第22話:黄金の報酬! 錬金術師の「特別な」謝礼
地下の『古代の心臓』に絡みついていた触手が枯れ果て、街の魔力が正常に戻り始めた頃、俺たちはフィオナの工房へと戻っていた。
地下でバルガスが溜め込んでいた私財は、エレインの迅速な計算により、金貨数千枚相当という莫大な金額であることが判明した。
「ふぅ……。これでしばらくは、素材選びに困らなくて済みそうね」
フィオナは、山積みにされた金貨を横目に、古竜の魂殻を丁寧に磨き上げていた。
「それで、俺の武具の相談だが……」
「分かってるわよ。アンタの魔力特性、さっきの戦いではっきり見せてもらったわ。普通の剣じゃアンタの魔力に耐えきれずに壊れちゃう。……だから、これを使うわ」
彼女が奥から取り出してきたのは、見たこともない透明な金属の塊だった。
「『オリハルコン・ガラス』。物理的な硬度と、魔力の透過率を極限まで両立させた、私の最高傑作の素材よ。これに古竜の魂を定着させれば、アンタ専用の『神殺しの武器』ができるわ」
フィオナの目は、真剣そのものだった。
「……少し、時間がかかるわ。集中したいから、他の三人は表で待ってて。……でも、ユートス。アンタだけは、ここで私の手伝いをしなさい」
「手伝い? 俺は錬金術なんて素人だぞ」
「いいのよ。アンタの『魔力供給』が必要なの。この素材はね、常に新鮮な魔力を流し込み続けないと、形が定まらないのよ」
リリアたちが不服そうな顔をしたが、フィオナの剣幕に押され、しぶしぶ部屋を出ていった。
工房には、俺とフィオナの二人きりになる。
パチパチと炉の火が跳ねる音だけが、静かな室内に響いた。
「……さあ、始めて。私の背中に手を当てて、ゆっくりと魔力を流し込んで。……途切れさせたら、爆発するからね」
フィオナが炉の前に座り、作業台に向かう。
俺は彼女の指示通り、背後に立ってその細い肩に手を置いた。
意外なほど、彼女の体は小さく、そして温かい。
「……んっ、……ふぅ。……そう、その調子。……もっと、奥まで……」
魔力を流し込むたびに、フィオナの喉から熱い吐息が漏れる。
錬金術師にとって、他人の魔力を体内に受け入れるのは、極めて親密で、神経をすり減らす行為だ。
彼女の肌はみるみるうちに赤らみ、額には細かな汗が浮かんでいる。
「ユートス……アンタの魔力、本当に……乱暴ね。……私の中が、アンタの色で塗りつぶされていくみたい……」
彼女はフラつきながらも、懸命にハンマーを振るい、魂殻とオリハルコンを融合させていく。
一時間、二時間。
限界ギリギリの集中状態。俺もまた、彼女との魔力の繋がりを通じて、彼女の「ものづくり」に対する情熱、そして孤独に研究を続けてきた過去を垣間見ていた。
「――できたっ!!」
フィオナの叫びと共に、工房全体が眩い黄金の光に包まれた。
作業台の上には、一振りの美しい短剣が鎮座していた。
刃は透明でありながら、内部には古竜の雷が走り、柄には俺の紋章を模した装飾が施されている。
「……『古竜雷』。これが、アンタの新しい相棒よ」
フィオナはそう言い残すと、糸が切れた人形のように、俺の腕の中に倒れ込んできた。
極度の魔力疲労。だが、その表情は、達成感に満ちた晴れやかなものだった。
「……ありがと、ユートス。アンタのおかげで、私……一生の最高傑作が作れた。……だから、これは私からの、特別な『オマケ』よ」
彼女は俺の首に腕を回し、耳元で熱い吐息を吹きかけた。
「……今夜は、私を独占させて。……金貨じゃ払えない分、アンタに……たっぷり、お礼してあげるから」
商都メティスの守銭奴錬金術師。
彼女の頑なな心は、俺の魔力によって、黄金よりも価値のある「愛情」へと錬成されたようだった。
だが、完成したばかりの魔剣『古竜雷』が、突如として激しく共鳴を始めた。
街の北側。港の方から、これまでのどんな魔物とも違う、神々しくも禍々しい咆哮が響き渡った。
「……海から、何か来るわ!」
部屋に飛び込んできたリリアが叫ぶ。
メティスの本当の試練は、ここから始まろうとしていた。




