第12話:呪われた受付嬢! 深夜のギルドに潜む影
王都の夜は、辺境の森とはまた違う不気味な静寂に包まれていた。
深夜、閉鎖された冒険者ギルドの一室。窓から差し込む月光が、エレインの青白い肌を冷たく照らしていた。
「……本当に、ここまでする必要があるのでしょうか、ユートス様」
エレインの声は震えていた。
彼女は今、背中が大きく開いた予備の制服を身にまとい、俺の前に跪いている。その白い肩口には、不気味な紫色の紋様が、生き物のようにうごめいていた。
「ああ。それは『魂喰の呪印』だ。放置すれば、一ヶ月以内にあんたの魔力は枯渇し、命を落とす。……今すぐ浄化しなきゃ手遅れになる」
俺はリリアを部屋の入り口に立たせ、警戒を任せていた。
「ユートス、無理はしないでね……」
リリアの視線には、少しばかりの嫉妬と心配が混じっている。俺とリリアの「パス」が繋がっているからこそ、彼女には俺がこれから何をするのか、ぼんやりと伝わっているのだろう。
「エレインさん、目を閉じて。……少し、熱くなるぞ」
俺は右手の紋章を光らせ、エレインの背中にある呪印にそっと手を触れた。
「っ……あ、あぁ……っ!」
触れた瞬間、エレインの体から熱い吐息が漏れる。
俺の魔力が彼女の体内に流れ込み、どす黒い呪いの魔力とぶつかり合う。
『スキル【死霊支配】を応用し、呪いの分解を開始します』
『浄化効率を上げるため、対象との「魔力同調」を強化してください』
(同調を強化……? つまり、もっと深く接触しろってことか)
俺は意を決し、エレインの体を後ろから抱きしめるようにして、両手を彼女の胸元、ちょうど呪印の根源がある位置に回した。
「ふ、あぁ……ユートス様、体が……中が、溶けそうです……!」
彼女の眼鏡が曇り、潤んだ瞳が俺を見上げる。
事務的でクールだった彼女の仮面が剥がれ、一人の「女」としての素顔が露わになる。
俺は自らの魔力を、まるであんたの血管の一つ一つをなぞるように、細かく制御して送り込む。
「……リラックスしろ。俺の魔力を拒絶するな。……受け入れてくれ、全て」
「はい……っ、ユートス様に、お任せ、します……!」
エレインが俺の腕に体重を預けてくる。
彼女の心拍数が跳ね上がり、俺の胸にその鼓動がダイレクトに伝わる。
契約ではないが、魔力を流し込むこの行為は、それに近い親密な繋がりを生んでいた。
次の瞬間、黒い紋様が激しく発光し、エレインの背中から黒い煙となって噴き出した。
「ガァァァァッ!」
煙の中に、醜悪な骸骨の顔が浮かび上がるが、俺の背後で待機していたスイがそれを一飲みにした。
「きゅうっ!」
スイの酸が、呪いの残滓を跡形もなく消滅させる。
「……終わったぞ、エレイン」
俺が手を離そうとすると、エレインは名残惜しそうに俺の服を掴んだ。
彼女の肌は薄桃色に染まり、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「……ありがとうございました、ユートス様。私、あんなに体が熱くなったのは、初めてで……。なんだか、貴方の魔力が、まだ体の中に残っているような気がします」
彼女はゆっくりと立ち上がり、眼鏡を直すと、かつての冷静さを取り戻そうとした。
しかし、その頬の赤らみまでは隠せていない。
『エレインとの親密度が大幅に上昇しました』
『ギルドの内部情報へのアクセス権(非公式)を獲得しました』
「約束通り、貴方を全面的にサポートいたします。……まずは、この王都で最も『効率的』にランクを上げられる、特別なクエストをご紹介しましょう」
エレインは俺の耳元で、甘く囁いた。
「それから……これからは、プライベートな時間でも、私を頼ってくださいね? 事務作業以外でも、貴方の『お役に』立ちたいですから」
クールな才女の、思わぬ「デレ」。
俺は鼻の下を伸ばしそうになるのを必死で堪え、隣で頬を膨らませているリリアを宥めるのに必死だった。
王都編。どうやら、ハーレムの拡大は俺の想像以上のスピードで進みそうだ。




