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第2話: 初の美女召喚と契約の儀式

「……おいおい、マジかよ」

エルドラドの辺境、静寂に包まれた「深緑の樹海」。

俺、ユートスは、自分の目の前でプルプルと震えている「それ」を見て、思わず乾いた笑いを漏らした。

女神ルミナから授かった超弩級のチートスキル【無限召喚】。魔王を倒し、100人の美女を侍らせる最強の召喚士への第一歩。その記念すべき最初の召喚獣が、これだ。

「きゅう、きゅう……」

足元に転がっているのは、バレーボールほどの大きさの、半透明な水色の塊。

どこからどう見ても、ファンタジー世界における最弱の代名詞――スライムだった。

「いや、確かに『最初は弱いかも』とは言われたけどさ……」

俺は深いため息をつき、地面にへたり込んだ。

現代日本での社畜生活。満員電車に揺られ、理不尽な上司に頭を下げ続け、ようやく手に入れた「異世界への切符」。それがスライム一匹からスタートとは、神様もなかなかスパルタじゃないか。

俺は意識を集中させ、脳内に浮かび上がる「ステータス」を確認する。

【名前】ユートス(高橋悠人)

【職業】召喚勇者

【レベル】1

【スキル】無限召喚(ランク:EX)、能力共有(ランク:EX)

【契約召喚獣】スライム(名前なし)×1

【共有能力】なし(※召喚獣との絆が不足しています)

「能力共有も、まだ使えないのか。……まずはこいつと仲良くなるしかないってことか」

俺は恐る恐る、スライムに手を伸ばした。

ひんやりとした、ゼリーのような感触。撫でてみると、スライムは気持ちよさそうに体を震わせ、俺の手のひらにすり寄ってきた。

「……可愛いな、お前。名前がないのも不便だし……今日からお前は『スイ』だ」

「きゅう!」

スイが嬉しそうに跳ねた、その時だった。

ガサッ、と背後の茂みが大きく揺れた。

本能的な恐怖が背筋を駆け抜ける。俺は反射的に立ち上がり、音のした方へ視線を向けた。

そこには、赤く光る眼光が二対。

姿を現したのは、体長2メートルはあろうかという巨大な狼だった。銀色の毛並みは針のように鋭く、剥き出しになった牙からは、粘り気のある涎が垂れている。

「グルルル……ッ!」

「グレイウルフ……!」

脳内に、女神から与えられた基礎知識が流れ込む。エルドラドの森に生息する肉食獣。レベル1の人間が単体で遭遇すれば、まず助からない「初心者の壁」だ。

「おいおい、初日からクライマックスかよ……!」

俺の心臓は、壊れた鐘のように激しく脈打っていた。

足が震える。逃げようにも、相手は四足歩行の魔物だ。背中を見せれば、一瞬で喉笛を食いちぎられるだろう。

逃げ場はない。戦うしかない。

でも、俺の手元にあるのは――。

「きゅうっ!」

スイが、俺の前に進み出た。

自分より何倍も大きい狼を前に、勇猛果敢に(といっても、プルプル震えているだけだが)威嚇している。

「スイ、ダメだ! 下がってろ!」

「ワォォォォォォン!」

俺の制止も虚しく、グレイウルフが跳躍した。

巨大な質量が、獲物を仕留めるために宙を舞う。

死が、目の前に迫る。

(……いや、死んでたまるか!)

ブラック企業で、睡眠時間を削り、心を削り、それでも「明日」を掴もうとしがみついてきたんだ。

あんな虚しい死に方をして、ようやく手に入れたこの世界での生を、こんなところで終わらせてたまるか!

「スイ、体当たりだ! 奴の顔を狙え!」

俺は必死に叫んだ。

その瞬間、俺の右手の紋章が熱を帯びる。

【無限召喚】のランクはEX。ただ召喚するだけじゃない。召喚主の意志が魔力となり、召喚獣の能力を一時的にブーストさせる――!

「きゅうぅぅぅっ!」

スイの体が、一瞬だけ激しく発光した。

バネのように地面を蹴ったスイは、予想外の速度でグレイウルフの顔面に激突する。

単なる体当たりじゃない。スライム特有の「粘着性」を最大限に活かし、狼の視界を塞ぐように張り付いたのだ。

「グルァ!? ガウッ、ガウッ!」

視界を奪われ、パニックに陥るグレイウルフ。

地面に落ちて転がる狼に対し、俺は近くに落ちていた、先が尖った太い枝を両手で握りしめた。

現代の俺なら、こんな重い枝を振り回す気力もなかっただろう。

でも今は、体の中に「熱」がある。生きようとする意志が、力を生んでいる。

「おおおおおおおっ!」

俺は渾身の力で、グレイウルフの首筋を目掛けて枝を突き立てた。

柔らかな肉を貫く感覚。生温かい血が手に飛ぶ。

狼は激しく身悶えし、やがて――動かなくなった。

『経験値を獲得しました。ユートスのレベルが2に上がりました』

『召喚獣スイのレベルが2に上がりました』

『条件達成:【能力共有】が発動します。スイの「弾力」と「酸耐性」を継承しました』

頭の中に響く無機質なアナウンス。

それと同時に、俺の体の中に不思議な感覚が流れ込んできた。

筋肉が引き締まり、皮膚が柔軟な、それでいて強固な鎧を纏ったかのような感覚。

これが……能力共有。

「はぁ、はぁ……。やった、のか?」

俺はその場に座り込み、荒い息を吐いた。

スイが狼の顔から離れ、トコトコと俺の膝に乗ってくる。

「助かったよ、スイ。お前のおかげだ」

「きゅうぅ……」

スイを撫でながら、俺は確信した。

この【無限召喚】は、ただの数集めじゃない。

一つ一つの絆を積み重ね、その強さを自分に取り込む。100人、100匹と契約を重ねた先、俺は本当に神に手が届く存在になるのかもしれない。

だが、安堵したのも束の間。

静まり返った森の奥から、さらなる「音」が聞こえてきた。

ガサガサガサガサッ!!

一つ、二つじゃない。

数えきれないほどの足音が、こちらに向かって急速に近づいてきている。

「まさか……群れか?」

グレイウルフの断末魔が、仲間を呼んだのか。

月明かりの下、闇の中から無数の赤い眼光が浮かび上がる。その数は、十……いや、二十は超えている。

「くそっ、レベル2になったばかりだってのに、もう一斉テストかよ……!」

俺は再び枝を構え、スイを肩に乗せた。

絶望的な状況。だが、俺の口元は微かに歪んでいた。

社畜時代に叩き込まれた「土壇場での底力」を見せてやる。

「……来いよ。まとめて、俺の経験値にしてやる!」

ユートスの異世界サバイバル。その本当の地獄は、ここから始まった。

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