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第21話:地下遺跡の秘密! 奪われた鼓動

フィオナの工房の奥、重厚な本棚の裏側に、隠された下り階段があった。

カビ臭い空気と、微かな機械の油の匂いが鼻を突く。

「……メティスはね、もともと古代文明の遺跡の上に建てられた街なのよ。みんなは商売に夢中で忘れてるけど、この街の繁栄を支えている『魔導装置』の動力源は、地下にあるの」

フィオナが魔導ランタンを掲げ、階段を慎重に降りていく。

階段は深く、深く続いていた。俺の『探知』スキルには、壁の向こう側から巨大な歯車が回るような、規則的な震動が伝わってくる。

「動力源? それが今の魔力枯渇に関係しているの?」

エレノアが不安げに尋ねる。彼女の持つ聖なる魔力は、この地下に漂う不浄な「淀み」に敏感に反応していた。

「そう。一ヶ月前から、街の魔導装置……外灯や水道、果ては防壁の結界に至るまで、出力が急激に落ち始めた。最初はただの経年劣化だと思われていたけど、違うわ。地下にある『古代の心臓アーティファクト』が、誰かに乗っ取られたのよ」

フィオナが足を止めた。

視界が開け、そこには広大な地下空間が広がっていた。

見渡す限りの青白いクリスタルが天井を覆い、中央には巨大な、それこそ城一軒分はあろうかという巨大な機械仕掛けの心臓が、弱々しく拍動している。

だが、その「心臓」の周囲には、おぞましい赤黒い触手が絡みついていた。

「何よ、あれ……。気持ち悪い……」

リリアが弓を構え、顔をしかめる。

触手は脈動するたびに、心臓から溢れ出す純粋な魔力を吸い取り、どこかへと運んでいるようだった。

「あれは魔王軍の『寄生型魔物』よ。……あんなの、普通の冒険者じゃ手も足も出ない。近づくだけで魔力を吸い尽くされて干からびるわ」

フィオナが悔しそうに壁を叩く。

その時、空間の影から、甲高い笑い声が響いた。

「ヒャッヒャッヒャ! さすがはメティス一の錬金術師。よくお分かりで」

影から現れたのは、奇妙な服装の男だった。

全身に無数のフラスコをぶら下げ、目にはいくつものレンズが重なったゴーグルを装着している。その背後には、機械と肉体を強引に繋ぎ合わせたような、醜悪なキメラたちが控えていた。

「……お前、魔王軍の残党か?」

俺が前に出ると、男はレンズ越しに俺を品定めするように見つめた。

「残党? 失礼な。私は魔王軍・科学局の特別研究員、バルガスだ。……この街の魔力は実に素晴らしい。四天王様たちが敗れたと聞いてね、私は独自のやり方で、魔王軍を再建するための『資金』と『魔力』を調達しているのさ」

バルガスが指を鳴らす。

すると、背後のキメラたちが一斉に咆哮を上げ、こちらへと突進してきた。

「ユートス、下がって! ここは私たちが……!」

アリエルが剣を抜こうとしたが、彼女の顔が急激に青ざめた。

「っ、くっ……力が、入らない……?」

「無駄だよ。この部屋は、私の『吸魔の触手』が支配する空間だ。近づけば近づくほど、君たちの魔力は奪われ、ただの肉の塊になる!」

バルガスが勝ち誇ったように笑う。

確かに、リリアやエレノアも、足元の魔力を奪われて膝をつき始めていた。魔力特化型の彼女たちにとって、この空間は文字通りの猛毒だ。

だが――バルガスは一つだけ計算違いをしていた。

「……吸い取る、か。面白いな」

俺は一歩、また一歩と、キメラたちの前に歩み出た。

「なっ、なぜ動ける!? 君の魔力量なら、一瞬で意識を失うはずだぞ!」

「残念だったな。俺の魔力は、吸い取られるスピードよりも『湧き出す』スピードの方が速いんだよ。……それに」

俺は右手の紋章を全開にした。

「【無限召喚】――スライム・イーター、十体展開!」

現れたのは、いつもの水色のスライムではない。

全身が真っ黒な、不気味な吸引孔を持つ特殊進化個体だ。

「スイ、あいつらの触手を逆から『食い尽くせ』! 魔力の奪い合いなら、こっちが本家だぜ!」

「きゅうぅぅぅぅぅっ!!」

召喚されたスライムたちが、壁や床に広がる触手へと飛びかかった。

触手が魔力を吸おうとする瞬間に、スライムたちがそのエネルギーを丸ごと「捕食」し、逆にバルガスの魔力供給源へと逆流させる。

「ギ、ギャァァァッ!? 私の魔力が……逆に吸い取られて……!?」

バルガスが狼狽し、キメラたちに命令を下す。

「殺せ! その召喚士を今すぐ殺せ!!」

「……遅いよ」

俺は【能力共有:神速】を発動させた。

魔力を奪われるどころか、スイが吸い取ったエネルギーが俺の中に流れ込み、体はかつてないほど軽く、熱い。

俺は一瞬でバルガスの懐に潜り込み、雷を纏った拳をその腹部に叩き込んだ。

「――お前の理屈(科学)は、俺のチートには通じないんだよ」

ドォォォォォン!!

地下空間に衝撃音が響き渡り、バルガスは壁まで吹き飛んで埋まった。

「……はぁ。さて、フィオナ。こいつの掃除が終わったら、この『心臓』の修理を頼む。……代金は、そこの気絶した男の全財産でいいな?」

俺が振り返ると、フィオナは呆然とした顔で俺を見つめていた。

「……アンタ、本当に……バケモノね。……でも、嫌いじゃないわ。その強引なところ」

彼女の瞳には、先ほどまでの警戒心ではなく、熱い「期待」が宿っていた。

地下の危機は去った。だが、バルガスの言葉が気にかかる。

『魔王軍を再建するための資金』。

メティスを狙っているのは、彼一人ではない予感がした。

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