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第31話 1-31 リ-ス、エスとエスタ 

『アリアアルデルの勇者伝説』は長年にわたり爆発的な人気を得てきたシリーズだ。数えきれないほどの外伝があり、アニメやライトノベルなどさまざまなメディアミックスも展開されている。


 シリーズの古典とも言える本編は、RPGアドベンチャーゲームで、プレイヤーは主要NPCたちと恋愛関係を築くことができる。そして運命のクエストを成功させると、大戦でそのNPCは死なずに生き残り、好感度が「心の底からの愛」に達していれば、正式にプロポーズして結婚することも可能だ。


 プレイヤーは主人公を男性・女性どちらでも選べる。

 女性主人公を選んだ場合、プレイヤーは「ミトラ」という名前のキャラクターとしてプレイする。


 ミトラは設定上、スピード特化のチート級勇者だ。ただし完全無欠というわけではなく、ステータスが極端に尖っている。敏捷と攻撃力は破格だが、HPは極端に低く、回避率80%を超えていても一撃食らえば瀕死……まさに「グラスキャノン」と呼ばれる典型だった。


 もちろん、味方を強化してくれるバフ系主要キャラは何人か恋愛可能で、彼らを攻略すればミトラでも楽にクリアできる。


 だが、その中でも特に「ミトラ専用」としか思えないほど相性が完璧なキャラクターが一人だけいた。

 女子プレイヤー人気ダントツ一位の、あの男──

 名は「沈黙のエス」

 職業:夜の使徒

 孤高の女神ルナリスの信徒

 さて、ここからが本題だ。


 ゲーム序盤、エスは炎髪の恋人「アンジェリカ」と共に登場する。彼女もまた、もう一人の主要ヒロインだ。


 だがエスとアンジェリカは「引き裂かれる運命」のカップルである。


 二人が同じ世界に同時に存在することは許されない。


 もしプレイヤーがミトラ(女主人公)を選べば、アンジェリカは脚本上必ず死に、

 逆に男主人公を選べば、今度はエスがアンジェリカの身代わりに死ぬ。


 どれだけ頑張っても、二人を同時に生かしておくことは不可能だ。

 チートやハックを駆使しても、製作者があらゆる手段を潰すコードを仕込んでいたため、どうやってもバグって強制終了する。


 それに反発したMODderたちは「もう一人のエス」を作り出した。

 だが所詮は別人。元のエスとアンジェリカの恋愛イベントは存在しない。死んだほうのキャラはシナリオ上すでに消えているからだ。

 だから「もう一人のエス」は、自分の愛するアンジェリカが男主人公と結ばれるのを、ただ見ているしかなかった。

 ……なんて悲しいんだ。お前らの心臓は鉄かよ。


 結局、MODコミュニティは団結し、理想のタイムラインで「本物のエス」と「本物のアンジェリカ」を再現する巨大MODを作り上げた。

 同人誌まで出して、爆売れした。

 でもあれは正史カノンじゃないよね?

 そして、公式ラインでは今も「もう一人のエス」が、プレイヤーの隣で肩を落としている。

 エスとアンジェリカの人生は、最初からプレイヤーによって決められていたのだ。


 話を続けよう、キャラクターの話だ。エスかアンジェリカのどちらかについて、恋人が死んだ後、生き残った方は暗黒モードに入り、精神的に落ち込むんだ。プレイヤーと一緒に冒険を続け、失った恋人を手放し、徐々にプレイヤーと絆を深めていく……ストーリーの終わりまでね。


 アンジェリカの話はもういいや。エスの話にしようぜ。


 だってエスよ。一度暗黒モードから抜け出せば、クールでデレるイケメンキャラに変身するんだ。まさに女の子たちの理想の男ってやつさ。

 この世にエスのクールさに耐性がある女プレイヤーなんて、ほとんど存在しない。

 私も、もちろん例外じゃない。


 エスの「本質」を表すメインスキルは、自分をミトラの前に三回盾にするやつ。普通っぽいだろ? でも面白いのは、このスキルのクールダウンがたった二ターンだけだってこと。だから連続でぶっ放せるんだ。しかもエスはタフネス設計のキャラで、固有スキル「ガズファイター」を持ってる。これがあると、最後のヒットで即死せず、HP10だけ残るんだよ。

 この二つのスキルのおかげで、「グラスキャノン」ミトラはほぼ不死身さ。


 男プレイヤーたちは彼を「ゴキブリ野郎」って呼んで、昔それがきっかけで、男女ファン同士がオンラインで大戦争を起こしたんだぜ。


 さて、これまでの話が今の状況にどう関係するかって?

 それは้私──いや、ミトラが、異世界から来た奴だからさ。


 自己紹介しよう。前の人生では、三十三歳の孤独なOLだった。空いた時間はゲームやってマンガ読んでノベル読んで……このシリーズが大好きで、高いガイドブックを買って、まるで飲み込むみたいに読み込んだよ。でも、道路で子供を助けて事故に遭って死んじゃった。


 そしたら、ミトラとして転生したんだ。


 五歳の時に、前世の記憶が目覚めた。ここは้私が愛したゲームの世界。そして้私がミトラ、女主人公!!!


 でもこの世界にはレベルもステータスウィンドウもコマンドもない。きっとあれはプレイヤーだけが見えるものなんだろうな。้私はプレイヤーからNPCに格下げされたわけだ。


 それでもガイドブックの知識がある。豊富な知識で、ゲーム開始前の時期を楽々クリア。十五歳の初日に銅ランク冒険者に昇格さ。素晴らしいだろ?


 そして、ついに本当の冒険が、ここから始まるんだ。


 ガイドブックで知ったんだけど、エスになる前のエスは「リース」って名前だった。彼とアンジェリカはランタナから帰ってきて、鉄蜂の巣掃討の依頼を受けたんだ。


 二人は鉄蜂どもを全滅させたけど、昆虫を操る魔導士に遭遇。そこであるアンジェリカがやられて瀕死に。リースは女神ルナリスに自分の名を捧げ、沈黙のエスになってその魔導士を倒したんだ。

 それから一年半後、二人はランタナへ旅立ち、勇者と出会う。そして悲劇が……。


 私は勇者だ。だからこそ、エスに出会う日を心の底から待ち焦がれていた。

 ……でも、私、やりすぎちゃったんだ。

 だって「リース」にはガイドブックに一枚も画像が載ってないんだよ!

「エスになる前のリースってどんな顔?」って好奇心が爆発して、全部が変わっちゃった。

 ランタンから真っ直ぐアッシュエンブルクへ、鉄蜂討伐任務に突っ走った。

 受付のお姉さんがどんなに困った顔しててもお構いなしに、リースとアンジェリカに会いたくて一直線!

 ……なのに、そこにいたリースの横には、アンジェリカがいなかった。


「アンジェリカにパーティーから追い出された」って聞いた瞬間、心臓が止まりそうになった。

 このままじゃリースはエスになれない……! 鉄蜂の巣で死んじゃう!?


 怖くて眠れなくて、イライラが限界で、それでもニコニコ顔を張り付けて当日まで耐えた。

 後からアンジェリカが追いかけてくるって信じてたのに……来なかった。

 だからリースに近づこうとしたら、うっかり落ち込んでる彼にアンジェリカの名前を出しちゃって。


 でも怒ったのは、リースじゃなかった。


「あの女はもう来ないわよ。今頃ランタナでヴィクターとイチャイチャしてるに決まってるじゃない!」

 ランタナの美人パーティーリーダーが叫んだ瞬間、最悪の真実が突き刺さった。


 ヴィクター……!? 男主人公の名前じゃん! なんで!? ミトラの私がここにいるのに!!

 アンジェリカがあいつといるってことは……リースは絶対に死ぬってことだ!

 目が震えて、理性が飛んだ。

 私は鉄蜂の群れを突っ切って洞窟まで全力疾走した。


 ……でも結局、リースが追いかけてきた。

 そして私たちは、ゲームに存在しない化け物と戦うことになった。

 本来なら楽勝なはずのRPG戦闘が、ソウルライク級の鬼畜難易度に変わった。

 なんとか燃やして倒せたけど……


 虫を操る黒幕はもっとヤバかった。

 人間の魔導士じゃなくて、ゲームの亜ボスそのものだったから、初心者勇者の私はボコボコにされた。


 その時、リースが飛び込んできた。

 彼はまだ「リース」のままなのに、私を庇うスキルを使ってくれた。

 しかも驚くことに、ガズファイターまで発動してる!

 本来なら肉塊になってもおかしくないのに、最後までHP10で粘り続けた。

 だから私は、シナリオ通りに女神ルナリスを呼びかけた。


 ……でも、厄災って三つ続けて来るって言うよね。

 第一次はアンジェリカ。

 第二次は亜ボス。

 そして第三次……リースはエスになれない。


 ……え? だって一緒にいるのが私で、アンジェリカじゃないから?

 怒りが爆発した。


 なんでだよ! 全部簡単になるはずじゃん! 私は女勇者なんだぞ!

 でも、もう選択肢なんて残ってない。

 このままじゃリースはここで確実に死ぬ。

 だから私は決めた。

 この世界の脚本を、書き換える。


「だったらその戦士の座を私にください!!!」


「だ、だめです! そうしたらあなたは時代の勇者になれなくなってしまいます!」


「うるせぇよ! 揺れまくりの女神さん! ここで死んだらどっちみち時代の勇者になれねぇだろ!」


「でも、世界は……」


 考える。世界を託せる奴はまだ一人いる。ヴィクターをやってるアイツだ。

 くそっ!どっちにしろ気分悪いけど、もう選択肢なんてないだろ……。


「大丈夫。私の他にもう一人、時代の勇者がいるから。

 信じたくないけどね……」


 女神は明らかに動揺した。


「なぜそれがわかるのです?」


「だって私も、物語の向こう側から来たんだもん」


 ……こうして私はエスタになった。



 私たちの最初の任務は、私のわがままだった。

 マリナ女神に夜の教会を建ててくれって頼んだんだ。


 ねぇ知ってる? マリナ女神、ママになりたいレベルで完璧なんだけど。


 マリナ女神は拒否したけど、代わりにルナリス女神の像を一緒に祀っていいって許可してくれた。


 だから古い教会跡の泉にその像を取りに行った。

 ガイドブック通りのはずだったのに……着いたらまだ普通に教会だった。廃墟じゃなくて。


 そこで一泊することにした。


 リースがスープを作ってくれた。

 めちゃくちゃ美味しかった。

 でも、あの横顔を見ていると、ふと思った。

 アンジェリカにとってのリースって、一体どんな存在だったんだろう。


 でも、幸福は長く続かない。

 またソウル系直輸入の混合種ボスが乱入してきた。


 今度はリースが私の作戦を聞く間もなく突っ込んでいった。

 確かに足止めはしてくれた。


 私が剣に力を溜めて背後から刺す時間は稼いでくれた。

 でも、ああいう無茶な行動は嫌いだ。

 像を返しに行くと、女神が最悪の真実をつきつけた。

 リースは「空っぽ」だ、と。

 そして私のこの気持ち……本物じゃない。

 世界がミトラをエスに引き寄せるための強制力でしかない、と。

 悲しかった。

 私は女プレイヤーだった。

 この気持ちは、女プレイヤーとしての「キャラ愛」でしかなくて……

 実際のリースに会ってから、まだ数日しか経ってないのに。


 そのあと、私たちはまたとんでもない馬鹿事をやらかした。

 アンダーアイゼン要塞への突撃だ。


 ……誰だよ、あんな中二病全開の高校みたいな要塞作ったの!?


 アンダーアイゼンは本編必須クエストの一つだけど、同時に「沈黙のエス」のキャライベントでもある。

 ゲームでは、ここをクリアする時にエスがパーティーにいると、

「้私は一人で下に行く。お前は帰れ」

 って言ってソロで降りていくんだ。

 プレイヤーはそのまま帰ってもいいし、

 エスを攻略したいなら無理やりついて行けばいい。

 下層には敵が一匹もいない。

 ただのギミック解きと、エスとの長~い会話イベントだけ。

 そこで好感度を上げまくって、最後に一緒に『希望』を起動する。

 超簡単、超ハッピー、エス攻略勢の通過率ほぼ100%の神インタールードだった。


 ……でも、現実にその場に立った瞬間、私はようやく気づいた。

 今、私が「エス」で、

 隣にいる「リース」がプレイヤーなのだと。

 だから、私は彼を試さなきゃいけなかった。


「……行く前に、リース。本気で聞く。もしあなたが『強くて相応しい者』になったら……元の仲間、エンジェリカのところに戻る?」


 ゲームの台詞を少しアレンジして言った。

 本来の選択肢は「戻る」「戻らない」の二択だけ。

 なのに、リースの口から零れた答えは――


「戻れたとしても……僕には、もう資格が……」


 その一言で、私の心は粉々に砕けた。

 もしエスにならなければ、リースは価値のない存在だと思ってたんだ……。

「リース」という人間は、弱くて、流されやすくて、誰かの言葉一つで簡単に折れてしまう。

 だから私は決めた。

 このインタールードは私だけのものだ。

 彼はここにいる資格なんてない。


「ありがとう、リース。一緒にいてくれて。また三日後に、教会でね」


 私はそう告げた。


 ゲームでは、エスが三日後に「より強く、でももう攻略対象じゃなくなったエス」として戻ってくる時間。

 私も同じだ。

 再会した時、私はもっと強くなったエスタとして、

 彼への想いを断ち切って、アッシュエンブルクを去るつもりだった。


 だが、地下最深部に降りた瞬間、息を呑んだ。

 壁も床も天井も、あの鉄蜂の巣で見た粘液質の泥がびっしりと張り付いている。

 それだけじゃない。無様に継ぎ接ぎされた異形の怪物たちが、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。


 ……ここは、静かで寂しいはずの場所だったのに?


 あの粘泥は魔力を喰らいながら増殖する。

 この封印ドームを破ったら、数日で世界が飲み込まれる。

 だから根源を断たなければ。


 怪物どもを屠りながら進むと、最奥にボスがいた。

 ソウルシリーズも真っ青な動きで、しかも耳障りな絶叫を上げながら襲ってくる。


 そして私はしくじった。

 粘泥は引火して爆発した。轟音と共に炎が巻き起こるが、幸い天井の消火システムが作動。

 大量の水が降り注ぎ、床は水浸し、火は完全に鎮火した。

 これでしばらくは燃えないはずだ。

 ……だが、私はもう戦える状態じゃなかった。


 ボスに掴まれ、壁に叩きつけられる。

 爆発で脆くなった壁が崩れ、私は意識を失った。


 次に目覚めた時、私はリースの腕の中にいた。

 彼は帰らなかった。

 私を追ってきてくれた。

 それだけで涙が止まらなかった。


 そして二人で、無魂の大賢者アイゼンの亡骸を倒した。

 リースのガズファイターが時間を稼ぎ、私が魔力を剣に纏わせて真っ二つ。

 頭部を何度も叩き潰して、ようやく動きを止めた。

 勝った。


 でも私は痛みと罪悪感で泣きじゃくった。

 あの少年が命を投げ出すような戦い方をするのを、ただ見ていること。

 それは、シナリオ通りに彼を死なせるのと何が違うんだ。


 汚された「希望」を停止させながら、

 リースがぽつりと呟いた。


「大賢者アイゼンがルナリス女神を憎んでいたのなら……

 なぜここに、彼女の像だけが一つだけ残されているんだ?」


 その言葉でハッとした。

 もしかしたら、彼は本当に憎んでなどいなかったのかもしれない。

 ……でも、インタールードは終わった。

 報酬は一冊の本。

 脳筋二人組には、ちょっと難しすぎる本だった。


 しかし、本当のインタールードのご褒美は「物」じゃなかった。

 ギルドの回復室で、リースが言った。


「エスタ……僕を、強くしてくれませんか?」


 その笑顔が……もう……可愛すぎて死にそうだった。

 これまではどんなに笑ってもどこか寂しげな子犬みたいな目をしてたのに、今はまっすぐに希望を宿してて……私の心を溶かした。


 翌日、ギルドから書類の山で罰を受けても、エスタは動じない。

 元33歳の社畜OLが今、人生で一番幸せなんだもん!!

 エスタ、戦闘準備完了!!

 書類の山を一日で片付けて定時退社、リースと待ち合わせて祭りへGO!


 踊りのフィナーレで花火が上がる中、リースが祭りで買ったネックレスを差し出してきた。

 心臓が爆発しそうなくらいドキドキして、顔が熱くて真っ赤。

 これ……これこそが、世界中のエス推したちの夢そのものだ!!!

 ああ、神様……この時間が夢でもいい、朝起きて会社に行かなくちゃいけないなんて言わないで……


 たとえこれが偽りの世界の神様が書いた偽のシナリオでも、今日は流される! 全部受け入れる!


 行けエスタ! お前ならやれる! GO ESTA GO!!!


 私は髪をポニーテールにまとめ、首筋を見せて背中を向けた。


 男の人にネックレスを着けてもらう……これぞエス推したちの究極の夢、そして前世で一度も叶わなかった私の願いだったのに死んじゃったんだよ!!!

 ……が、夢は脆くも崩れ去った。


「エスタ?」


 振り返ると、リースがキョトンとした顔で私を見てる。

 ああ、そうか……この子、女の子が大事なところ見せたらどうすればいいか知らないんだ……。


 私のロマンチック計画は「純粋無垢」という巨大なハンマーで木っ端微塵に砕かれ……

 そして同時に気づいた。

 私、今、犯罪ギリギリのところまで行ってた……!

 慌てて叫んだ。


「リース……お前まだ14歳のガキじゃん!!!」


 すべての演目が終わって、私たちはまた屋台エリアに戻ってきた。

 リースがふと振り返ってステージの方を見つめ、ちょっとだけ黙り込んだ。


「どうしたの、リース?」


「なんか……大事なことに気づいた気がして」


「大事なこと?」


「アンダーアイゼンでエスタが聞いてくれたこと……

『もし僕が強くなって、相応しい存在になれたら、それでもアンジェリカのところに戻りたい?』って」


「うん」


 そう、私が聞いたやつだ。

 これが、答えの瞬間。

 嬉しい答えか、覚悟を決めなきゃいけない答えか……

 でも私は、やっぱり期待でいっぱいの目で彼を見つめてしまった。


「僕はアンジェリカに会いに行きます。

 でも……パーティーに戻るつもりはない。

 ただ『僕は強くなったよ』って伝えるだけです」


 その言葉に、胸が熱くなった。

 嬉しい。すごく嬉しい。

 でも同時に、アンジェリカが少し可哀想にも思った。

 エスにとって彼女はずっと恋人だったのに……

 このリースは、もう違う気持ちで彼女を見ているみたいで。


「それで……いいの?」


 念を押すように聞いてみる。

 目の前の純粋すぎる少年の気持ちを、もう一度確かめたくて。


「はい。今の僕には……もっと大きな目標があるから」


 その答えと、返ってきた笑顔に、

 耳まで痺れるような衝撃が走った。

 今日二回目の、死ぬほど恥ずかしい瞬間だった。


「もう~! たった14歳のくせに、おじいちゃんみたいなこと言うんだから~!」




ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

今回は、私の思うがままに書き上げたボーナスエピソードです。

もしよろしければ、サポートやコメントで応援していただけると嬉しいです。

重ねてお礼申し上げます。


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