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第3話: 絶体絶命の包囲網! 閃きの新スキル発動

「グルルル……ッ!」

「ガウッ! ワンッ!」

四方八方、逃げ場はない。闇に沈んだ森の中で、二十対を超える赤い眼光が俺を品定めするように見つめている。グレイウルフの群れ。一匹でも死闘だった相手がこれだけの数となれば、普通なら絶望して腰を抜かす場面だろう。

俺の肩の上で、スイが「きゅう、きゅう」と不安げに震えている。

「……大丈夫だ、スイ。俺が、お前を守ってやる」

震える声を、無理やり腹の底から絞り出した。現代日本で、無理難題を押し付ける取引先に頭を下げていた時とは違う。ここで折れたら、待っているのは「死」という名の完全な終わりだ。

俺は右手の紋章に意識を集中させる。女神ルミナは言っていた。このスキルは【無限召喚】。魔力が続く限り、無制限に召喚が可能だと。

「スイ、一匹じゃ足りないんだな。……だったら、増やせばいいだけだ!」

脳内の魔力プールが熱く脈動する。俺は地面に手を突き、叫んだ。

「【召喚】! スライム、スイ二号、三号、四号……来い、俺の兵隊たち!」

ボコボコと地面が泡立つように盛り上がり、俺の周囲に次々と水色の半透明な塊が出現した。一体、五体、十体……。魔力が削られる感覚はあるが、まだいける。

「きゅうっ!」「きゅうう!」

現れたスライムたちは、俺の意思を共有しているかのように、円陣を組んで狼たちを威嚇する。

「よし、スイたち! 奴らの足元に潜り込め! 粘着液で動きを止めろ!」

俺の号令とともに、十数体のスライムが弾丸のように飛び出した。

狼たちは驚愕しただろう。自分たちの獲物が、まさか自分たち以上の数で反撃してくるとは思ってもみなかったはずだ。

「ガフッ!? グルァッ!」

一頭の狼がスイの一体に飛びかかろうとするが、スライムは空中で体を平たく変形させ、狼の顔面に張り付いた。視界を奪われ、呼吸を妨げられた狼が悶え苦しむ。その隙を逃さず、俺は折れた枝の槍を手に取り、無防備な腹部を突き刺した。

『経験値を獲得しました。レベルが上がりました』

頭の中で響くアナウンスが、俺の闘志をさらに燃え上がらせる。

「まだまだだ! 召喚、追加だ!」

さらに五体のスライムを追加で呼び出す。スイたちの連携は、戦うごとに洗練されていった。一体が囮になり、もう一体が足を滑らせ、最後の一体がとどめの隙を作る。

俺は戦場の指揮官コマンダーになった気分だった。

「おおおおおっ!」

最後の一頭が倒れ伏した時、俺の周囲は狼の死骸と、満足げに跳ね回るスライムたちで埋め尽くされていた。

『ユートスのレベルが10に到達しました』

『スキル【並列思考】を獲得しました』

『【能力共有】により、グレイウルフの「嗅覚強化」「疾走」を獲得しました』

どっと疲労が押し寄せ、俺はその場に膝をついた。

だが、全身に漲る力は戦う前とは比べ物にならない。視界は夜闇を見通し、鼻は風に乗って流れてくる数キロ先の匂いさえ嗅ぎ分けられるようになっている。

「はは……すごいな。これが、この世界の『強くなる』ってことか」

俺はスイを抱き上げた。最初のパートナー。こいつがいたから、俺は生き残れた。

「ありがとうな、スイ。お前ら全員、最高だ」

「きゅうぅぅ♪」

スライムたちは一度光となって消え、俺の紋章の中へと戻っていく。だが、いつでも呼べば出てきてくれる感覚が、俺の孤独を癒してくれた。

社畜時代、俺は常に一人だった。責任は俺が取り、手柄は上司が持っていく。誰も俺を助けてはくれなかった。

でも、この世界では違う。俺が呼べば、仲間が駆けつけてくれる。

「さて……いつまでもここに居るわけにはいかないな。まずは、人間の住む場所を探さないと」

俺はグレイウルフから手に入れた「疾走」のスキルを使い、森の奥へと足を踏み出した。

その時、鋭い「嗅覚強化」が、ある異変を察知した。

血の匂い。それも、獣のものではない。

もっと芳醇で、それでいてひどく切迫した――「人間」の血の匂いだ。

「こっちか……!」

俺は本能的に駆け出した。

木々を飛び越え、風を切る。レベル10の身体能力は、オリンピック選手をも凌駕していた。

開けた場所に出ると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「くっ……離しなさい、この野蛮な魔物ども!」

銀色の長い髪を振り乱し、必死に弓を構える少女。

尖った耳。陶器のような白い肌。そして、引き裂かれた衣服から覗く瑞々しい肢体。

彼女を取り囲んでいるのは、醜悪な笑みを浮かべた数体のゴブリンだった。

「……エルフか?」

俺の異世界物語、第2章が今、音を立てて動き始めた。

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