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第10話:竜の遺産と、戦士の休息

「ユートス……! ユートス、無事なの!?」

駆け寄ってくる足音。

リリアが俺の体に縋り付き、必死に俺の顔を覗き込んでいる。

彼女の服もまた、爆風と瘴気でボロボロになっていた。透き通るような白い肩や、露わになった太ももが月光に照らされ、不気味なほど美しく見えた。

「ああ……なんとか生きてるよ。……リリア、最高のショットだった」

「よかった……。あなたが死んじゃったら、私……」

リリアの瞳に涙が溜まる。彼女は俺の胸に顔を埋め、子供のように肩を震わせた。

死線を共にしたことで、俺たちの間の「パス」はさらに深く、熱く繋がっているのが分かった。彼女の心臓の鼓動が、自分のことのように伝わってくる。

「……リリア、落ち着け。もう大丈夫だ。ほら、スイもピンピンしてるぞ」

「きゅうぅ♪」

少し色が濃くなったスイが、俺たちの周りを弾むように跳ねている。

俺は起き上がり、崩壊したボーン・ドラゴンの残骸へと歩み寄った。

山のような骨の山の中に、一つだけ眩い光を放つ欠片が落ちていた。

「これは……竜の魔石の核か?」

拾い上げた瞬間、紋章が熱を帯びる。

『伝説級素材:古竜の魂殻こりゅうのこんかくを獲得しました。召喚獣の進化、または武具の強化に使用可能です』

「伝説級……。これを売るだけで、一生遊んで暮らせそうだな」

「何言ってるの、ユートス。これはあなたの強さの証よ。もっともっと強くなって、いつか本当に魔王を倒すんでしょ?」

リリアが涙を拭い、いたずらっぽく微笑んだ。

「そうだな。……さて、里に戻るか。みんな心配してるだろうし」

俺たちは崩壊した戦場を後にし、エルフの里へと向かった。

だが、村に辿り着いた俺たちを待っていたのは、歓迎の宴だけではなかった。

里の入り口には、見慣れない「馬車」が停まっていた。豪華な装飾が施された、貴族のものと思われる馬車だ。

「あれは……領主様の紋章?」

リリアの顔が強張る。

村の中央広場では、村長ギルバートが、一人の男に頭を下げていた。

贅沢な絹のローブを纏い、傲慢そうな笑みを浮かべた若い男――この地の領主、カスティル子爵。そして彼の背後には、数人の重武装した騎士たちが控えている。

「ふむ、この里を救ったのが『流れ者の召喚士』だというのか? 笑わせてくれる。手柄を横取りしようとする詐欺師の類ではないか?」

カスティルの声が、静かな里に響き渡る。

「滅相もございません! ユートス様は本当に、あのオーク軍団を一人で……!」

「黙れ、老いさらばえたエルフめ。召喚士など、この王国では『奴隷』同然の扱い。そんな者が功績を上げるなど、秩序の乱れよ」

俺はリリアの制止を振り切り、広場の中心へと歩み出た。

「……へぇ、秩序の乱れ、ですか。魔物が里を襲っている時に、どこかの安全な城で震えていた誰かさんよりは、役に立ったと思うんですがね?」

広場が凍り付く。

カスティルが顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。

「……貴様、今なんと言った? 無礼者め! 騎士たちよ、この身の程知らずを捕らえよ!」

騎士たちが剣を抜く。

だが、リリアが即座に俺の前に立ち、弓を引き絞った。

「ユートスに指一本触れさせないわ。……相手が貴族だろうと、私は容赦しない!」

「よせ、リリア。……カスティル子爵と言ったか。あんた、大きな勘違いをしてるぞ」

俺は右手の紋章を、彼に見せつけるように掲げた。

「俺は、召喚士だ。……それも、あんたの知ってるような『奴隷』じゃない」

俺は念じ、スイを呼び出した。

ただし、ただのスイじゃない。

ボーン・ドラゴンの魔力を一部吸収した、禍々しい圧力を放つ『アシッド・キング・スライム』だ。

「ヒッ……!? な、何だその化け物は!」

「こいつが、あんたの首を撥ねる前に……さっさとその豪華な馬車で帰るんだな。それとも、ここで『不慮の事故』に遭いたいか?」

俺の冷徹な声に、カスティルは腰を抜かして尻餅をついた。

騎士たちも、スイが放つ圧倒的な捕食者の気配に、一歩も動けなくなっている。

「……お、覚えておれよ! 王都の召喚ギルドに報告して、貴様の資格を剥奪してやる!」

捨て台詞を吐きながら、カスティルたちは逃げるように馬車へ乗り込み、走り去っていった。

里に再び静寂が訪れる。

「……ユートス様。ありがとうございます。でも、これで貴方は王国の権力者から目を付けられてしまった……」

ギルバートが申し訳なさそうに言ったが、俺は笑って答えた。

「構いませんよ。元々、一箇所に留まるつもりはありませんから。……王都、ですか。ちょうどいい、俺たちの名前を売りにいきましょう」

俺はリリアの肩を抱き寄せた。

彼女の体はまだ戦いの興奮で微かに震えていたが、俺の腕の中でゆっくりと落ち着きを取り戻していく。

「どこへでも、付いていくわ。ユートス」

その夜、里での最後の夜。

俺とリリアは、誰にも邪魔されない森の奥の泉で、戦いの汚れを洗い流していた。

月光が水面を揺らし、リリアの濡れた体が真珠のように輝く。

「……ねえ、ユートス。さっきの、怖かった?」

「いや、全然。……それより、今は君の方が……綺麗で、怖いよ」

俺の手が、リリアの濡れた背中をなぞる。

彼女は吐息を漏らし、俺の首に腕を回した。

「……契約は、まだ終わってないわ。もっと、深く繋がって……」

泉の波紋が、静かに広がっていく。

明日は王都への旅立ち。だが今夜だけは、この異世界で得た最初の「絆」を、心ゆくまで確かめ合いたかった。

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