第23話:大海の暴君! リヴァイアサン襲来
「……何よ、あのデカさ。冗談でしょ!?」
フィオナの叫びが、潮風に乗ってかき消された。
メティスの活気ある港は、今や絶望の悲鳴に包まれていた。
黄金の海面に現れたのは、巨大な山のような影。海を割って現れたのは、全身を硬質な蒼鱗に覆われ、数キロメートルに及ぶ巨体を持つ伝説の海竜――リヴァイアサンだった。
「グォォォォォォォォォォォォッ!!」
咆哮一閃。
それだけで大気が震え、港に停泊していた数千隻の商船が木の葉のように舞い上がり、粉々に砕け散る。
リヴァイアサンが動くたびに、高さ数十メートルの巨大な津波がメティスの街へと押し寄せようとしていた。
「ユートス様、あの魔力……ボーン・ドラゴンの比ではありません。……神話の怪物、そのものです!」
エレノアが杖を握りしめ、顔を蒼白にする。
「リリア、アリエル! 街の人々の避難を最優先に! 結界が破れたら街は一瞬で海に沈むわ!」
「分かってる! エレイン、あんたはギルドを通じて住民を誘導して!」
ヒロインたちが即座に動く中、俺は完成したばかりの魔剣『古竜雷』を抜き放った。
透明な刃が、リヴァイアサンの放つ圧倒的な威圧感に呼応し、パチパチと激しい雷光を放ち始める。
「……バルガスの奴、地下の魔力を撒き餌にして、こいつを深海から呼び寄せやがったな。魔王軍再建の資金源なんて言ってたが、こいつの素材を剥ぎ取るつもりだったか」
だが、このサイズ差だ。普通の剣士や魔法使いが束になっても、リヴァイアサンの鱗一枚傷つけることはできないだろう。
まさに、絶望。
しかし、俺の胸に去来していたのは、恐怖ではなく、底知れない高揚感だった。
(100人の美女と契約し、彼女たちの力を束ねる。……今こそ、そのチート性能の真価を見せる時だ)
「スイ、来い! 『巨神形態』だ!」
「きゅうぅぅぅぅぅっ!!」
俺の肩から飛び出したスイが、海面を覆い尽くすほどの質量へと肥大化していく。
リヴァイアサンが放った水のブレスを、巨大化したスイがその柔軟な体で受け止め、空へと逸らした。
爆発的な水飛沫が雨のように降り注ぐ中、俺はスイの頭頂部へと跳躍する。
「フィオナ! 作ってくれたこの剣、さっそく試させてもらうぜ!」
「無茶しなさいよ! 壊したら承知しないんだからね!」
俺は『古竜雷』を空へ掲げた。
「――【全契約者・魔力同調:フル・オーバーロード】!!」
王都に残したエルフや王女、そして目の前のヒロインたち。
俺の紋章を通じて繋がっている全ての美女たちの魔力が、一気に俺の中へと流れ込んでくる。
視界が白く染まるほどの膨大なエネルギー。
一人一人の魔力は微力でも、それが掛け合わされ、増幅されることで、俺のステータスは天を突く勢いで上昇していく。
『警告:魔力出力が規定値の1000%を超過。……限界突破を承認します』
俺の全身から、黄金と紫の雷が噴き出した。
あまりの熱量に、周囲の海水が瞬時に蒸発し、一面に深い霧が立ち込める。
「……リヴァイアサン。お前の海は、ここで終わりだ」
俺はスイと共に、空高く舞い上がった。
雲を突き抜け、リヴァイアサンの遥か上方。
太陽を背にした俺の姿は、神話の勇者そのものに見えただろう。
「――『古竜雷・極大雷禍斬』!!」
俺が振り下ろした魔剣から、巨大な雷の柱が放たれた。
それは剣筋というよりも、天から降り注ぐ「神の裁き」だった。
リヴァイアサンの硬質な鱗を紙細工のように焼き切り、その巨大な肉体を深海まで貫き通す。
「ギ、ガァァァァァァァァッ!!」
断末魔の叫びと共に、リヴァイアサンの巨体が二つに裂け、海へと崩れ落ちる。
その衝撃で発生した大津波を、俺はスイの能力を共有し、一瞬で「氷結」させた。
港を覆うはずだった波が、巨大な氷の彫刻となって静止する。
静寂が訪れた。
波音さえ消えた世界で、俺は砕け散る氷の粒の中を、ゆっくりと降下していった。
「……やった、のか?」
避難誘導を終えた住民たちが、呆然と海を見つめている。
そして、海面に浮かぶ巨大なリヴァイアサンの死骸と、その上に立つ俺の姿を確認した瞬間、街中から地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「ユートス様……! 貴方は、本当に……」
駆け寄ってきたエレノアが、感極まったように俺を抱きしめる。
続いてリリア、アリエル、エレイン、そしてフィオナまでもが、俺の周りに集まってきた。
「ちょっと、私だけのユートス様を独り占めしないで!」
「何言ってるのよ、助けたのは私の剣のおかげでもあるんだからね!」
美女たちの喧騒。
だが、俺の『魔力探知』は、倒したリヴァイアサンの死骸の中から、奇妙な反応を感じ取っていた。
死骸の中から這い出してきたのは……青い髪をした、絶世の美女だった。
彼女の下半身は魚の尾――人魚。
だがその瞳には、魔族特有の禍々しい紅い光が宿っている。
「……あーあ。私のおもちゃ(リヴァイアサン)を壊しちゃうなんて。……酷い人ね、人間さん」
彼女は妖艶に微笑み、指先で自分の唇をなぞった。
「私は四天王が一人、『深海の誘惑者』メロウ。……ねえ、あなた。その強大な魔力、私の『コレクション』に加えてあげましょうか?」
新たな四天王の登場。
メティスの戦いは、まだ終わっていなかった。




