大な冒険の、揺るぎない礎になる。
しかし、平和な時間は長くは続かない。
宴の喧騒を切り裂くように、森の奥から不気味な地鳴りが響いてきた。
「――何だ?」
リリアがハッと顔を上げる。
それは、オーク軍団など比較にならない、圧倒的な「捕食者」の気配だった。




