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1-12 鉄蜂作戦 2

 翌朝、ニシャに別れを告げて冒険者のギルドに向かう途中、リースは群衆がギルド近くの路地で倒れている男を囲んでいるのに気づいた。


「助けを呼んでくれえええ….医者をおおお…..」


「きゃああああ」


 倒れた男が助けを叫ぶが、周りの女性たちは悲鳴を上げ続ける。リースは群衆を掻き分け、男の元に駆け寄り、座り込むと予想外のものを見つけた。


「ばかっ!! これ、鉄蜂の針だ!!」


 男の脚の横に鉄蜂の針が散らばっている。狭い路地を見ると、少し離れた場所に鉄蜂の死体が横たわり、剣が刺さっていた。

 リースはこの男が銅級冒険者だと覚えていた。おそらく鉄蜂が街に入り込み、戦ったのだろう。倒せたが針を食らった。


 すぐに不幸な男を調べる。脛に刺し傷。針が直撃し、脚の筋肉が硬直。リースは解毒剤を傷に注ぎ、残りを飲ませた。


「何が起きた!!」


 冒険者のギルドの扉が勢いよく開き、マーラの受付嬢の声が響く。慌てて駆け寄り、群衆を掻き分け、リースの隣に座る。


「ああ、運がいいわ。最初に見つけたのがリースで」


 男の体を調べ終え、大きく息を吐く。すぐにギルドスタッフが担架で運び込んだ。


「リース、私についてきなさい」


 マーラは立ち上がり、スタッフが負傷者を運び終えると、リースに頷く。


 リースは針を布で丁寧に包み、鉄蜂の死体を抱えてマーラの後を追う。


 ギルドに入り、解体室の評価テーブルに鉄蜂の死体を置く。部屋を出ようとすると、マーラが肩を掴んだ。


「リース、今日はギルド内にいろ。どこにも行かないで」


 マーラの声は冷たく、リースは何かが起きる予感がした。やがて市長のケントと商工会の会長が急いで二階のギルドマスター・レオの部屋に入る。時間が経ち、マーラがリースを呼びに行った。


 部屋の前で、議論の声が漏れ聞こえる。


「ご存知でしょう、あのモンスターは危険です。増殖し、今は街に入ってるんです!!」


「しかし、我々はまだ準備が…」


 マーラがノックすると会話が止まる。


「入って」


 ギルドマスター・レオが叫ぶ。マーラがドアを開け、リースを中へ。


 部屋には四人。まずギルドマスター・レオ。


 二番目は市長エリアス。中年の少し太った男、頭は剃り上げ、顔はふっくらしていないが柔らかそう。髭は整えられ、目は弱そうで騙されやすい。


 三番目は新商工会会長。卵型の若い顔、無経験が似合う。茶色の巻き毛が怒りで赤くなった顔と共に揺れる。


 最後はグレモア。言うまでもない。


「リース、お前は一ヶ月前、西の森で最初にこの鉄蜂を見つけた。事実か? それとも他から持ち込んだか」


 レオが怖い声で尋ね、部屋が静まる。


「西の森で本当に見つけました」


 少年は自信を持って答えるが、三つの鋭い視線が返る。


「その後だ?」


 市長エリアスが厳しく続き、息を荒げ、目が硬く、リースは居心地悪い。


「街から西の森への道中で、時々遭遇します」


「で、でもグレモア様は頻繁に遭遇し、生き延びたと言ったが、どうやって」


 市長の後、商工会会長が焦った声で、目も厳しい。


「腐りかけの脂肪と干し肉で回避します。火魔法で脂肪を燃やし、臭いで巣に誘導しますが、時々戦います」


 リースが答えると、商工会会長は大きく息を吐き、顔が緩む。


「ほら、言った通り緊急じゃない」


 彼の声に市長とレオが顔をしかめ、グレモアは笑いを堪える。リースは心の中で非難する。


 グレモアが視線に気づき、『頼むぞ』という目で返す。リースは怒りを抑え、続ける。


「最新の遭遇をまだ話していません」


 リースの声が真剣になり、商工会会長が素早く振り返る。


「昨日、五匹遭遇しました。鉄蜂は単体では怖くないが、群れれば組織的に攻撃します」


 言い、リースは上着を脱ぎ、腰の刺し傷跡を見せる。治ったが傷跡残る。


「戦いは苦しく、命が危なかった。ポーションと解毒剤をほぼ十本使いました」


 リースは商工会会長を見るが、目を合わせず、少し数を盛った。


 会長は心配顔。


「リースの薬はマリーナ教会の特権で安い。市場価格はご存知でしょう」


 リースが終えると、グレモアが即座に圧力をかける。会長の顔がさらに青ざめる。


「鉄蜂が増え続けると、森の資源が取れず、西の森ルートの荷馬車は護衛増やさねばならない。値上げ許可しなければ、どうやって利益出す?」


 市長が雷のように大声でテーブルを叩き、会話が止まる。


「だが商工会だけに出させるのは無理です。小さな街の商工会にそんな資産ない」


 会長の声はしぼんだ果物のように、息が詰まる。


「ばか言うな。私が20%出すと言っただろう」


 市長が反論、会長は渋面。


「でも足りないんです」


 二人が激しく議論、レオは嫌そう。グレモアが口を開く。


「お金ならこちらも20%出せますが、待って。もっと良い提案があります」


 狐の目が議論する二人を交互に。市長が目を細め、応じる気。

 リースはわかる。これはグレモアのゲーム。朝の男も仕込みだ。


 ギルドマスター・レオは見て哀れみ、椅子に沈み、窓を向く。


「鉄蜂は一見価値ないが、針と背殻に鉄混じり、溶かして鉄塊に。腹の毒腺は痛み止め薬に。後腹肉は少なく美味しく干し肉に長期保存。そして一番…」


 グレモアが狡猾に止め、悪魔のように笑い、手を擦り、商工会会長を見る。彼は大きく唾を飲み、毒々しい言葉を吐く。


「目は魔法性あり、粉砕して魔石に。マリーナ教会に熟練職人がいる。魔石と痛み止めで大儲け保証」


 市長が目を細め、考える。価値だけじゃ誘惑不足。火を点ける。顔を上げ、勝者目で。


「ほぉ、銀貨で誘うなら私も40%投資するか」


「待ってください、まだ出さないと言ったわけじゃ…」


 商工会会長は知らず、二匹の猛獣に誘われ、洞窟外で今、経験不足の彼をリースの前で食い千切ろう。

 責任争いから偽市場争奪に。市長が簡単に折れる。


「まとめると、マリーナ教会25%、市長25%、商工会50%。冒険者のギルドが実行」


 レオがテーブル叩きまとめ、二老が背後で狡猾笑い。リースは感情と息を抑える。

 市長と会長がレオに感謝し部屋を出る。リースは危険な二人と残る。


 ドア閉まると、レオの目がリースに。友好が消え、敵意増す。


「リース…同じ報告を何度聞けばいい?」


 レオの平坦な声、静けさが氷のように冷たく、皮膚下を刺す。

 リースは目を逸らし、震える声で。


「えっと…薬草探しで西の森に行ったら偶然…」


「へぇ、変だな。全依頼確認したが、西の森の薬草依頼は一枚もない。お前、ギルド裏で依頼受けてないか?」


 レオの声がさらに平坦、鋭く深く、二つに切り裂くよう。


 リースはグレモアを見るが、彼は笑い、『自分で生き延びろ、はは』目。

 レオがそれに気づく。


「お前もだグレモア。裏で冒険者使うなんて、ギルドの収入どうすんだ?」


「まあまあ、マリーナ教会も食わなきゃ。リース一人だけ、マリーナに誓う」


 恥ずかしげもなく。リースとレオ心で思う。


「なら教会金で冒険者賃金払え。どうだ?」


「すみませぇん!! 私が悪かったです!!」


 狡猾狐が即座に土下座、だが偽りとわかる。レオ本気で我慢尽き、怒鳴る。


「顔殴りたいが、私の権力は慈悲深さほどじゃない!! 出ていけ!! ラントナから援軍急ぎ書類作る!!」


 怒鳴りが静まり、疲れた長い息。教会とギルドの問題は初めてじゃない。

 追い出され、リースたちはギルドを出て教会へ。大広間で朝の鉄蜂被害冒険者が待つ。


「よくやったな」


「ありがとうございまぁす。またご利用くださぁい」


 グレモアが金袋渡し、彼は感謝し去る。リースはレオ室の出来事から大体わかるが、こんな公然金払いは法律無視すぎ?

 心で思う。


「そんな目で見るな。状況作らなきゃ、商工会みたいなのが金出さないだろ」


「はい、理解に努めます」

 グレモアが言うと、リースは反論気力なく適当に。グレモアは軽く背中叩く。


「まあ、悪いと思ってるよ」

 グレモア言い、自分の執務室へ。室内に補助司祭二人が代行中。男司祭エルヴィンに耳打ち三四句、頷き別れる。残る女司祭レナ。


「さてリース、昨日の約束だ。レナ、頼むよ」


「はい」


 青髪女司祭の鷲のような高貴声、獲物を睨む目で少年を見る。


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