1-11 鉄蜂作戦 1
グレモアが空の魔石を訓練用に渡してくれたものの、リースはまだ納得がいかなかった。学んだ回復魔法と実際に見てきたものとは、あまりに違いすぎる。
グレモアが力を鍛えろと言っても、心を落ち着かせて師の指示に従うことができなかった。
少年はベッド脇の椅子に座り、一方の手で回復ポーションの瓶を持ち、夜の窓辺に翳した。淡い青い光が、夜明け前の空のように柔らかく輝く。
「ヒール」
小さな声で呟き、手を瓶の上に掲げる。回復魔法の青い光が輝き始め——
ぱん!!
瓶が軽く爆発し、ひびが入った。治癒の液体が流れ出し、臭い悪臭を放つ。
液体の色は薄い青から、腐った草のような緑に変わっていた。
言うまでもなく、毒だ。
『残念だけど、訓練に近道はないよ』
グレモアの言葉が頭の中で響く。彼はひび割れた瓶を睨み、片付けると新しい瓶を手に取り直した。
気づけば五本目を失っていた。そこでようやく手を止めた。
翌朝、少年は爽快とは程遠い目覚めだった。頭痛が昨夜の残りで残っている。おそらく、魔力が尽きているのに無理に回復魔法を使ったせいだ。
太陽が高く昇り、少年が遅く起きたことを告げている。いつものように軽い鉄の胸当てを着け、顔を洗って二階から降りてきた。
「今日、顔色悪いわよ。一日休みなさいよ?」
ニシャが近づいてきて尋ねる。立ち止まって顔を覗き込み、手を額に当てるが、熱はない。
「今日は楽な日です」
「こんなに顔色悪いのに楽なわけないでしょ」
「そうですか。それじゃ仕事量を減らします」
ニシャがそう言うと、リースは乾いた笑みを浮かべて答えた。ニシャは彼の背中を叩く。
「無事に帰ってくるだけでいいわよ」
「はい」
リースは街を抜け、冒険者のギルドへ向かった。遅い時間だが、人はまばらだ。急いでカウンターへ直行すると、受付嬢の姉さんがいつものように声をかけた。
「こんにちはリース。顔色悪いわね」
「ニシャもそう言ってました」
「休んでもいいのよ」
「一日で終わる簡単な仕事をお願いします」
そう答えると、受付嬢は立ち上がり、奥から何か飲み物の瓶を取り出した。
「これ、二銀貨よ」
「これは」
「魔力回復の薬」
リースは突然ギルドの受付嬢がこんなものを出すことに驚いた。
「どうして姉さんがこんなものを持ってるんですか?」
「私も昔冒険者だったのよ。君の症状が何かわかるわ」
「ありがとうございます」
少年は頭を下げて礼を言い、受付嬢に銀貨を払った。すぐに飲み干す。魔力回復の薬は飲んですぐに魔力を補充するものではなく、体が魔力を生成しやすくするものだ。
今飲めば、体が徐々に回復する。
「今日の仕事は…マリーナ教会の補助よ」
手元の依頼書一枚に、受付嬢の笑顔が消えた。視線がリースと依頼書を交互に行き来する。彼はマリーナの人間だ。あいつらの命令は何でも聞く。きっとまた森に入らせる気だ…
そうなら叱られる。でも彼に仕事を断ったら、自分も叱られる。
どっちを選んでも叱られる。そんなの嫌だ。
どうしよう…受付嬢は決めかねた。
しかし、待たずに答えたのはリースだった。少年は受付嬢から依頼書を奪うように取った。
「この仕事、喜んでお受けします」
「ちょっと!! リース!」
「大丈夫です。早く終わらせて午後はそこで休みます」
「待って!」
ギルドの受付嬢が立ち上がったが、もう遅い。少年は背を向けて冒険者のギルドを出て行った。今はマリーナ教会が彼を毎回のように森に送らないことを祈るしかない。
そして、それは受付嬢の恐れた通りだった。
「いつもの通りだ、リース。薬草だ」
グレモアの短い言葉に、意図的な狡猾な響き。
リースは街の門を出て、隣接する村を抜け、壊れた家畜小屋はまだ修理されていない。
彼は壊れた柵に近づいた。
引きずり跡。
アッシェンブルクに大型モンスターがいないなら、何が牛一頭を簡単に引きずれるのか。
「西の森?」
少年は強く息を吐いた。行かないべきだとわかっていても、心は熱く焦る。足を踏み出し、跡を追って西へ深く入る。
引きずり跡は森のほぼ中央まで続いていた。短剣で木に印を付けながら進むが、それでも迷いやすい。跡を追い続け、ついに死体に辿り着いた。
それはバラバラに散らばっていた。頭はなく、脚は一本だけ。残りは骨が見えるほど食い荒らされていた。
何が牛をこんなにできるんだ? グレモア様に報告すべきだ。これ以上大きくなる前に。
リースは心の中で思い、立ち上がりながら丸い盾を構えた。空気を裂く羽音と共に、茂みを突き破る影。
盾で叩き飛ばし、木にぶつかる。少年は慎重に盾を構え、もう一方の手で短剣を抜く。ゆっくり近づく。
それは鉄蜂だった。よろよろと立ち上がり、翼を激しく振るうと再び空を舞う。彼はまだ浮ついているうちに駆け寄り、全力で斬りつけた。
頭が飛んだ。体が地面に落ちるが、まだ暴れる。盾で押さえ、短剣で腹を中ほどから裂く。
強烈な臭いが広がり、何かが空を飛んでくる。
丸い盾を上げて防ぐが、一匹だけではない。もう一本の針が別の方向から右脚をかすめ、擦り傷だが痛みが走り、脚全体が震える。
鉄蜂の毒は致命的ではないが、痛みと筋肉の震えを引き起こす。直撃なら一時麻痺。その隙に鋼のような顎で噛み砕く。
今、リースにできるのは逃げ場なく立ち向かうだけ。歯を食いしばり、右脚を必死に支え、息を整えて霧を払い、音を聞く。
羽音が再び迫る。今度は一匹から二匹へ。少年は盾で防ぎ、短剣で反撃し、二匹を別方向に吹き飛ばす。
がぶっ。
鉄蜂がもう一匹、死角から飛びかかり、右腕を噛み砕く。薄い鉄板のグローブを潰し、鋭い牙が肉に刺さる。
すぐに短剣を左手に持ち替え、頭を繰り返し刺して顎を緩め、虫の体を振り払うが、羽音の波が再び来る。
くそっ、巣ごと来てるのか!!
少年は盾を向け、飛びかかる鉄蜂に向ける。
「うっ」
盾で防いだが、毒の脚が安定せず、盾が手から滑り落ちる。
再び飛びかかってきた時、空いた腕で誘い、満身で噛ませる。顎が肉を貫通し、短剣で刺すが、鉄蜂も腹に針を刺す。
「うっ…」
体が即座に硬直する。リースは最後の力で死んだ鉄蜂を投げ飛ばし、倒れ、体を硬直させ、よだれを吐く。
羽音が大量に近づく。
「くそ…」
少年は苦々しく目を閉じ、死を受け入れる。
「モオ!!」
森の中央から牛の鳴き声が響く。羽音が徐々に遠ざかる。新たな餌に救われたようだ。
歯を食いしばり、息を止め、手をポケットに突っ込み、回復ポーションの瓶を一本取り出す。
息を吸って止め、歯を食いしばり、最後の集中を。
「ヒール…」
瓶の青い光が輝き、星のようにきらめく。ランタン司祭のようには美しくないが、成功した。
「ははは、面白い…なんでこんな偶然で成功するんだよ…」
少年は涙を浮かべて自嘲し、腹の傷に注ぎ、残りを飲み干す。毒は残るが、傷は塞がる。
「せめて…生き残った…」
長く休んだ後、毒が解け、リースは弱々しく立ち上がった。鉄蜂の死体を籠に入れ、布で覆い、肩に担ぐ。
街に戻ると、空は暗くなっていた。
少年は息を吸い、足を引きずりながら教会へ。
「グレモア様」
大きな扉を押し開けると、グレモアが座っていた。狐のような乱れた顔が、リースを見て即座に安堵する。
「おお、マリーナに感謝だ。無事か? さもないとレオ様にまた叱られるよ。あれ…」
狡猾な笑みが乾き、弟子の様子に気づき、すぐに駆け寄って支える。
「お前、何にやられたんだ」
体はボロボロ、服は破れ、右腕のグローブは潰れ、噛み跡だらけ。
リースは籠を下ろし、開けて見せる。
「うわっ、何やってんだよ。五匹も!!」
グレモアはリースと籠を交互に見る。一匹なら危なくないが、五匹は違う。
「ここに座れ」
グレモアはリースを椅子に導く。息は荒く、体は不安定。グレモアは回復ポーションと解毒剤を渡す。
「お前は災厄を引き寄せる才能があるな」
言いながら右グローブを外し、手を上げて祈りを唱え、回復魔法を使う。温かい光が腕を癒し、噛み傷はすぐに塞がり、小さな傷跡だけ残る。
「グレモア様、ギルドに何か対策を依頼すべきです。これ以上広がる前に」
少年は真剣な声で、向かいの椅子に座るグレモアに言う。
「私もそう思うが」
グレモアの顔は明らかに困った様子。視線が籠の鉄蜂へ。
「こいつら、巣を焼いて女王を殺さないと、短期間で復活する。根絶するには調査チームで大巣を探し、多くの冒険者で戦う必要がある。教会にそんな大金を払う余裕はない」
二人の会話が止まる。リースが再び口を開く。
「私は急務だと思います。理解させれば、市長様と商工会が助けてくれるはずです」
それを聞き、グレモアの目が輝き、手を顎に当て、悪巧みのように目を細める。
「素晴らしいぞリース。それを急務にすればすべて終わる」
手が悪辣に擦れ、弟子の前で。まるで大事件を起こす計画を宣言するようだ。
「ありがとうリース。明日準備しろ。特別なものを教えるよ。約束だ」
言い終え、満足げに回復ポーションを何本か渡す。
教会から帰る道中、リースの心は落ち着かない。予感が、何かが起こることを告げていた。




