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1-8 女神に祈りを 4

 胸に回復魔法の回路を刻まれてから、ほぼ二週間が経った。

 今日、リースは治療所での四回目の仕事にやってきた。


「おはよう、リース」


 一緒に働く若い僧侶が柔らかい声で言った。まるで弟を見るような優しい目だった。


「おはようございます、ルーファスさん」


 リースが答えると、彼の笑顔がさらに広がった。グレモアが教えると言っていたが、実際にはルーファスから回復魔法を学び始めていた。


 グレモアは、今日の当番表に名前があるのに、ほとんどここに姿を見せない。

 その話をすると、マリーナの信徒である二人は、口を曲げ、目をそらした。


 正面の扉が勢いよく開いた。

 男が小さな女の子を抱えて治療所に飛び込んできた。少女は甲高い声で泣いていた。

 片方の足から血が滲み、細かい獣の牙の跡が深く刻まれ、赤く腫れた皮膚が裂けていた。


「助けてください!」


 父親の声は震え、木のベッドに娘を下ろした。

 少女の涙に濡れた目を見たリースは、緊張で思わず唾を飲み込んだ。

 ルーファスは慣れた手つきで傷を調べ、血を拭き取り、穏やかな声で言った。


「傷はそれほど深くない。リース、今回は君がやってみなさい」


「はい」

 リースは震える小さな足の上に手を掲げた。少女の喉から漏れるすすり泣きがまだ聞こえる。彼は深く息を吸った。


「マリーナの慈悲よ、どうか彼女を癒してください……」


 朝露のような青い光が輝き、噛み傷の傷が癒え、皮膚に小さな痕だけが残った。


「ありがとうございます!」


 父親が大声で感謝し、治療費として大きな銅貨二枚を払い、去っていった。


「よくやったね」


 ルーファスは微笑み、リースに頷いた。リースも嬉しそうに笑い返した。治療所が空くと、二人はそれぞれの席に戻った。


 アッシェンブルクの治療所に来る人は、たいてい軽い打撲や仕事中の傷だ。

 戦場のようなランタナと比べれば……。

 過去を思い出した瞬間、リースは長いため息をついた。少年は首を振って考えを追い出し、体の本を読み直した。


 だが、静けさは長く続かない。穏やかな時間には、必ず嵐がやってくる。


 治療所の前から騒ぎ声が響いた。


「大変だ! 助けてくれ!」


 リースとルーファスが同時に振り返ると、木の扉が勢いよく開いた。

 数人の男たちが血まみれの担架を運び、部屋の中央に置いた。


「牛が暴走したんだ!」


 牛舎の主が震える声で叫んだ。


「突進して、俺の従業員を突き刺した!」


 担架の二人からは血が流れていた。一人は腹が突き破られ、濃い赤い血が包帯を染めた。

 もう一人は片腕が千切れ、手がなくなっていた。血の匂いが空気に漂い、リースは唾を飲み込んだ。


 こんな重傷は、彼らでは対処できない。


「まずい、これはまずいぞ!」


 ルーファスが顔を青ざめさせた。


「ルーファスさん、早くグレモア様を呼んできてください!」


「あ、うん!」


 彼はすぐに飛び出した。リースは瀕死の二人と一人で残された。

 リースは歯を食いしばり、腹の傷の上に手を掲げた。


「ヒール!」


 青い光が手の中でちらついた。汗だくになりながら魔力を注いだが、傷は動かなかった。

 心臓が乱暴に鳴り、手が震えて制御できない。


「ヒール……ヒールしろ!」


 何も起こらない。


「坊や……」


 背後から低い声が聞こえ、リースは動きを止めた。そこには老僧侶が立っていた。


「心が揺らぐと、癒せないよ」


「ラントン様!」


 リースは叫んだ。何度かしか会ったことがないが、忘れられない顔だ。


「まだ覚えていてくれてありがたい」


 彼の柔らかく落ち着いた声は、岩のように揺るぎなかったが、優しさも滲んでいた。

 ラントンは患者のベッドに近づき、白と青の混ざった髭の顔を近づけて状態を確認した。


「これほどの重傷なら、近道を使うしかない」


「近道?」


 ラントンは確かな態度でリースに言い、回復ポーションの箱を指した。


「それを取ってきてくれ」


 リースは慌てて箱を取り、置いた。ラントンはポーションの瓶を手に取り、吟味した。


「この瓶でいい」


 ポーションを見たリースの目は震えた。回復ポーションは魔法の力が込められているが、傷を癒す効果は限定的だ。

 深い切り傷ならまだしも、内臓まで達する傷をどうやって?


 ラントンは手をポーションの瓶の上に掲げた。


「慈悲深き女神よ、我に癒しの力を与えたまえ」


 手のひらに青い光が現れる代わりに、ポーションが夜の星のように眩しく輝いた。


「さて、これで」


 ラントンは突き傷の男にポーションをかけた。微かな音と共に、肉が目の前で癒えた。リースは目を丸くした。

 血が止まり、傷が閉じ、命が一瞬で戻った。


「彼を起こして」


 リースは言われた通りに男を起こした。ラントンはポーションを無理やり飲ませ、口から青い光が輝いた。内臓が奇跡的に癒されたようだった。


 腕が千切れたもう一人も瞬く間に治療された。腕は生えなかったが、血が止まり、傷は完全に閉じた。


「次は骨と外傷だ」


 リースは呆然と立ち、全てを驚愕で見つめた。目の前の光景は、彼の知る「回復魔法」を超えていた。


 力の差を痛感した瞬間だった。


「今日見たことは、胸にしまっておけよ」


 老僧侶は柔らかい声で言い、穏やかな笑みで気遣いを見せ、背を向けて奥の部屋に戻った。

 リースは遠ざかる背中を見つめ、静かに頭を下げた。


 夕方、仕事が終わった後、薬室の扉が開き、聞き慣れた少年の声が響いた。




「グレモア様」

 煮えたぎる薬草の鍋から苦い香りが漂い、大きな鍋の上には宝石が吊るされ、微かに光っていた。

 少なくとも、意図的にサボったわけではないらしい。


「ん、今日、は早いな」


 グレモアは振り返らず、薬草の鍋をかき混ぜ続けた。


「これ、いつも通りだ」


「はい」

 部屋を横切って投げられたものを、リースは正確に受け止めた。白い金属の枠に嵌った魔法の宝石。魔力を込めると色が変わる。


 グレモアの訓練の一つは、治療所での仕事後、リースが持つ全ての魔力をこの宝石に注ぐことだった。


 最初、リースは目的が分からなかったが、グレモアは「回復ポーションの製造に魔力を込めると効果が上がる」と説明した。

「冒険者が目の前で死ぬような低品質のポーションは見たくないだろ?」

 その言葉に、リースは反論する理由を失った。


 リースは宝石を握り、目を閉じて全ての魔力を注いだ。少年は荒々しく息を吐き、近くの椅子に崩れ落ちた。頭に痛みが走り、目を固く閉じた。


 しばらく休むと、リースは立ち上がり、薄青く光る灰色の宝石をグレモアの机に置いた。

 振り返ると、師はまだ薬草の鍋に没頭していた。リースは息を吸い、勇気を振り絞った。


「グレモア様、本物の回復魔法を学びたいです」


 声を張って言った。グレモアのような男なら、この願いを利用するだろうと分かっていた。だが、反応は予想と違った。


「うひゃっ!」


 グレモアはキツネの尾を踏まれたような顔で振り向き、意外な声を上げた。


「まだ始めたばかりなのに、どこからそんな考えが?」


「今日、瀕死の患者に会いました……」


「それが新人の不運ってやつだな」


 そう言うと、グレモアは顎に手をやり、カエルのように目を動かし、ゆっくり狡猾な声で言った。


「残念だが、訓練に近道はないよ」


 そう言って、空の魔法宝石をもう一つ投げてきた。


「できることは、もっと厳しく訓練することだけだ。これから毎日、これに魔力を込めてこい」


 最後に彼は言った。ずる賢い顔に本気の光が宿り、一切妥協しないと告げるようだった。



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